ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~ 作:ゼクス
ルクシオール内部に在るティーラウンジ。
其処でレスターとルーンエンジェル隊のメンバーは補給物資を運んでくれたミントにアニスが襲撃を仕掛け、ブレイブハートが盗まれた事を説明していた。
その時にアニスが提示したブラマンシュ商会の者である事を示す商船許可書のデータもレスターは見せ、ミントは顔を険しく歪める。
「…確かにこれは私どもの商船の許可書です。ですが、可笑しいですわね? この許可書を持っている商船は数日前にセルダールに向かった筈ですの」
「セルダールに? 本当なのか?」
「間違い在りませんわ。私が指示を出した事なので良く覚えています」
「…そうか(まさか、今回の件にはクーデター軍が関わっているのか?)」
ミントから告げられた事実にレスターは両腕を組みながら険しく顔を歪める。
許可書を持っていた商船がセルダールに向かったと言う事実からレスターは今回の襲撃の件の裏には、現在ルクシオールを支配しているクーデター軍が関わっている可能性が高い事に気がつく。何せ先日ルクシオールを足止めする為に無人艦を送って来たほどである。
ルクシオールがセルダールを支配下に置いているクーデター軍に狙われているのは間違い無い。もしもブレイブハートがクーデター軍に渡ってしまった場合の事を想定し、レスターの顔は歪む。
「…レスターさん。怖い顔をしておりますわよ。焦っても良い事は在りませんわ」
「これが焦らずに居られると思うか?」
「……そうですわね。アニスさんがクーデター軍と繋がっているとしたら、少々不味い事態になりますわね」
(アレ? 今司令何も話して居ないよね? それなのに何で司令の考えがミント先輩は分かったんだろう?)
何も話していない筈なのにレスターの考えをさも当然と言うように告げたミントに、カズヤは違和感を覚えて首を傾げる。
その様子に気がついたリコがカズヤに向かって小声でミントについて説明する。
「ミントさんは『テレパシスト』なんです」
「『テレパシスト』?」
「はい、簡単に言えば心が読めるんです。今のもレスターさんの考えを読んだからだと思います」
「なるほど。それで司令の考えが分かったんだ」
リコの説明にカズヤは納得し、改めてレスターとミントに視線を向けてみると、ミントは口元に付けていたティーカップをテーブルに戻す。
「さて、こうして互いの事情は分かった訳ですけど、実はレスターさん。私アニスさんが拠点としている場所に心当たりが在りますわ」
「本当か!?」
「はい。実を申しますと、アニスさんが乗っていたと言う『|EDEN(エデン)』製の船は私どもが売った船ですの。もちろん売る前に身元を調べた結果、代々トレジャーハンターの家系を営んでいて海賊退治も行なっていたようですので大丈夫だと思い売ったと言う訳ですけど……まさか、海賊行為を行なっていたとは知りませんでしたけど」
「その海賊行為は勘違いだったようだがな。重要参考人ではなく襲撃者として各方面に打診しておくべきだったかも知れん……とにかく、ミント。お前が知るアニス・アジートの拠点の場所を教えてくれ」
「分かりましたわ。ですけど、私が教えたと言う事は内密にお願いします。情報を漏らしたと知られれば、信用に関わりますので、その点はお願いします」
「分かった。さて、エンジンの修理の方は何処まで進んだか」
ミントの協力を得られる事が決まったレスターは通信機のスイッチを入れ、ブリッジと通信を繋ぐ。
ーーーピピッ!
「ココ。エンジンの修理の方はどのぐらい進んでいる」
『後二十分ぐらいで完了すると機関室から報告が届いています』
「そうか。なら、修理が済み次第ルクシオールは発進する。ミントからの情報提供のおかげでアニス・アジートの拠点が判明した。座標は後で伝える」
『了解しました。クロノドライブの準備をしておきます』
「頼んだぞ」
ーーーピッ!
