ドラクエは5か6までしかしていません   作:send

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遠く感じた

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 死者一名。負傷者――なし。

 団長さんに肩を叩かれるまで魔力を供給した結果なのかどうなのか、院長さん以外の犠牲者は出なかった。

 ドルマゲスについて事情説明を求められたが、それにどれだけ時間が掛かるのかも、エイトさん達の意識がいつ戻るかもわからない状況で王をこれ以上一人にしておくわけにはいかず、血のついた服の替えを借りて着替え、ドニの町から修道院へと連れて戻った。

 頭が回っていなかったせいで王を抱えるという事をせずに中に入ってしまったが、騎士団の人は何も言わず通してくれた。気付いたのはエイトさん達を寝かせて貰っている部屋に着いてからで、とりあえず放置しても問題ないと判断してその部屋に居て貰い、団長さんの部屋に戻った。

 団長さんに請われるままドルマゲスについて事情を説明したが、トロデーンの事まで話していいかはわからなかった為、恩人がドルマゲスに呪われ追っている事を伝えた。それと知っているだけで二人、人を殺めている事も。

 団長さんは最初こそ院長さんの傍を離れようとしなかったが、私の話を聞くと立ち上がり修道院全体に何が起きたのかを説明し、淡々とした顔で葬儀の手配と次期院長としての仕事を始めた。

 

「顔色が悪いぞ」

 

 エイトさん達の部屋に戻る途中に赤い服を着た青年、ククールさんに声を掛けられた。足を止めて口を開いたが、言葉は出なかった。何を言おうとしたのかも、わからなかった。

 

「オディロ院長の死のことはあんたの責任じゃない。むしろあんたが居なかったらもっと犠牲者が出ていた。俺も、マルチェロ団長も、たぶん死んじまってた。

 …………悪かった。危ない目にあわせて」

 

 頭を下げたククールさんに、それでも言葉が出てこない。

 下げられた頭を見下ろして、長い銀髪は黒いリボンで止めていたんだなとどうでもいい事を考えていた。

 何の反応も返せない私を前に、ククールさんは顔を上げて私を見ると眉を寄せた。

 

「あんたは……我慢しなくていい」

 

 我慢?

 

「いえ、我慢なんてしてないですよ」

 

 誤解しているククールさんに、頬が少しだが苦笑の形に動いてくれた。

 我慢していないというのは遠慮でもなんでもなく本心だ。我慢する事が無いので我慢のしようがない。それを言うなら、あれほど身体を痛めつけられても院長さんを心配していたククールさんと団長さんの方が我慢しているだろう。周囲の嘆きの度合いに比べて二人とも異様に落ち着いた様子に見えるが、表面的なものだとしか思えない。

 

「じゃあせめて休んでくれ。あんなに魔法を使って動き回られたら気が気じゃない」

 

 この人も……優しい人だ。自身の動揺を抑え見ず知らずの人間の身を案じるというのは、そう出来る事ではない。

 

「気を使わせて申し訳ありません。一応、魔力切れの症状は経験した事がありますが、まだその状態になる程ではありませんから、どうぞお気になさらず」

「そうだとしても横になっていてくれ。頼むから」

「……では、お言葉に甘えて休ませていただきますね」

 

 エイトさん達にあてがわれた部屋に休むところは用意してもらっている。眠れる気は全くしないが、当事者にこれ以上気を使わせるわけにはいかないだろう。

 大人しく部屋へと戻りベッドに腰掛けたが、やはり全く眠気は来ない。王は最初こそ騒いでいたが、エイトさんたちを休ませたいと伝えるとあっさり寝てしまった。

 外はすっかり暗闇に塗りつぶされているが、私の神経は高ぶったまま昼間を彷徨っているようだ。窓に近づき夜空に浮かぶ月を見ていても、月面はどんなだろうとか興味もわかない。

 

「……う」

 

 ぼうっとしていると声がした。視線を月から部屋へと動かすとエイトさんが気が付いて起きあがろうとしていた。

 

「急に起き上がらないでください。壁に叩きつけられたので頭を揺らされた筈です。吐き気とか視界がぶれたりしていませんか?」

 

