ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~ 作:ゼクス
漸く第四章終了です。
「フェムトに居るちとせ達とは、まだ通信が繋がらないのか!?」
「駄目です!! 誰とも通信が繋がりません!!」
ルクシオールのブリッジではフェムト内部に居るちとせ達と連絡を取ろうと、ブリッジに居る面々が動いていた。
艦に備わっている長距離センサーがフェムト方面に近づいて来るクーデター軍の艦影を捉えた。敵側もルクシオールの事は察知している筈。戦闘になるのは間違いない。当然レスター達はフェムト内部に居るちとせ達に連絡を取り、ルクシオールに戻るように伝えるつもりだった。
だが、以前の時には確かに繋がった筈のフェムト内部との通信が繋がらず、レスター達は何とか連絡を取ろうとしていた。本来ならば別室で待機しているように命じていたアルモにも解析を頼んだのだが、結果は芳しく無かった。カズヤ達が戻らなければ、ルクシオールの最大戦力で在る紋章機が使用出来ない。
幾ら『
(一体どうなっている!? 以前の時にはこんな事は無かった筈だ! 何が起きている!?)
「……ッ!? これは!? 指令!」
「どうした? ココ」
「フェムトの外壁の一部が動いています!」
「何!?」
「映像を映します!!」
ココが言う場所を察知したアルモは、即座にコンソールを操作したモニターに映像を映す。
モニターに映し出された映像には、確かにフェムトの外壁の一角が動き、何らかの発進口のような物が現れた。自分達の知らないフェムトの秘密にレスター達が呆然とする。その呆然は次の瞬間、フェムトから出て来た機体を目にし驚愕へと変わる。
ダークブルーのカラーリングを施され、『
「馬鹿な!? 〝ゴースト”だと!?」
悠然と宇宙空間に飛び出したゴースト事、『ファントムシューター』の姿に、レスターは叫んだ。
それはブリッジに居る誰もが同じ気持ちだった。何故重要施設であるフェムトからファントムシューターが出て来たのかと誰もが疑問に思うが、ファントムシューターは構わずにクーデター軍の艦隊との戦闘を開始する。
戦闘が始まった事で膠着から立ち戻ったレスターは、すぐさま指示を出そうとする。その直前、今まで全く繋がらなかった通信が繋がる。
『此方ヴァニラ。ルクシオール、応答願います』
「ヴァニラか!? 無事なのか!?」
『はい。此方は全員無事です。ナノナノの治療も完了しました』
フェムトからシャトルが飛び出す。
そのシャトルをココとアルモは確認し、ヴァニラ達が無事だった事を安堵する。レスターや他のブリッジメンバーも安堵していると、ちとせから報告が届く。
『クールダラス指令! 其方でも『ファントムシューター』を確認出来ましたか?』
「? 『ファントムシューター』? 何だそれは?」
『あっ! 申し訳ありません! 『ファントムシューター』とはゴーストの名称です』
「ゴーストの名称だと!?」
報告を聞いたレスターは思わず叫んだ。
これまで謎だったゴーストの名称が明らかになった事実に驚愕しながらも、レスターはすぐさま驚愕を抑える。今は知った事実に驚いていられる状況でない。ファントムシューターが戦っているとは言え、近くにはクーデター軍の艦隊が居る。
「詳しい報告は後で聞く!! すぐさまルクシオールに戻って来てくれ! クーデター軍が近くに来ている!!」
『りょ、了解しました!!』
手短に伝えられた状況にちとせは返事を返し、シャトルは急ぎルクシオールへと帰還するのだった。
「何やっているんだい!! さっさと奴を撃墜しな!!」
艦隊の旗艦であるディスト・ディータの艦橋で艦長であるディータは叫んだ。
その間に先行していた突撃艦が爆発を起こし、爆炎を突き破りながらファントムシューターが現れ、近くでミサイルを放っていた巡洋艦に向かう。迫るミサイル群を回避し終えると共にファントムシューターは、大型ロングバレルレールガンの照準を合わせ、巡洋艦のエンジン部分を三発の弾丸で撃ち抜き撃沈した。
次々と味方艦がファントムシューター一機に撃沈されて行く現状に、ディータは怒りと屈辱で満ちて顔を歪ませる。
(クゥッ! ルクシオールの連中を見つけただけじゃなくて、ゴーストも見つけられたのに!!)
