ドラクエは5か6までしかしていません   作:send

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魔物を見学した

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「お前たち。ゼシカお嬢さまから頼まれごとをしとったんじゃろう。まったくフラフラしよってからに」

「あ、いけね。そうだった」

「ほれほれ。ゼシカお嬢さまからお叱りをもらう前にさっさと行かんか!」

「ふわぁーい」

 

 年配の女性に言われて素直に掛けていく子供達。

 

「すみませんね旅の方」

「あぁいえいえ」

 

 こちらに向き直られたので反射的に大丈夫ですと受け答える。

 

「あの子たちも悪い子たちじゃないんだけど……」

「あの、夜なんですけどあの子達大丈夫ですか?」

「今は言っても聞かんからな……」

 

 溜息をつく年配の女性。『仇』と言っていたので何か事情があるのだろう。大人が見ているのならあの子達も大丈夫であろうし、人様の事に無暗に首を突っ込むのも失礼なのでここらで撤退しよう。

 

「後ろはお連れさんですかい?」

「後ろ?」

 

 見ればエイトさんがこちらに走って来ていた。その後ろには村に入ったところに王と姫様、ヤンガスさんの姿も見える。子供達に捕まってしまったので時間を取られてはいるが、待っていられなくなる程経ってはいないと思う。何かあった?

 

「どうしたんです?」

「魔物が」

 

 エイトさんは小声で小さく言った。

 

「村の中には」

「入ってきてはいません。村に使われている守りが有効なんだと思います」

 

 セーフ。魔物連れて入ったら袋叩きどころじゃないだろう。

 

「まぁゆっくりしていってくだされ」

 

 エイトさんと小声で話していたら放置してしまった年配の女性が立ち去りそうになったので慌てて聞く。

 

「あ、すいません宿はありますか?」

「宿なら」

 

 年配の女性が指さした方、村の中を流れる小川の先に宿の看板をぶら下げている民家が見えた。

 女性に礼を言って取り急ぎ宿を取る。ふくよかなおかみさんが夜中だというのに嫌な顔せず対応してくれたので、王の事も例の設定で通して早々に落ち着く事が出来た。ただ小さな村の宿なので部屋などなく、所謂相部屋状態で全員同じところで休むのだが……私はそっとベッドから抜け出し宿を出た。

 音を立てないよう宿を出て夜空を見上げると、大きな月の姿。視線を地表に戻すとさすがに深夜という時間帯だけあって人の姿は無い。

 

 行きますか。

 

 懐にはお守りのようにキメラの翼がある。木の棒を握りしめて村の入り口まで行き深呼吸を一つ。覚悟を決めて足を前に出した。

 

「………」

 

 だが、まぁそんないきなり魔物が現れるというわけでもない。ちょっとふらつかないと会えないだろう。

 

「………………」

 

 ふらふらふらふら。草原を歩き回ってみるのだが一向に出会わない。もしやせいすいの効果が残っているのか? と、思ったがエイトさんが魔物が現れたと言っていたから効果は切れているだろう。あったとしても完全ではない筈だ。

 

「………おかしいな」

 

 体感にして一時間程歩いてもスライム一匹たりとて出会わなかった。

 

「お前さんはほんに不思議じゃな」

「っ……あぁもうトーポさん、居るなら居ると言ってくださいよ」

 

 いきなり後ろから声を掛けられたので本気でびっくりした。

 トーポさんはひょいひょいと私に並び、面白そうにあたりを見回してひげを撫でている。

 

「恐れをなして逃げているというわけではないようじゃ。むしろその逆じゃな」

「逆?」

「逆じゃ。寝ておる」

「………魔物が?」

 

 生物であるなら寝るかもしれないが、夜行性の魔物は居ないのだろうか?

 

「そうじゃ。安らかに休んでおる。これでは襲ってくる事はないじゃろうな」

「……居るには居るんですね」

「そうじゃが、お前さん休んでおる魔物をどうするんじゃ?」

 

 ぼこります。とは、言う自信が無かった。

 

「………見学しようかと」

「見学?」

「その……一度も魔物を見たことが無いので。知識としては知っているんですが、実際に見たことが無いと、いざというときに困るかもしれないと思いまして」

「一度も無いのか?」

「はい」

「まるで聖域のような所にお前さんは居たんじゃな」

 

 聖域。なんて似合わない響きだろう。思わず笑いそうになった。

 

「見るだけなら大丈夫じゃろう。こっちじゃ」

 

 トーポさんは軽く言って丘を下り始めた。ご老体だが、足腰は丈夫そうだ。竜人だから普通の人とはスペック自体が違うのかもしれない。

 

「そういえばトーポさん、成人って何歳からなんですか?」

「成人? 確かこちらでは十五からじゃったと思うがどうしたんじゃ?」

「いえ、私の居たところと違ったら対応が変わって来ると思ったので。下手に子ども扱いして気分を害してしまうのは悪いですし」

 

 ほぉとトーポさんは興味ありそうな顔をこちらに向けてきた。

 

