ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~   作:ゼクス

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 突然自分達が戦っていた場に飛び込んで来たレリックレイダーに、リコ、テキーラ、ナノナノは驚いた。

 カズヤがブレイブハートを取り戻す時間を稼ぐ為に彼女達はディスト・ディータが率いる艦隊と戦っていたのだが、今だブレイブハートとレリックレイダーとの合体は解除されておらず、レリックレイダーと合体したまま戦場に入って来た。

 事前に出されていたレスターの指示では、レリックレイダーとの合体を解除したブレイブハートと三機の『紋章機』のどれかと再合体する予定だったはず。一体どう言う事なのかとリコ、ナノナノ、テキーラが困惑する。すると、ルクシオールとの通信が繋がり、レスターから報告が届く。

 

『三人とも聞こえるか?』

 

「聞こえているけれど……どう言う事なのよ、クールダラス? ブレイブハートはアジートの『紋章機』との合体を解除して私達の機体のどれかと再合体するんじゃなかったの?」

 

『テキーラの疑問は最もだが…ブレイブハートの合体機構に問題が発生した。アニス・アジートが乗る『紋章機』との合体が解除出来ないんだ。しかも、アニス・アジートは所属不明艦とどうやら戦う気らしい』

 

「それマジ!?」

 

 告げられた状況にテキーラは叫び、通信を通して話を聞いていたリコとナノナノも目を見開く。

 現状で『紋章機』が一機戦力に加わる事は本来ならば喜べる事。しかし、それは味方だとハッキリ呼べる相手ならばの話。残念ながらアニスに対してはリコ、テキーラは余り良い印象を持っていない。

 何せルクシオールに侵入して機関室の破壊やブレイブハートの強奪を行なった人物なのだから。ブレイブハートから落ちるところを助けられたナノナノは、リコやテキーラほどアニスに対する印象は悪くないが、それでも一緒に戦う事に関しては躊躇いを覚える。乱入して来た相手が今ルクシオールに居ない最後の『ルーンエンジェル隊』のメンバーだったならば問題は無かったかもしれないが、アニスは色々とやり過ぎているので一緒に戦う事にリコ達が躊躇いを覚えるのは当然だった。

 無論レスターもリコ達の気持ちは理解している。本来ならばアニスの戦場への乱入など断固拒否するところなのだが、現状でそれが出来ないのも同時に理解していた。

 

『気持ちは分かるが言って聞くような相手ではない。此方の指示も無視して行動するだろう。だから、リコとテキーラはルクシオールに接近する敵艦を優先して攻撃してくれ。ナノナノはアニス・アジートが乗る『紋章機』の支援を頼む! アニス・アジートはともかく、今ブレイブハートにはカズヤが乗っている。何としてもカズヤの安全だけは確保しなければならん!』

 

「わ、分かったのだ! ファーストエイダー! これから支援に向かうのだ!」

 

「スペルキャスターも了解よ!」

 

「クロスキャリバーも了解しました!」

 

 ナノナノ、テキーラ、リコは指示に従いそれぞれ自身が乗る『紋章機』を操作する。

 ファーストエイダーは真っ直ぐにディータが乗るディスト・ディータに向かって居るレリックレイダーの後を追いかけ、クロスキャリバーとスペルキャスターはルクシオールに接近する敵巡洋艦と攻撃母艦に向かって攻撃を開始した。

 

 そしてブレイブハートが機能を回復した事に寄って何時もよりも性能が増幅したレリックレイダーは、ディスト・ディータを護るように展開していた巡洋艦二隻に向かって急速に接近していた。

 

「俺様の船を沈めてくれた借り! ぜってぇに返してやるぜ!!」

 

ーーーピピッ!

 

「あん?」

 

 コックピット内部に響いた音にアニスが僅かに目を向けてみると、ブレイブハートからの通信を知らせる表示が出ていた。

 うるさいので通信を切っていた事を思い出したアニスは、これから戦闘が始まる時に音が鳴るのは邪魔だと思い、改めてブレイブハートとの通信を繋ぐ。

 

ーーーピッ!