察知したファントムシューターの電磁波を追って来たディータ達は、行方不明だったルクシオールを発見。
電磁波の反応が無くなったファントムシューターを追うのを止め、ルクシオールへの追撃を行おうとした。それを阻むようにファントムシューターは現れ、こうして戦闘は開始された。ディータには勝算は在った。ファントムシューターの一番厄介な点は、現行の技術では発見出来ないステルス性能。その一番厄介な機能は電磁波を発するインクに寄って破られている。
故にディータはファントムシューターと戦闘になっても勝てると考えていた。だが、戦闘が始まると共にそれは間違いだと思い知った。
ファントムシューターは正確無比な射撃で艦艇を次々と撃沈して行く。ディータも指示を出して艦隊に攻撃させるが、その動きが分かっていると言うかのようにファントムシューターは戦場を飛び回る。
(何なんだい、コイツは!? 無人の機体じゃないのかい!?)
ヴェレルの指示で、事前にファントムシューターに生命反応が在るのかどうかをディータは調べていた。
『
無人機を扱う上で指示を出してから反応が遅れるのはどうする事も出来ない事柄。ディータ自身も無人艦隊を扱っているので、良く知っている。しかし、ファントムシューターには全く遅れが無いのだ。
ディータが出した指示に即座に最適な行動を取り、ディータが敷く包囲網を容易く破る。
(不味い!! ヴェレル様の言う通り、危険過ぎるね! 何とか此処で破壊しないと!)
「ディータ様! ルクシオールから紋章機が発進しました!!」
「クゥッ!! こんな時に、ルクシオールの連中の相手なんかしていたら、ゴーストに逃げられ……待ちな。これは利用出来るかもね…ルクシオール側に数隻艦を向かわせな! そして旨くゴーストと巻き込むように戦闘をさせるんだよ!」
「りょ、了解しました!」
ディータの指示を聞いた部下は無人艦に指示を送り、攻撃艦一隻と巡航艦三隻をルクシオールから発進した四機の紋章機に向かわせる。
(此れでファントムシューターの動きは鈍る筈。指揮官が二人居て、それぞれに指示を出せば必ずぶつかる。その時こそがチャンスだよ!)
幾ら優秀であろうと、連絡も取らずに連携など出来る筈が無い。
ディータはそう考えながら、自らの策にファントムシューターが嵌る時を待つ。
「指令! 敵艦が数隻此方に向かって来ました!」
「識別の結果、攻撃艦一隻と巡航艦三隻です!」
「…そうか……敵もやるな」
ココとアルモの報告を聞いたレスターは、自身の目の前に映る戦況図を見ながら呟いた。
ディータ側の狙いをレスターは看破する。確かにディータの策は旨い。連携が取れない状況で二つの指示が動けば、戦況は破綻する。それが相手の狙いだとレスターは悟るが、同時にこの状況は願ってもいないチャンスだった。
(悪いがこの状況、利用させて貰うぞ。ファントムシューターの後ろに居る奴が、
そう決めると、レスター達はカズヤ達に指示を送る。ファントムシューターの背後に潜む者が予想通りで在る事が間違っている事を願いながら。
戦況は最初ディータの思惑通りに進んだ。ルクシオールから発進した四機の紋章機は、旨くファントムシューターが飛び回る戦場に引き込む事が出来た。
そのまま混乱するようにディータは戦場で無人艦隊を動かし、ディスト・ディータの主砲をファントムシューターに放つタイミングを待ち続けた。だが、ソレは目の前に広がる光景に寄って阻まれた。
「ど、どういう事だい? こりゃ?」
ディータの策通りに戦況は進んだ。
ファントムシューターと四機の紋章機が居れ乱れるように旨く事が運べた。だが、混乱するような状況には無かった。寧ろ連携が信じられないほどに旨く行き、次々とディータが操る無人艦隊は破壊されて行く。
「…在り得ない……こんなに連携が旨く行くなんて、在り得る筈が無いんだよ!!!」
目の前に広がる光景が信じられず、ディータは混乱に包まれながら否定するように叫んだ。
そして戦場で連携が旨く行き過ぎている状況に混乱しているのは、ディータだけでは無かった。
「ど、どうなっているんだろう? 此れは」
『レスター……凄いのだ』
