ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~ 作:ゼクス
レスターの指示を受けてカズヤ達がブリーフィングルームで待っていると、レスターが内部に入って来る。
それぞれ椅子に座りながら緊張したようにレスターの言葉を待つ。一週間前の戦いとは違い、今度の相手は複数であり、通信ジャミングまで使用して来ていると言う明確に敵対行動を行なっている。確実に戦闘が行なわれるのは間違いない。
海賊を相手に戦闘を行なって来たリコ、カルーア、ナノナノはともかく、実戦が一度しかしていないカズヤは緊張しながらレスターの言葉を待つ。その様子をレスターは横目で確認するが、今は何も言わずに状況を説明する。
「今回の作戦について説明する。目標はルクシオールに接近して来る所属不明艦八隻だ」
コンソールを操作し、現在ルクシオールが居る宙域の映像が映し出され、接近して来る八隻の艦艇がマーカーで示された。
「作戦の内容はルクシオールに接近して来る艦艇を全て撃沈する事だ」
「あの、戦闘を回避して敵艦の捕捉から逃れる事は出来ないんでしょうか?」
純粋に疑問に思った事をリコはレスターに質問した。
戦闘で相手を倒す事も一つの手段だが、戦闘を避ける事も手段の一つだった。ルクシオールは『
「確かにリコの考えている通り、此処で反転すれば逃げ切れるかも知れんが……相手側は確実にルクシオールを狙って来ている。逃げ切るにしても多少の時間は掛かる。その間、ジャミングのせいで通信が出来ない。『
「…分かりました」
レスターの説明にリコは納得したように真剣な顔をしながら頷いた。
リコ自身『
質問が終わった事をレスターは確認し、話を再開する。
「説明を続ける。敵は全て同型艦。形状からして駆逐艦の類だと思われるが、詳細は不明だ。少なくとも『
「無人艦? じゃあ誰も乗っていないのだ?」
「間違い無いだろう。敵の行動を確認してみたが、ただ真っ直ぐにルクシオールに向かって来る以外の行動を取っていない。センサーで伏兵の確認も行なってみたが、反応は無かった。恐らくはルクシオールの足止め目的でやって来た艦艇だろうな」
「足止めと言う事は、やっぱりこれは本格的な敵対行動と言う事でしょうか~?」
「相手側はルクシオールを標的として行動している。何処の勢力かは不明だが、明確に敵対して来ている。どちらにしても戦いは避けられん。『ルーンエンジェル隊』は敵艦を撃退してくれ。それでは配置を説明する。今回の作戦でブレイブハートが合体する『紋章機』は……」
「司令! お願いです! 今回の合体は私にして下さい!」
レスターの言葉を遮るように突然にリコが叫んだ。
何時に無いリコの積極的な意見にレスターは目を丸くするが、リコは構わずにレスターに進言する。
「今なら凄い力が出せそうなんです! だからお願いします!!」
(……ミルフィーユの事が心配でリコのテンションが上がっているようだな)
レスターは即座にリコの状態を察した。
一刻も早くミルフィーユの安否を確認したいと言う想いが、リコのテンションを一時的に引き上げている。予想外では在るが、これは僥倖でも在った。『紋章機』は操縦者のテンションによって性能が上下する。今のリコの様子とブレイブハートの合体システムが合わされば、前回の合体時よりもクロスキャリバーの性能が増幅される間違い無い。
同時に未知の相手と戦闘する事に緊張しているカズヤに安心感を与える事も出来るとレスターは判断する。
「(予定ではスペルキャスターと合体させて中距離から一気に攻め込み、敵の足が乱れたところをクロスキャリバーとファーストエイダーで仕掛けるつもりだったが、此処はクロスキャリバーと合体させた方が良さそうだな)…分かった。今回の合体はクロスキャリバーで行く。カズヤも良いな?」
「は、はい!」
「よし。では、『ルーンエンジェル隊』出動せよ!!」
『了解(です)(なのだ)!!』
レスターが発した号令に『ルーンエンジェル隊』は敬礼を行なうと共に、即座に自らの愛機が置かれてい格納庫に向かって走り出したのだった。
格納庫へと辿り着いたカズヤは自らが乗る機体であるブレイブハートに乗り込み、発進する時を緊張と興奮、そして不安を抱きながら待っていた。
(この前とは違う……。本当の戦場だ。頑張らないと!)