 

「何だよ? そろそろ戦闘をおっぱじめるんだから邪魔すんな!」

 

『……邪魔って、勝手に戦場に入ろうとしているのはそっちだろう!? 今すぐにルクシオールと通信を繋ぎ直して司令の指示を聞いてくれ!』

 

 レリックレイダーのコックピット内部にカズヤの怒声が響いた。

 いい加減にアニスの勝手な行動にカズヤの我慢の限界が来たのだ。何せ戦場に向かってレリックレイダーを飛び立たせると共にアニスはルクシオールとの通信を切った。完全にアニスはレスターの指示を聞く気が無いと言う事を示す行動だった。

 本来ならば緊急時に使用出来るブレイブハートに寄る『紋章機』を操作する機能が在るのだが、そのシステムも無理やりに合体した影響で思うように機能しなかった。しかもアニスは真っ直ぐにレリックレイダーをディスト・ディータに向かわせている。明らかに強力な兵装が備わっているディスト・ディータにブレイブハートと合体しているとは言え、レリックレイダー一機で挑むのは無謀としか言えない。

 何とかカズヤはアニスを説得して、リコ、ナノナノ、テキーラと一緒に戦うと進言するが、アニスは構わずにレリックレイダーをディスト・ディータに向かわせる。

 

『ちょ、ちょっと話を聞いてくれ!! 幾らブレイブハートと合体しているからって言ったって、この『紋章機』一機で戦うなんて無謀だよ!』

 

「うっせぇ! 此処までコケにされたんぞ! それにさっきも言ったが、買ったばっかりの船まで沈められてんだ! あの野郎にこっちが受けた借りを何倍にも返さねぇと、気が治まらねぇんだよ!!」

 

 アニスは叫ぶと同時に操縦桿に付いているボタンを押す。

 同時にレリックレイダーは巡航形態から戦闘形態へと移行し、左右のアームに備わっている遠距離誘導レーザー-『スター』-の照準が前方に居る巡洋艦に合わさせる。

 

「食らいやがれ!!」

 

 レリックレイダーの左右のスターから大きさ200mぐらいの赤いブーメラン状のレーザーが発射され、巡洋艦に真っ直ぐに進み直撃すると共に数百mに及ぶ爆発を起こした。

 スターの直撃と追加で受けた爆発に寄って巡洋艦の外装に大穴が開き、一拍置くと共に巡洋艦は大爆発を起こす。

 

ーーードゴォォォォン!!

 

『……す、凄い威力だ』

 

 ブレイブハートのコックピットから巡洋艦が撃沈するのを見ていたカズヤは、レリックレイダーの武装の威力に驚いた。

 レリックレイダーの武装の威力は明らかにクロスキャリバー、スペルキャスター、ファーストエイダーを上回っていた。テンションが最大になった時に必殺技はそれぞれの長所が在るので優劣は付けられないが、少なくとも通常時で使える武装の威力に関してはレリックレイダーが一番だった。

 武装の威力に呆然とカズヤはなるが、長年レリックレイダーに乗っているアニスにとっては当然の事なので平静なままレリックレイダーをディスト・ディータに向かわせる。

 

「フン。やるもんだね」

 

 自らが操る無人の巡洋艦を一隻あっさり撃沈させるのをディスト・ディータのブリッジから見ていたディータは、感心したように呟いた。

 

(海賊退治で有名になるだけの事は在るって事だね……だけど、馬鹿だね。幾ら『紋章機』だからって、一機じゃこっちに勝てる訳が無いんだよ!)

 

 ディータの口元が残忍さに満ちた笑みで歪むと同時に、モニターに映っていたレリックレイダーの左右から二隻の巡洋艦が砲撃を放った。

 

「なっ!?」

 

 左右から砲撃を放って来た巡洋艦に気がついたアニスは慌ててレリックレイダーを上昇させて砲撃を回避した。

 しかし、上昇した先には巡洋艦よりも大きく、武装も上回っている攻撃艦が何時の間にか回り込んでいた。その事にアニスは気がつき、レリックレイダーが包囲されようとしている事に気がつく。それと共にレリックレイダーに通信がディスト・ディータから通信が繋がり、勝ち誇った顔をしたディータが映し出される。

 

ーーーブゥン!