ココとの通信を切り、レスターは改めてミントに顔を向ける。
「ミント。お前は補給が終わった後如何する?」
「そうですわね。事の顛末が少し気になりますし、ちとせさんとも久々にお会いしたいのでルクシオールについて行きますわ。とは言っても私の船はルクシオールよりも足が遅いので付いて行く形になりますけど」
「そうか」
「…それとレスターさん。今回の件とは関係ありませんけど、実はお耳に入れておきたい話が在ります」
「何だ?」
「此処ではちょっと話せませんわ。この情報はかなり重要な情報ですので」
そう言いながらミントはカズヤ達に意味深な目配せを行ない、レスターは顔を険しく歪める。
目配せからミントが告げようとしている情報は本当に重要な情報だと分かったのだ。ルーンエンジェル隊の面々がいては話せないほどの情報。それを理解したレスターは椅子から立ち上がながらミントに声を掛ける。
「艦長室で話は聞こう。其処なら聞き耳を立てられるような事は無いからな。と言う訳で、ルーンエンジェル隊は各自指示が在るまでは休息していて良いぞ。アニス・アジートの拠点に着いたら間違いなく戦闘になるだろうからな。コンディションを万全にしておいてくれ」
『はい(なのだ)!』
「分かりましたわ~」
カズヤ達はレスターの指示に返事を返し、それぞれティーラウンジを出て行った。
レスターとミントもその後に続き、二人は寄り道もせずに艦長室に到着する。艦長室に入ると共にレスターは部屋にロックを掛け、改めてミントに向かい合う。
「それで話したいと言う情報は何だ? ルーンエンジェル隊にも知られたくない情報のようだが」
「えぇ…実を言えばルーンエンジェル隊の皆様に聞かれても問題は無いんですが、其処からちとせさんに知られる事が心配でティーラウンジでは話せませんでしたの」
「ちとせに知られたくない情報? ……『ゴースト』に関する情報か?」
現状でちとせに知られたくない情報といえば、『ゴースト』関連しか無かった。
今のところセルダールがクーデター軍によって支配下に置かれ、ルクシオールが孤立無援の状況に追い込まれた事に寄って、ちとせの『ゴースト』に対する執着は低くなっている。レスターとしても今の状況で『ゴースト』に関心を向ける事は出来ない。
『
「はい、実は……」
ミントはレスターに自身の傍に近寄るようにジェスチャーを行ない、レスターは身を屈める。
二人しか艦長室には居ないというようのに、レスター以外の誰にも聞こえないように小さな声でミントは情報を告げる。聞き終えたレスターは目を見開き、本当なのかと視線でミントに問う。
視線の意味を悟ったミントは静かに頷く。
「今の情報に間違いは在りませんわ。何でも確認した情報なのですから」
「だとすれば確かに重要な情報だ。こんな事態に成っていなければ、すぐにでも確かめたいほどだな」
「えぇ。ですから、この情報は今の状況でちとせさんには知られたくありませんの」
「分かった。この情報は俺の中で留めておく。しかし、『ゴースト』が『
「もしくは『
「……確かにな」
『ゴースト』が健在で在る事を確認出来たとしても、『|ABSOLUTE(アブソリュート)』が無事で在る事を示す証拠には成らない。逆に『
健在だと言う情報事態は有益な情報で在る事には変わり無いが、少なくとも楽観を与えてくれるような情報では無かった。その事を理解しているレスターとミントは難しげに顔を歪め合うのだった。
レスターの指示を受け、催眠ガスで眠らされていた整備班の面々が目覚めると共にルーンエンジェル隊の面々は自らが乗る『紋章機』の調整を行なっていた。