相手は無人機とは言え、此方を沈める為に攻撃を行なって来る。
前回のミスで危なく撃沈されかけた事がカズヤの脳裏に過ぎる。
(か、考えちゃ駄目だ!)
悪いイメージが次々と脳裏に浮かび上がり、カズヤは頭を振って振り払おうとする。
そんなカズヤにブリッジから通信が届き、レスターの声が耳に届く。
『聞こえるか、カズヤ?』
「は、はい!」
『…その様子だと緊張しているようだな?』
「い、いえ、大丈夫です!」
『隠す必要は無い。誰だって戦うと成れば緊張や不安に襲われるものだ。俺だって今も緊張している』
「し、司令もですか?」
『あぁ、そうだ』
レスターにはカズヤが抱いている不安が良く理解出来た。
昔、レスターも突然に重要過ぎる任務に恩師から就くように命じられた。その時に不安が無かったのかと言われれば、勿論在った。何せトランスバールと言う国家を運命を左右するほどの任務だったのだから。それを乗り越えて完遂する事が出来たのは共に居たエルシオールの乗員達と、自らが担いでいた艦長だったタクトが居たからこそだった。
『カズヤ。陳腐な言葉だが、お前は一人で戦う訳じゃない、他の『ルーンエンジェル隊』のメンバーも居る。合体して一緒に戦うリコも居るんだ。無論俺達もな。フォローやバックアップは必ず入れる。だからお前は自分が出来る事を頑張れ』
「…司令……。ありがとうございます!」
自分の不安を少しでも晴らそうとしてくれたレスターにカズヤは礼を告げ、改めて操縦桿を握り直す。
同時にブレイブハートが発射する順番になった事を確認し、カズヤは操縦桿を動かす。
「カズヤ・シラナミ。行きます!!」
ブレイブハートは発進口から飛び出し、先に発進していたクロスキャリバーに向かい、そのまま二機は合体を終えると共に敵艦に向かって加速した。
「行きましょう、シラナミさん!」
「うん、リコ!!」
合体した事で相互での通信が行なえるようになったリコとカズヤは互いに呼びかけ、クロスキャリバーを更に加速させる。
同時にカズヤは前回の合体の時とは明らかに違う感覚を感じ取る。
(な、何だこれ!? この前と出力の桁が明らかに違う!)
前回の戦闘の時よりも明らかにクロスキャリバーの出力が違っていた。
それを表すようにクロスキャリバーは併走していたスペルキャスターとファーストエイダーを追い抜いて、突出してしまう。
『ちょ、ちょっと! 桜葉、シラナミ! スピードを抑えなさいよ!!』
『このままだと、リコたんとカズヤだけで敵に向かっちゃうのだ!!』
「えっ!? は、はい!」
テキーラとナノナノの発した警告に、リコは慌ててクロスキャリバーのスピードを落とした。
リコ本人からすれば何時もと同じ操縦を行なっていた筈なのに、明らかにクロスキャリバーの出力は段違いに上がっていた。
その様子はルクシオールからも確認され、即座に解析を行なっていたちとせが結果をレスターに報告する。
「クールダラス司令。現在のクロスキャリバーの出力は、前回の時よりも大幅に上がっています。同時に性能面も大きく強化されている事が確認されました。出力だけなら、好調時のラッキースターに匹敵するかもしれません」
「そうか……これが『
前回の戦闘の時もブレイブハートと合体する事で、確かに性能や能力面での強化は見られた。
だが、今回のは明らかに桁が違っている。テキーラ、ナノナノのテンションもデータ上では通常時よりも高い数値を表しているが、今のリコのテンションはソレさえも大きく上回っている。
その上、前回と違ってカズヤとリコの間の親密さも増している。改めて見せられたブレイブハートの真価にレスターやブリッジに居るメンバーが感嘆していると、クロスキャリバーを先頭にスペルキャスター、ファーストエイダーは敵艦に攻撃を開始した。
最初に攻撃範囲が広いスペルキャスターが敵を撹乱する為に多数の遠距離誘導レーザー-『ボルト』-を放つ。
放たれたレーザーは独特な軌道を描きながら敵艦へと迫る。本来真っ直ぐにしか進まない筈のレーザーが、不規則な動きで迫る事に対処が難しいのか、敵駆逐艦へと直撃する。それに続くようにクロスキャリバーが通常時を寄りも増しているスピードを利用して急接近し、元々備わっている近距離ビームファランクスを駆逐艦に向かって連射する。
「食らえ!!」