 

「てめぇ!?」

 

『フフッ、確かにアンタの腕はかなりのもんだけどね。一機だけでこっちに勝てると思ってたのかい? こっちはアンタが今まで倒して来た海賊どもとは違うんだよ』

 

「クッ!」

 

 アニスが乗るレリックレイダーは高い機動力と近接戦闘力を持つ機体。

 故に一撃離脱の戦法を得意としている。本来ならばその戦法を使って短期決戦で勝負を決めるのがアニスのやり方だった。だが、ディータは事前の情報でアニスが得意としている戦法を調べ上げていた。

 そしてアニスがレリックレイダーをディスト・ディータに向かわせて来ている事に気がついた時から罠を張っていた。アニスは気にも止めていなかったが、ルクシオールから援護が来ないように強力な攻撃艦二隻と巡洋艦三隻を足止めとしてディータは操作していた。

 今回の戦いで重要なのはルクシオールの戦力を減らし、次の戦いで優位に戦いを進められるようになる事こそが重要。

 

(功績は上げとかないといけないんだよ。じゃないと『マジーク』制圧の任に就かせて貰えなくなるからね)

 

 それはディータにとって何よりも重要な事。NEUE(ノイエ)人で在りながらもクーデター軍に所属しているのは全てその為。惑星『マジーク』を制圧する任だけは、他の誰にもディータは譲る気は無い。

 その為にも此処でレリックレイダーを破壊する為に命令を発しようとする。

 

 ディータの作戦はアニスに対して完璧だった。アニスの戦闘に関する情報を事前に調べ上げ、ルクシオールが乱入して来る不測の事態になっても冷静に対処し、アニスを包囲する事に成功した。

 確かにディータの作戦はアニスに対して見事しか言えなかった。だが、ディータは一つだけ重要な事を見逃していた。ルクシオールの艦長が一体誰なのかを考慮する事を忘れてしまっていたのだ。

 それを表すようにレリックレイダーに攻撃を放とうとしていた攻撃艦の横合いに、環状レーザーが直撃する。

 

ーーードゴォン!

 

『ッ!?』

 

 突然の奇襲攻撃にディータだけではなく、攻撃されようとしていたアニスも目を見開く。

 しかし、二人の驚きに構わず、今度はレリックレイダーと合体しているブレイブハートに備わっているラピッドレーザーが放たれ、攻撃艦の武装に直撃する。

 それによって攻撃艦の武装の一部が破壊された。同時にレリックレイダーのコックピット内部にカズヤからの通信が届く。

 

『今だ! 破壊した場所から敵は攻撃は出来ない! すぐに移動するんだ!』

 

「わ、分かった!」

 

 カズヤの指示に従ってアニスはレリックレイダーを操作し、煙を上げる攻撃艦の横を通り過ぎてディータが敷いた包囲網から抜け出した。

 敵艦との距離が離れると共にレリックレイダーの横をファーストエイダーが並走し、アニスにナノナノから通信が届く。

 

『間に合ったのだ!』

 

「お、おめえは!? あん時の!?」

 

『…あの時は助けてくれてありがとうなのだ。でも、今は敵をやっつけるのが先なのだ!』

 

『僕とナノナノが援護する! とにかく今は敵を倒す事に集中しよう!』

 

「……わぁったよ! 足引っ張んじゃねぇぞ!」

 

 一先ずは敵を倒す方が先決だとアニスは判断し、攻撃しようとしている巡洋艦にレリックレイダーを向かわせる。

 ファーストエイダーもその後を着いて行き、二機の『紋章機』は巡洋艦に向かって攻撃を開始した。レリックレイダーは先ほどと別の巡洋艦を破壊した時と同じようにスターを放ち、敵の外観に大穴を開ける。更に追い討ちをかけるようにファーストエイダーがチャクラムを放ち、巡洋艦を沈黙させ、別の敵艦へとレリックレイダーと共に向かう。

 一部の武装が破壊されたが、それでも通常の艦艇よりも武装が多い攻撃艦は二機の『紋章機』を破壊しようと照準を向ける。しかし、発射される前にブレイブハートからラピッドレーザーが撃ち出され、攻撃艦の武装は破壊された。ラピッドレーザーの威力は弱いが、その点を補うように連射性は優れている。その上、攻撃を放つ為にエネルギーを武装に敵は集める必要が在るので、ラピッドレーザーの弱点で在る威力の弱さを補えている。

