ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~   作:ゼクス

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 ピコの衛星軌道上を移動している衛星フェムトの付近には、数え切れないほどの小惑星が漂っていた。

 まるで衛星フェムトへの進行を阻害するように小惑星は周囲を囲み、更に小惑星に隠れるようにフェムトの防衛システムである自動砲台が複数配置されている。

 現在の技術よりも自動砲台に使われている技術は上回り、ムーンエンジェル隊が自動砲台を破壊するまで、フェムトはピコの住人でさえも近づく事が出来ない場所だった。しかも、自動砲台には自動修復機能が存在し、例え破壊出来たとしても時間が経てば自動砲台は復活する。故に、フェムトに入る為には自動砲台との戦闘は回避出来ない。

 無論自動砲台には弱点が在る。砲台と言う事でフェムト自体が移動しない限り自発的な移動は行なえず、設定された場所に留まっている。だが、自動砲台の周囲には無数の小惑星が在り、艦艇などの砲撃では照準を合わせる事が出来ない。だからこそ、『紋章機』で自動砲台を相手にするのが最適なのだ。

 

「アジート! 三時の方向の小惑星の後ろに自動砲台が在るわ!」

 

『あいよ!』

 

 テキーラが出した指示にアニスは従い、レリックレイダーから発射されたスターが発射された。

 スターは円を描くように小惑星の横を回り込み、背後に隠れていた自動砲台に直撃して自動砲台を破壊した。

 それを確認したテキーラはコンソールを操作しながら、現在スペルキャスターの移動を操作する為に合体しているブレイブハートに乗るカズヤに指示を出す。

 

「シラナミ。次の奴は距離が離れているから、スペルキャスターを近づけるわ。ぶつからない様に操作しなさいよ」

 

『う、うん! 分かったよ!』

 

 カズヤは指示に従い、操縦桿を動かしてスペルキャスターを移動させる。

 今回レスターが出した作戦は、小惑星に紛れるようにフェムトの周囲に展開されている自動砲台をブレイブハートと合体したスペルキャスターが発見し、残りのクロスキャリバーとレリックレイダーの二機で破壊すると言う内容だった。

 自動砲台の自発的には移動出来ない弱点は、無数の小惑星と言う障害物のおかげで在る程度軽減出来る。しかし、同時に小惑星のおかげで自動砲台自体も敵に狙いが付け難いという弱点も在る。艦艇などの代物ならば問題が無い弱点だが、『紋章機』ぐらいの大きさならば弱点と言える。其処を突き、索敵能力が高いスペルキャスターが自動砲台の正確な位置を察知し、障害物が少なく遠距離から狙える砲台はクロスキャリバーが、障害物が多く狙いが定め難い砲台は小回りが利くレリックレイダーが破壊を行なう。

 

「桜葉。次のは障害物が少ないからアンタの番よ。位置を転送するから良く狙いなさい」

 

『分かりました……撃ちます!』

 

 クロスキャリバーから発射されたレーザーは正確に障害物の間を通り、その先に在った自動砲台を破壊した。

 

「OK! 後二、三台破壊すればシャトルが安全に通れるようになるわ」

 

『漸くか。たくよぉ。結構操縦に神経使うから疲れるぜ』

 

『そうですね。でも、テキーラさんの指示が在るおかげで安全に破壊出来ますから』

 

『もしもテキーラが居なければ、もっと疲れているよ』

 

「煽てても何も出ないわよ。さぁ、さっさと片付けてプディングを助けましょう」

 

『了解(です)』

 

「あいよ!」

 

 そのまま三機の『紋章機』は小惑星の間に隠れる自動砲台を破壊し、シャトルが安全にフェムトに辿り着けるように道を作り上げた。

 

 指示された事を終えた三機の『紋章機』は小惑星群の外で待機していたルクシオールへと戻り、すぐさまルーンエンジェル隊の面々に加え、ヴァニラとちとせを乗せたシャトルが発進する。

 ヴァニラとちとせは以前にもフェムトに訪れた事が在り、ナノナノを発見した施設への案内役だった。フェムトの施設内は今だ全てが解明されておらず、警備ロボットなどが徘徊している。幸いなのは施設内の防衛は警備ロボットだけなので、発見さえされなければ問題は余り無い。