 ベッドに近づき肩を押さえて起きあがらないようにすると、エイトさんは額に腕をのせ何度か瞬きをして私を見た。

 

「……ヤンガスとゼシカは?」

「エイトさんと同じく壁に叩きつけられて気絶しています。でも怪我は癒えていますから、直に目を覚ますと思います。

 院長さんは……亡くなられました。みなさん目を覚ますまでどれほど時間が掛かるかわからなかったので、陛下と姫様はこちらまで来ていただいています。騎士団の団長さんにも話してあるので大丈夫です。私達の不法侵入もお咎めなしです」

「……僕はどれくらい気絶していました?」

「まだ二刻程でしょうか。夜中ですからそのまま休んでください」

 

 エイトさんは額から腕を降ろすと、ゆっくりと身体を起こした。

 

「リツさんは?」

「私は大丈夫です。怪我もありません」

「……本当に?」

 

 じっと見つめられ、堪らないなぁと溜息を吐く。

 

「身体的には全く問題ありません。少しばかり神経は高ぶっていますが。

 精神的には……自分を掴み切れていません。ショックなのか、そうでもないのか……」

 

 目の前で刺殺されて、人の身体から杖が生えているのを見て、その光景が目の裏に焼き付いている。だがそれを見て何を思っているのかよくわからない。院長さんとはそれ程親しくしたわけでも無いから、悲しいと思っているのかもわからない。では襲われた恐怖が残っているかと問われると、それもわからない。

 確かに怖いと思っている自分が居る。よく無事だったと思っている自分も居る。けれどその自分はひどく遠く感じる。

 

「……歯が立ちませんでした」

 

 エイトさんは俯き、固く手を握っていた。

 他に吐き出したいものがあるのだろうかと、じっと待ったがそれきり黙り込んでしまった。

 

「……明日。院長さんの葬儀を行われるそうです。今日はもう休みましょう」

 

 ただ起きているのも時間がもったいないと見切りをつけてエイトさんを促す。エイトさんは何も言わず横になったが、時間を置いても眠る気配が無かった。

 目を閉じて横になっているものの張りつめたような緊張感があり、寝入っている人独特の脱力感が見受けられない。迷ったが、ラリホーをこっそり掛けさせてもらった。瞬間的に深い睡眠に叩き落すだけで、誰かに起こされればあっさりと目を覚ますような代物だ。リーザス村の時に普通のラリホーかけたらさすがに拙いと思って調べていたが……バシルーラともども、こういう形で使う事になるとは思わなかった。

 窓に近寄り夜空を見上げると、月を薄い雲が覆おうとしていた。気を紛らわそうとしたものが隠されてしまうと何となくじっとして居られなくなり、一人にしてしまった姫様のところへと抜け出した。

 修道院の中は夜中でも人が動いている気配があり、私達は寝入ってしまったが、彼らにとってはまだ騒ぎの最中である事が知れる。落ち着くのはきっと明日の葬儀を終えて数日置いてからなのだろう。

 厩舎の中に入り、入口に近いところで休んでいる姫様に近づく。姫様はすぐに気付いて顔を上げ、私の姿を認めると立ち上がり頬を寄せてきた。

 

「お一人にして申し訳ありません」

 

 寂しかったのだろうと思って言うと首を横に振られた。再度頬を寄せられ、何かと思い手をやると濡れていた。

 

「……すみません」

 

 泣いていたのかと笑いが出た。心配そうな姫様に苦笑して、木桶を逆さまにして座らせてもらう。

 私の前で足を畳んだ姫様はこちらを覗き込み、まだ心配そうにしていた。

 

「大丈夫ですよ。怪我もしていませんから。ちょっと狼狽えてしまっただけです。

 心配なのはエイトさんです」

 

 どういう事かと首を傾げる姫様に、先ほどのエイトさんの反応を明かした。

 

「ドルマゲスが現れたのですが、手も足も出なかったんです。それがかなりショックだったようで、先ほども落ち込んでいる様子でした。無茶をしでかさなければいいのですが……真面目なきらいがありますからね」

 