これからルクシオールが向かう先で戦闘が待っている事を知っている為に、各々が真剣に『紋章機』の調整をしている。特に整備班の面々は不覚にも催眠ガスで眠らされ、ブレイブハートを強奪された事に責任を感じているのか、調整を執り行う様子は鬼気迫るほどだった。そんな中、カズヤは少し前までブレイブハートが在った発進装置の場所を眺めていた。
まだ、短い間しか乗っていないが、それでもブレイブハートはカズヤにとって相棒となっていた。その相棒を目の前で盗まれた事はやはりショックを感じていた。
「…はぁ~」
「随分と落ち込んでるな、カズヤ」
「あっ! クロア班長」
カズヤは背後を振り向き、『紋章機』の調整を行なっていた筈のクロアが立っている事に気がつく。
クロアはゆっくりとカズヤに近づき、申し訳なさそうな顔をしながらカズヤに話し掛ける。
「…すまなかったなぁ、カズヤ…俺達が眠らされたせいで、おめえの相棒を奪われちまった。本当にすまねぇ」
「……いえ、班長達のせいだけじゃないです。僕がもっと早くコンソールを操作出来ていれば、ブレイブハートを発進させる事を防げたんですから…だから、絶対に取り戻して見せます」
「そうか…よっしゃ! なら、俺もブレイブハートを取り戻す為に他の『紋章機』の整備を万全にしておくぜ!」
「宜しくお願いします、班長!」
カズヤとクロアは互いにブレイブハートを取り戻すと決意を固め合った。
同時に艦内にアナウンスが流れ、ルクシオールがアニスのアジトが在るとされる惑星アジートに向かう事が告げられたのだった。
惑星アジート。嘗ては代々トレジャーハンターを務めている家系を王朝として栄え、セルダール、マジークと並ぶほどの惑星だったが、『クロノ・クェイク』後に王朝は滅び、今では荒野が広がる惑星となっていた。
その惑星にアジトが在ったアニスは、新しく買った『|EDEN(エデン)』製の船に乗って、ブレイブハートを強奪するように依頼した依頼人であるディータと通信で話していた。
「へへん! 依頼された品! しっかりと手に入れて来てやったぜ、
『データじゃなくて、あたしの名前は
「アレ? そうだったっけ?」
『全く…それにしてもやるもんだね。幾らブローブを貸してやったとは言え、軍艦のルクシオールから目的の物を強奪して来るなんて』
「へっ! 俺様が本気を出せばなんてこったねぇぜ」
『……まぁ、良いさぁ。それじゃ依頼の品を渡して貰おうかね』
「あっ! それなんだけどよぉ、ちょっと待ってくれねぇか?」
『ん? どうしてだい?』
「いや、そのさぁ。依頼の品って『紋章機』と合体出来んだろう? それで物は試しに相棒と合体させて見たんだよ。あぁ、大丈夫。すぐに外して渡すからよぉ」
『……つまり、今依頼の品はアンタの相棒と合体状態に在る訳だね?』
「まぁ、そう言う事だなぁ」
『そうかい…それは……手間が省けて助かるねぇ!!』
「ッ!?」
突然に残忍さに満ちた笑みと声を発したディータにアニスは驚く。
しかし、アニスの驚きなどに構わずにディータが乗る巨大艦『ディスト・ディータ』に備わっている砲身がアニスの乗る船に向けられる。そして砲身からレーザーが発射され、アニスの乗る船に直撃する。
ーーードゴォン!!
「なっ!? 何しやがんだ!?」
ディスト・ディータからの攻撃に寄って船が寄れる中、アニスは今だ繋がっている通信の先に居るディータに向かって叫んだ。
怒りを向けられているディータは涼しげな笑みを浮かべて、アニスの疑問に答える。
『決まってるだろう。最初からこうする予定だったのさ』
「テメエっ!? 俺の事を騙しやがったのか!?」
『フフッ、あたしの主は『紋章機』が嫌いでねぇ。アンタの『紋章機』も標的の一つだった訳だよ。そう言うわけで大人しく沈んで貰うよ。じゃねぇ」
ーーーブゥン!