 発進したシャトルは問題なくフェムトへと辿り着く。それを確認したレスターはすぐさま医務室からアルモをブリッジへと呼び出した。

 『ABSOLUTE(アブソリュート)』で起きた出来事を知っている面々は、レスターが呼び出したアルモの事で当然の事ながら驚いた。特に親友であるココはアルモが生きて再会出来た事に涙を流しながら抱きついて、再会を喜び合った。

 その後、レスターはブリッジのメンバーにアルモが何故ルクシオール内に居るのかを説明し、今は『ABSOLUTE(アブソリュート)』で起きた戦闘に関して詳しくアルモから話を聞く。

 

「それで敵がこう動いたら『ゴースト』は…こんな感じで指示を出したんです」

 

「フム……確かに最適な指示だ」

 

 自らが覚えている限りの『ゴースト』が『EDEN(エデン)』軍に送っていた指示の内容をアルモは説明し、レスターはその指揮の手腕に感嘆するしか無かった。

 それは同じように説明を聞いていたココも一緒で、他のブリッジのメンバーも『ゴースト』が出したという指示の内容に言葉が出せなかった。『ABSOLUTE(アブソリュート)』内で起きたと言う『EDEN(エデン)』軍と『ヴェレル』が操っていた無人艦隊との戦闘で、追い込まれていた『EDEN(エデン)』軍を『ゴースト』が持ち直したと言う事は知っていた。だが、それは『ゴースト』の性能に寄る者だと誰もが思っていた。

 しかし、アルモの説明に寄ってそれは間違いだと判明した。『ゴースト』は自らの性能ではなく、高い指揮能力で『EDEN(エデン)』軍を上手く指揮し、戦況を五分五分に持ち直したのだ。

 

「……クールダラス司令……これは如何考えても…」

 

「あぁ……間違いなく、『ゴースト』は『EDEN(エデン)』軍の艦を“知っているな”」

 

 普通ならばいきなり艦隊規模の指揮を執る事など不可能に近い。

 ましてや『ゴースト』は『EDEN(エデン)』とは殆ど接触が無いのだから、当然軍に配備されている艦の情報など持っている筈が無い。だからこそ、レスターは『ゴースト』が『ABSOLUTE(アブソリュート)』で『EDEN(エデン)』軍の指揮を執ったと聞いた時に信じられないと言う気持ちを抱いたのだ。

 

(もしも何の情報も無い全く未知の艦隊を指揮しろと言われたら、俺は無理だとしか言えん……だが、『ゴースト』はそれをやってのけた。……まさか、軍内部に『ゴースト』と繋がっている者が居るのか? …いや、それは流石に無い筈だ。しかし、この『ゴースト』が行なったと言う指揮……何処かで見覚えが在る気がする)

 

 アルモが説明した『ゴースト』の艦隊に出した指揮。その動きにレスターは何処か覚えが在った。

 いや、覚えではなく良く知っているとさえも徐々に思って行く。真剣にアルモが説明した『ゴースト』の指揮をモニターに出して、何度もレスターは確認する。その真剣さにブリッジに居る誰もが、声を掛けられずに居る。

 そしてハッと何かに気がついたように艦長席からレスターは立ち上がり、何かを確認するように在る時の『ゴースト』の指揮をモニターに繰り返して映す。

 

「ッ!? ………ま、まさか……」

 

「あの……クールダラス司令?」

 

「どうかしたんですか?」

 

 何かに気がついたように顔を青褪めさせているレスターに、アルモとココは心配そうに声を掛けた。

 だが、レスターは二人に気がつかず、自らの脳裏に浮かんだ推測で悩みこむように艦長席に座り込む。

 

(まさか……いや、もしもアイツが“戻って来ている”なら必ず俺達に連絡が在る筈だ。何よりもちとせに連絡が無いのは可笑しい……だが、『ゴースト』の指揮はアイツの指揮に似過ぎている)

 

 脳裏に浮かぶ推測。しかし、その推測をレスターは信じられなかった。

 余りにも『ゴースト』の指揮能力の高さは、レスターが良く知る人物に似ている。何せずっと副官としてレスターはその相手を支えて来たのだ。見間違いや勘違いではない。

 だが、浮かんだ推測をレスターは信じたくなかった。もしも推測が当たっているとすれば、自分達に何故連絡の一つも無かったのだと怒りが込み上げて来る。特にちとせの苦悩を知っているだけに、尚更に推測が正しかった時は、怒りを抑え切れる自信が冷静を心掛けるレスターでも無い。

