ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~ 作:ゼクス
『セントラルグロウブ』内部通路。
『セントラルグロウブ』のマスターコアが置かれている中心部から離れたミルフィーユとアルモは、互いに手を握り合いながら必死に脱出用のシャトルが出入りしている港場に向かって走っていた。
「ミルフィーユさん! 急ぎましょう!」
「うん! だ、だけど、ドレスのせいで走り難いよぉ!」
走る度に邪魔をするようにヒラヒラと揺れる自らが着ているフリルの付いたピンク色のドレスに、ミルフィーユは愚痴を零した。
現在発見されている唯一の『ゲートキーパー』と言う事で、神秘さを持たせる意味も在って着ているドレスだが、現状では動き難いだけの服でしかなかった。これならば『ムーンエンジェル』隊の制服の方が動き易いとミルフィーユが内心で考えていると、港場に繋がる出入り口が見えて来る。
「もう少しですよ!」
「そうだね、アルモ! 急ごう!」
二人は互いに言い合いながら出入り口を通り、港場へと辿り着いた。
だが、既に其処には脱出用のシャトルは一隻も残っていなかった。本当ならばミルフィーユとアルモが来る前にシャトルが一隻戻って来る筈だったのだが、敵の攻撃に寄って脱出用のシャトルを受け取っていた艦が損傷を負った為にシャトルは戻って来ていなかった。
愕然とした表情をミルフィーユとアルモは浮かべ、呆然と立ち尽くしてしまう。その二人の背後から音も無く人影が忍び寄り、ミルフィーユを背後から羽交い絞めにする。
ーーーガシッ!
「キャッ!」
「ミルフィーユさん!?」
ミルフィーユの悲鳴にアルモは慌てて振り返った。
そしてアルモは驚愕で目を見開く。ミルフィーユを背後から羽交い絞めにしている人物をアルモは知っていた。羽交い絞めにされているミルフィーユも顔を動かし、アルモ同様に目を見開いて自身を捕まえている相手を見つめる。
「ど、どうして貴方が!?」
「フフフッ、全てを取り戻す時が来たと言う事だ、『時空の女神』よ」
「それじゃ、今起きている襲撃の首謀者は!?」
「この私と言う事だ」
アルモの叫びに楽しげに相手は答え、ゆっくりとレーザーガンを取り出してアルモに照準を合わせる。
ーーーカチャッ!
「ッ!?」
「必要なのは『時空の女神』のみ。貴様には死んで貰うぞ」
「そんな事をさせません!!」
ミルフィーユは叫ぶと共に相手から逃れようと暴れるが相手はビクともせず、煩わしげにミルフィーユに顔を向ける。
「無駄な事は止めるのだ。予想外のイレギュラーは在ったが既に戦況は決した。もうまもなく『セントラルグロウブ』は陥落する。『
「そんな!?」
「さぁ、死ぬが良い!!」
「アルモ! 逃げて!!」
レーザーガンの引き金を引かせないと言うようにミルフィーユは必死に暴れるが、相手は構わずに引き金に指を掛ける。
アルモは迫る死の恐怖から逃れようと背を向けて走り出そうとするが、無情にもレーザーガンの引き金は-引かれなかった。
ーーードォォォォォン!!
「何ッ!?」
引き金が引かれる直前、港場の入り口から凄まじい勢いで『ゴースト』が飛び込んで来た。
止まる事など考えていないようなスピードに寄って、強力な風圧を巻き起こり、レーザーガンを構えていた相手は慌てて体勢を低くし、アルモも手摺りに掴まって吹き飛ばされそうになるのを耐える。その間に港の奥側に飛び込んでいた『ゴースト』が逆噴射をしながら戻って来て、アルモのすぐ傍で急停止する。同時に『ゴースト』のコックピット付近に備わっているバルカン砲がミルフィーユを捕まえている相手に向けられる。
自らが持つレーザーガン以上の強力な火力を向けられた相手は、完全に動きが止まってしまう。その隙にアルモは『ゴースト』の傍に駆け寄る。すると、『EDEN《エデン》』製の『紋章機』と同じようにコックピットらしき場所のハッチが開き、無人の内部がアルモの目の前に晒された。
「こ、これって!?」
「アルモ! 『ゴースト』さんに乗って逃げて!!」
「ミルフィーユさん!? でも!?」
「レスターさんに! 皆に伝えて! お願い!!」
「させんぞ!!」
ミルフィーユの叫びに首謀者は慌ててレーザーガンをアルモに向け直す。
自らの腕の中にミルフィーユが居る事から、『ゴースト』が向けているバルカン砲は威嚇に過ぎないと悟ったのだ。
自身に向けられたレーザーガンに、アルモは辛そうに顔を歪めながらも慌てて『ゴースト』のコックピットに向かって飛び込む。同時にレーザーガンが発射されるが、『ゴースト』は急に機首を動かす事で発射されたレーザーを自らの装甲に当てさせた。
「キャッ!!」
ーーードゴッ!
