ドラクエは5か6までしかしていません   作:send

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雑談した

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「何か気になる事でもあるのか?」

 

 考え込んでいたようで、ククールさんがこちらに来て目の前で手を振っていた。

 

「いえ、パルミドについたらご飯は何にしようかなと。せっかくだから陛下と私と姫様はちょっと贅沢させてもらおうかなって」

「おぉ真か!?」

 

 若干いじけていた王がぐりんと首をこっちに向けて喜色を顕わにした。

 

「ええ。私もちょっと羨ましいなって思ったりしますから」

 

 にやっと笑って言ったら王もにやっと笑って、そうであろうそうであろうと頷いている。

 私が絡んでいるのでヤンガスさんは仕方が無いという風で何も言わず、他は苦笑していた。ガス抜きというのはきちんと伝わっているようだ。

 魔物は相変わらず出現せずのんびりとした旅路は続いたが、人が踏み固めた道が無いため少々馬車への負担が気になる。

 昼食で休憩を挟んだ時に下を覗き車輪を触り、緩みやガタが来ていない事を確かめたが、何分エイトさんも私も馬車についての知識は素人同然。不安はぬぐえない。

 馬車の横で車輪の動きを気にしつつ進み日が陰ってきた頃、迷彩色の建物が見えてきた。パルミドは怪しげな町らしいので、ひょっとしてアレか? と、思ってエイトさんとだべっているヤンガスさんを振り向いて見たが反応してなかった。考えてみれば建物一つを指して町とは言わない。

 

「ヤンガスさん、あれって何です?」

「あれ? ……さぁ、あっしもよくは知らないでげす。怪しげな奴らが入っていったって話は聞いた事があるでがすが……」

 

 怪しげな人間のたまり場。なるほど、近づかない方が良さそうだ。

 

「誰か立ってないですか? ほら、建物の上に」

「上? ……あ」

 

 居た。確かに居た。エイトさんが指さす先に、赤と緑の全身タイツを着て堂々と腕を組み仁王立ちをしている推定五十後半の男が。

 これは絶対に近づいてはいけない。例え首に巻かれた真っ赤なマフラーがヒーローものの主人公っぽく見えても、背景に沈む太陽を背負っていようとも、現実にそんな恰好をしている者は危険だ。いろいろこじらせてしまっている可能性が高い。

 ……はて、この世界にヒーローものの思想はあるのだろうか? 独自であのセンスを形成したというのならそれはそれですごいような……

 

「この辺りで休憩できるところがないか聞いてみましょう」

「え!?」

 

 馬鹿な事を考えていたら思いもよらない事をエイトさんが言いやがった。

 

「車輪の調子がちょっと気になるんです」

 

 過敏反応をした私にびっくり。という顔のエイトさんは、それでも至極真面目に言った。そのエイトさんの横で、ヤンガスさんが今更のように「そういえばそうでげすね」なんて呟いている。

 

「そ、それは……そうですけど、あの人に聞くんですか?」

 

 まじであの人に声を掛けるのか!? という思いでどもりながら聞いたら、やはり至極真面目な顔で頷かれてしまった。

 

「人里があるなら何か壊れてても直せるでしょうから」

 

 それも確かにそうなのだが……。

 いや、パルミドにたどり着く前に壊れたらかなり大変だ。今の段階で故障を見つけて応急処置でも出来れば辿り着くぐらいは出来るだろう。それで駄目ならルーラを使って戻っても仕方が無いと諦めがつく。

 王に断りを入れて小走りに駆けてゆくエイトさんと、それについて行ったヤンガスさんを何とも言えない気持ちで眺め、そっと足を止めた姫様の鬣を撫でる。この中で非戦闘員は私を含め王と姫様の三人。この三人が居なければ足を引っ張る事は無いだろう。最悪の場合を考えて撤退の用意をする。

 

「あいつ何しに行ったんだ?」

「人里が無いか、休憩できる場所が無いか聞きに言ったんです。しっかりした馬車ですけど、ちゃんとした道ではないので疲労が溜ると壊れかねませんから」

「………えらく特徴的な人物だが大丈夫か?」

 

 手を翳して見上げるククールさんに返す言葉も無い。

 足を止めて遠目で見守る事にしたが、エイトさんが声を掛けている風なのに男性は微動だにしていない。長いマフラーが風に無駄になびいている。

 

「そういやリツの言う通りだったよ」

「何がです?」

「魔物の事」

 

 魔物?