 次々と武装が破壊されてしまった攻撃艦は無防備に近い状態に追い込まれ、すかさず攻撃を加えたレリックレイダーとファーストエイダーによって撃沈されてしまう。

 

 先ほどまで優勢だった筈の自分達側が一転して追い込まれ始めた事に気がついたディータは、ヒステリックに叫ぶ。

 

「何だいこれは!? もっと確り無人艦を操作しな!」

 

「だ、駄目です! 敵の機動速度が速すぎて指示が追いつきません!」

 

「くっ! たったの二機を何で落とせないないんだい! こうなったら、こっちも戦列に加わって…」

 

ーーードゴォン!

 

 ディータの叫びをかき消すように爆発音と共に、ディスト・ディータが突然激しく揺れた。

 予想外の衝撃に立っていたディータは床に倒れてしまうが、すぐさま顔を上げると共に席に着いている部下の男性が報告を行なう

 

「報告! ルクシオールから砲撃が放たれ、本艦に直撃! 航行には支障はありませんが、船体に損傷が出ています!」

 

「ルクシオールから攻撃!? どう言う事だい!? ルクシオールには攻撃艦二隻と残りの巡洋艦三隻を向かわせていたはず!?」

 

「ど、どうやら、ルクシオールは残りの『紋章機』に巡洋艦を全て破壊させて、攻撃艦を振り切ったようです!」

 

「ッ!? しまった!?」

 

 攻撃艦はその名称がつくように強力な武装の数々の攻撃力と強靭な装甲に防御力が高い艦艇。

 しかし、高い攻撃力と防御力の為に速度や旋回性能が低い。逆にルクシオールは機動性とスピードを備えた高速艦。故にレスターは先ずルクシオールに向かって来た巡洋艦を優先してクロスキャリバーとスペルキャスターに破壊させたのだ。巡洋艦は攻撃艦よりも圧倒的に火力も装甲も弱いが、その代わりに速度が在る。

 ルクシオールが攻撃艦を振り切る時に最も邪魔なのは巡洋艦。だからこそ、レスターはリコとテキーラに優先的に巡洋艦を破壊するように指示したのだ。もしもディータがアニスだけではなく、ルクシオール側にもっと気を配っていたら話は変わっていた。今回の戦いでのディータの敗因はルクシオールを、“レスター・クールダラスと言う男を甘く見ていた事だった”。

 

(こ、これが『EDEN(エデン)』の英雄の一人の実力!? 甘かった! ルクシオールが現れた時点でアニス・アジートの『紋章機』に無人艦を全部向かわせていれば!?)

 

 そうディータは内心で後悔するが、時既に遅い。

 既にルクシオールと攻撃艦二隻との距離が開き、ディスト・ディータを攻撃射程に捉えている。その上、クロスキャリバー、スペルキャスターに加え、自分達が相手をしていた敵艦全てを破壊し終えたファーストエイダー、レリックレイダーの四機の『紋章機』が居る。

 幾ら強力な性能を持っているディスト・ディータとは言え、ルクシオールと四機の『紋章機』を相手に出来ない。無事な攻撃艦が戻って来るまでにディスト・ディータを破壊されてしまう可能性が在る事に気がついたディータは、すぐさま自分達が行なうべき事を瞬時に決める。

 

「……撤退だよ! すぐに撤退しな!」

 

「りょ、了解しました!」

 

 ディータの指示に従い、ディスト・ディータは急旋回を行なって戦場から撤退して行く。

 同時にルクシオールを追っていた攻撃艦二隻も旋回し、ディスト・ディータ同様に戦場から撤退し出す。

 

 自らの勝利を確信したアニスは勝ち誇った笑みを浮かべて、ディスト・ディータに通信を繋ぐ。

 

「へっ! どんなもんだ! 俺様はやられたら何倍にして借りは返す主義なんだよ! 良く覚えとけ!! ディータさんよ! アレ? ……データだけ?」

 

『フン…今日のところは負けを認めてやるよ……だけど、アンタ…大事な事を忘れてるみたいだね』

 

「はっ? ……忘れてるって……何がだよ?」

 

『自分で考えるんだね』

 

ーーーブゥン!