攻撃を開始したリコに続くようにカズヤは操縦桿を操作して、駆逐艦の武装に向かってブレイブハートに備わっているラピッドレーザーを撃ち込む。
敵駆逐艦の武装はラピッドレーザーによって破壊され、更なるクロスキャリバーの追撃攻撃に寄って呆気なく駆逐艦は撃沈された。リコはすぐさま操縦桿を動かし、自分達をフォローする為に周りの駆逐艦にチャクラムを放っていたファーストエイダーの援護に向かい、スペルキャスターと共に別艦へと攻撃を開始する。
戦闘はリコ達が敵を完全に圧倒していた。データで観測される情報では敵の駆逐艦は『EDEN《エデン》』軍の艦に劣らない筈なのに、三機の『紋章機』の前では全く歯が立たなかった。特に戦果を上げているクロスキャリバーは、既に合計五機の駆逐艦を沈めた。スペルキャスターとファーストエイダーもそれぞれ一隻ずつ沈めたが、今のクロスキャリバーには全く及んでいなかった。
そして残る駆逐艦が一隻になったと同時にクロスキャリバーから白い発光が発せられ、左右に取り付けられている合計二門の加粒子砲の照準が合わさる。
「シラナミさん! 行きますよ!」
「うん!」
「ハイパー…ブラスターーーー!!!」
リコが操縦桿に付いているスイッチを押すと同時に二門の加粒子砲から光が放たれ、一瞬にして駆逐艦を貫いた。
『ハイパーブラスター』。クロスキャリバーの最大の砲撃である強力無比な加粒子砲。通常時でも強力な砲撃はリコのテンションが高い事とブレイブハートに寄る増幅によって更に強力になり、駆逐艦の船体をに大穴を開け、一拍の間をおくと共に宇宙空間に大きな爆発が起こった。
圧倒的な『ハイパーブラスター』の威力にブレイブハートから見ていたカズヤだけではなく、放った本人であるリコも呆然としてしまう。しかし、呆然としている二人に構わずに、すぐさまレスターから二人に通信が届く。
『紋章機全機に告ぐ! これよりルクシオールは現宙域より最大速度で離脱する。各機は離脱完了までルクシオールの護衛を命じる!』
「ク、クロスキャリバー! 了解です!」
『スペルキャスターも了解よ!』
『ファーストエイダーも了解なのだ!!』
レスターの指示にリコ、テキーラ、ナノナノが応じると共にルクシオールは反転して最大速度で現在の宙域から離脱するのだった。
ルクシオールが通信ジャミングを受けた頃、『
突如として『セントラルグロウブ』に襲い掛かって来た多数の所属不明艦は、勧告も無く『セントラルグロウブ』の防衛を行なっていた『
だが、突如として今度は所属不明艦の軍勢が背後から奇襲を受けた。その奇襲を行なったのは『
『ゴースト』は何時も使用しているステルスを使用せず、その姿を『
詳細は不明ながらも『ゴースト』の形状は『
そのおかげで戦況は『
(何とか戦況は持ち直せたな)
《肯定……。しかし、以前戦況は此方が不利》
『
(出来るだけ『セントラルグロウブ』に敵艦を近づけないようにしてくれ。まだ、『セントラルグロウブ』から避難出来ていない人員が居る。だから、避難が終わるまで時間を稼ぎたいんだ)
《了解》
素早い速さで防衛艦の間を通って『セントラルグロウブ』に突攻しようとしていた突撃艦を、両翼部分に備わっている小型のミサイルポットから撃ち出したミサイルで沈めながら、『ゴースト』は目まぐるしく戦場を飛び回る。
当然ながら所属不明艦の軍勢は『セントラルグロウブ』への侵攻だけではなく、自分達の邪魔をしている『ゴースト』にも攻撃を行なっている。だが、『ゴースト』に攻撃を集中させようとすれば、『
(ミルフィーに感謝しないと行けないな)
最初に撤退するようにメッセージを送ると共に、現状の指揮を任せて欲しいと頼んでいた。
普通ならば了承される事など無い提案。幾ら『紋章機』に似ている『ゴースト』とは言え、『
幾ら『
『ゴースト』はメッセージを送ると共にミルフィーユと交渉を行ない、指揮権を得る事が出来た。最もその代償は当然ながら大きかったが。
(はぁ~、気が重いな)
ミルフィーユに頼まれる事を理解しているが故に、今後の事を思って気持ちは沈む。
それでも尚、『
的確に最小の攻撃で敵艦を落として居るとは言え、『ゴースト』にも限界は存在する。更に言えばダメージも蓄積されて来ていた。
《両翼ミサイルポット残弾数ゼロ……及び大型バレルレールガン残弾数ゼロ……エネルギー値も50%以下に低下中……機体強度半減》
(くっ! 流石にそろそろ限界か! もう少しなのに!)