急に機首が動いた事でコックピットに飛び込んだアルモは体勢を整える暇が無く、コックピット内部の壁にぶつかった。それによってアルモは気絶し、コックピット内部に倒れ伏す。
「このイレギュラーが!!!」
自らの計画を悉く邪魔をする『ゴースト』に、首謀者は怒りながらレーザーガンを連射する。
だが、個人用のレーザーガンでは『ゴースト』の装甲を傷つける事は出来なかった。
その間に『ゴースト』は機首を港場の入り口の方に向け直し、開いていたコックピットのハッチが閉じる。同時に『ゴースト』外部スピーカーからミルフィーユに向かって、
『ミルフィーー!! 必ず! 必ず助けに来る!! だから、待っていてくれ!!』
「えっ? ………今の声は?」
合成された音声のせいでハッキリと断言出来なかったが、それでも何処か懐かしさを覚える言い方にミルフィーユは呆然と『ゴースト』を見つめる。
ソレと同時に『ゴースト』の背部スラスターが噴射し、港場から『ゴースト』は急加速で飛び出した。その先には既に『セントラルグロウブ』を包囲するように無数の敵艦が周囲を囲んでいたが、『ゴースト』は更にスピードを上げる。
それと共に『ゴースト』が向かった先の空間が歪み、罅割れるように黒い穴が発生し、『ゴースト』は迷う事無く飛び込んで戦場から消え去った。
「おのれ! おのれえぇぇぇぇぇぇっ!! イレギュラーが!! 貴様だけは、貴様だけは必ず破壊してくれる!! 『唯一神』である私の邪魔をしてくれた事を必ず後悔させてくれるぞ!!」
全ての元凶である首謀者は『ゴースト』が消え去った空間を睨みながら、怒りと憎悪に満ちた叫びを上げた。
その腕の中に捕らわれているミルフィーユは、先ほど『ゴースト』から聞こえた声が頭から離れずに『ゴースト』が消え去った空間を呆然と見つめていたのだった。
その頃、足止めの為に派遣されたと思わしき駆逐艦八隻を撃退し終えたルクシオールは、安全と思われる宙域に辿り着いていた。
襲い掛かって来た敵の正体が分からないので確実とは言えないが、一先ず広域センサーに敵の反応が出ていない事を確認したレスターは、第三警戒態勢にまで警戒を下げ、ルクシオールの護衛を行なっていた『ルーンエンジェル隊』にも帰艦指示を出した。
帰艦したカズヤ達はすぐさまブリッジへと向かい出した。敵が居なくなった事によって通信ジャミングは無くなっている。『
「『ルーンエンジェル隊』! 帰艦しました!」
「……ご苦労だった」
険しい声と凄みを感じさせるような声でレスターはカズヤ達に声を掛けた。
何時も以上に気を張っているレスターにカズヤ達は驚きながらも、レスターの傍に近寄り、リコがレスターに質問する。
「あの……司令? 『
レスターが発する雰囲気から何時ものように気軽には呼べず、リコは恐る恐る質問した。
それに対してレスターは表情を変えずに、ゆっくりとリコ達に向かって首を横に振るう。
「…残念だが、『
「そんな!?」
「これは……かなりヤバそうな状況みたいね」
「『
「……お姉ちゃん」
それぞれがレスターの発言に声を漏らし、現状が自分達が考えている以上に不味い事態に成っている事を悟った。
レスターは四人の内心を悟るが、今得ている情報を隠していても意味は無いと考えてオペレーター席に座っているココに呼び掛ける。
「ココ。さっきの放送をモニターに映してくれ」
「宜しいのですか?」
「構わん。遅かれ早かれ知る事だ」
「分かりました」
ココはレスターの指示に従ってコンソールを操作し出す。
カズヤ達はレスターとココの会話の内容の意味が分からず疑問に首を傾げると、レスターが説明する。
「お前達が戻る前に『
「もしかして…私らが戦った不明艦の首謀者からの宣戦布告かしら?」
「あぁ……テキーラの言うとおりだが……問題はその首謀者だ」
戦闘が終わっているにも関わらず、レスターが発する雰囲気は戦闘中の雰囲気と同じだった。
同時にカズヤ達は気がつく。ブリッジ内部は何処か困惑し、誰もが動揺をしているに体をソワソワと動かしていた。ココやちとせも良く見れば何か在り得ない事を見たかのように疑問と困惑に満ちた顔をしている。
一体自分達が居ない間に何が在ったのかとカズヤ達が疑問に思うと同時に、作業を終えたココが告げる。
「メインモニターに映像を映します」
ーーーブゥン!
