ドラクエは5か6までしかしていません   作:send

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原因を考えてみた

 エイトさんの横にならんで嬉しげに進む熱い男、ヤンガス。すまないとも思わないが、私にはついていけないテンションだ。ぶつぶつと文句を言っている王に声を掛けて御者台に戻ってもらい、姫様の横に並んでエイトさんとヤンガスという男を追いかける形でついていく。

 なし崩し的にヤンガスという男が同行しているが、警戒はした方がいいだろう。お城から持ってきた荷物の中には換金用の物もある。それを盗られたりしたら事だ。

 

「はぁ……どうしてこうなったんじゃ」

「まぁエイトさんですから」

 

 私も助けられた一人。なのでヤンガスさんの事をどうのこうの言える立場ではないか。

 

「個人的に言わせて頂きますと、目の前で落ちていく人を見ずに済んでほっとしています」

「……そうかもしれんが、しかしのぉ」

「まさか同行するとは思いませんからねぇ」

 

 溜息をつく王に苦笑して同意すれば、そうなんじゃとさらに溜息をつかれた。

 

「でもエイトさんは強いんじゃないですか? あのヤンガスという男が何かしようとしても大丈夫ですよ」

「まぁわしには及ばんが、めきめきと力を付けているようじゃな。しかしあやつは幼い頃より抜けているところがあるんじゃ」

「そうなのですか?」

 

 王は大きく頷き、姫様も同意するようにこちらを見て頷いた。

 

「エイトさんは昔から兵士をされていたんですね」

 

 今でも若いのに一体何歳から兵士をしているのだろう。

 

「あぁいや、エイトには親がおらんのだ。トロデーンの近くで拾われてのぉ……それでわしが親代わりをしているんじゃ」

「そうだったのですか」

 

 王が親代わり。とんでもないなエイトさん。だからやんわり拒絶する事を言えたり、お偉いさんを前にして極度に緊張したりとかそういう様子が無いわけだ。兵士の中でも王に接する機会が多い人なのかと思っていたが、それよりもっとすごかった。

 

「お主は魔法が使えるそうじゃな」

「あ、はい。まだ習いたてでとても戦闘では役に立たないでしょうが、癒しの魔法ならなんとかお役に立てるかと」

「おぬしのような者が居てくれて良かったわい」

「恐れいります」

「うむ。わしを敬う精神といい、姫の付き人としては申し分ないわい」

 

 うんうんと頷いている王の前で、姫様が申し訳なさそうな顔をしていた。王は自分に正直というかオブラートに包まないというか明瞭な発言をしてくれるが、こちらの姫様は姫という立場の人としては驚く程腰が低い。知り合いに皇族王族なんて居る筈もないので、どういうタイプが一般的なのかは判らないが個人的に付き合う相手として文句の付けどころが無い。

 

「わしはともかくミーティアがこのような姿にされ、そばについていた者もみな茨に……そういえばお主、よく無事であったな」

「茨は私を避けて行きましたので」

「なんじゃと?」

「昔聞いた解呪の魔法を口にしたのです。ただ、それが成功して効果があったのかは不明です。茨の動きが止まった後、お世話になっている家主の方に同じ魔法を使いましたが駄目でしたので」

「なんと! 何という魔法なんじゃ?」

「シャナクです。呪われた武具を装備した時にその呪いを解くという効果があります」

 

 メラやヒャドが同じ効果なら、シャナクも同じ効果だろう。

 

「シャナク……のう姫や、聞いた事があるかい?」

 

 姫様はしばらく思い出そうとしている様子だったが、やがて首を横に振った。

 

「私は最近トロデーンに来ましたので、こちらでは使われない魔法かもしれませんね」

 

 シャナクはかなり後半に覚える魔法だったと記憶している。街中で魔法は見かけなかったし、平和そうなトロデーンではそこまでの使い手がいないのかもしれない。

 

「お主、トロデーンの者では無かったのか」

「はい。迷子になっていたところをエイトさんに助けて頂きました。もう一月ほどは経ちましょうか」

「難儀であったところにこの騒ぎとは……すまんな」

 

 とんでもないと私は手を振り首を振る。

 姫様を腰が低いと評したが、王も率直なだけで根本的にいい人に違いはないみたいだ。ヤンガスさんと衝突するのは、ヤンガスさんが王を相手にしようとしないからだろう。

 

「足手まといなのに同行させていただき感謝しております。宜しければ、何があったのかお聞かせ願えないでしょうか。私でも何か手立てがないか考えられるかもしれません」

「おぅおぅいいとも」

 

 王は気さくに言って、何があったのか教えてくれた。

 

 数日前からドルマゲスという名の道化師が城に来ては奇術を見せて見せ物料を得ていたらしい。時折そういうものが現れるのでさして気にもせず適当に相手をしていたがあの日、城の最上階へと続く兵士が眠りこけているのを通り掛かった王が発見。不審に思い居合わせた姫様と共に最上階へと行ってみると、トロデーンで古くから封印されていた杖にドルマゲスが手を伸ばしているところだった。

 ドルマゲスは王の制止を振りきり杖を手にすると、その威力を確かめるべく王に向かって杖の力を解き放った。姫様はそれを庇う形で共に姿を変えられ、気が付けばトロデーンは茨に捕らわれてしまっていた。

 