 

(……とにかく、この推測は俺の胸の内だけで留めておいた方が良いな。ココやアルモにも話せん。……そう言えば、カズヤがヴァニラに『ゴースト』に質問した時、ヴァニラの様子が何処か可笑しかったな)

 

 余り気にはしていなかったが、カズヤがヴァニラに質問した時、何処かヴァニラの様子が可笑しかった事をレスターは思い出した。

 戻って来た時にそれとなく確認しなければならないと思いながら、改めてアルモに覚えている限りの『ゴースト』が出した指揮について問うのだった。

 

 

 

 

 

 衛星フェムト内部。長い間人の手が入らず、少なくとも六百年と言う年月が経過している筈なのに今だ劣化の痕跡など一切見せない衛生施設。内部は施設を護る警備ロボットが数え切れないほどに徘徊し、外の自動砲台と合わせれば要塞と呼んでも可笑しくないほどだった。

 その施設に辿り着いたカズヤ達は、前にフェムトに来た事が在るヴァニラとちとせを先頭に移動用のベットに載せたナノナノを護るようにカズヤ、リコ、アニス、カルーア、そしてミモレットが歩いていた。

 

「ほえ~、こりゃ凄ぇ~な。こんなところが在った何て知らなかったぜ」

 

「私も資料では知っていましたけど、こんなに当時のままの形を残している施設が在るなんて驚きです」

 

「本当ですわね~。今よりも昔の技術の方が高い事が良く分かりますわ~」

 

 アニス、リコ、カルーアはそれぞれ感嘆しながらフェムトの通路の中を進んで行く。

 カズヤも事前にフェムトについて調べていたが、実際に見たフェムトは想像以上の施設だった。普通ならば長い年月経過した構造物は、人の手が入っていなければ劣化する。

 しかし、フェムトには全く劣化している様子が見られない。人の手が入っていないにも関わらず、フェムトが六百年前当時の形を維持していられるのは、ナノマシン技術のおかげだった。ナノマシン技術は人の治療だけではなく、機械の修復なども行なえる。

 現在は多くのナノマシン技術が失われ、『EDEN(エデン)』の支援のおかげで技術復活が行なわれている最中だが、フェムトだけは嘗てのピコの技術が残っている。その技術がフェムトを昔のままの姿を残している理由だった。

 

「俺がこれまで見た遺跡なんかは、随分と劣化して形もまともに残ってねぇのが多かったけど。此処まで昔の形を残している場所は、何か意味が在ると思うぜ」

 

「意味?」

 

「あぁ、例えばよっぽど重要な施設だとかな。なぁ、そうだろう?」

 

「はい。此処は嘗てナノマシンの重要研究施設だったとピコでは言われています」

 

 アニスの質問にヴァニラは前を進みながら答えた。

 それに続くように警備ロボットが来ないか警戒しながら先を見ているちとせが、捕捉するようにアニス達に説明する。

 

「そしてこの場所でナノちゃんは発見されました。ソレと共にこの施設に在る途轍もないモノを発見したのです」

 

「途轍もないモノ?」

 

「はい。この先にそれは在ります」

 

 ちとせがそう告げると共に通路の先に扉が見えて来る。

 近づくと共に扉は自動的に開き、ちとせとヴァニラが最初に入り、カズヤ達がその後を続く。

 

「こ、これって!?」

 

「おいおい……こりゃ~」

 

「まぁ~」

 

「これが資料にあった」

 

 部屋の中に入ったカズヤ達はそれぞれ驚愕した。

 室内には数え切れないほどの試験管のようなカプセルが在り、その中には髪の色などの違いは在るがナノナノとそっくりな少女達が眠るように目を瞑りながら培養層の中に浮かんでいた。

 ちとせとヴァニラは驚くカズヤ達の様子に頷きながら、ゆっくりと培養層の中で眠っている少女達について説明する。

 

「これがフェムト内部で発見された途轍もないモノです。そしてナノちゃんも此処で発見されました」

 

「それじゃ、ナノナノのこの子達はナノナノの姉妹って事ですか?」

 

「はい。そしてナノナノはこの子達の中で唯一目覚めた子なのです」

 

 ヴァニラは説明しながら、唯一開いたままの状態になっているカプセルに近づく。

 カズヤ達はそのカプセルこそがナノナノが入っていたカプセルだと悟り、ちとせとヴァニラの指示に従ってナノナノをカプセル内に入れる。

 ナノナノがカプセルに入ったのを確認したヴァニラは、近くに在るコンソールに近づいて操作する。同時にカプセルの扉が閉まり、カプセル内から培養液らしきモノが出て来る。

 

ーーーゴボゴボッ!