一方的の言葉をディータが言い終えると共に通信が切れた。
同時にディスト・ディータから次々と苛烈な攻撃が加えられ、船は衝撃に寄って激しく揺れ、損傷を負っていく。アニスは怒りで顔を真っ赤に染め、脇目も振らずに自らの相棒が在る格納庫に向かって走り出す。
その間にもディスト・ディータからの攻撃は続き、アニスが乗っている船は煙を上げ、もはや撃沈寸前にまで成っていた。
攻撃を命じたディータは口元を残忍さに満ちた笑みで歪め、主から告げられた命令を遂行出来る事を喜んでいた。
(『紋章機』一機とブレイブハートをこうも簡単に破壊出来るなんて幸先が良いね。この調子で残りの『紋章機』とルクシオールも破壊出来れば…)
ーーーピィピィッ!
「警報音? 一体何だい?」
突如としてブリッジに響いた警報音を聞いたディータは、周囲の索敵を行なっている部下に向かって問い掛けた。
「我が艦と標的の船の間にドライブ・アウト反応が出ました!」
「ドライブ・アウト反応だって? この宙域に一体誰が……まさか!?」
ディータが何かに気がついたかのように目を見開くと同時に、ディスト・ディータとアニスの船の間に光が発生し、ルクシオールがドライブ・アウトして来たのだった。
「ドライブ・アウト完了。周囲には……えぇっ!!」
「如何した、ココ?」
ブリッジ全体に響くように突然叫んだココにレスターが質問した。
「は、はい! 例のアニス・アジートが乗る船が所属不明艦に攻撃を受けている模様です! しかも、位置は丁度本艦を中心として左右に分かれた位置に居ます!」
「何だと!? アニス・アジートが乗る船は無事なのか!?」
「反応を見る限り、もう撃沈寸前のよう…あぁっ!」
レスターに報告している途中でセンサーを確認したココは、ディスト・ディータの主砲から放たれた艦砲がアニスが乗っている船を貫くのを探知した。
一拍置いてアニスが乗る船は爆発する。ココは慌ててセンサーでアニスが乗っていた船が在った位置を調べる。アニスはルクシオールからブレイブハートを強奪している。もしもアニスが乗っている船にブレイブハートが在れば、回収は絶望的になってしまう。一縷の望みを賭けてココはセンサーでくまなく爆発した付近を探査する。
そしてココの祈りが通じたのか、ルクシオールのセンサーは爆発した付近を漂っている“ブレイブハートと合体したレリックレイダー”の反応を捉える。
ーーーピィッ!
「ブレイブハートの反応を確認! 無事です!」
「モニターに映せ!」
「了解!」
レスターの指示に従い、ココはメインモニターに映像を映す。
モニターに映し出された映像には、背部スラスターを吹かそうとしているブレイブハートと合体したレリックレイダーの光景が在った。自らのオペレータ席でメインモニターを見たちとせは顔を青褪めさせ、思わず席から立ち上がってレスターに振り抜く。
「クールダラス司令! 急いで回収をお願いします! あのままだとただの的にしかなりません!」
「あぁ、どうやらアニス・アジートはブレイブハートの特性を良く知らずに自分の『紋章機』と合体させたようだな。このままだと確かに不味い」
ちとせの言いたい事を理解しているレスターは、苦虫を噛み潰したような顔で同意した。
ブレイブハートは『|NEUE(ノイエ)』製の『紋章機』と合体したからと言って、合体した『紋章機』の力を増幅させる訳ではない。『紋章機』とブレイブハートの双方にパイロットが乗って、初めて真価を発揮するのだ。
しかし、アニスはその事を知らずにレリックレイダーとパイロットが居ないブレイブハートを合体させてしまっている。アレではブレイブハートは真価を発揮する事が出来ないどころか、逆にレリックレイダーを起動させる事も出来なくなってしまう。
案の定僅かに反応を見せていたレリックレイダーのスラスターは完全に機能を停止し、宇宙空間を漂い始めていた。その隙をディスト・ディータが逃す筈が無く、主砲がレリックレイダーに向けられる。
「司令! 所属不明艦の主砲があの『紋章機』に向けられています!」
「クッ! ルクシオール前進だ! シールドを張って『紋章機』と所属不明艦の間に割り込め! 何としてもブレイブハートを護るんだ!」
「は、はい!」
指示に従いココは操舵を動かし、シールドを張りながらルクシオールは前へと前進を開始する。
ディスト・ディータは何としてもアニスが乗る『紋章機』を破壊しようと主砲を発射する。その前にシールドを張ったルクシオールが割り込み、アニスが乗る『紋章機』の盾になった。
ーーードゴォン!!
