ドラクエは5か6までしかしていません   作:send

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子供があらわれた

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 占い代は要らないと言われ、宿へと戻ると馬車の用意をしているエイトさんが見えた。

 

「戻りました。遅くなってすみません」

「おかえりなさい。大丈夫ですよ、まだ準備している途中ですから」

「良かった。手伝うことがありそうですね」

 

 姫様にも「戻りました」と声をかけてエイトさんとハーネスを調整しながら取り付ける。教わってまだ間もないが、少しは慣れてきた。

 それにしても、虹の泉とか見つけられるだろうか? 世界地図はあるがかなりアバウトな感じだった。前人未到の地でも想像で書かれていそうな気がする。もし誰も行った事が無い場所だとすると聞いて回っても情報が得られないかも知れない。何も無いという結果よりはいいが、あれだけの映像で見つけ出すというのもなかなか苦労しそうだ。

 

「リツさん?」

「……え? あぁ、すみません」

 

 いつの間にか手が止まっていたようだ。

 

「何を占ってもらったんです?」

 

 小さく聞かれ、私は目を瞬かせた。まさかエイトさんにばれるとは思っていなくてちょっと驚いた。意外と聡いじゃないか。

 

「元居た場所のことですか?」

 

 どことなく不安げに聞かれた。何でそんな反応をするんだろうと考えて、何となく理由に思い至った。なので、苦笑して首を振った。

 

「呪いを解くものが無いか聞いたんです。ドルマゲスを見つけてもうまくいくとは限らないでしょう?」

「……そうか。そうですね」

 

 一瞬きょとんという顔をした後、なるほどそうかと呟くエイトさん。

 

「虹色に輝く泉がそうみたいです。占い師の方もご存知ないようでしたからこの付近には無いと思うんですけどね」

「うーん。僕も聞いたことが無いですね」

「確実な手段かどうかわかりませんから、こっそり探しましょう」

「そうですね」

 

 頷いたエイトさんの表情(かお)に、先ほどの不安そうな影は無かった。

 安全面では完全にお荷物だが、それでも私の存在がエイトさんの精神的負担を軽減するというのなら喜んでその役目を担おう。頼りになる十八歳だが、頼られてばかりでは彼も疲れるだろう。当初から呪いを解くまではと考えていたので私としては全く問題無い。どうせ鳥の影なんて見分ける自信なんて無いし。

 準備を調えると王が元気よく出発を宣言し、町を出た。鼻歌まで歌っているのはあれだろう。宿屋のおかみさんがサービスで昼食にサンドイッチを持たせてくれたからだろう。人扱いされて本当に嬉しそうだ。ありあわせで作ったクッションの座り心地も悪くなさそうだ。

 

「……出ないでげすね」

 

 よかったよかったとしみじみ感慨にふけっていると、ヤンガスさんがキョロキョロと回りを見ながらエイトさんに言った。そういえばエイトさんもやけに警戒している。

 

「あ」

 

 そうだ。そうだった。魔物がわんさか出るんだった。

 

「リツさん、せいすいならまいてます」

 

 慌ててせいすいを取ろうとしたら前の方に居るエイトさんから声が掛かった。いや良かった。先にまいてくれていたか。

 

「昨日はそれでもひっきりなしに出て来て大変だったんでげすが……」

「しかし一向に現れんぞ?」

 

 王の言葉にエイトさんとヤンガスさんは首を捻った。

 

「ヤンガスの言う通り、昨日は絶え間なくと言っていいくらい襲撃があったんです。……ちょっと変ですね」

「エイトがそう言うのならそうだったのじゃろうが……まぁ良いではないか、出ないにこした事は無い」

 

 全くだ。対峙しなければと思う反面、未だに怖いという気持ちの方が強い私としては有り難い。

 南の関所とやらに行く途中で小休憩を挟んでおかみさんのサンドイッチをいただく。食パンのサンドイッチではなくて、フランスパンのようなものに切れ込みを入れて肉や野菜を挟んだがっつりしたものだ。歯ごたえもあってちょっと顎が疲れるがこれはこれでおいしい。よく噛まないといけないから、それで満腹中枢が刺激されて男の人でも食べたという気になるのかもしれない。満足そうな顔のヤンガスさんを見ているとそんな気がしてくる。

 一方姫様はおそるおそる草を食んでいたが、意外とおいしいと感じたのか途中から抵抗なく食んでいた。そのまま野生に帰られても王が可哀想なので、もらった果物を食後に切って食べてもらう。草よりはやっぱりこっちの方がおいしいようで、にこにこしていた。改めて思うが、この姫様は相当精神力がある。やはり一国の跡継ぎともなればどんな時でも泰然としていなければならないのだろうか。見た目は美少女にしか見えないのに、そんな厳しい教育を受けていたのかと思うと自分とは違う人なんだなぁと思えてくる。こんなに可愛いのに。

 ぼうっと姫様を見ていると姫様に顔を寄せられた。『どうしたの?』と問われているようだ。

 

「いえ、私も無駄に年だけ重ねているわけにはいかないなと」

 

 首を傾げられた。前後の脈絡無く言ったから姫様からは意味不明だろう。

 

「姫様をしっかりお守り出来るよう頑張ろうと思っていた。という事です」

 

 本意半分に留めて伝えると『無理はだめ』というような顔をされた。

 こういう反応を見るとトロデーンの気風だなと思う。城下町で暮らしていた時も穏やかな場所だとは思っていたが、上がこういう性格なら下も人情で動く人が多いのも頷ける。

 ただ、それが良いか悪いかの判断は別として国としてはちょっと心配だ。王を持たない国の人間が考える程度の事なのだが、上に立つ者は周りを身代わりにしてでも生き残らなければならないのではないか。と、思う。