 

「今、カプセルを起動させました。後は自動的にコンピュータがナノナノの治療を行なってくれます」

 

「時間が掛かると思いますので、皆さん休んでいて下さい」

 

「はい」

 

「了解です」

 

「分かりました」

 

「なぁ、ちょっと部屋の中を見回して良いか? こう言うところは気になんだよ」

 

「構いませんけど、部屋の中だけにして下さい、アニスさん」

 

「あいよ」

 

 ちとせの許可を貰ったアニスは、ナノナノの姉妹が眠っている培養層を興味深そうに見回す。

 カズヤ達はその様子に苦笑しながら、培養層の中に居るナノナノに視線を向ける。治療が行なわれているのか、ナノナノが入っている培養層内部は気泡が次々と浮かんでいた。これでナノナノが目覚めるとカズヤは喜びながら、モニターを見つめているヴァニラに質問する。

 

「そう言えば、ヴァニラさん」

 

「何でしょうか?」

 

「どうしてナノナノだけ目覚めたんですか? ナノナノが目覚めたんだったら、他の子達も目覚めても可笑しくないと思いますけど?」

 

「あっ! それは私も気になります」

 

「私もですわ~。だって、ナノちゃんが起きたんだったら他の子達も起きても可笑しくないでしょうし~」

 

 純粋な疑問をカズヤ達は質問するが、ヴァニラだけではなくちとせも困ったような顔をする。

 

「……実はナノちゃんが如何して起きたのかは、全く理由が分かっていないんです」

 

『えっ?』

 

「私がこの施設に訪れた時、ナノナノのカプセルに近づくと共にカプセルが開いてナノナノは目覚めたのです。その理由が何なのかは、全く分かっていません」

 

「そして如何してナノちゃんだけが目覚め、他の姉妹が目覚めないのか? その理由が判明していないのです」

 

「此処のデータとかに何か無いんですか?」

 

「残念ながら……この部屋はあくまでプディングシリーズの維持と管理だけの部屋のようなので、重要な情報は見つけられませんでした」

 

「他にも部屋は在りますが、幾つかの部屋はロックされていて入る事が出来ません」

 

 カズヤの質問にちとせとヴァニラがそれぞれ答え、リコとカルーアは僅かに悲しげにナノナノを見つめる。

 沢山の姉妹が居るのに目覚めたのはナノナノだけ。深い事情を知らなかったリコとカルーアは、ナノナノが内心では姉妹にも目覚めて欲しいと願っているのではないかと考える。カズヤも同様に考えながらナノナノを見つめていると、突然室内を探索していたアニスが一つのカプセルの前にしゃがみながら話し掛ける。

 

「おい! 今の話本当なのかよ?」

 

「アニス? 今の話って、ナノナノの姉妹が目覚めないって話の事?」

 

「あぁ、そうだ。それで本当なのか?」

 

「えぇ、本当です。いきなりどうしたんですか?」

 

「……だったらよぉ。何でこの培養カプセルの床に濡れた後が在るんだよ!?」

 

『えっ!?』

 

 アニスの報告にカズヤ達は驚き、慌ててアニスがしゃがんでいるカプセルの傍に近寄って床に視線を向ける。

 其処には確かに他の床と違い、明らかに濡れたような後が在って僅かに他の床と色が違っていた。すぐさまちとせは床にしゃがみ、濡れた床を触ってみる。

 

「…確かに濡れています。恐らくは濡れた原因は培養液」

 

「それじゃ、この子はつい最近にカプセルから出たって事でしょうか?」

 

「あぁ、間違いないと思うぜ。少なくとも完全に乾いてねぇって事は、遅くても一日以内に出て、今は戻ってるって事に違いねぇ」

 

 トレジャーハンターとしての経験からアニスは自らの推測を語り、今はカプセルに入って眠るように目を閉じているナノナノそっくりの姉妹を見つめる。

 『EDEN(エデン)』の調査チームやピコの人々がどうやっても目覚めさせる事が出来なかった姉妹たちが目覚め、再び眠りについていた。一体どう言う事なのかと誰もが困惑する。特にちとせとヴァニラの困惑は深い。自分達がどうやっても目覚めさせる事が出来なかったナノナノの姉妹を、一体誰が目覚めさせたのか。

 自然に目覚めて再び眠りについたのかと、様々な推測が脳裏を過ぎるが、考えを遮るようにコンピューターから完了の音が響く。

 

ーーーピィィィィーーー!!!

