ドラクエは5か6までしかしていません   作:send

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今後の事を検討した

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「リツ!?」

「リツ嬢さん!?」

「ヤ…ン、ガスさん……エイト、さ、んは?」

「兄貴は塔に行きやしたでげすが……何でリツ嬢さんが来たんでげす!? 魔物が出て危ないでげすよ!?」

 

 ぜーはー肩で息をする私に駆け寄る王とヤンガスさんを手で制して辺りを見回す。走ってくる間、魔物には会わなかった。今もその姿は見当たらない。昨夜と同じ現象が起きているのなら寝ているのだろう。

 

「ヤンガスさん、魔物、今……出てないですよね?」

 

 どうにかこうにか息を整えて聞くと、ヤンガスさんは「あ」と言ってきょろきょろと辺りを見回した。

 

「そういえば魔物が出なくなっておるな」

「そういや……さっきまで出てたのに」

 

 それなら昨夜の現象がまた起きていると踏んで大丈夫だろう。問題は私とヤンガスさん、どちらがエイトさんを追いかけるか、又はその『ゼシカ姉ちゃん』を探すかだが……

 

「ヤンガスさん、エイトさんを追ってください」

「だめでげすよ! アッシは兄貴にここに居るように言われたんでげす!」

「それは魔物から陛下と姫様をお守りするためでしょう? その役目は私が引き受けます」

 

 守りながら戦うのは普通に戦うより大変だ。ここまで王と姫様を守っていたというのなら残しても守ってくれるだろうが、安全という意味では私が残った方が固い。それにヤンガスさんの方が足が早いだろう。というか、無理やり走ったせいで足が痙攣している。

 蔦が這う遺跡のような建物は、三階か四階、そのぐらいの高さがある。この足では進むのに時間が掛かってしまう。

 

「いやいや駄目でげす! リツ嬢さんにそんな事――」

 

 うだうだ言うヤンガスさんの足元にメラを投げつける。

 極小サイズだが、私が火力を持っている事は理解していただけただろう。ヤンガスさんの顏がぎょっとしたまま固まっている。

 

「理由は後で説明しますが、ここは私で十分です。エイトさんを追ってください」

「だ、だけど」

「言っておきますが、一瞬でヤンガスさんを黒炭にする魔法も知っています」

「い!? ……い、行ってくるでげす!」

「エイトさんに何か言われたら私が行けと言ったと言ってください」

「わ、わかったでげす!」

 

 たったか扉まで走って行ったヤンガスさんは、しゃがみこむと扉の底に手をかけて上に持ち上げたところを潜って入っていった。

 なるほど。開けられないってそういう事か。知らなかったらアバカム試した後にメラミで突破していた可能性がある。

 

「く、黒炭はちょっとやり過ぎじゃないか?」

「こけおどしです。知ってるだけで使った事はありませんよ」

 

 びくびくしていた王に笑って言ったら、がっくり肩を落とされた。

 

「まったくお主は……ここまで走って来たのか?」

「はい。村の子供に聞いて急いで来ました。魔物が多くて大変だったのではないですか?」

「そうなんじゃ、次から次へと魔物が現れてな……ここであの子供らはキメラの翼で帰したんじゃが……」

 

 だったらその時、王も姫様も一緒に帰ってて欲しかった。そうすればエイトさんとヤンガスさんは自由に動けただろうに。

 

「ゆっくり休んでおれば良かったのにお主はせわしないな」

「これはもう性分ですから」

 

 危険と気付いて放置しておけるほど呑気にはなれない。

 

「魔物には会わなんだか?」

「はい。大丈夫でした」

「わしらの時は大変じゃったが、お主は運がいいようじゃな」

「……みたいですね」

 

 がさごそと馬車の荷台に置いていた飲み物を取り出して、王にも要るか聞いてカップにそそぎ二人で休憩。足がとうとう攣った。あと土踏まずが痛い。

 

「暇じゃの……」

 

 ほのぼのとお茶を飲んでいると、ポツリと陛下が呟いた。今までの言動から見るに、基本的に動くかしゃべるか考えていないとそわそわするのだろうと思われる。職業病的なものなのかもしれないなと思いながら、疑問に思っていた事を聞いてみる。

 

「陛下、ゼシカという方はどなたかのお知り合いですか?」

「ん? いや、あの辺りの名士であるアルバート家の娘でな。兄が先日この塔で殺されたと言うて仇を討ちに一人で来ているらしいんじゃ」

 