「クッ!」
シールドを張っていながらも襲い掛かる衝撃に耐えながら、レスターはカズヤに通信を繋ぐ。
ーーーピッ!
「カズヤ! 聞こえるか!?」
『は、はい!』
「良いか、よく聞け。今ルクシオールは敵からの攻撃を防いでいる。他の『紋章機』を護衛につかせるから、お前はシャトルに乗ってブレイブハートに乗り込むんだ。現状でブレイブハートを回収するにはそれしかない。危険だが、やれるか?」
『な、何とかやってみます! ブレイブハートは絶対に取り戻して見せます!』
「頼んだぞ! ルーンエンジェル隊は発進。及びルクシオールの全兵装を敵に向けて発射だ! 何としてもブレイブハートを護れ!」
「了解しました!」
ココはすぐさま返事を返し、ルクシオールに備わっている兵装でディスト・ディータに攻撃を開始した。
同時に『紋章機』の発進ハッチが開き、クロスキャリバー、スペルキャスター、ファーストエイダーが発進してディスト・ディータの周りに集まって来ている巡洋艦と攻撃艦に向かって行く。
その間にレリックレイダーと通信を繋ごうとコンソールを操作していたちとせが、レスターに報告を行なう。
「クールダラス司令! アニス・アジートが乗っている『紋章機』との通信が可能になりました!」
「すぐに繋げ」
「はい!」
ちとせはレスターの指示に従い通信を繋ぎ、艦長席に備わっているモニターにアニスの顔が映る。
『ウワッ! お、お前ら!?』
「…色々と言いたい事が在るが、今はそれどころじゃないから手短に言うぞ。今から其方にシャトルが行く。邪魔をせずに大人しくいろ」
『そ、それよりも! ど、どう言う事だよ!? お前らから奪った奴をレリックレイダーに合体させたら、全然動かなくなっちまったぞ!?』
「説明している暇は無い! 良いか、邪魔だけは絶対にするんじゃないぞ! 死にたくなければ大人しくしていろ!!」
そうレスターは言い終えると共に通信を切って戦況の方に集中する。
実際にアニスに構っていられる状況では無かった。前回とは違い、今回は旗艦と思わしきディスト・ディータが居る上に、攻撃艦が三隻ほど居る。その上、巡洋艦が六隻。それに比べてルクシオールは現在居る位置から動く事が出来ない。ブレイブハートを必ず取り戻すと決意しているおかげでルーンエンジェル隊のテンションは高いが、それでも現状はルクシオール側が不利だった。
(前回の時のようにクロスキャリバーの出力が好調時のラッキスター並みだったならば何とか成ったかも知れんが、今は無理だ。とにかくブレイブハートを取り戻し、エンジェル隊の誰かと再合体させなければ!)
ブレイブハートを取り戻した後の方針をレスターは決めると共に、即座にカズヤがブレイブハートに辿り着くまでの時間を稼ぐ為に指示を出すのだった。
ルクシオールから発進したカズヤが乗るシャトルは真っ直ぐにブレイブハートと合体したレリックレイダーの下に向かっていた。
ただ宇宙空間にレリックレイダーは漂っているだけなので、妨害も無くシャトルはレリックレイダーの下に辿り着き、宇宙服を着たカズヤがブレイブハートに乗り込む。
「良し。すぐに状態を調べないと…頼む! 起動してくれ!」
祈るような気持ちでカズヤはコンソールを操作し、ブレイブハートを起動させようとする。
外見ではアニスが乗っていた船が爆発した時の衝撃で装甲の一部が僅かに凹んでいるようにしか見えなかったが、もしかしたら無理やり合体させた影響が出ている可能性が在る。もしも此処でブレイブハートが起動しなかったらとカズヤは不安と恐怖を抱く。
その不安と恐怖を振り払うように、最後の起動スイッチをカズヤは強く祈りながら押し込む。
同時にカズヤの祈りが通じたのか、ブレイブハートのコックピットが明るくなっていき、ブレイブハートは起動する。
ーーーブゥゥゥゥン!