今回の戦闘でブレイブハートとファーストエイダーは合体し、共に乗っているカズヤとナノナノは、余りにも戦いが旨く行き過ぎる現状に混乱していた。
敵側が乱戦狙っている事に戦いながらカズヤ達は気が付いていた。その事をレスターに知らせたが、寧ろ乱戦にするように指示を出した。当初は困惑したカズヤ達だが蓋を開けてみれば、全く状況は違った。
果敢に敵艦を沈める事に集中していた筈のファントムシューターが、カズヤ達が戦場に乱入すると同時に、突如としてカズヤ達が敵艦を沈めやすいようにする為のサポートに回りだしたのだ。
敵艦の主砲や武装を大型ロングバレルレールガンの遠距離射撃で破壊し、クロスキャリバーの攻撃を援護する。遊撃に回っているファーストエイダーが狙われそうになれば、自らが狙っている敵艦の傍に近寄り囮なり、その隙をレリックレイダーとスペルキャスターに狙わせる。
逆にファントムシューターが敵艦に集中的に攻撃されそうになれば、レスターがそれぞれに指示を出して援護する。ソレは通信でのやり取りを行なっているとしか思えない連携。
だが、ファントムシューターとの間に通信のやり取りは無い。だからこそ、カズヤ達は困惑している。何故通信のやり取りを行なわずに、此処まで見事な連携が取れるのかと。
(と、とにかく、今は戦いに集中しないと)
余計な事を考えて場を乱す訳には行かないと、カズヤは戦いに集中する。
戦況はもはやディータ側が追い込まれていた。見事としか言えない連携によって無人艦隊は殆ど破壊され、旗艦の護りにつかせていた二隻の巡洋艦以外に戦力が無くなっていた。幾ら無人艦の製造に問題はないとは言え、前回と今回の失敗は余りにも不味過ぎる。
本当の意味で利用出来る駒が少ないヴェレルとは言え、ディータを処分する可能性は高い。その事実にディータが唇を噛み潰していると、部下から報告が届く。
「ディータ様! ルクシオールから通信が届いてます!」
「通信だって? 降伏でも進めるつもりかね。まぁ、良いよ。繋ぎな」
少しでも相手側から情報を手に入れる為に、ディータは通信に応じた。
モニターに光が走り、ルクシオールの艦長席に座るレスターが映し出される。
『此方ルクシオールの指令官、レスター・クールダラスだ。お前がマジーク出身のディータだな?』
「ッ!? どうしてあたしがマジーク出身だって知っているんだい? 名前はともかく、出身地の事はあのトレジャーハンターには話して無い筈だよ?」
『私が教えたのよ』
「お前は!?」
新たにモニターに映し出された人物にディータは目を見開いた。
映し出された相手はディータにとって不倶戴天の怨敵と呼べる人物。憎々しげにモニターに映るテキーラを睨み付ける。
「マジョラム!!!」
『元気そうね、ディータ。あんた、マジークを出たって聞いていたけれど、まさか、クーデター軍に入っているなんてね』
「フン。出たんじゃないよ。捨てたのさ。あたしを認めず、アンタなんかを公認A級魔女にしたマジークをね!!」
『…相変わらずね。アンタ、私にA級魔女の試合で負けた時から、まるで成長してないわ』
昔と変わっていないディータにテキーラは呆れたように呟いた。
ディータとテキーラ。二人には因縁が在った。惑星マジークに於いて十二人にしかいない公認A級魔女の資格を得る為に争った関係。最終的にカルーアとテキーラがディータに勝利し、ディータはマジークを去った。その身に自身を認めなかったマジークへの怒りとカルーア、テキーラへの憎しみを宿して。
「…そうかい。あたしの事はアンタが教えたんだね」
『えぇ、そうよ。あくまで可能性だったけれど、まさか、本当にアンタだったとはね』
「……まぁ、良いさ。今回も退かせて貰うよ。次に会った時は見てなさい!! 今までの借りを全部返させて貰うからね!!」
ディータが宣言すると共にディスト・ディータは反転する。そのまま巡洋艦二隻を引き連れて、宙域から去って行った。
敵が居なくなったのを確認したレスターは息を吐き出しながら艦長席に深く体を沈め、次に宇宙空間を飛び続けているファントムシューターに目を向ける。
「…ココ。全周波通信でファントムシューターに呼び掛けられるか?」