 そうだったのかというように瞳を伏せた姫様は、次に顔を上げた時には笑みを浮かべていた。大丈夫と言わんばかりのその顔に、今度はこちらが疑問を浮かべる事になった。

 

「……問題ない、ですか?」

 

 聞くと即座に頷かれた。

 

「けれど、力を付けようとして無理をしたりしませんか?」

 

 首を横に振り、自分と私を交互に指さす姫様。それを見て、なんとなく意味を読み取る。

 

「姫様と、私がいるから無理をしない。出来ない?」

 

 うんうんと姫様は頷いた。

 なるほど。守るべき人を疎かにするほどエイトさんは抜けてはいないというわけか。まぁ焦り過ぎて失念するという事も十分に考えられるので、様子は見ておかなければならないだろうが。

 

「そういう事でしたら心配は要らないと思いますが……無理をしそうなら、姫様からも止めていただけないですか?」

 

 保険のつもりでお願いすると、快く引き受けてもらえた。エイトさんも姫様に止められたら突き進めはしまい。これで良しと思い、立ち上がろうとすると服を咥えられて引っ張られた。

 

「姫様?」

 

 立ち上がれず戸惑い気味に尋ねると、私を指さしている姫様。表情はエイトさんの話をしていた時よりも暗い。というか、心配だと訴えているような感じだ。

 

「ええと……私は大丈夫ですよ?」

 

 本当に? と、首を傾げられた。

 

「感情の整理がつかない状態なので泣いてしまいましたが、寝て起きたら落ち着くと思います。人の死に立ち会うという経験が少ないので、狼狽えてしまうみたいです。こんな姿を見られるのは恥ずかしいんですけどね」

 

 たははと笑って頬を掻く。姫様は半信半疑という様子だったが、あっけらかんと肩を竦めてみせると諦めたように苦笑を浮かべた。

 

「何はともあれ、ドルマゲスがかなり強い魔法使いである事が判明しました。どちらかというと『杖』の力なのかもしれませんが、手強い事に変わりありません。戦闘となれば周囲へ気を配る余裕も無くなると思われますので、姫様と陛下は私と一緒に安全なところに居た方がいいでしょう」

 

 任せてというように姫様は頷いた。流石だ。王を引き止めるという重大な役目をきちんと理解している。ありがたい。

 

「では、また明日から頑張りましょう」

 

 荷台から毛布を取って来て姫様と一緒に寝ようとすると嫌がるように押された。どうやら部屋に帰れと言われているようだ。確かに厩舎の環境は眠る事に適していないが、姫様を一人で寝させるのは避けたい。

 どう言おうか思案していると、姫様は私に顔を近づけて縦に振った。

 人形体の姫様は笑みを浮かべて強い目で頷いている。

 これから何があるかもわからない、だから一人でも大丈夫だとその心構えを見せられたようだ。そうなると、彼女の気持ちを無視するわけにも行かない。

 苦笑してわかりましたと応え、毛布を戻して厩舎の外に出る。

 

「………かといって、部屋に戻っても眠れるとは思えず」

 

 さてはてどうしたものか……

 

 一人になってしまうとどうしようもなく気が抜ける。石畳の通路さえ踏んでいるような踏んでいないような、見えているような見えていないような、そんな事どうでもいいような気分で、自分を遠く感じた。

 一種の防衛本能が働いているのかもしれないなと思いつつ、ぼんやりしたまま歩いていると、いつの間にか院長さんの部屋に続く橋の手前まで来ていた。

 焼け落ちた橋の前には騎士団と修道士の姿があり、彼らは跪き祈りを捧げていた。場違いだと感じて踵を返すと、誰かとぶつかりそうになり慌てて足を引く。

 

「すみません」

「いえ、眠れないのですか?」

 

 誰かと思えば団長さんだった。

 

「あぁ……ええと。…………はい」

 

 誤魔化そうと言葉を探したが、こんな時間にうろうろしている時点で肯定しているも同然。どういう表情をしていいのかわからないまま頷くと、笑われた。団長さんは笑みを浮かべる余裕があるらしい。すごい人だ。

 

