ドラクエは5か6までしかしていません   作:send

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協力者?を得た

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「ちょっと見てきます」

「見てきますって…え、降りるんですか?」

「ちょくちょく井戸の掃除とかしてましたから慣れてるんです」

 

 言うが早いか、エイトさんは傍にあった縄を滑車ではなく杭にひっかけてするすると降りていってしまった。

 

「ちょっと眩しいかもしれないですけど、明かり付けますよ?」

「あ、助かります。お願いします」

 

 暗い井戸に向かって言えば、返事があった。流石にこの暗さでは何も見えなかったらしい。

 井戸の真上にレミーラで光源を出すと底が良く見えた。やはり何か半透明の物体が底を埋めている。エイトさんはゆっくりと降りて足を付けたが、意外としっかりしているようで歩き回って確認している。と、足元が揺れた。やっぱり何かがいるようだ。

 

「た、助けて! 誰でもいいからその王冠をぼくから外してよう!」

 

 突然、子供のような声が響いてエイトさんの動きが止まる。

 

「ぼくはここだよ! 君の足の下にほら、顔が見えるだろ?

 井戸の上でぴょんぴょんしてたらはまって出られなくなっちゃったんだ。どうか助けてよう!」

 

 どこに顔が? そう思いながら井戸の底一杯に広がっている半透明の物体を、よくよく目を凝らしてみると――あった。スラリンさんみたいな感じで、顔があった。ちょっと怖い。ちなみにエイトさんは怖がっていると言うより、戸惑っているようだ。

 

「助けてと言われても……引っ張ろうにもどうやったらいいのか……」

 

 真面目に救出方法を考えているらしい。

 まぁ目から液体零してる相手を前にしたら流石に私も気の毒になってくる。たぶんこのスライムらしきものはキングスライムの類なのだろう。ここまで大きいとなるとそれ以外に思いつかない。

 

「その王冠をチカラいっぱい引っ張ってぼくを助けてちょうだいよう!」

 

 本人も王冠をと言っているので、当たりかな? 王冠を引っ張って助けてという事は、そうしたら合体状態が解除されるのだろう。

 エイトさんは足元をもう一度見回して、王冠らしきものに手を触れた。

 

「これ?」

「うん! さぁその王冠をおもいっきり遠慮も容赦もなく引っ張って!」

 

 切羽詰まる物言いに気圧されながらもエイトさんは王冠を引っ張り始めたので、慌てて声を掛ける。

 

「エイトさん! たぶんそれが抜けたら――」

 

 ボフンと、言い終える前に変な煙が立ち込めた。

 咽るというわけでもないが視界を遮られ中の様子が見えない。

 

「ありがとう! お礼にその王冠は君にあげるよっ! ぷるぷるっ」

 

 スライムらしき声だけが響いてくるが、エイトさんの反応が無い。

 

「エイトさん!? 大丈夫ですか!?」

「は、はい! ……ちょっとびっくりして」

 

 煙が薄れると井戸の底にエイトさんが立ち尽くしているのが見えた。よく足から着地したものだ。流石の運動神経といったところか。

 

「ニンゲンって思ったより優しいんだねっ。助けてくれてありがとう! ぷるっ!」

 

 分裂したスライムの一匹がエイトさんの頭に乗っかった。いますごいジャンプ力を見た気がする。あぁでもスラリンさんもあんな感じだったかもしれない。

 

「ねえねえ、上にいるのはテアー?」

「上? リツさんの事?」

「テアーはリツっていうの?」

「えっと? リツさん?」

 

 いや、訳分からない会話だからって丸投げしないでくださいよとか思うが、私でもそうするだろうから糾弾も出来ない。

 何故このスライムがテアーを知っているのか知らないが、何らかの感覚で私が持っているらしい『テアー』の欠片を感知出来るのかもしれない。

 

「たぶんそうです。完全じゃなくて欠片を持ってるだけらしいですけどね」

「わー! テアー、テアーだ!」

 

 急に他のスライムもぷるぷる震えだしてエイトさんに群がり上に昇ろうとしてきた。エイトさんが顔面といわず踏みつけられてもみくちゃだ……ぶべっとか変な声を出している。あ、息を阻害されてもがいてるのか。っておいおい!

 

「ストップストップ! 落ち着いてください! エイトさん、ルーラで上がってこれますか!?」

 

 私の声は一応届いたのか、エイトさんの身体が浮かび上がり、すごい勢いで飛び上がって……無事に着地した。

 着地した瞬間、今度はこっちにスライムたちが押し寄せてきた。が、エイトさんのように突撃はなく、周りで一時停止したのちぷるぷると震えて飛び跳ねている。

 

「もう居なくなっちゃったかとおもってた」

「おもってた、おもってた」

「おかえりなさい?」

「おかえり?」

 

 スライム地獄から抜け出せたエイトさんはよろよろと立ち上がり、疲れた顔でこちらを見上げている。

 

「テアーって何です?」

「さあ。私にもよくは判らないです。ただ、とある方からテアーの欠片を私が持っていると言われた事がありまして」

 

 精霊の類と言っても通じそうにないので、適当に濁す。

 

