細々と合間に書いているのですが、なかなか時間が取れず・・・
(今現在子供にのしかかられながらやってます・・・)
なんとか続きを書いていきたいと思いますが、不定期になってしまうと思います。
そこも申し訳ないです。
ずっと船底に近い部屋で魔物の寝床をせっせと整えていたグラッドさんも食堂に集まり、ガヤガヤと食事が始まる。
こうして改めて見ると、魔物使いに戦士に商人、氏族の娘に破落戸、兵士に王女に王、おまけの異世界人。ついでに甲板には神官騎士。実に多様なメンバーが集まったものだ。
しみじみしながら片手で固いパンをスープにつけて食べる。もう片方は姫様に触れているので食事をするのは少々難しいが、賑やかな雰囲気を楽しそうにしている様子を見ればこちらまで楽しくなる。
食事を終えて姫様を部屋へ送り届けた後、片付けをしようとしたのだがトルネコさんにゆっくりするよう言われた。迷っていると背中を押され、肩の力をたまには抜いてはどうですかと言われてしまった。肩肘張っていたつもりは無いのだが、そう見えていたという事なのだろうか? お言葉に甘えて甲板に昇った。
甲板には、ククールさんと交代したエイトさんが舵を握り、横にはライアンさんとヤンガスさんがいた。
天候は快晴。風も波も穏やかで、長閑な海が広がっている。海風の独特な匂いに目を眇め、船縁に寄って青い海原を前にする。
ぼんやり眺めていると、ふと自分は観光船にでも乗って観光しているような錯覚を覚えた。自分でも不思議な感覚なのだが、それがまたあんまり不安だとかそういうものにも繋がらない。ぼんやりと、あー観光ってこんな感じかねーみたいな。冷静に考えると先行き不透明な今不安を覚えてもいいものだと思うのだが、私は鈍いのだろうか? 仕事とか家族とかあんまり考えてないのは薄情?
自分の新たな一面に乾いた笑いが出る。
手すりに肘ついて手に顎を乗せ、はぁーとため息。無性にスルメと酒が欲しい。酒に逃げたいわけではないけど、なんとなくグダグダしたい。あー同期の坂口さんと駄弁りたいなー。彼女の無駄にディテールの細かい新作アニメ評論でもいいから聞きたいわー。などと夢想する。
あー、海は青いなー、目に染みるなー。
とか思いながら海の唄を口ずさむ。立派な現実逃避だった。
不意に横に影が差し、見れば部屋に戻っていたはずの姫様が来ていた。
「楽しそうな歌ですね」
姫様に触れると、開口一番そう言われた。聞かれていたのかと、だいぶ気恥ずかしい。
「私の故郷の歌です」
「吟遊詩人の歌はよく聴いていましたが、リツお姉様の歌はそれとは異なりますね」
そう言われて、そういえば街で聞く音楽は歌詞が無いか、朗々と唄う語りに近いものかの二通りだったなと思い出す。例外は、子守唄とか船乗りたちの掛け声のような唄だったりで、音階がそんなに上下しない単調な感じ。
「子守唄のようでもありますけれど、ゆったりしてのびのびとした楽しそうな歌ですね」
そう言って笑う姫様は可愛らしく、つられて私も笑んでしまう。けれど不意にその笑顔が翳った。
「ミーティアは……」
海の向こうを見つめ口を小さく開けたまま、姫様は迷うように言葉を探した。
それを見て私も海の向こうへと視線を向けた。この姫様はあまり自分の事を話す事がない。大抵は周りを気遣っていることが多い。だから何か話したい事があるのならいくらでも待って聞きたい。
「ミーティアは、出来る事を、やろうと思っています」
暫くしてから一言一言、確かめるように姫様は言葉を紡いだ。
「人には向き不向きがあると学びましたし、それは理解しているつもりです。
あの時、ドルマゲスが杖を手にした時、ミーティアは攻撃魔法の一つも使えませんでした。今更その事を後悔するつもりはありません」
しゃんと背を伸ばし真っ直ぐに前を見つめる姿は揺るぎなき王族の姿を体現しているようで、それを年若い少女が見せるのが私には少々複雑だった。子供なのに可哀想などとのたまうつもりはない。が、どうしても自分の経験を軸に考えてしまうので、王族足らんとする姿を見ると、どう応えるのが正しいのかわからなくなる。ご立派ですと言えばいいのか、もっと年相応に思ったことを素直に吐露して欲しいと言えばいいのか……