「では眠れるものをご用意致しましょう。どうぞこちらに」

「いえ、お手を煩わせるような事ではありません。夜空を見ていれば自然と寝られると思いますから」

「それは既に試した後ではないのですか?」

「………」

 

 図星である。

 

「だからこうして歩かれているのでしょう。どうぞ遠慮なさらず」

 

 反論出来ず、成り行き任せに後をついて行くと団長さんの部屋だった。

 何だろうと思っていると、出されたのはブランデーっぽいお酒。なるほど、アルコールかと納得。

 

「私は嗜まないのですが、寄与される方がおられるのでこうして余っているのです」

「まぁ……寄与されたら換金するのも難しいかもしれませんね」

「そもそも私が酒を換金するというのも難しいですから」

「それは……確かにそうですね」

 

 修道院関係者が嗜好品の類であるブランデーっぽいものを売るとかなったらいろいろ言われるだろう。それはともかく、

 

「私の年齢、いくつぐらいに思われていますか?」

「二十四か五、それぐらいかとお見受けいたしましたが異なるようでしたら謝罪いたします」

 

 驚いた。大当たりだ。

 

「その様子では外れてはいないようですね。これでも様々な人を目にしております。貴女の言葉は子供のそれではありませんでしたから」

 

 私が座ったテーブルの向かいに座り、団長さんは苦笑気味に教えてくれた。

 

「貴女には大変お世話になり、どれ程感謝の言葉を尽くしても足りないくらいです」

 

 一転して真面目な表情となった団長さんに自然と私の背筋も伸びる。

 

「此度の事、貴女がいなければ多くの団員を失っていたでしょう。この私もその例に漏れません。

 オディロ院長については……私達修道騎士団の力不足が原因です。貴女に責はありません。それどころか力不足の私達に代わり最後まで諦めず抵抗された。並みの者に出来る事ではありません」

 

 いや、並みです。怖くて逃げる術を考えていただけの事。

 気遣ってくれている団長さんに正直に言うのは悪いので、曖昧に笑って礼を言っておく。

 グラスに入ったブランデーのようなお酒は、手のひらで包むように持つとふわりと香りが立った。反応もブランデーと同じようだ。いい香りだと思うがアルコール度数の高い酒なので人によっては飲んだ瞬間咽る人もいるし、喉を焼くようなアレが駄目という人もいる。この世界のお酒事情はよく知らないが、これを出されたという事はさっさと潰れて寝てしまえと言われているようだ。軽く口に入れて喉に通すと、思った通り灼熱感が生まれる。

 

「……お強いようですね」

 

 咽なかったからか、軽く目を瞠られた。

 

「アルコールにはある程度慣れていますから」

 

 歓送迎会に留まらず、職場の人間と飲みに行くのはしょっちゅうだ。忙しくても都合がつけば行っていた。部屋で一人ご飯を食べるというのは、話に聞くよりつまらないのだ。

 

「……私はこの聖堂騎士団、ひいてはマイエラ修道院を変えていきたいと考えています」

 

 手を組みテーブルに肘をついた団長さんは視線を落として口を開いた。

 

「私が言うのも難ですが、今の教会は賄賂が横行し不正を正そうとするものが逆に捕らえられ人知れず始末されるような、そんな堕落した組織です」

 

 私は口を挟まず、ただ酒を口に運ぶ。

 酔っ払いを相手にした愚痴だ。素面相手に、それと教会関係者に相手に出来ず私にしているというなら、私は世話になった礼も兼ねて黙って耳を傾ける。

 

「オディロ院長のように恵まれない子らに救いの手を差し伸べる素晴らしい方が居ないというわけではありません。ただそれ以上に教会の権力に目が眩み他人を押しのける者の多い事といったら……

 この聖堂騎士団も中央に優秀な騎士を引き抜かれてばかりです。引き抜かれても田舎者と謗られ結局は騎士すら止めてごろつきに成り下がる者まで現れている有様。何を志し、騎士となったのかすら忘れさせるような中央に何の存在意義があるのか……」

 

 組織は大きくなればなるほど、時が経てばたつほど、最初の理念や在り方が変わってしまう。それは別に組織に限った事ではないが、仕方が無いで済ませたくないという団長さんの思いには同意を示す。