『えっ!?』
メインモニターに映し出された映像の中に立つ見覚えの在り過ぎる人物の姿に、カズヤ達は揃って驚いた。
映像に映し出されたのは一週間前にルクシオールにカズヤを送り届けてセルダールに向かった筈の人物。『フォルテ・シュトーレン』が厳しい表情をしながら立っていた。予想もしていなかった人物が映し出された事にカズヤ達は驚いて固まってしまうが、映し出されたフォルテは構わずに厳かに口を開く。
『我が名はフォルテ・シュトーレン。この『
「きょ、教官!? 一体何を言って!?」
「落ち着け、カズヤ…。まだ、話は終わっていない」
動揺するカズヤの肩をレスターは叩き、続きを見るように促がす。
『既に『
ーーーブゥン!
フォルテの演説が終わると共にメインモニターに映っていた映像が消えた。
予想外過ぎる人物が首謀者かも知れない事実と、クーデターが成功しセルダールが支配下に置かれている現状にカズヤ達は言葉が出せなかった。
そんなカズヤ達にレスターは冷静な声で現在自分達が於かれている現状を説明する。
「先ほどの放送は『
「……それじゃ、もしかして『
「恐らくは俺達を襲い、セルダールを支配下に於いた奴らと同一犯だろう。その首謀者がフォルテだと言うのは信じられんが」
「偽者に決まっているのだ! フォルテ先生がこんな事をする筈が無いのだ!!」
「……私もフォルテさんが本当にクーデターなんてするとは思えません」
「映像で見る限りは本人にしか見えなかったけど……偽者だと思いたいわね」
ナノナノ、リコ、テキーラは不安そうに顔を歪めながら、先ほど映像に映し出されたフォルテが偽者で在る事を願った。
カズヤも同じ気持ちだった。それだけフォルテは『ルーンエンジェル隊』の面々に信頼されている。レスターもまた同じ戦場を共に戦い抜いただけに、フォルテがクーデターなど実行するとは思えなかったが、少なくともセルダールが支配下に置かれているのは紛れもない事実だった。
「……エンジェル隊は一先ず自室で休んでいて構わん。今後の方針が決まり次第、ブリッジに呼び出す」
実際に現状はレスター達にとって不味い状況だった。
帰還する予定だった『
素直に『
(あの不明艦は少なくともこれまで『
少なくとも現状が楽観視出来る状況では無くなって来ている事をレスターは悟っていた。
だが、それを表に出すようなミスは起こさない。ただでさえ親しい相手がクーデターの実行犯かも知れない状況にカズヤ、リコ、ナノナノ、テキーラは動揺している。特にリコはミルフィーユの事も在るので尚更に不安が募るような事を言う訳には行かない。
指示に従ってブリッジから出て行くカズヤ達の背をレスターは無言で見つめ、四人の姿がブリッジから見えなくなると、ちとせとココに話し掛ける。
「ちとせ、ココ…艦長室に来てくれ。今後の事に関して話し合いたい」
「…了解しました」
「了解です」
ちとせとココは座っていたオペレーター席から立ち上がり、レスターと共にブリッジから出て艦長室へと移動する。
無言のまま三人は艦長室に入り込み、確りと扉にロックを施すと、顔を見合わせて話し合いを始める。
「それでちとせ? さっきの映像の解析は済んだか?」
「はい……特に可笑しい点は見受けられませんでした。それと映像のフォルテさんも調べましたが、容姿と声紋が一致しました。最もこれらは偵察用のグローブや変声機などを使えば誤魔化す事が出来る類なので本人かどうかは断言出来ません」
「確かにな」
「でも、もしも本物のフォルテさんだったら可笑しい点が在ります。今フォルテさんが最も信頼している機体である『ハッピートリガー』は『
ココの意見にレスターとちとせは同感だった。