 名士なら恩を売って置いて損は無いか。エイトさんや王はそういう事を考えて動いたわけではないだろうが、今の状況では支援してもらえる相手は喉から手が出る程欲しい。王と姫様を預かってくれるとかになれば最高だ。

 それにしても仇を一人で討つと言って行動する少女というのはアグレッシブの一言では済ませられない行動力だ。時代劇なら有り得そうな展開だが、現実に考えると度胸があるどころの話ではない。

 

「魔物が出んのぉ」

「そうですね」

 

 王は何度もそう言っては塔を見上げていた。

 これは中に入るかもしれないなと危惧していたら、予想通り「遅いから見てくる」と言って止めるのも聞かずに行ってしまった。

 ほんともう落ち着きの無い人だ。姫様を放置するわけにもいかず溜息をついて待っていると、姫様が横に座って「ごめんね」という顔をしてきた。いや、姫様は全く悪くないですよ。意思表示も難しいだろうし王の言葉に真っ向逆らうのも心情的に出来ないだろうし。

 姫様と並んで座って待っている内に危うく寝かけ、姫様に肩を押されて我に返るとエイトさんが王とヤンガスさんと一緒に出てくるところだった。

 

「リツさん……」

「言いたい事はあるかと思いますが、ちょっと先に話をさせてもらっていいですか?」

 

 何で来るんだという顔をしたエイトさんに、私は待ったをかけて王や姫様、ヤンガスさんから距離を取った。

 

「どうしたんです」

 

 怪訝そうなエイトさんに、どう説明するか決めていなかった事を思い出して言葉に詰まった。そしたらエイトさんのポケットからトーポさんが飛び出して肩に乗ってきた。励まされているようだ。

 まぁ魔物を活性化させる人間なんて鬱陶しい以外のなにものでも無いので、ここでお別れという可能性もあると考えては居た。それを怖がって詰まった部分もあるが、大丈夫。そうなったらそうなったで虹色の泉を探すだけ。しんどいだろうが、覚悟は決まっている。

 

「あのですね、魔物が多かったと思うんですが……どうもそれ、私の影響っぽいんです」

「………どういう事です?」

 

 眉を潜めるエイトさん。

 

「理屈はわからないんですけど、私の近くに居る魔物は寝てしまうんです。離れると目覚めて活発になるみたいで……だからトラペッタの町で魔物が多かったとか、リーザス村の前で魔物が出たとか、それってたぶんそういう事が関係していたのだろうと」

「いつ気付いたんです」

「ええと昨日の夜に」

「夜?」

 

 潜められた眉が顰められた。

 

「夜に村の外に出たんですか」

「いろいろと私も思うところがあって、魔物に慣れようと思ったんです」

「戦う必要は無いって言ったじゃないですか」

 

 些か語気を強めて言われた。前に釘を刺された事もあってちょっと腰が引ける。

 

「確かに私も戦えない、戦力外だと考えて欲しいとお願いしたんですが……でも外に出てみて、それでは駄目だなと……その、エイトさんを信用していないわけではないんですよ。そういうわけじゃなくて、いざという時の用心というか自衛すら出来ないのは問題だと感じていたわけで、言っても心配されるだけだと思ったので強硬手段に出たというか」

「もうわかりましたから……」

 

 しどろもどろ言い訳していると呆れられてしまった。大人の威厳皆無だ。

 

「すみません。勝手な事して」

 

 言わずに夜中出歩いたのは悪いと思ったのでそれについては観念して謝る。

 

「僕もリツさんの気持ちを聞かなかったので。無理させてごめんなさい」

「い、いえいえいえ。エイトさんが謝る事なんてありませんから。本当、すみません勝手な事して。もうしませんから。今度はちゃんと話しますから」

 

 エイトさんが良い人過ぎる。慌てて頭を下げたらトーポさんが落ちかけて慌てて頭を上げる。そしたらエイトさんに笑われて、もう何をやってるんだかと私も笑わざるを得なかった。

 

「ゼシカさんという方は見つかったんですか?」

「あぁはい。見つかったんですけど、今は一人にしてほしいと言われて」

「大丈夫ですか? 魔物が多いと思うんですけど」

「あの場所は大丈夫だと思います。村の守りと同じようなものが使われているみたいだから」

「へぇ……」

 

 でも帰りが一人というのはあんまり良くない。

 

「じゃあエイトさんは皆さんと村に戻ってください」

「は?」

「ほら、魔物が活発になってしまうので。大変だとは思いますが女性を一人にするよりはいいかなと」

「……リツさんは?」

「私は魔物が寝てしまうので」

「でもそれって絶対というわけじゃないですよね?」

「そうなったら全力の魔法を叩きこみます。駄目ならキメラの翼で離脱します」

 

 エイトさんは額を抑えて溜息をついた。あれ? 逃げるって誰でも取る常套手段じゃないのか?

