ドラクエは5か6までしかしていません   作:send

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追及された

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 ドニの宿に移動し、ぐーすか寝ていた王と帰りを待っていてくれた姫様と一緒に船着場へルーラで飛ぶと、こっち側の港じゃなかったらしくエイトさんがポルトリンクにルーラした。

 ……いや、ほら、どっちも港じゃないですか。どっちも。間違える事は誰にでもあることですよ。と、話したのだが移動中は馬車の中で休むようにとエイトさんに押し切られた形となった。エイトさんに押し切られたというか、エイトさんが私にした説教を耳が良い姫様が聞いてしまい詰め寄られて馬車の重さなど全く平気だと鼻息荒く言われ……拒否する事が出来なかった。

 いやはや、姫様に叱られると無条件で申し訳ありませんと謝りたくなってしまうのは何故だろうか。あれが王者の威厳というものだろうか?

 結局お言葉に甘えてポルトリンクから西に広がるという荒野に向かう道すがら、馬車の中で横にならせてもらった。が、数秒と経たずに身体を起こした。別に何かの気配を感じてというわけではなく、単純に板張りの床でガタガタ揺れたら、まぁ、痛い。ごそごそと毛布を二枚取り出して床に敷いてもう一度身体を丸めるが多少軽減した程度だ。それでも眠気を堪えていたのが限界を迎えたようで、コトンと眠りに落ちた。

 目が覚めたのは、ガタンと馬車が止まった時で外はすっかり日が暮れていた。というか、夜だ。

 大抵休憩は私が声を掛けていたのだが、まさかこの時刻になるまで休憩を取らないとは思わなかった。ついでに言えば出発したのは昼過ぎ、自分がここまで眠りこけるとも思わなかった。慌てて馬車から降る。

 

「あ、ちょうど良かった。今声を掛けようとしていたところです」

 

 馬車を降りると目の前にエイトさんが居て一瞬仰け反ってしまった。びっくりした。

 

「一度小休止を挟んだんですけど、深く眠っていたから起こさないようにしていたんです」

「え゛……そ、それはお気遣いいただきありがとうございます。すみません」

「僕一人では荷が重いんですから、無茶して倒れないでくださいね?」

 

 小声で言って笑うエイトさんに、御者台を見れば王の姿は無い。

 

「今日はそこの宿に泊まります。陛下や他の皆は先に中に入ってもらってます」

「そうだったんですか」

 

 エイトさんの視線の先には小さな家がぽつんと一つ。あれが宿なのだろう。では今晩の食事の準備は不要ということかな?

 

「この辺りは岩塩を取りに商人が通うみたいで、街の宿と同じというわけではありませんけど、食事も出していただけるようです。リツさんも夕食を食べてきてください。姫様の食事もこちらで用意していただけましたから」

 

 言って干し草を示すエイトさんに、無意識にぺしりと額を叩いてしまった。エイトさんの負担を減らそうとしてきたのに、これでは逆転してしまっている。

 謝ってもエイトさんは受け取ろうとしないだろうから、建設的にありがたく食事をいただこう。

 姫様の耳に小さく「また後程参ります」と囁くと『早く食べる事はお腹に良くないと聞きました。リツお姉さま、ゆっくり食べてきてくださいね。ミーティアもゆっくり食事をいたしますから』と返された。

 はっはっは。見透かされてるよ。

 苦笑して頷いて、姫様の食事の間一緒に居てくれるらしいエイトさんに礼を言って家に入ると、アミダさんと同じぐらいの年齢のご婦人に椅子に座るよう言われ、他の面々が座るテーブルに一緒についた。王の姿が見えないと思ったら、食事が出来るまで暇だったのか寝ているらしい。ご婦人が教えてくれた。

 ご婦人がおかみさんというわけではなく、食事の準備だけをしているようだ。それ以外は純朴そうなぽっちゃりした青年が対応している。親子だろうか?