 

「……あぁ、沢山遭遇しちゃいました?」

「そりゃもう。魔力切れるかと思ったな……」

 

 別行動をした時の事だろうと思って聞いたら、軽い調子だったのに不意に考え込むように視線を落とした。

 

「どうされました?」

「いや……あいつ、強いな」

「ヤンガスさんとエイトさんですか?」

「おっさんは力任せだけどな………エイトの方は戦況をよく見て動いてるんだよ。ゼシカが後ろからメラを投げても背中に目があるんじゃないかって思うぐらい簡単に避けるし、こっちが魔法で攻撃しやすいように魔物を誘導して固めたりするんだ」

 

 その辺の岩に腰かけてつまらなそうにエイトさん達の様子を見上げているゼシカさん。こちらの会話には気付いていないようだ。

 

「へぇ……」

「知らないのか?」

 

 と言われても、私は魔物と遭遇しないので目撃する機会が無い。

 

「あぁ魔物に会わないから見てないのか」

「ええまぁ。そんなにすごいんですか」

「俺には同じ事は出来ないね」

 

 含みのある言い方だ。

 

「あいつは背負うものがあるんだろうな」

 

 だから強い。そう言いたいのだろうか?

 ククールさんがこちらに向ける視線は、その背負うものの中に私も含まれていると言っているようだ。私から言わせれば、そうやってでしかエイトさんはバランスを取れないだけの事ではないかと思う。それに本人は背負っているなんて思ってもないだろうし。

 否定的なククールさんの感情は、そのまま羨ましがっているようにも見える。もしくは自分を卑下する材料にしているのか。どちらにしても真っ直ぐすぎる程真っ直ぐなエイトさんとは対照的だ。

 何か返そうかと思ったがひねくれ坊主に丁度いい言葉も見つからない。

 

「そうかもしれないですね」

「あんたは?」

 

 適当に相槌を打ったら今度は私に水を向けられた。

 

「迷子だとか言っているようだが、そこの変なおっさんやエイトの事を守ってるんだろ」

 

 馬車の中に首を突っ込んで、おそらく錬金釜の様子を見ているのであろう王。その姿に少し苦笑して違いますよとククールさんに首を振って見せる。

 

「利害関係の一致です。背負うというものとは違いますよ」

「へぇ?」

「義理も人情も結構ですが、私は現実主義者なんです」

 

 胸を張って言ったら笑われた。結構まじめに言ったのに酷いな。

 

「なんだよそれ。そのわりに俺とかいきなり加わっても平気な顔してるじゃないか」

「驚きますけど陛下とエイトさんが決められたのなら、特に理由が無い限り異論なんて無いですよ」

「特に理由が無い限りって?」

「ククールさんが旅をする上で邪魔と思われる要素があればという事です」

「………」

 

 『邪魔』という単語に、一瞬だが目つきが鋭くなったような気がした。

 

「へえ? 今のところ、俺は邪魔じゃないって認めてくれてるのかな?」

「そうですね……回復魔法が扱え、これまでの行動を見る限り一人でも旅をこなせる経験も有りと見受けました」

「一応、騎士だからな」

 

 キザったらしく言ってくれるククールさんに苦笑しながら頷いて肯定を返す。

 

「ですね。それに、何だかんだ言いながらゼシカさんやエイトさんの事を心配してもらってますから。私としては幾分歳が近いククールさんには親近感が多少なりともあったりなかったり」

「どっちだよ」

「わずか三歳違いとはいえ、そこは年長者としてのプライドがありましてですね、親近感を認めてしまうと何となく負けたような気になると言いますか」

「はあ?」

「そんなところです」

「いや、どんなところだよ」

「まぁまぁいいじゃないですか。ちゃんとククールさんの事は頼りになるお兄ちゃんだと思ってますから」

「お、お兄ちゃん?」

「もちろんゼシカさんやエイトさんから見て、ですよ。僭越ながら、私から見れば立派な弟です」

「弟……」

 

 考えても無かったというような顔だ。常にある華麗な表情とは似ても似つかない間抜け面にぶふっと吹き出すと睨まれた。

 

「あんたな……」

「あはは、すみません。ついつい」

「全然反省してないだろ」

 

 ……えへ。って笑ってみても駄目だよなぁ。判ってはいたよ。

 

「反省云々はともかく」

「ともかくでどっかにやろうとするな」

「ちゃんとククールさんは信用できる人だと、本心、私はそう認めています」

「…………あんたな。いきなり真顔で言うなよ」

 

 ククールさんは一瞬絶句したように声を失い、ふいっとそっぽを向いた。

 照れるなよ。なんだよ可愛いな。

 

「事実です。人となりを見て、そう判断しました」

「騙されてるかもしれないぜ?」

 

 照れ隠しか何なのか、お得意の意地悪そーな顔をしてきた。

 私も笑みを浮かべて受けて立つ。

 

「そうなった時は全身全霊をかけて立ちはだかりましょう」

「…………やめとくわ」

 

 おいこら。若干青い顏して何を言うんだ。丸腰の私に対して剣を持ってるくせにどうしてそこで弱気になるんだ。実戦経験も豊富であろうに。いくら魔法の威力調整が出来た所で、それが即ち戦力とはならないと彼ならば判っていると思ったのだが……あぁからかわれてるのか。

 

「そうですねぇ。目くらましのメラにびびってるような子供はそれが賢明でしょう」

「言っておくが、かなりの経験積んだって、いや積んでる人間の方があんなメラがあるなんて思う訳がないんだからな。あんたが異常なんだって事にいい加減気付けよ」

 