 ところどころドルマゲスとの死闘を演じたらしい描写があったが、要約するとこんなところだろう。

 鍵は『杖』のようだ。ドラクエ系で杖と言えば、道具としても使える様々な種類のものがある。覚えている限りでは、『まどうしの杖』『てんばつの杖』『まふうじの杖』『マグマの杖』『しゅくふくの杖』『ふっかつの杖』『ドラゴンの杖』『へんげの杖』。

 変化の杖? 確かにあれなら姿を変える事は出来る。だけど一昼夜も姿を変えたまま維持出来るものではなかった気がする。茨の事も説明がつかない。

 

「陛下。意見をお聞きしたいのですが、陛下や姫様の御姿を変えたのもトロデーンを覆う茨も同じ力だと思われますか?」

「おそらくそうであろう。あの杖は世に解き放ってはならぬと伝えられるものなのじゃ。あれだけの事を道化師一人の力で出来るとは思えん」

 

 じゃあ変化の杖ではない。あれはどちらかというと潜入用アイテムだ。茨に変化。まったく関連性が無くて困る。強いてあげればどちらも呪いっぽいという点ぐらい。呪いの杖という名前だったりして。……使われた方じゃなくて使う方が呪われそうな名前だ。装備したらあの不気味な音楽が鳴りそう。

 

「あ」

 

 セーブデータが消えた時の音が脳内で甦った瞬間、とある事を思い出した。ドラクエで必ずお世話になるのは教会と王様。途中で王様がセーブしてくれなくなったが、教会はずっと復活や毒の治療、呪いの解呪をしてくれている。

 

「陛下、教会の神父さんに呪いを解いてもらうよう頼めないでしょうか」

「……いや、それは出来ん」

「え?」

 

 苦い顏で否定され、私は思わず聞き返してしまった。

 

「城下で無事だったのはお主だけであろう。教会の者もみな茨に捕らわれてしまったのなら、教会の力では対抗出来んという事じゃ」

「あ……そうか……そうですね。浅慮でした。申し訳ありません」

「よいよい。お主は一生懸命考えてくれておるのであろう。それで十分じゃ。それよりエイトに声を掛けてくれるか? 少し姫を休ませてやりたいんじゃ」

「承知致しました」

 

 姫様はまだ大丈夫そうだけど、王が疲れたのかもしれない。ずっと固い御者台に座って揺られているのでさぞかしお尻も痛いだろう。クッションか何か用意すべきだった。

 

「エイトさん」

 

 少し先を行く二人に小走りで追いつき、エイトさんに声を掛ける。

 

「どうしました?」

「少し休憩をと陛下が」

「あ……そうですね。ヤンガス、僕らは休憩するけど」

「がってん承知でげす!」

 

 みなまで言わせず、ヤンガスという男は「この辺りなんてどうでげすか?」とエイトさんに聞いていた。

 

「リツさん、申し訳ないけどもう少し陛下と姫様をお願いします」

「姫様は大丈夫ですけど、陛下はちょっとどうなるか。あの方が居ると多分衝突しますよ?」

「だと思いますけど……彼も根っからの悪人という風でも無いからなぁ……」

 

 困り顏のエイトさんの肩をポンポンと叩く。

 

「なるようになれという言葉もあります。何かあれば私も力の限り陛下と姫様をお守りしますから。あんまりあてにならないかもしれませんが」

 

 笑って言えば、エイトさんも少し肩の力が抜けた顔で苦笑した。

 

「助かります」

「じゃあ陛下と姫様をお連れしますね」

 

 陛下と姫様のところへ戻り、道沿いにある林の中の開けた場所へと移動する。案の定というか、御者台から降りた陛下と男は睨み合いを始めてしまった。

 エイトさんは最早気にした様子もなく姫様に繋いでいた馬車を外し「お疲れではないですか?」と声を掛けている。姫様の方も慣れたのか地味な言い合いを始めた二人を華麗にスルーしてエイトさんに大丈夫と首を振っている。

 どうしようかなぁと考えていると、姫様からの視線をやけに感じてひょこひょこと近づいてみる。すると視線を私から林の方へと向ける。

 なんだろうと首を傾げかけたところで、わかった。

 

「エイトさん、突然ですが私、お花摘みに行ってきます」

「え? 花?」

「でも魔物が怖いので姫様も一緒に来ていただきたいと思います」

「それなら僕が」

「お花摘みは男子禁制です」

「え?」

「男子禁制です」

「……はぁ」

 

 いまいち呑み込めていないエイトさんだったが、私の断固とした物言いに下がってくれた。本当は姫様を連れて行くとか言われたら下がっちゃいけないところだ。だけど隣で姫様がしきりに頷いて同意してくれているので何も言えない模様。

 

「ではそういう事で。姫様、お手数をおかけしますが宜しくお願い致します」

 

 姫様と並んで林の中へと入っていく。

 私はその辺の木の枝を折って小さなメラで軽く燃やした。上がった煙で風向きを確認。

 

「姫様、こちらなら風下です。距離も離れていますから大丈夫でしょう。近づくものは私が燃やしてしまいますから安心してください」

 

 自信は無いが自信たっぷりに請け負っておく。

 姫様は強張った顔をしたまま、小さく頷いて私から離れ木々の影に入っていった。

 

「……っていうか、私も野宿の間は同じ問題を抱えてるよな。風呂も食事も我慢できるとしても、生理現象はなぁ……」

 

 公衆トイレがある日本が懐かしい。


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