 

「…どうやらナノナノの治療が終わったようです」

 

 音に気がついたヴァニラがコンソールに近づいて確認し、カズヤ達はナノナノが入っているカプセルに目を向ける。

 其処には失われていた尻尾が戻ったナノナノが培養液の中に浮かんでいた。ゆっくりと培養液は抜かれて行き、カプセルの中から培養液が完全に無くなると共にカプセルが開く。すると、今まで意識が戻らなかったナノナノの瞼が動き、眠そうに目を擦りながら出て来る。

 

「……んうぅぅぅ~ん」

 

「ナノナノ」

 

「…ふぇ? …ママ?」

 

 呼ばれたナノナノは疑問に思いながら眠たそうにしながらも目を開け、ヴァニラが目の前に立っている事に気がつく。

 

「…ナノナノ? 夢を見ているのだ? ママが居る筈が…」

 

「夢では在りません。私は此処に居ます」

 

「ナノちゃん!!」

 

ーーーガバッ!

 

 ナノナノが意識を取り戻した事に感極まったリコは、嬉し涙を流しながらナノナノに抱きついた。

 リコが突然抱きついて来た事にナノナノは面食らうが、リコは構わずに抱き締め、続くようにカルーアが嬉しそうにナノナノの傍に近寄る。

 

「本当に良かったですわ。心配しましたのよ」

 

「心配? ……ッ!? そうなのだ! ナノナノ、班長の治療が終わった後、急に意識が遠くなって…それで…気がついたらママが居たのだ」

 

「ナノナノ。貴女は自分を構成しているナノマシンを使用した事で、意識が保てなくなったのです。その治療の為にフェムトに来たのです」

 

 ヴァニラは困惑するナノナノに説明しながら、リコに抱きつかれているナノナノの体を見回す。

 事情を聞いたナノナノは申し訳なさそうにヴァニラ、リコ、カルーア、ミモレット、カズヤ、アニス、ちとせの顔を見回して頭を下げる。

 

「…ありがとうなのだ。皆に心配を掛けて…本当にゴメンなさいなのだ」

 

「後でルクシオールの皆さんにも、お礼を言っておきなさい。皆さん、ナノナノの為に頑張ってくれたのですから」

 

「はいなのだ。ママ」

 

「……それとナノナノ。本当に本調子に戻ったのか調べたいので、“私に変身して下さい”」

 

「フエッ!?」

 

(変身? 一体どう言う意味だろう?)

 

 ヴァニラの発言に目を見開いたナノナノを見たカズヤは、ヴァニラの言った言葉の意味が分からず首を傾げる。

 まさか、本当にナノナノがヴァニラに変身出来るのかとカズヤは考えながら、嫌がるように後退りし始めたナノナノを見つめる。

 

「い、嫌なのだ! 変身だけは絶対に嫌なのだ!」

 

「でも、本当に本調子に戻ったのか調べなければいけません。今後のルクシオールの行動にこれ以上支障を来たす訳には行きません」

 

「うぅぅ……わ、分かったのだ。だけど、本当にちょっとだけなのだ」

 

 ゆっくりと嫌そうにしながらもナノナノは了承した。

 同時にナノナノの体が光り輝き、光が治まると共に服装から髪型、姿形が全てヴァニラと同じに変身したナノナノが立っていた。

 

「えぇぇっ!? ナノナノがヴァニラさんに!?」

 

「そ、そっくりです!」

 

「まぁ~、驚きですわ~」

 

「ふぇ~、こりゃ驚いたぜ」

 

 初めて見るナノナノの変身能力にカズヤ、リコ、カルーア、アニスは驚いた。

 知っていたヴァニラとちとせは驚く事無く変身を終えたナノナノに質問する。

 

「何処か変なところは在りますか?」

 

「……いいえ。問題は在りません」

 

「うわっ! 声までそっくりだ!」

 