「ちなみに私のところで成人は二十歳です。十五だった時代もありますけどね」

「二十か。こことは随分と違うの」

「そうですね……感覚が違うのでどういう反応をしたらいいのか時々迷います」

「迷う? どうしてじゃ」

「どうして……うーん。どう言いましょうか。例えばある地域ではチーズが神の食べ物だとします」

「神じゃと?」

「例え話です。例え話」

 

 だからそこまで食いつかないでください。

 

「その地域ではチーズは神様が食べるものであって人が食べるものではない。けれどそれを知らずそこでチーズを食べてしまうと」

「なるほど、異端か」

 

 話が早くて助かります。見かけによらずトーポさんは回転の早い人だ。

 

「しかしお前さんは竜も人も区切りは無いと言ったな」

「そりゃ考えは考えであって目に見えるものじゃないですから。言動に現れて初めて人は認識出来るので、わざわざ面倒になりそうな事を口にはしませんよ。子供が夜中に出歩いていて大丈夫かとか、その程度の事なら言いはしますが、子供が武器を持っている事について指摘はしません。ここでそれは普通なんでしょう?」

 

 トーポさんは足を止めた。視線の先には、でっかいキノコと羽飾りのついた赤い帽子をかぶった狐っぽいものが丸まっていた。

 

「『おばけきのこ』と『サーベルきつね』じゃよ」

 

 おばけきのこ。確かにかさの部分が赤く斑点模様になっている。起き上がってくれたら顏がありそうだ。……生で見るとすごいな、これ。

 

「お前さんの言う通り、子供でも武器は手にする。過ぎたものは大人が取り上げるじゃろうが、武器を手にすること自体を咎める事はしないじゃろう。

 ふむ。お前さんの考えを表に出すと厄介そうだの」

「全部が全部ってわけじゃないですけどね」

 

 苦笑して言うと、ちょいちょいとトーポさんがしゃがむように手招いた。なんだろうと思ってしゃがむと、頭を撫でられた。

 

「お前さんだけが気張る事はない。『大人』ならわしがおる」

「………はい」

 

 少しだけ目頭が熱くなった。トーポさんの素性は判らないが、それでもエイトさんと同じで優しい人だ。顔を上げると穏やかに笑っているトーポさんが居て実に気恥ずかしい。

 

「トーポさんは魔物と戦う時に参加されているんですか?」

「ちょこちょことな。昨日は魔物が多くて久々に動いたわい」

「……その魔物が多い、というのはコレと何か関係があるんでしょうか」

 

 目で丸まっている魔物を示すと、トーポさんは難しい顔をした。

 

「おそらくそうじゃろうな。お前さんが居るとこうして休んでおるが、居なくなった途端活発になっておった」

「え………」

 

 それ、まずくないか? 私が通ったところは魔物が活性化するとか、どんな疫病神だ。

 

「そう心配せずとも一日かそこらで元に戻っておる」

「ならまぁ……」

 

 大丈夫。か? いや、それでも十分迷惑な気が。

 

「お前さんは何もしておらんのじゃろ?」

「ないですないです。全く何も」

 

 強いて言えばせいすいまくぐらい。でもせいすいで活性化する魔物って……居るのか? 居たらそこら中で活性化してるか。普通にせいすいって使われてるもんな。

 

「まぁ……わしも何となくじゃが、お前さんの傍におるとそういう気が無くなるような気がするんじゃ」

「戦う気が失せるという事ですか?」

「戦うというか……争う気にならんというか……」

 

 そんな変な特技を覚えたつもりは無いのだが。

 二人でうーんと唸っていると、不意にひょこりとキノコが起き上がった。すぐに二人して警戒したが、キノコはぼーっとした後こちらを見て首を傾げるような仕草をした。ちなみに顏の部分がめちゃくちゃ怖い。実際のキノコに顔をつけてはいけないと心底思った。垂れ下がった舌に歪んだ目とかホラー過ぎる。仕草が『首を傾げる』という可愛げのありそうな代物でも、こいつがやるとおどろおどろしい。

 

「む」

 

 キノコはやおらポテポテと近づいてきた。トーポさんは警戒を解かないがこちらから仕掛ける事はせず様子見をしている。私もそれにならって見ていると、どんどん近づいてきてとうとう私の前までやってきた。

 

「………」

「………」

「………」

 

 二人と一匹の間に、沈黙が流れた。

 何だこの間はこの空気はと内心戸惑っていると、キノコはまた首を傾げるような仕草をした。うむ。間近で見るとさらに怖い。

 

「リツ」

「はい」

「お前さんに懐いたようなんじゃが」

「はい!?」

 

 驚いて声を上げたら目の前のキノコがびくっと身体を震わせておずおずとこちらを伺うような様子を見せた。

 

「ほれ、お前さんに反応しておる。敵意も無いようじゃから懐いたんじゃろう。あちらもだな」

「え?」

 

 あっちと指さされた先には、赤魔導師っぽいなと思った狐がぼやーとした顔でトテトテとこちらに近づいてきていた。

 目の前にはこちらを見上げるホラーキノコ(おばけきのこ)。あちらには眠気眼の赤魔導師狐(なんとかキツネ)

 

「に」

「に?」

「逃げましょう」

 

 もし仮に、本当に懐いているのだとしても養う甲斐性なんてこれっぽっちも持っていない。

 


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