 

「ずいぶん寝てたな」

 

 宿の中を観察していると茶化すようにククールさんに言われ、私は素直に頭を下げた。

 

「申し訳ありません」

「責めてるわけじゃないって。別行動出来るならその方が効率がいいからな」

「でも何かあったらどうするのよ」

 

 ククールさんは組織または集団での効率的な活動についての考えがあるようで、私と同じ思考をしている模様。反論するゼシカさんは一般的な子女の思想といったところだろうか。いや、どちらかというと子供を心配するお姉さんといったところか? 第一印象が尾を引いているのかもしれない。

 

「大丈夫でがすよ。リツ嬢さんは強いでげすから」

「あのねぇ、いくら魔法が使えるといっても接近されたら駄目でしょ」

「リツ嬢さんに近づく魔物はいないでがす」

「だから魔物はともかく野盗とか危ないって言ってるの。まったくこれだから男共は……」

 

 テーブルに肘をつき溜息をついているゼシカさんは絵になるが、言われたヤンガスさんもククールさんも『あ』という顔をしていて、実に間抜け面が似合っている。

 

「平気ですよ」

 

 間抜け面からバツの悪そうな顔に変化したので助け舟を出すと、反応したのはゼシカさん。

 

「どうして?」

「移動はピオリムを掛けてましたし、暗くなってからはレミーラで辺りを明るくしてましたから。その中で接近に気付かないという事は余程の事が無いと無理でしょうから」

「れみーらって、確かマイエラで使ってた魔法よね?」

「はい、明かりをつける魔法です。ご存知ないです?」

 

 室内(ここ)で実演するにはちょっと迷惑になりそうなので控えたい。光量を抑えればやってもいいだろうが、まだ研究不足で抑え方が不明なのだ。

 

「知らないわ。ねぇ、リツってどのくらいの魔法を使えるの?」

「あ、それ俺も気になってた」

「攻撃魔法も回復魔法も使えるでがすよ」

「知ってるわよそんなこと」

「系統じゃなくて種類の事だ」

 

 ヤンガスさん……以前、王に私が回復魔法も攻撃魔法も嗜んでいると言っていたのを覚えていたんだろうな。割と自信ありげに断言して即座にそういう意味じゃねーよと二人掛かりで否定されて凹んでしまっている。

 ちょっと気の毒なので、補助魔法の事とかは黙っていよう。

 

「だいたいリツは補助魔法も使えるだろうが」

 

 ……ククールさん。

 ヤンガスさんはグウの音も出ないようでつまらなそうにそっぽを向いてしまった。うーん。

 

「えーと…厳密に言いますと、攻撃魔法、回復魔法、攻撃補助魔法、防御魔法、その他分類の魔法を扱えます」

 

 ククールさんの言っている事も全部じゃないよと言うと、ククールさんは『あぁそういう区分けもあるけど』という顔をして苦笑し、ヤンガスさんはどこか嬉しげにククールさんを見て笑った。

 

「系統は全部って事でしょ? そんなの予想出来るわよ。で、何を使えるの?」

 

 ヤンガスさんの事など眼中に無いらしいゼシカさんが先を促してくるので、私は唸った。

 『使える』とは、『発動する』という意味なのだろう。だが私としては『使いこなす』というのが『使える』という部類に入ると認識している。なのでレミーラは『使える』とはあんまり言いたくない。

 

「そうですね……回復魔法はホイミ、ベホイミ、キアリー、キアリク、ザメハ。攻撃魔法はメラ、メラミ、ギラ、ベギラマ、イオ、イオラ、ヒャド、ヒャダルコ、ヒャダイン、バギ、バギマ。攻撃補助魔法はラリホー、マホトーン、ルカニ、ルカナン、ボミオス、ピオリム、ニフラム、バシルーラ、バイキルト。防御魔法はスカラ、スクルト、マホカンタ、マホステ、マジックバリア、マヌーサ、フバーハ。

 それ以外だとルーラ、リレミト、トヘロス、トラマナ、インパス、モシャスといったところです」

「レミーラは?」

「ベホマズンも使えるだろ」

 

 二人とも鋭い。まくしたてたのに気付いたよ。

 

「一応できますけど……その、何と言ったらよいか……」

「リツ。手帳」

 

 ゼシカさんに手のひらを差し出されて、私は何だろうと思いつつ、いつも持っている手帳を渡した。

 ゼシカさんはそれをパラパラと捲り、ククールさんもそれを覗き込み、途中で納得という顔で溜息をついた。やがてゼシカさんも無言で閉じた。

 

「なるほどね。リツは構築陣の内容を理解していないと使えないと言っているのね」

 

 あ。

 

「あ……あー……っと、ええまぁ」

 

 そりゃ手帳見れば研究してたかどうかは判ってしまうか。軽率だった。

 