 

「このマイエラ修道院の院長となる事で、私は中央に顔を出す切符を手にしました。皮肉なものですがね………それでも、平等を謳いながら平等からほど遠く、慈悲を謳いながら人を蹴落とす教会に、ようやく手が届くのです」

 

 段々と声に力がこもり、組んだ手からギリッと音がした。

 相当溜まっていたんだなぁと思いながら最後の一口を流し込み、グラスをテーブルに置く。

 

「私一人の力ではどこまで出来るのかわかりませんが、それでも救いを待つ人々を見捨てる事は出来ません。

 リツさん、貴女さえ宜しければ一緒に人々を救っていただけませんか?」

「………申し訳ありません。私には、人を救うというような大それた事は出来ません」

「ご謙遜を。あなたの力は確かに多くの人を救う助けとなります」

「物理的にはそうかもしれません。ですが、結局それだけです。回復魔法を扱える方は他にもおられます。魔力量が違うと言われるかもしれませんが、それこそ数で補えるでしょう」

「しかし数は少ない」

「育てる事は出来ます。人が居ない、人が少ないというのは、事実そうなのかもしれませんが、対応を取る事が出来る問題の一つに過ぎません」

 

 それは仕事でもよくあった事だ。人が居ないから出来る人に仕事がまわる。そして仕事が出来るからさらに仕事を積まれ、病んでいく。何も特殊技能を持った人に限った話ではない。

 

「申し訳ありませんが、私は神という存在を信じていません。それと、人の心を救うような事はとても出来ません。自分の事だけでも手一杯で、他の人まで見る余裕なんてこれっぽっちも無いんです」

 

 今も自分を遠く感じる。話している自覚はあるし、酒に酔っていないと客観的に考える事も出来るが、現実がフィルター一枚隔てて見ているようで実感が薄いのだ。我ながら笑えるぐらい弱い。

 

「何しろ、この歳で迷子ですからね」

 

 苦笑まじりに言えば、真面目だった団長さんの表情がふっと和らいだ。

 

「唐突過ぎたようですね。それを勧めておいて話す内容でもありませんでした。お忘れください」

 

 まぁそうだろう。お酒を勧めて勧誘するって手段としてはちょっと強引。というか、悪辣?

 団長さんもいろいろ頑張っていて手駒が欲しいというところなのだろう。言われたようにこの話は聞かなかった事にする。

 

「お酒を頂いたので、明日には綺麗に忘れています」

「それは良かった」

 

 笑って言えば、団長さんもおどけたように腕を広げて同調してくれた。断られても余裕があるところを見ると、何か他に考えがあるのか大らかなのか……随分と怖い人物かもしれない。

 よし。教会にはなるべく近づかないようにしよう。派手に活動される予感がびしばしする。面倒事は避けるべし。

 話しているうちに頭の中が霞がかってきて、やっと眠気がきたかと思い団長さんに挨拶して部屋を出る。

 エイトさん達の居る部屋に戻ろうとして足を前に出したのだが、酔いが足に来たのか実際には足が前に出ておらず体勢を崩した。

 

「危ない」

 

 腕を引っ張って支えてくれたのは、いつの間にやら立って居た騎士団の方。団長さんの部屋の前に二人で居るので見張りなのだろう。

 

「ありがとう。大丈夫です」

 

 団長さんだけでなく騎士団の人も、今は大変なのだろうと考えていると口が勝手に動いた。

 

「部屋まで送って行きましょうか?」

「いいえ、もう大丈夫。ありがとう」

 

 顔が勝手に微笑み、口もするすると言葉を紡ぐ。何だか不思議な感覚だったが、自分で認識しているよりも酔いが回っているのかもしれない。

 これは早く寝た方がいいと思うものの、騎士の手を離して歩き出す私はゆっくりで、どこかふわふわした足取りだった。

 なんだかこけそうな歩きっぷりに、自分でもおいおいと思っていたが、見ていた騎士の方もおいおいと思ったのか、駆け寄って来てくれて結局部屋まで支えてくれた。

 


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