これまでフォルテは数多くの無人機を相手に戦って来た。それ故に無人機の利便性と不便さを良く知っている。何よりもフォルテが最も信頼している機体は愛機である『ハッピートリガー』。しかし、『ハッピートリガー』は他の『
最も信頼する機体が手元に無いと言うのにフォルテがクーデターを起こすとは、レスター、ちとせ、ココには考えられなかった。
「……状況から考えて本当にクーデターを起こしたのがフォルテ本人だったとしても、何らかの事情が在ると考えるべきだろうな。無論偽者と言う可能性も無くは無いが」
「…偽者で在る事が一番望ましい事ですけど」
ちとせとしては放送に映っていたフォルテが偽者で在る事を願っていた。
偽者ならばフォルテは姿を悪用された被害者の立場に収まる。だが、もしも本物だった場合は何かしらの処罰が待っている。レスターとココもその事を察して顔に苦いものが浮かぶ。
「…どちらにしても俺達が現状で行なうべきなのは、やはりセルダールに向かって真実を調べるしか無いと言う事だ。その為には……ちとせ。済まないが後で倉庫の物資がどれだけ残っているか調べてくれ。本来ならリコに頼みたいところだが、今はリコを落ち着かせたいからな」
「了解しました」
レスターの言いたい事を察したちとせは頷いた。
先ほどの戦闘で凄まじい戦果を上げたリコだが、言うなればアレは火事場の馬鹿力に近い代物。ミルフィーユの安否が早く確認したいと言う決意でテンションが通常時より上がっていたが、今は逆に心配でテンションが大幅に下がっているのは間違い無い。
今は休ませる事を優先すべきだとレスターは考え、ちとせとココも同感だった。
「さて、話は変わるが、セルダールも心配だが問題はもう一つ、『
「『
「それにアルモが最後に言っていた言葉も気になります」
「『幾ら『ゴースト』や『|EDEN(エデン)』軍が敵艦を破壊しても次から次へと敵艦が現れる』……確かにアルモはそう言っていた。……最後に言いかけた言葉が聞けて入れば敵の正体も分かったかも知れんが…どちらにしても俺達は厄介な敵と戦わなければならんようだな」
これから始まるであろう未知なる敵との戦いにレスターは厳しい声を出し、ちとせ、ココは無言のまま頷くのだった。
(教官…一体何が在ったんですか?)
自室に戻ったカズヤは、先ほどブリッジで見た『
カズヤにとってはフォルテは厳しい教官だったが、同時に尊敬出来る人物。その人物がクーデターを引き起こし、セルダールを支配下に於いたなどと言う事は信じられないような出来事だった。
(偽者で在って欲しいけど…もしも本物だったら、僕らは教官と戦わなければならなくなる……そんな事にならないで欲しいけど……他の皆は如何しているんだろう?)
フッと自分以外の『ルーンエンジェル隊』の面々が気になったカズヤは、ポケットからテレパスファーを取り出して強く握る。
すると、カズヤの脳裏に今の『ルーンエンジェル隊』の面々が抱いている気持ちがおぼろげながら浮かんで来る。やはりそれぞれが不安や悲しみを抱いていた。テキーラから戻ったカルーアも、ミモレットから事情を聞いたのか心配と悲しいと言う気持ちを抱いていた。ナノナノも同じ気持ちだった。
その中でリコは特に悲しみの感情が強い事をカズヤはテレパスファーから感じ取った。
(やっぱり、リコが一番辛いみたいだ。お姉さんであるミルフィーユさんが襲われている場所に居たんだから…良し!)
カズヤは何か決意を決めたような顔をして立ち上がり、自室から出て行く。
そのまま通路を通り、意を決したようにリコの部屋の扉に備え付けられているインターホンのボタンを押す。
ーーーピンポーン!