「良かった! 良し、すぐに合体を解除して!」
ーーーピピッ!
「ん?」
突然響いた音にカズヤがコンソールに目を向けてみると、レリックレイダー側から通信を繋いでくれと言う事を知らせるメッセージが出ていた。
カズヤは顔を顰めながらも、コンソールを操作してアニスと通信を繋ぐ。
ーーーピッ!
「何だい?」
『おい! どうなってんだよ!? お前の機体と合体したらレリックレイダーが全然動かなくなっちまったぞ!?』
「ブレイブハートは僕が乗らないと起動しないんだよ!!」
『何!? そうなのか!? なら、早く起動させろよ!』
「もう起動は終わってるよ! そっちも再起動させれば復帰する筈だ!」
『再起動だな! 良し!!』
カズヤの言葉に従って、アニスは自身のコンソールを操作してレリックレイダーを再起動させる。
それと共にブレイブハートだけではなく、アニスが乗るレリックレイダーのクロノ・ストリングエンジンから起動音が鳴り響き、レリックレイダーは復活した。
ーーーブゥゥゥゥゥン!!
『おぉぉぉっ!! すげぇ! 何時もより調子が良いぜ! よっしゃ! このままあいつらに借りを返してやる!』
「なっ!? 何を言ってるんだ! すぐに合体は解除するよ!」
『うっせぇ! こっちは買ったばかりの船を破壊されたんだ! このままじゃ腹の虫が治まらねぇんだよ!!』
「そんなのそっちの都合だろう! とにかく、合体は解除するからねぇ!」
『あっ! 待て馬鹿!』
合体解除を行なおうとするカズヤを止めようとアニスは叫ぶが、カズヤは止まらずに合体を解除する為のボタンを押す。
だが、レリックレイダーとブレイブハートの合体は解除されず、コンソール画面にエラーが示されていた。
「アレ?」
疑問の声を出しながらカズヤはコンソールを操作するが、何でやっても合体は解除されず、エラーだけが表示されていた。
「ど、どうして!? 原因は!? いや、それよりも司令に知らせないと!?」
とにかく、レスターに状況を伝えようとカズヤはルクシオールと通信を繋ぐ。
「司令! 大変です! ブレイブハートの合体が解除出来ません!」
『何!? 本当か!?』
「はい! 幾らやっても合体が解除出来ないんです!」
『ちとせ! 原因は分かるか!?』
『恐らく無理やり合体させた事と、先ほどの爆発の衝撃で合体機構の一部が破損したのかもしれません』
『クッ! こんな時に!?』
『……なら、このまま行くしかねぇって事だよな!』
『ッ!?』
喜んでいるような通信に割り込んで来たアニスの叫びと共に、レリックレイダーの背部スラスターが噴出し、ルクシオールの前へと移動を開始した。
「うわっ! いきなり何をするんだ!?」
『合体が解除出来ねぇんだろう! なら、このまま戦うしかねぇだろうがよぉ!! こっちもあいつらに借りを返してぇんだ!! 行くぜぇぇぇぇぇぇ!!』
「ちょっ! 待ってくれぇぇぇぇっ!!」
絶叫をカズヤは上げるが、レリックレイダーは止まる事無く、他の『紋章機』達とディスト・ディータが率いる艦隊が戦っている戦場へと突撃するのだった。
原作では選べましたけれど、今作ではレリックレイダーと合体したままの流れにしました。
出ないとアニスが戦闘終わった後に逃げそうですし。
次回で第三章は終わり。
そして第四章に入りますが、第四章は結構今作での秘密に触れると思います。