戦闘を開始してから実に『ゴースト』は二十隻以上の敵艦を落としている。
『
更に言えば撃沈しても敵艦は次々と現れるので、補給出来る場所が無い『ゴースト』では最終的に相手側が勝利するのは当然の結末。寧ろこれまで持たせられていたのが不思議なぐらいなのだ。
(後一隻だ! あの一隻が『セントラルグロウブ』から出るシャトルを回収出来れば避難は終わる! 何とか持っ……ッ!?)
一瞬の隙。エネルギーが低下し、残弾数もゼロになってしまった『ゴースト』のほんの僅かな隙をついて放たれた敵艦からのレーザー射撃が、『セントラルグロウブ』から発進するシャトルを受け取っていた艦に直撃した。
幸いにも撃沈はしなかったが、これ以上戦場に残れるほどの耐久が在るようには見え無かった。すぐさま退却しなければ避難した者達もろとも今度こそ撃沈されてしまう。即座に『ゴースト』は指示を飛ばす。
(残っている全艦は避難艦を護衛して退却……。クソッ!)
不利なのは最初から分かっていたこと。
今まで持ちこたえられていたのが奇跡に近い。だが、遂にそれも限界に至った。これ以上の戦闘継続は不可能だと判断し、せめて残り僅かでも時間を稼ごうと『ゴースト』は迫って来ている敵艦の軍勢に使用出来る中距離ビーム砲の照準を合わせる。
だが、『ゴースト』が攻撃を開始する前に退却を命じた筈の一隻の『
(なっ!?)
突然の指揮を無視した行動に『ゴースト』は攻撃を中止した。同時に今まで指揮の為に繋げていた通信から声が届く。
『此処は我が艦が時間を稼ぐ! 『ゴースト』! 済まないが『セントラルグロウブ』に残っている『時空の女神』と通信士を救助してくれ!』
(…………)
『本艦にはシャトルは無い。しかもシャトルでは途中で撃沈される可能性も高い。だが、其方ならば『セントラグロウブ』に入って彼女達を救助して即座に退却出来る筈だ。どうか、頼む』
(……行けるかい?)
《可能…本機だけならば即座に退却は可能……これ以上の戦闘継続は不可能に近い為、相手側の提案を受け入れ即時離脱を推奨》
受け入れるべき提案。このまま戦えば敵に撃沈されてしまう。
それは望むところではない。本来の目的も果たせていない現状で自らが沈む事は『ゴースト』にとって絶対にしてはならない。本当ならば戦闘継続が難しくなった状況で見切りをつけ、『
その予定を崩したのは自らが受け入れている存在が赦さなかった事と、退却しようとする度に走る理解不能なノイズのせいだった。ノイズは今も走り、計算では退却しなければならないのに退却を阻んでいる。機械である筈の自らに走るノイズに
《此処で本機が沈むのは容認不可…本機はこれより『セントラルグロウブ』に向かい、救助者を乗せると共に即時離脱……異論は認めず》
(……分かった…離脱する)
悔しさと悲しさに支配されながらも了承し、『ゴースト』は機首を『セントラルグロウブ』に向けて急行する。
その様子を確認した『
その上、自艦が前に出なければ殿も行なってさえくれようとしていた。例え得体の知れない機体とは言え、其処までされて『ゴースト』を見捨てる事は出来なかった。
『総員! 敵艦を『セントラルグロウブ』に近づけさせるな!! 『
今までの戦闘で損傷が多く見受けられるにも関わらず、一隻の艦は真っ直ぐに五十隻以上存在している敵艦隊に向かって突撃し、撃沈される直前まで奮戦したのだった。
次回で二章は終わりです。
相手の戦艦が全部同じだと余り派手な戦闘になり難いですね。
合体紋章機の凄さを表せたのか心配です。
ステルス艦とか巡洋艦、戦艦、突撃艦など次の戦闘から出てきます。