 

 悔しそうな声でディータが言い捨てると共に通信が切れた。

 アニスはディータの言い残した言葉の意味を考えようとするが、考える前にすぐさま答えは出される。

 突然並走していたファーストエイダーがレリックレイダーに向かってアンカーを撃ち込み、レリックレイダーを捉える。

 

ーーーガシッ!

 

「うわっ! 何しやがる!?」

 

『一緒にルクシオールに来て貰う為なのだ!』

 

「ふ、ふざけんな! 良いからワイヤーを外せ! 外させねぇってんだったら、暴れ…」

 

ーーーブゥン!

 

「……へっ?」

 

 突如としてコックピット内部の光が次々と消えて行き、レリックレイダーのクロノストリングエンジンは停止した。

 呆然とアニスが固まっていると、ブレイブハート側から非常用の通信回線でカズヤから連絡が届く。

 

『悪いけど逃がさないからね。今ブレイブハートの機能を停止したから、もう逃げられないよ。君は一応強奪犯なんだからね』

 

「…し、しまったあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 自分がルクシオール側からどう見られているか思い出したアニスは、動かなくなったレリックレイダーのコックピット内部で頭を抱えながら叫んだのだった。

 

 その後ファーストエイダーにレリックレイダーは牽引されて、ルクシオールの格納庫に運び込まれた。

 格納庫にはレスターの指示を受けた警備員が配置され、レリックレイダーのコックピットが開くと共にアニスは手錠を腕に掛けられて拘束されてしまう。

 

ーーーガッチャ!

 

「うぅっ。ちくしょう」

 

 警備員に手錠を掛けられたアニスは悔しそうに声を漏らしながら、艦長室へと連れて行かれる。

 その様子を遠目から見ていたリコ、テキーラ、ナノナノ、そしてカズヤはそれぞれ複雑そうな視線を向けていた。

 

「…あのアニスさんって人…どうなるんでしょうか?」

 

「流石に今回は前回と違って厳しくなるでしょうね。機関室の破壊やブローブの侵入の手助け、それに警備班や整備班の連中にした事も在るから……利用されたからと言って見逃して良い事じゃないわ」

 

「…う~ん。複雑なのだ」

 

「ナノナノはアニスに助けられたからね」

 

「……そう言えば、シラナミ?」

 

「うん? なんだい、テキーラ?」

 

「アンタ、アジートと敵との通信ブレイブハートから聞いていたんでしょう? だったら、敵の名前ぐらい聞いてないの?」

 

「あっ! それなら聞いてよ。確かデータ、いやディータって名前の方が正解なのかな?」

 

「はぁっ!? “ディータ”ですって!?」

 

 カズヤが告げた今回の件の首謀者の名前を聞いたテキーラは、目を見開いて驚愕した。

 テキーラの様子にカズヤ、リコ、ナノナノは驚いて目を向け、リコがテキーラに質問する。

 

「テキーラさん? もしかして知っている相手なんですか?」

 

「……えぇ、ディータって名前に確かに覚えが在るわ。だけど、私の知っている相手本人なのかは分からないわ」

 

「でも、知っている相手かも知れないんだよね。だったら、司令に報告した方が良いんじゃないかな?」

 

「……そうね。アジートは本人に会っているでしょうから、特徴も分かればハッキリ出来るわ。行きましょう」

 

 カズヤの意見にテキーラは頷くと共に歩き出し、カズヤ達はその後を着いて行く。

 直通エレベータに向かって歩きながら横目でカズヤがレリックレイダーの方に視線を向けて見ると、クロア班長の指示に従ってブレイブハートの修理を行なっている整備班の姿が在った。深い損傷は無いが、ブレイブハートには合体機構の異常などの問題が出ている。

 早くブレイブハートの修理が終わる事をカズヤは望みながら、リコ達と共に直通エレベータに乗り込んで艦長室に向かう。

 

 ブリッジへとカズヤ達が辿り着いて見ると、先ほど戦闘で得られた情報を分析しているのか慌しくブリッジ員は動き回っていた。チーフリーダーのココも敵艦の分析に加わっており、ちとせは回収したレリックレイダーを解析しているのかコンソールを忙しく操作していた。

 誰もが忙しい状況に気がついたカズヤ達は、邪魔をしないようにエレベータから出てブリッジから出て艦長室へと向かう。

 艦長室前の扉に辿り着くと、横についているインターホンをテキーラが押す。

 

ーーーピンポーン!