「じゃあ発動させる事が出来る魔法は?」

 

 さて、どうしたものか……このメンバーならば話しても問題ないのではないかと思うが、前にシャナクを知らないと王に言われた事が微妙にひっかかっている。私がドラクエだと思って、あるものだと考えていた魔法が実はここには存在しない魔法だったりしないだろうか、とか。存在しない魔法をどうして知っているのだと問われた時、どう答えたらよいのかが判らないのだが……まぁいいか。レミーラもそれっぽいし。誰しも全ての魔法を熟知しているわけでもないだろう。

 

「先ほどのものは省きますね。

 回復魔法はベホマラー、ベホマズン、ザオリク、シャナク、マホトラ。知識としてザオラル、メガザル、マホキテ。

 攻撃魔法は、ライデイン。知識としてメラゾーマ、ベギラゴン、イオナズン、マヒャド、バギクロス、ギガデイン、ミナデイン、ザキ、ザラキ、ザラキーマ。

 攻撃補助魔法は、ラリホーマ。知識としてメダパニ。

 防御魔法はアストロン。知識としてマホターン。

 その他はレミーラ、アバカム、レムオル。知識としてフローミ、ラナルータ、レミラーマ、ドラゴラム、パルプンテ、メガンテです」

 

 一通り正直に申告すると、ゼシカさんとククールさんは真剣な顔で睨むように私を見てきた。

 何故か責められているような空気を感じて、若干怯んでしまいそうになる。が、どうしてそうなったのか理解出来ないので踏ん張って見返してみる。

 

「一応聞くけど『知識として』っていうのは使った事は無いって事でいいの?」

「はい。おそらく出来るだろうとは思っていますが、威力が大きかったり、何が起きたりするかわからないので使った事はないです」

 

 そう言うと、二人ともほっとしたように肩の力を抜き表情を緩めた。

 

「どうしたんでげす? リツ嬢さんがすごすぎて驚いたでがすか?」

「違うわよ……いえ、驚いたのは確かに驚いたけど」

「そうじゃなくてだな、今リツが言った中に自爆の魔法が含まれてたんだよ」

「自爆!?」

「あと自分の命と引き換えに仲間を生き返らせるっていうのもね」

「引き換え!?」

「あ、ヤンガスさん。ご飯ができたそうですよ。ちょっと声が大きいので少し抑えましょうか」

「あ、はいでがす」

「じゃあ私は陛下を起こして――」

「待ちなさい」

「お前なぁ」

 

 皿を持って来てくれたご婦人のお手伝いにと椅子を立とうとしたら、じとーっとした目の二人に止められてしまった。駄目ですか。そうですか。

 

「やらないでね」

「やるなよ」

 

 座りなおしたら真顔で言われたので、苦笑しながら了承。私もその魔法は非常に恐ろしいのでその必要性が出た時が来たとしても使えるかは自信が無い。

 二人から見た私という人間は、きっと使えるのだろう。すごい聖人がいたものだ。

 

「さっき言ってた魔法だけど、質問してもいい?」

「なんでしょう?」

「聞いた事が無い魔法がいくつかあったのよ。えっと、ヒャダインだっけ? 感じからしてヒャド系のものだと思うけど」

「はい。ヒャダインはヒャダルコの範囲を広げたものです」

 

 ゲーム上ではヒャダルコはグループ攻撃で、ヒャダインは全体攻撃だった。

 ここで全体攻撃というのは概念的に存在しない。敵、味方のマーキングも無いため範囲攻撃という状態になっている。使った感じもヒャダルコはグループという事ではなく、単純にそういう範囲なだけだった。規模が大きくなるとどうしても人目につくので中々試す事が出来ないという難点がつきまとうため、上位の魔法は軒並み研究不足だが。

 

「シャナク、ザメハ、マホキテ、ニフラム、マホターン、マホステ、アストロン、トラマナ、ラナルータ、インパス、フローミ、レミラーマ、アバカム、レムオル、パルプンテ、モシャス、ドラゴラム。これも聞いた事がない」

「お、覚えたんですか」

「これでも記憶力はいい方でね」

 

 言ってククールさんはフッと笑った。

 久しぶりに見たな、気障ったらしいククールさん。思わず笑ってしまった。いやしかし、素直にその記憶力はすごい。称賛にあたいするのではないだろうか?