 腕を組み悩み始めたエイトさんにまじで戸惑う。そんなにおかしな事を言ったんだろうか。そもそも、私はまだ一緒に行動していていいのだろうか? 何も言及されていないのだが……よくわからない。

 

「えーと、あの、エイトさん? 一応私メラミ使えますし、イオも使えますから遠距離なら大丈夫ですよ。あとピオリム使えば距離取れますから。たぶんバイキルトでゼシカさんという方を抱えて逃げれると思いますし」

 

 とりあえず護衛出来るぐらいの力があると言ってみる。

 

「………」

「え、えーと……火力不足ならイオラとか習得した方がいいですか? 音が煩そうだから試した事は無かったんですけど」

「………リツさんって、何気なくすごい事を言いますよね」

 

 どの辺の事だ。出来れば具体的に指摘してくれないだろうか。

 

「判りました。でも無理はしないでください。ゼシカさんは魔物に慣れているようだったから大丈夫だと思いますけど、リツさんは慣れていないんですからね?」

 

 なんと、私の方が心配されてしまっている。まぁ一度も魔物と戦った事が無いのだからそれもそうかもしれない。考えてみれば出会ったばかりのエイトさんにおんぶしてもらってトロデーンまで連れて行ってもらったのだ。そんな相手が残りますと言っても信用出来るだろうか。私は出来ない。

 ……凹む。

 

 くいくいと髪をひっぱられ、トーポさんが肩から腕に降りてきた。

 

「トーポはリツさんと居るの?」

 

 エイトさんが問いかけると、トーポさんはとぼけた様子で首を傾げ再び私の肩へと戻ってきた。

 

「トーポはリツさんが気に入ったみたいですね」

「ははは……」

 

 トーポさんにも心配されてるよ。

 

「じゃあ戻りますけど、本当に無理しないでくださいね」

「大丈夫ですよ。無理する気は全くありませんから」

 

 エイトさん達を見送り、何気に心配そうに何度もこちらを振り返るヤンガスさんになんとなく手を振り、ようやく一人になる。

 ぼふんと音と煙がして現れたトーポさんに即行で頭を下げた。

 

「お付き合いさせてしまい申し訳ありません」

「構わんよ。大変なのはお前さんよりエイト達の方じゃろうがな」

 

 笑って首を横に振るトーポさんに和んで塔へと向き直る。

 

「あの娘ならこっちじゃよ」

「あぁそうか。トーポさんはゼシカさんという方に会っているんですね」

 

 トーポさんに案内してもらって塔の中を進む。トーポさんの話では途中から魔物の動きが鈍くなったようで、どうやらそれが私が塔に着いた頃と前後するようだった。そうすると影響範囲はなかなか大きそうだ。

 

「この上じゃよ」

 

 階段の下からそっと上を伺うと、女性の像の傍らで蹲っている赤い髪の少女が見えた。

 

「あそこにある像が亡くなった兄の魂を一時受け入れていたようじゃ。自分を殺した相手の姿を見せてくれたよ」

「殺した相手……山賊か盗賊か、そんな事を村の人は言っていましたね」

 

 階段下に戻りトーポさんと小声で話す。

 

「いや、相手は変な恰好をした魔術師じゃった。あれがドルマゲスじゃろう」

「…………そう、でしたか」

「あやつは狂っておるように見えた。常人ではないじゃろうな」

 

 人を殺す相手を私はあまり常人とは思えないが、そういう意味合いでトーポさんが常人と言ったわけではないだろう。ここの世界の人であるトーポさんが狂っていると評するぐらいなのだから、私からしてみれば正しく狂人である可能性が高い。

 そんな相手が王や姫様、アミダさんやトロデーンのみんなを元に戻してくれる可能性なんて限りなく低いんじゃないかと思えてくる。

 

「あの娘も可哀そうにな……随分と兄を慕っていたようじゃ」

「……兄ですか」

「お前さんにも兄弟が居るのか?」

「居ます。上に二人。兄が」

「ではお前さんの事を心配しているじゃろうな」

 

 それはどうだろう。全く心配していないとは思いたくないが、同じ程度に呆れているか怒っているか、どちらかの気がする。まぁそれはどっちでもいいが。

 

「……どっちだろう」

「何がじゃ?」

「あぁいえ……その、私が居ると魔物が活発になってしまうという話で、このままエイトさん達と一緒に居てもいいのだろうかと」

「構わんじゃろう。エイトはそのつもりのようじゃったぞ」

「なんとなくそうじゃないかなとは感じていましたが……どうしたものか」

 