 

『……何だ? こっちは聴取中だ。報告なら後で聞くが』

 

「実はシラナミから気になる名前を聞いてね。もしかしたらさっきの敵旗艦に乗っていた相手。私の知っている奴かもしれないのよ。だから、アジートに特徴を聞きたいんだけど?」

 

『…分かった。今開ける』

 

ーーーブゥン!

 

 了承の言葉と共に扉のロックが外され、テキーラを先頭にカズヤ達は入ろうとする。

 しかし、入る前にテキーラがカズヤ達に顔を向けて指摘する。

 

「あぁ、シラナミ達は部屋の外で待っていた方が良いかも」

 

「えっ?」

 

「全員で艦長室に入ったら狭くなるでしょう。それに聴取中だしね。気になるかもしれないけど、今は待っていた方が良いと思うわ」

 

「…そうですね。確かに艦長室に全員で入ると狭いですから」

 

「分かったのだ」

 

「僕も構わないよ」

 

「それじゃぁね」

 

 テキーラの言葉と共に扉が閉まり、カズヤ達は部屋の外で待機する。

 防音が完璧なので中でどのような会話が行なわれているかは分からない。一体どんな会話がされているのかとカズヤ達は気になるが、今は邪魔になるだけだと思い静かに待つ。すると、ブリッジとは違う別の通路からミントがやって来る。

 

「あら? 皆さん如何しましたの? こんなところで?」

 

「あっ! ミントさん!」

 

 声を掛けられたリコが顔を向けて見ると、ミントがゆっくりとリコ達に近寄る。

 

「今着いたんですか?」

 

「えぇ、そうですわ、カズヤさん。どうやら皆さん無事危機を乗り越えたようで何よりですわ。……それでレスターさんとアニスさんは艦長室の中に居りますの?」

 

「はい。後テキーラも一緒に居ます」

 

「…えぇ、その様ですわね」

 

 頭に付いているテレパスファーの力で艦長室の中の様子を悟ったミントは、難しげに顔を歪める。

 ミントの予想通り艦長室の中は荒れに荒れている。実直で真面目な軍人であるレスターだからこそ、今回の一件は厳しく処罰する事は間違い無い。これがムーンエンジェル隊の司令官だったタクトならば話は変わって居たかも知れないが、レスターでは確実にアニスを処罰する。

 

(此処でアニスさんを処罰するのは当然の事かも知れませんけど……あの赤い『紋章機』の戦力は捨てがたいですわね)

 

 ミントとしても騙されていたとは言え、商会の名を語って蛮行を行なったアニスの行動には怒りを覚えている。

 信用第一の業界なのだから、その信用を汚すような行動をした者には怒りを禁じえない。しかし、簡単に処罰すると告げるにはアニスは捨て難い。長い間乗りこなしていただけに『紋章機』の操作技術はかなりの者。トレジャーハンターをやっているだけに高い洞察力を持っている事をミントは知っている。

 

「(……此処は私が一肌脱ぎますか……アニスさんにはレスターさん達に直接力を貸せない私の代わりをして貰いましょう)……さて、私ちょっとレスターさんと交渉をして参りますわ」

 

「えっ? でも、今聴取中ですから交渉とかは無理なんじゃ?」

 

「大丈夫ですわ。ルクシオールの今後の為になる事ですから、きっと聞いてくれますわ」

 

(な、何だろう? ………ミントさんの笑みが凄く怖い)

 

 笑顔を浮かべるミントにカズヤは言い知れぬ予感を感じ、思わず体を震わせてしまう。

 そしてそのカズヤの予感は的中するのだった。

 

 

 

《第三章『トレジャーハンター』終了・第四章『衛星フェムト』に続く》




遅れて申し訳ありませんでした。

どうやってアニスを協力させようか悩みました。
この時期のアニスは一匹狼な面が強いのでゲームのように素直に指示を聞くキャラではないですからね。

次回は遂に第四章。本作の謎の一部が明らかになる予定です。

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