「テアーはテアーなんだよ」

「テアーは、ぼくらを生んでくれたんだよ」

「みんなみんなテアーが生んでくれたんだよ」

「でもいなくなっちゃった」

「でもかえって来たね」

「テアーはどうしてここに居るの?」

 

 口々に似たような子供の声でキャイキャイと話すスライム達。

 

「どうして……って、この先の荒野にある船? に、用事があって?」

 

 テアーがなんで居るのかと聞かれても不明だ。適当に私の要件を言えばスライム達は揃って動きを止めた。

 

「ガケの向こうに降りるの?」

「不思議な船はあるけど、あっちに行くなら気を付けてっ。ガケのほうには強い魔物が出るの」

「えー? テアーだから大丈夫だよ」

「あ、そうか」

「でもずーっと荒れ地ばっかりで休むとこが無いんだ!」

 

 あれ。この子達って。

 

「もしかして、この先にある船の事を知っているの?」

「知ってるよ」

「見に行ったもん」

「合体したぼくたちよりもずーっとずーっとおっきいんだよ!」

 

 エイトさんを見ると、無言で頷いている。了解だ。

 きゃいきゃいと跳ねる彼らに視線を合わせるようしゃがんで聞いてみる。

 

「一つお願いしたいんだけどいいかな?」

「なにー?」

「なになに??」

「テアーのお願いだー」

 

 間髪入れずあがる返事に、その子供のような反応に少し可愛いなと思いながら口を開く。

 

「その不思議な船のところに連れて行ってほしいの」

「いいよー」

「ちょっと遠いけどっ。僕らならいけるもんね」

「かんたんかんたん」

「こっちだよ」

「あ、今じゃなくて明日の朝でいいかな? 今日はもう疲れちゃって、少し休みたいの」

 

 私はぐっすりだったが、他の面々は疲れている。

 ちょっぴり私も板張りの上で寝たせいで身体が痛い。

 私のお願いに、スライム達は快諾を返してくれた。飛び跳ねながら。その様子を見ていたエイトさんは皆に言ってきますと離れた。

 私はそれを横目で眺めながら、そっと聞いてみた。

 

「ねえ、内緒話をしたいんだけどいいかな?」

 

 きょとん。という表現がぴったりの様子でスライム達は飛び跳ねるのをやめて地面から私を見上げてきた。

 

「テアーが皆を作ったっていうのは、魔物を作ったのはテアーっていう事なのかな?」

「そうだけど」

「それだけじゃないよー」

 

 声を潜めた私に合わせるようにスライム達はふよふよと揺れながら囁き返してくれた。

 

「この世界をつくったの」

「みんなみんな、テアーがつくったんだよー」

 

 人間も動物も植物も、世界そのものをテアーが創ったのだとスライム達は口々に語る。

 ……ふーむ…。やはり『テアー』はアレフガルドを創造したルビスと同じような存在という事だろうか。創りだして、その後この世界から消えてしまった。どういう経緯で欠片になったのか、それを何で私が持っているのか不明だが、だからあの変なエルフは(テアー)にお帰りと言ったのだろう。絵空事の物語と私の生きる世界との接点がどうなっているのやら。案外と『テアー』なるものは他の世界見たさに無茶をしてバラバラになって飛んでいったのかもしれない。飛んで行った先が私の世界で、たまたま私に憑依した……とか……

 駄目だ。憑依とか考えると薄気味悪くなってくる。ひょっとして私がここに来てしまったのは『テアー』が関係しているとかあったりして。変なエルフも『テアーの欠片を宿すあなたならば』とか意味深な事を言っていたわけだし。

 

「どうしたのー?」

「考え事なのー?」

 

 目の前で飛び跳ねられて我に返る。

 何でもないと笑って、さて姫様のもとへと戻るかと思ったらスライム達もくっついてきた。明日の案内を楽しみにしているようで、その様子は出来る事を褒められた子供のようだ。なんとも可愛い。不定形の変な物体だとか思って悪かった。

 結局井戸が使えなかったので水を魔法で出して姫様の世話をさせてもらい、毛布に包まろうとするとスライムが下に滑り込んできた。ぎょっとして飛び起きたら痛くないからと言われ、一体にタックルされて強制的に横にさせられた。何というか、ウォーターベッドを少し硬くした感じに近い。非常に寝やすいが子供を下敷きにしているという事がどうしても許容できなくて辞退を申し出たら、「じゃあこれならいいよねー」と言って合体しやがった。ちょっと待て。さっきすっぽ抜いた冠はどこにいった。その頭の冠はどこから出てきた。というか、合体するのはもうこりごりでは無かったのか?

 幾分低くなった声で「ほらほらー」と言われ、喉元まであった疑問はどっかに行ってしまった。考えるのに疲れたともいう。

 様子をポカンとした顔で見ていた姫様も苦笑気味に「可愛らしいベッドですね」と言う始末で、もう『どうにでもなーれ』という気分で横になった。べろーんと広がったスライムに横になるとそのまんまもうベッドだ。宿のベッドより質は上かもしれない。

 

 


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