 普通に魔物が出てくるよりは一緒に居て出ない方がいいかもしれないし、活発になった魔物に襲われるよりはそうではない方がいいかもしれないし。

 

「あの国の王と姫の護衛に徹すればよいじゃろ。そうすればエイトも安心して動ける」

「それは考えていたんですけど……理想を言えば私が王と姫様の面倒をどこか落ち着けるところで見て、エイトさんが自由に動けるようにするのがいいかなって。

 でも王は一ヶ所にじっとしていられるようなタイプじゃないみたいなので無理だろうなと。そうすると一緒に動く事になって、行く先々で現地の人に迷惑を掛けてしまうんじゃないかと……」

「相変わらず考え込んでおるのぅ」

「性分でして……」

「お前さんが望んでしているわけではあるまい。そこまで責任を感じる必要は無いと思うがの」

「被害が出れば動機の有無に関わらず結果で判断されるものですよ。たぶん。

 悩んでいても私の選択は一緒に居るという事以外無いのは判っているので、そうなった時はすっぱり見捨ててもらわないといけないなと、その覚悟を付けている途中です」

「単純明快故に難儀な性格というわけか」

 

 難儀というか、そうやって可能性を立てて構えていないと簡単に潰れてしまう。メンタルが強くない人間のせめてもの抵抗というヤツだ。

 物思いにふけっていると、隣に腰かけていたトーポさんがぼふんとネズミに姿を変えた。それに気づいて後ろを振り向くと、赤い髪をツインテールにした少女が階段から降りてくるところだった。

 

「あら、あなたは……」

「こんにちは。村の子供たちに『ゼシカ姉ちゃん』が心配と言われて様子を見に来た者です」

「ええ? さっきの人達だけじゃなかったの? もうポルクにマルクったら」

「ゼシカさんが心配だったからですよ。あまり責めないであげてください。それと、今さらですがゼシカさんで合っていますか? 私は旅の者でリツと申します」

「そうよ。あなた一人でここまで来たの?」

「えぇまぁ。少しばかり魔法が使えますので」

「ふーん。魔法が使えるんだ」

 

 赤髪少女に正面からガン見された。

 なかなか発育がよろしい少女で、自己主張激しい胸を前にして泣いている自分が居る。

 

「でも今は魔物が多いみたいだから危ないわよ?」

「幸い魔物には会いませんでした」

「そうなの? 変ね。まぁいいわ、ついてらっしゃい。村までなら送ってあげる」

 

 送るつもりが送られる立場になってしまったが、結果は変わらないので問題はない。さっさと少女についていく。

 

「女で旅するのって大変じゃない? しかもその歳で」

「そうですね。一人では大変だったと思いますが、連れが居ますから何とかなっています」

「なんだ一人じゃなかったのね」

「ゼシカさんも一人で外を歩かれるのは危険ではないですか?」

「平気よ。私もちょっとだけど魔法が使えるの」

 

 ふふんと自慢げに胸を張られるが、止めてくれないだろうか。コンプレックスを刺激されて泣いている自分が泣きを超えて全力逃走しかねない。

 

「そうでしたか」

「あなたも使えるのよね」

「まぁ……教えてくださった方には諦めかけられましたが」

 

 昔のテレビと同じ矯正方法まで取られたし。

 

「難しいものね」

「感覚でものを言われるのですが、どうにも私はそれが判らなくて魔力自体も掴めなかったんです」

「そうなの? わたしは制御の方が難しいんだけど」

「制御はまぁ……慣れれば」

 

 慣れるというか実のところ、どの魔法も魔力の蛇口を解放すると、望んだ魔法が勝手に発動してしまうので制御も何もあったもんじゃない。一度そうやって使った魔法なら構築陣を身体が覚えているので形をいじったり調整したりしてみるが、それでも使う時は蛇口を解放するだけ。制御のせの字も無い。

 アミダさんには、本来魔法は構築陣を魔力で描く事で発動するもので、それを制御と呼び習得する上で一番難しいところだと教わった。そう考えると私の魔法はやり方が違う気がしないでもない。

 

「そうよね。慣れの問題なのよね………兄さんもわたしの好きなようにしろって言ってくれたし」

 

 何やら横で少女が不穏な事を言い始めた。

 

「どうせ反対されるだろうけど……」

 

 親子喧嘩のフラグか? それとも対村か? とりあえず私は何も聞かなかった事にしよう。


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