「ですが思ってしまうのです。
今、この時は、もっと何かをしたいと。何か出来ないのだろうかと。
ゼシカさんに魔法を習うのですから、これ以上の我儘は申せないのですけれど……叶うなら共に戦いたいと。ミーティアも、ゼシカさんのようであったらよかったと……」
視線が下がる事は無かった。どこまでも真っ直ぐに前を見つめる姿が、それが姫様の矜恃に見えて敵わないと頭が下がる。今までもこうした姿を見てきたが、やはり彼女は私よりもよほどしっかりした人だ。
「ごめんなさい、リツお姉様を困らせるつもりはなかったのです……ただ、誰かに聞いて欲しかっただけなのだと」
「いいえ……私は聞く事ぐらいしか――」
〝これなんてどうかしら?〟
「え?」
ぽんと目の前にクラッシックギターが現れて、慌ててキャッチ。
〝リツならこれで伝えられるでしょう?〟
驚いて目を丸くしている姫様と、私。
「リツお姉様、これは……」
「えー……と。以前お話ししました、テアーが作ってくれたみたいですね」
これは言葉にするのが難しいなら歌の力を借りたら? って事だろうか。
ちょっと考えてから袖を肩までめくって、姫様にはそこに触れていてもらう。
先程の言葉にどう返したらいいのか、やっぱりわからない。最初に彼女が言っていたように人には向き不向きがあるし、できる事をやるしかないと私も思う。姫様もわかっていて、でも目の前で共に戦える同じ性別の歳の近い女性がいて、それを見てきて抱いた気持ちなのだろう。な、と。
ゼシカさんと姫様は違うのだから無理にゼシカさんのようになろうとする必要はないと伝えるのは既に姫様もわかっている事で違うし、かといって適切な言葉も見つからない。
この曲が合っているのかはわからないけれど、それでも大丈夫ですよと、その気持ちぐらいは伝えたくて弦に指をかける。
それは娘を想う母の歌。
三つばかり歳の離れた、性格の違う二人の娘。一人は月のように芯の通った娘で、一人は太陽のように朗らかに笑う娘。
けれど、太陽も月も互いの姿を羨ましく思う。美しい月の姿に太陽は焦がれ、温かい太陽の陽に月は口を閉ざす。交わる事のない星は己の姿を比べる罪がある。
けれども空は一つ。一つしかない母の空の下、互いの力で輝いて。
人は誰かと自分を比べてしまう。だけど、その一人一人は誰かにとってかけがえのない存在であり、違う存在だからこそお互いを照らす事が出来る。
言葉にしてしまうとやっぱり陳腐だ。己の語彙力のなさに悲しくなる。
この曲を聴いた時、どちらの娘も愛され案じられているんだなぁとしみじみした。それは強烈な印象ではないけれど、家に帰ると晩ご飯が準備されているような、そんなホッとするような心地で。少しでもそれが伝わればと想いをのせた。
ゆったりした曲調で、少し民族調。どことなく子守唄にも聞こえるそれに、歌い終えると姫様は静かに目を伏せた。
「……お母様を、思い出します。ミーティアがまだ子供だった頃、よく頭を撫でてくださいました。その手を、思い出しました」
言いながら微かに目が潤む様子に、あぁやはり王妃様は亡くなられていたのかと、こちらも目元が緩みそうになる。堪えている姫様を前にしてこちらが涙を見せるわけにもいかないので奥歯を噛んだ。
「それにしても、リツお姉様はいろんな歌をご存知なのですね」
「いろいろ聴いていましたからね。一年に何曲も新しいものが出ていたので覚えきれないくらいの曲がありましたよ」
どことなく吹っ切れたような姫様に、こちらも明るくおどけて見せる。
物は試しと、今度は楽しげなアップテンポの曲を。続いて静かなバラード、恋歌に応援歌、ちょこっと演歌や聖歌なんかも織り交ぜて。
にこにこ歌を聴いている姫様をみて、どうせなら一緒に歌えないかと思う。ストレス発散にもなるだろうし。
「姫様、これから歌う唄を覚えてもらえませんか? それでゲームをしましょう」
「ゲームですか? はい、覚えられるかわかりませんが」