「ソレは…相手側が通信を閉じていたら」
「あっ! でも、もしかしたら『
「その周波数を覚えているのか? アルモ?」
「はい! ココ、今から言う周波数で呼び掛けて見て!」
「分かったわ」
ココはアルモから知らされた周波数に合わせる。
通信が繋がるかどうかは賭けだったが、その賭けにレスター達は勝ち、ファントムシューターとの通信が繋がる。その通信はカズヤ達にも聞こえるようになっていた。とは言え、カズヤ達はファントムシューターのAIが何かを答えるとは思えなかった。
フェムトの中でのやり取りから考え、何も答えずに戦場から去るだろうと、カズヤ達は思う。だが、レスターが発した一声は全くカズヤ達が考えるモノとは違った。
「…どう言うつもりだ?」
(えっ? 指令?)
突然のレスターの言葉にカズヤは疑問を覚えた。同時にレスターの声には隠し切れない怒りが含まれていた。
誰もがレスターの様子と言葉に疑問を覚え、ブリッジのメンバー全員の視線がレスターに集まる。それと共にブリッジに在るエレベーターの扉が開き、ちとせとヴァニラが入って来る。
それに気が付かず、レスターは眉間に皺を寄せながら口を開く。
「此処まで俺の指揮に合わせられる奴は、宇宙全体を見ても、一人だけだ。何をしているんだ、お前は!! 〝タクト”!!!」
「えっ……タクトさん?」
ちとせは思わず呆然と呟いた。
何故想い人の名前が此処で出るのかと、困惑したようにレスターを見つめる。その様子を見たヴァニラは、このまま此処にちとせを居させるのは不味いと悟り、止めようとする。だが、止める前にちとせはアルモが座っているオペレータ席に駆け寄り、ヘッドセットをアルモから取って通信を繋ぐ。
「タクトさん!! タクトさん何ですか!?」
『……るな』
「えっ?」
返って来た返答の音声にちとせは疑問を覚えた。
それはちとせが良く知るタクト・マイヤーズの声ではなく、合成された男性の声。明らかにタクトと違う声にちとせだけではなく、レスター、アルモ、ココ、ヴァニラも困惑する。
だが、相手側はそんな様子になど構わず、焦りに満ちた声音で用件だけを告げる。
『絶対に乗っちゃ駄目だ!!』
「あっ! ファントムシューターの前方!! 空間歪曲を確認!!」
「何っ!?」
ココからの報告にモニターに目を向けてみると、何時もファントムシューターが去る時と同じ光景が広がっていた。
まるで通信が繋がっている相手との会話を遮ろうとするファントムシューターの行動。その行動の意味をレスター達が考える前に、ファントムシューターから途切れ途切れながらも通信が届く。
『……『禁断の紋章機』……『
「おい! 何を伝えようとしている!!」
「タクトさん!! タクトさん!!」
『〝マージク”…予言……頼む、親友』
『ッ!?』
最後に告げられたメッセージと共に、ファントムシューターは宇宙空間に開いた穴の中に消え去った。
だが、確かにレスター達にはメッセージを送った相手の正体が分かった。四年前にアナザースペースの向こう側に消えた人物。そしてちとせの想い人。
『
『
ヴェレル率いる無人艦隊に占領されたその場所の中枢で、ヴェレルは苛立っていた。ディータからの報告で、ファントムシューターがルクシオールと手を結んでいる可能性が高い事が報告されたからだった。
「忌々しい機体め!! 既に『
実際の所は違うのだが、余りにも旨く行き過ぎている連携は、ディータに手を組んでいると思わせるには充分だった。
(何とかゲートキーパーを確保出来たが、『
ファントムシューターは『セントラルグロウブ』から逃げ出す時に、アルモを連れて行った。
ルクシオールと協力しているとなれば、アルモの身柄は既に渡っている可能性が高い。そうなればヴェレルにとって不味い状況になる。フォルテを主犯とするように動いたのは、『
そうなれば非常に不味い。ヴェレルには手駒が殆ど無いのだ。無人艦隊は戦力としては役に立つが、支配となれば話は大きく変わる。それが原因で最初は順調だった『
(やはり、早急にマジークを支配下に置かねば……だが、あの女だけに任せるのは……ムゥッ!)