『……はい』
「え~と、カズヤだけど今大丈夫かな?」
『……ちょっと待って下さい』
少し遅れて了承の返事が告げられ、部屋の扉が開いた。
カズヤは扉が開くと共に現れたリコの姿に驚いた。其処には何時もの明るい印象を放っているリコは居なかった。予想はしていたが、やはりリコは暗い顔をして悲しみに満ちた目をしていた。
「何か…御用でしょうか?」
「うん……少し話をしないかな? 一人で居ると暗い事ばかり考えちゃうからさ」
「…どうぞ」
「失礼します」
上がっても良いと了承されたカズヤは部屋の中に足を踏み入れる。
其処には女の子らしい部屋が広がり、可愛いぬいぐるみなど整理されて置かれていた。エンジェル隊に与えられている部屋は一般的な下士官よりも広く、自室にバスルームなども配備され、ちょっとしたホテル並みに完備されているのだ。
カズヤはリコに促されながら部屋の中に置かれている椅子に座る。リコはその間に紅茶を作り終え、テーブルの上に乗せる。
「…リコ。やっぱり、お姉さんの事が心配なの?」
「……はい。さっきの戦闘では早く『
(リコはミルフィーユさんの事が大好きだからな)
この一週間の間でカズヤはどれだけリコがミルフィーユの事を大切に思っているのか知っている。
そのミルフィーユの安否が確認出来る状況では無くなり、尚且つ直前まで通信を行なっていたのだからリコの不安は当然だった。
「…もしもお姉ちゃんに何か在ったらと思うと、心配で…もしかしたら怪我しているかもしれないと思うと不安で堪らなくて…」
「(こ、これは予想以上にリコは悪循環に嵌まっている。な、何とかしないと! …そうだ!!)…リコ、確かミルフィーユさんって運が凄く良いんだよね?」
「…はい」
「だったらさぁ、ミルフィーユさんは無事だと思うよ。ほら、『
「…そうかも知れませんね」
カズヤの指摘にリコは確かにと言うように頷いた。
『ゴースト』の介入は確かに偶然と呼ぶには出来過ぎている。寧ろミルフィーユの運が作用したと言う方が頷ける。少しだけリコの顔に浮かんでいた悲しみが薄れた事を感じたカズヤは、更に話を続ける。
「それに『ゴースト』だって凄く強い機体じゃないか。戦況が不利だったのを五分五分に持ち込んだって通信で言っていたし、きっとミルフィーユさんは無事だよ」
「シラナミさん……ありがとうございます」
カズヤが自分を励ましに来てくれたのだと悟ったリコは、今だ影が在りながらも笑顔を浮かべて礼を告げた。
まだ、不安は残っているがそれでも一人で居る時よりは楽になったのをリコは感じる。カズヤの発する雰囲気がミルフィーユに近い事も在る。知らず知らずの内にリコはカズヤの傍に近寄り、体を預けてしまう。
(えっ? えぇぇぇぇぇぇっ!?)
突然の大胆なリコの行動にカズヤは内心で動揺に満ちた叫びを上げた。
だが、リコは構わずにカズヤに自らの体を深く預ける。
「ごめんなさい……少しだけこうさせて下さい」
「う、うん……構わないよ」
動揺しながらもカズヤは同意を示し、暫らく二人は寄りそうに互いに体を預けるのだった。
『
その宙域の空間に突如として罅が発生し、罅は黒い穴へと変わると同時に『
《通常空間へのシフト完了》
(…了解……それじゃあ先ずは機体の修復に当たらないといけないな)
《肯定……本機の損害は戦闘への影響も発生…よって本機はこれより補給地に向かう》
(いや、補給地に行く前に補給地近くの惑星の向かって欲しいんだ。アルモを降ろしたいからね)
内部のコックピットに乗っているアルモの事を告げた。
救出したとは言え、何時までもアルモを乗せたままには出来ない。特に補給地に連れて行く訳には行かない。補給地の場所が知られてしまえば、今後の行動に影響が出て来る。
(流石に連れたまま行動は出来ないからね。幸いあの星には『ムーンエンジェル隊』のメンバーが居る。アルモを預けるのは問題無いよ)
《……行動に関しては問題は無し……しかし、本機一機のみで行動には許可出来ず》
(…何が言いたいんだい?)
《以前よりの要求。“本機の乗り手を迎える事を推奨する”》
(ッ!? ……駄目だ。それは許可出来ない)
《乗り手を迎える事で本機のリミッターは解除される。敵は『
(……それでも駄目だ!)
『ゴースト』が告げる事は確かに理に適っていた。
『
(…言う事は分かる。だけど、この機体の操縦者を迎えるのだけは認められない)
《現在の状況で『
(…分かっている……少しだけ考える時間をくれ)
『ゴースト』はその願いに沈黙で答え、ゆっくりと進路を補給地が在る惑星へと向けて進み出す。
(…ちとせ…俺は…)
《第二章『事態急変』終了・第三章『トレジャーハンター』に続く》
第二章は今回で終わりです。
次回からは第三章。漸く『絶対領域の扉』の話での『ルーンエンジェル隊』のメンバーが揃う時が来ました。