「これがナノちゃんの能力の一つです。この変身能力のおかげで、ナノちゃんはナノマシンを瞬時に操り、負傷を負った人を治療出来るんです」

 

 ナノナノの変身は姿形だけではなく、相手の思考さえも写し撮り、変身した相手と完全に同じになる。

 この能力のおかげでナノナノは治療相手の生体情報を読み取り、異常を瞬時に発見してナノマシンに寄る治療を行なう事が出来るのだ。

 ちとせの説明にカズヤ達は感心しながらヴァニラに変身したナノナノを見つめると、再びナノナノの体が光り輝き元の姿に戻る。

 

「ふえぇぇぇぇぇ~……もう良いのだ?」

 

「はい。どうやら問題は無いようですね」

 

「すげえな。おい、ナノ! 今度は俺に変身してみろ!」

 

「い、嫌なのだ! さっきのはママに言われたから変身したけど、もう変身は嫌なのだ!」

 

 ナノナノは本当に嫌だと言うように首を横に振るった。

 しかし、アニスは構わずにナノナノににじり寄り、ゆっくりとナノナノに手を伸ばす。

 

「本当にちょっとだけで良いからよ。なっ?」

 

「嫌なのだあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「あっ! おい、待て!!」

 

 突然ナノナノは部屋の外に向かって走り出し、アニスは慌てて追い掛けた。

 ちとせとヴァニラはアニスとナノナノが部屋の外に飛び出した事に顔色を変える。

 

「行けません! この施設には警備ロボットが居るんです!」

 

「もしも発見されたら、他の警備ロボット達も動き出してしまいます」

 

「そ、それって不味いじゃないですか!? 急いで二人を連れ戻さないと! リコ、カルーア、ミモレット! 二人を追い駆けよう!」

 

『はい!』

 

「分かったですに!!」

 

「私も一緒に行きます! ヴァニラ先輩はシャトルの準備をお願いします!」

 

「分かりました。皆さん、お気をつけて」

 

 カズヤ達はちとせと共に外に飛び出し、ナノナノとアニスを連れ戻す為に駆け出した。

 ヴァニラもシャトルの発射準備の為に外に出ようとする。だが、出る直前に先ほどまで操作していたコンソールのモニターが急に砂嵐が起きたようにぶれた。僅かに聞こえた音にヴァニラがモニターに目を向けると、メッセージらしきモノが映し出される。

 

「……これは…『すぐに脱出しろ。ちとせが狙われている』…ちとせさんが!?」

 

 メッセージの内容を読んだヴァニラは目を見開きながら叫び、慌てて部屋の外に飛び出すが、既にちとせ達の姿は何処にも見えなかったのだった。

 

 

 

 

 

(止めろ! 今すぐに命令を撤回するんだ!)

 

《要求は認められず……本機の乗り手を発見した現状、即座に獲得すべき》

 

 監視装置に映ったちとせを発見した瞬間、即座に施設内部の警備ロボットに捕獲の指示を飛ばした。

 何処に居るかも不明だった相手が、自らが居る施設にやって来た。内に居るモノが警告を勝手に相手側に送ったようだが、それは狙っているちとせ本人に見られる事は無かったので問題は無い。

 何よりも優先すべきなのは、搭乗者の確保。それさえ出来ればリミッターを外す事が出来る様になる。

 

《先ほど捉えた自動砲台と『紋章機』との戦闘分析の結果、やはり本機の早急なリミッター解除は必要だと判断》

 

(たった一度の戦闘で判断すべき事じゃない筈だ! だから、待ってくれ!)

 

《……施設内部の警備ロボットを全て捕獲に当てる》

 

 一方的に言い捨てると共に、施設に配備されている警備ロボットが動き出し、ちとせの捕獲の為に動き出す。

 もはや完全に止まる気が無い事を悟り、自身では如何する事も出来ず、強く施設内部に居るちとせ達に向かって願う。

 

(…頼む! 脱出して逃げ延びてくれ! 絶対に乗せる訳には行かないんだ! ちとせを! この……『禁断の紋章機』に乗せる訳には行かないんだ!!)




第四章は他の章よりも長くなります。

また、今回で明らかになった『禁断の紋章機』と言う意味に関しては何れ明らかになります。
それこそが『ゴースト』が他の『紋章機』から嫌われている理由に繋がっています。

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