「簡単なので大丈夫だと思います」
という事で、カエルの唄を歌う。姫様はキョトンとしていたが真面目に唄を覚えてくれた。尚、私の地方ではケロケロケロクワックワックワッだ。ケケケケとかガガガガとかゲロゲロではない。
「えーとですね、この唄は輪唱になっていまして、二人以上でずらしながら歌う事が出来るんです。私が後から追いかけるように歌うので、姫様は先に歌ってもらえますか? 私につられないように」
「は、はい」
姫様はちょっと緊張した顔で歌い出した。本当に綺麗な声だなーと思いつつ、私も姫様の後を追いかけて歌う。ワンフレーズ分歌ったところで止めると、姫様の口元がむずむずしたように笑んでいた。
「面白いですね、この唄」
「小さい頃からみんなでずらしながら歌って、つられて間違えた人が負けって感じで遊んでたんです。
慣れてしまうとつられないから、いつまでも歌う事になっちゃうんですけどね。ひとまず五回を目指してみましょう」
今度は私が先行しますと言って、姫様の頷きを確認して口を開く。姫様はじっと私の口元を見て遅れて歌い出し、空いている手のひらをぎゅっと握って間違えないように力んでいる。それがまた可愛くてこちらがとちりそうになる。
途中若干怪しいところもあったが、なんとか五回歌い終える事ができた。
「あー引き分けですね。初めてでつられないのは凄いですよ」
「うふふふ。嬉しいです。音楽はとても好きなんです」
「あ、じゃあ他の歌も歌ってみませんか?」
考え込むよりこうして歌ったり何かしている方が気も紛れるだろうと思って提案してみると、姫様は少し考えてから答えた。
「あの、先ほどの、最初に歌われた歌を教えていただけますか?」
「もちろん」
ギターを持ち直し、フレーズごとに分けて歌い、続けて姫様も小さく口ずさむように言葉を転がす。それを三度ほど繰り返すとほぼほぼ姫様は覚えてしまった。記憶力がやばい。しかも上手い。とても上手い。
驚きながら称賛すると照れたように笑い、聞こえるのだと教えてくれた。
「リツお姉様の歌声に合わせて色々な楽器の音が聞こえてくるのです。リツお姉様が聞かせてくださっているのでは?」
してないしてないと首を振る。そして二人して首をかしげるが、別に困ることでもないかと気にしない事にした。たぶん、にゅーちゃん的な誰かさんが手助けでもしてくれているのだろう。
「何かやってると思えば、二人で歌ってたの?」
ふと気づけばゼシカさんが面白がるような顔で後ろにいた。
「聞いた事がない歌だけど、いい歌ね」
「はい、ゼシカさんもいかがですか?」
姫様が嬉しそうに笑い勧めるが、ゼシカさんは苦笑して首を振った。
「遠慮しとくわ。聴いてる方が楽しめるしね。ていうか、お姫様って歌も練習するものなの? 前にも聞いたけどすごく綺麗よね」
確かに。姫様の歌声は高く澄んでいながらのびやかで、かつ声量もある。
姫様は恥ずかしそうにかぶりを振った。
「いいえ、ピアノは教えていただきましたけれど、歌は吟遊詩人に聴かせていただいていたばかりで……あとはお母さまと一緒に子供の頃歌ったきりです」
「へぇ、それでそんなに歌えるのなんてすごいわね。酒場で歌ったら人気が出そうよ?」
「酒場で、ですか?」
「あー知らないか。芸人、踊り子とか吟遊詩人とか大道芸もかな? 酒場とか宿の食堂でやってるわよ。二人なら結構いいおひねり貰えるんじゃない?」
「おひねり?」
「お金のことよ」
「お金………」
ゼシカさんの言葉を繰り返すようにポツリと呟く姫様。
あ、なんかまずい気が……
「リツお姉様」
「いや、その、それに関しては陛下とエイトさんに聞いてみてからです」
「という事は、リツお姉様は良いのですね?」
「あー……っと」
確かに、ちょっと危険かなーと思ったりもするけど、姫様のやりたい事を応援したい気持ちもあるので、ベクトルはそっちにむいてはいる。
「そうですね……はい」
というか、先に言質取られるとは思わなかった。
いつのまにか新しい機能が増えてびっくりです。
一応目を通してますが・・・間違えてないといいのですが・・・