 

「えーと、説明した方がいいですか? と言っても私が今言われた魔法を覚えていないので一個ずつ言って貰わないと、ですけど」

「あぁそれは後でいい」

 

 後でしないと駄目ですか。

 

「それより、何でそんなに魔法に詳しいのかと思ってね。師匠は薬師で魔法使いでは無かったんだろう?」

「あ、はい。師匠は薬師ですし、そこまでは知らなかったんじゃないかと思います」

「じゃあなんで?」

「……私の故郷では魔法を調べる人が居まして、実際その人は使えるというわけではないんですけど、その情報を周囲に提供してくれたりしていたんですよ」

 

 攻略サイト(それ)で知ったというわけではないが、メダルのある場所とかそういうのではお世話になった。あ、いや、どんな魔法が使えるのかは成長要素としてちら見したりしたから全くお世話になってないというわけでもないか。まぁ、ネタ元で間違いないだろう。

 

「提供ってどんな奴だよ……」

「普通しないわよね?」

「するわけないだろ。自分の財産そのものだろ」

 

 ククールさんが言う財産というのは、それを本職としている人の事だろう。こちらでもそれを本職としている人が居ないとは断言できないが……アフィリエイトってそんなに儲かったっけ?

 

「本職ではないでしょうし、一人でされているわけではなく不特定多数の人が協力して情報を提供して成り立っていましたから。提供して多くの人に見てもらう事こそに意義があったんですよ。こちらではそれが奇異に思われるというのは理解できますけどね」

「リツの故郷には物好きが多いのね……」

「同感。変人の集まりだろそれ」

 

 ククールさん、ばっさり言ってくれないでくれますか。ゲームに親しみの無い方々からはそう思われているかもしれないですけれども。

 何やら私も微妙にダメージを受けてしまうので話を変えよう。

 

「ところで、荒野まではあとどのくらいでしょうか? 食糧は結構持つとは思いますが予定を確認しそびれちゃいまして」

「もう目の前よ」

「ここが荒野の入り口みたいなところらしい。こっから先は道らしきものも無いとさ」

「そうなんですか。荒野での探索はどの程度の日程を予定されています?」

「そうだな……具体的に考えてはいなかったが、どのくらい食糧はあるんだ?」

「ドニで少し整理してきましたから、七日ぐらいなら持ちますよ」

 

 人数が増えたので、全ての食料を出しきってこのくらいだろう。水を持ち運ばなくて良いというのは非常に大きい。

 

「ならその程度だな。それで見つからなかったら一旦どこかの街へ戻って物資補給だ」

「わかりました」

「はいよ。お待たせ」

 

 テーブルの真ん中にパンを詰めた籠を置かれた。

 振り向けば台所の竈でぐつぐつといい感じに煮えているスープが見えた。「手伝います」と言って席を立てば、今度は引き止められる事はなく、ご婦人のお手伝いに回る。スープを配り終えて王を起こして一緒にご飯をいただいた。

 

「エイトさんにもその事を伝えてきますね」

 

 起きてきた王の愚痴聞き(定例作業)をこなしつつ、食事を終えて手を合わせて器を持ち席を立つ。

 ご婦人に礼を言って器を返し、木桶をかりて外に出るとエイトさんが姫様の近くで見守るように座っていた。

 何か話しかけている様子だったので足音を殺して井戸までいき、そっと水を汲もうとしたのだが、何かにあたってうまく水が汲めない。井戸を覗き込んでみるが底までは月明かりが届かず見えない。

 極小のメラをほおり込んでみると、何か半透明の物体が井戸の底全体を埋めるようにあった。ついでに、メラが底に当たったら「ピキャ」という変な声もあがった。

 

「…………半透明の物体って」

 

 スライムの亜種とか?

 

「たすけてよ~」

 

 ……何やら悲痛そうな高い声が聞こえてきたが……スライムってしゃべれない、よな? いや、しゃべれる個体もいたか?

 

「どうしたんですか?」

「あ、エイトさん」

 

 ありゃ。いい雰囲気だったのに気付かれてしまったか。

 

「どうも井戸の底に何か居るみたいで……助けてと聞こえるのですがどうしたものかと」

 

 エイトさんは首を傾げて井戸を覗き込む。丁度その時またしても「たすけてよ~」と声が聞こえた。二人で顔を見合わせ、幻聴ではないよね? と、無言の確認。

 


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