 ……真顔で怒るなよ。なんだよ、からかってたわけじゃないのかよ。

 

「そうは言われても、私が発案したわけじゃないですから」

「誰だよそんなハタ迷惑なヤツは」

「師匠です。薬師ですけど」

 

 アミダさんが目くらましのメラを発案したわけではないが、構築陣をいじる事が出来るという事を教えてくれたという点では発案者と言っても過言ではないだろう。

 

「魔法使いじゃないのかよ……」

「一応、メラとヒャドは使えてましたよ。薬を作る時に熱したり冷やしたりと便利ですから」

「攻撃手段じゃないのかよ……」

「便利なら使わないと損、とまでは言いませんが勿体ないでしょう?」

「勿体ない……で、あんなもん作れるのか」

 

 ククールさんは遠い目をしていた。

 確かに構築陣はいじるものではないという認識が根底にあったらそう感じるのも理解出来なくはないが、引き摺り過ぎだろう。ゼシカさんなんてメラとヒャドのパターンはもう覚えてしまっている。あとは練習次第で精度無視威力重視のメラをぽこぽこ放つ事が出来るだろう。

 

「ククールさんもやってみます?」

「……出来るのか?」

 

 問われたので手帳を開いてみる。最近バギについて考察したところなので丁度いい。

 

「これ、判りますか?」

 

 手帳を開いて見せると、ククールさんは覗き込んですぐに「バギだな」と言った。

 

「じゃあこれは?」

 

 続いて次のページを見せると、ククールさんは一瞬眉を寄せ自信が無さそうに「バギ…か?」と言った。

 

「当たりです。最初の構築陣と比べると、こことここの部分が違いますよね?」

「あぁ」

「これ、威力と精度を調整する部分なんですよ。最初のは普通のバギで、このバギは――『バギ』」

 

 実際に使って見せると、ざあっとゆるい風が辺りに広がった。

 

「こんな感じでただの微風になっています」

「…………」

 

 ククールさんはポカンと口を開けていた。

 

「ちなみに、洗濯物が乾かない時には非常に便利です」

「洗濯物乾かすためかよ!」

 

 ポカンと口を開けていたわりに突っ込みが早いな。

 

「たかが洗濯物。されど洗濯物。限られた物資を使いまわすのは大変なんですよ」

「拳握って力説するなよ……わかるけどな」

 

 額を抑え疲れたように溜息をついたククールさんは「いいか?」と言って私が持っている手帳を指さした。意図を察して、どうぞと渡すとぱらぱらと捲って目を通し始めた。

 

「これ……あんたの師匠が?」

「師匠に教わったのは一番最初のメラとヒャドの威力を落したものです。他は興味本位でいろいろと」

 

 ククールさんは耳に入っていないのか無言で捲っている。聞いたのならちゃんと聞いて欲しいものだが真剣に読んでいるので口は噤む。

 

「あんた………暇人だろ」

 

 否定できないが最初にそれを突いてくるか? もうちょっと他に無いのだろうか? 頑張ったね。とか。

 

「それと、あんたが制御に長けた人間だって事がよく判ったよ」

 

 開いて見せられたのは、コスパを追及したメラの構築陣だった。どこまで出来るのだろうかと線を細くして可能な限りの威力、精度を追及した代物だ。

 

「こんなもん普通の人間には到底無理だ」

 

 私はちらっとゼシカさんを見た。

 

「………おい……ちょっと待て」

「ゼシカさんも普通の括りに入らないんですね」

「……嘘だろ。これ、本気で出来るのか?」

「もうちょいってとこですけど」

「いや、待て。あいつのメラを見たがあんたみたいに可笑しな事にはなってなかったぞ」

 

 聞けよ。だからもうちょいなんだよ。

 

「すごく集中しないと出来ないって言われてました。戦闘に用いるのはもう少し先だとも」

 

 ククールさんは呆けた顔をこちらに向けた。

 

「集中して出来るもんか?」

「さあ?」

 

 実際出来ているのでそういうものなのだろうとしか私は言えない。

 

「さあって……」

「最初はゼシカさんもうまくいかなかったようですけど、練習すればするだけ制御は楽になっているようでしたよ」

 

 ククールさんはもう一度メモ帳を捲った。

 

「これ、攻撃魔法じゃなくて補助魔法もあるよな」

「一応」

 

 バイキルトの全体化とかあったら便利だろうなぁとか思って、スクルトとかピオリムとかの構築陣を参考にしながら考えている途中だ。

 

「あ」

 

 エイトさんが諦めた様子で男性に背を向けたら、やっと男性が動きを見せた。

 

「どうした」

「あぁいえ。やっと反応してもらえたようで……長くなりそうなので、もうその辺で野宿の準備しちゃいましょうか?」

 

 つまらなそうに様子を見て居たゼシカさんはこっくりこっくり舟を漕いでいる。余程暇だったのだろう。

 姫様に『どうしましょうね?』と視線を向けると、困ったような顔で首を傾げられた。まぁ聞かれても困るわな。

 


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