何かに気が付いたようにヴェレルがコンソールに目を向けると、何処かと通信が繋がる。
『やぁ、ヴェレル』
「貴様は!?」
『随分と苛立っているね。まぁ、計画通りに『
「黙れ! 私を嘲笑う気か!!」
『いや、そんなつもりは無いよ。僕らは一蓮托生。君の計画が良い出来だったから、僕らは支援しているんだよ。支援している僕らの事が知られたら、セルダールやマジークの連中が僕らの場所に攻め込んで来るのは目に見えているだろう?』
「ムゥッ!」
通信の相手はヴェレルの『
一般的には『
だからこそ、『
『このまま連中を調子づかせる訳には行かないだろう。その為にはマジークが邪魔になる。だから、僕らが更に支援してあげようと思ってね』
「支援だと?」
『そう支援さ。この手を使えば、容易くマジークを無力化する事が出来る』
「……見返りは何だ?」
『話が早いね。君が最も邪魔だと思っている機体、『ゴースト』のデータ全部を提供して貰いたいのさ』
「…良かろう」
ヴェレルは厳かな声で相手側の要求を了承した。
魔法惑星マジーク攻略の策をヴェレルと通信の相手の話し合う。そのヴェレルの背後には、マインドコントロール用の装置に拘束されたミルフィーユが眠るように目を閉じていたのだった。
『
その宇宙に在る今は完全に閉じている『クロノゲート』の前には、『
その艦のブリッジには褐色肌に金色の髪を棚引かせている少女-『ノア』-が、何とか『クロノゲート』を開く方法は無いかと調べていた。
「……駄目ね。やっぱりゲートキーパーであるミルフィーユが居ないと扉を開けるのは無理だわ」
『クロノゲート』が完全に封鎖されてから、ノアは何とか扉を開く方法は無いかと調べ続けていた。
ゲートが閉じる直前に帰還した『セントラルグロウブ』の防衛にあたっていた艦隊から、状況は大体聞いた。その中でファントムシューターが援護に当たった情報も届いている。
これまで全く接触が取れなかったファントムシューターが、突然接触して援護に当たったばかりか指揮を執って『
(『ゴースト』の指揮がタクトに似ているね……正直信じられないけど、ルフトの言う事だし……可能性が高いわね)
帰還した艦隊に記録されていた映像から、ファントムシューターの指揮の執り方とタクトの指揮の執り方に似過ぎている事を恩師であるルフトは気が付いた。
当然ノア、そしてシヴァ女王は否定した。タクトならばどんな事情が在っても、先ずは仲間に相談すると言うやり方を行なう筈。四年前の戦いでも、一時は敵だったノアに協力を求めるほどのお人好しなのだ。そんなタクトが何も言わずに一人だけで動いているなど考えられない。だが、一つだけ可能性が在った。今のタクトが動いている理由が自分の為ではなく、大切な人であるちとせの為に知らせないのであるなら納得出来る。
(…タクト…もしもアンタがそんな理由で動いているなら、今度は私が教えてやるわ。あんた達から教えられた事をね)
ノアは誓う。もしもファントムシューターの背後にタクトが居るならば、力尽くにでも引き摺り出してやる事を。
だが、ノアは、嫌、誰もが考えても居なかった。
ファントムシューターに隠されている秘密がノア達の想像しているものよりも遥かに重く、
誰も想像だにしていなかったのだった。
《第四章『衛星フェムト』終了・第五章『魔法惑星』に続く》
次回から第五章。
状況的にちとせがファントムシューターに乗れなさそうですが、次の章でちとせは乗らなければならない理由が出来ます。