 見た感じ国を国として形成している要素は民と共に、象徴とも言える王の存在が大きい。私には馴染の無かった感覚だから王を讃える(そういう)光景を不思議な思いで見ていたが、つまりそれはそういう事なのだと思う。王も姫様も、トロデーンの民の拠り所だ。

 まぁそんな事を私の口から言うというのもおかしな話だし、余計なお世話にしかならないので言う気はなく、王や姫様が無茶しないかこっちが見ておく必要があるなと注意事項に追加するだけだ。

 昼食の休憩を終えて関所まで行くと、木製の柵が黒く焦げて破られていた。炎系の魔法で無理矢理突破したというところだろう。

 

「こ、これをドルマゲスがやったというのか……? 何と言う恐るべき力じゃ……」

 

 戦慄したかのように言う王の横から、エイトさんがこっちに視線を寄越してくるのでパタパタ手を振る。わりと柵が太いからメラミじゃ無理だ。三発ぐらい連続でぶち当てればこうなるかもしれないが。

 

「奴に追いついたところで果たしてこれだけの力の持ち主をどうすることができよう……?」

 

 弱気とも取れる王の発言に、エイトさんはこちらを見て意味深に笑う。いやいや魔法使えても実戦はまだ無理だし、破壊活動なんてしないから。

 

「はっ! いかんいかん。弱気は禁物じゃ。わしらは何としてでもドルマゲスを捕らえねばならんのじゃ」

 

 気を取り直して姫様に進むよう声を掛ける王。

 

「ドルマゲスの野郎、閉じた関所をぶっこわして進むとはえげつねえことをしやがる」

 

 エイトさんの横で何やらヤンガスさんも言っているが、そちらも橋を壊した張本人。私から見るとどちらかというと橋を落す方がえげつないと思う。本人も落ちかけたので狙ったわけではないだろうが。

 

「どれだけ強いか知らねえがアッシはこういう強引なやり方は好かねえでげすよ。やっぱり兄貴の敵はアッシの敵でがすね。今それを確信したでげすよ!」

 

 強引なやり方ねぇ。

 エイトさんは微妙な顔で笑っている。微妙な顔になっているのは私が微妙な思いで見ているのに気付いているからだろう。エイトさんはもう橋での出来事を気にした様子は無い。

 私が気にし過ぎなのだろうか。だがああいう出会いをしてあっさりと信用出来る程強い精神を持ってはいない。私だけなら騙されようが利用されようが私だけの問題なので気楽なものだが、王や姫様、エイトさんも行動を共にしているとあっては不測の事態を考慮に入れようと思考を巡らせてしまう。侮っているつもりは無いが、エイトさんや姫様はまだ子供だ。子供を守るのは大人の役目だ。……実に頼りない大人だが。

 トラペッタを昼に出たので途中で夕暮れとなり、野宿をするか進むかで迷ったが王の意向で進む事になった。この先に村があると宿屋のおかみさんに聞いていたので多少無理してもなんとかなるだろうと特に異論なく同意。姫様も馬車を引く事に慣れたのか当初程疲れた様子は見られない。

 日が暮れて月明かりが道を照らし出してきたが随分と明るい。月が大きく感じるのは気のせいなのか事実そうなのか。望遠鏡とかで月を見たらどう見えるのだろうか? 私の知る月面と同じような感じか、はたまた全く別の顔を見せるのか。ちょっと見てみたい気もする。

 そんなどうでもいい事を考えているうちに村の姿が見えてきた。石の壁ではなく木で作られた壁で囲われた、牧歌的な村だ。結局、どうでもいい事を考える暇があるくらい魔物は現れなかった。始終気を張っていたエイトさんが一番疲労の度合が強い気がする。

 

「陛下、あのリーザス村でドルマゲスが目撃されたか確かめませんか? 有力な手がかりを掴めるかもしれません」

「ん? おぉそうじゃな!」

「ではひとまず宿があるか確認してきます。あのアーチのあたりでお待ちください」

「うむ」

 

 村の門の前にある木で組まれた素朴なアーチで待ってもらい、村に入る。入口の門の上には不思議な形の風車が取り付けられており、そこから見える店の屋根も赤と青でペイントされ、いかにも民族調という様相だ。トラペッタよりも時間の流れがゆっくりしていそうな雰囲気漂う村に、ひょっとして宿無いかもなぁと思いながらきょろきょろしていると、子供が一人駆け寄ってきた。

 

「待てっ!! お前何者だ!」

 

 バイキングのような兜をかぶった男の子は唐突に誰何してきた。

 

「はい?」

「いーや、わかってるぞ。こんな時にこの村に来るってことはお前らも盗賊団の一味だな! マルク! こいつらサーベルト兄ちゃんのカタキだ! 成敗するぞ!」

「がってんポルク!」

 

 子供がもう一人駆け寄ってきた。こっちは鍋を逆さまにしてかぶっている。手にしているのは私も愛用している脱穀用と思われる木の棒。バイキングの兜をかぶっている方は背丈に不釣り合いな剣を背負っているところからして、わんぱく坊主一号二号なのだと思うのだが『仇』というのが引っかかった。

 

「いざじんじょうに勝負っ!!」

 

 背中の剣に手を掛けて、気合だけは十分に勝負を挑んできたのだが……少年よ、たぶん君はその剣を抜けないのではないか? 君の腕の長さと背中に背負った剣の長さは、どう見ても剣の方が長い。エイトさんみたいに器用に鞘を滑らして抜くという特技でも持ってないと宝の持ち腐れだ。鍋をかぶった方はちょっとびくびくしているので、バイキング頭の方に引っ張られているのは容易に想像ついた。が、どうしよう。鉄拳制裁加えてもいいのだろうか。そもそもなんで突っかかられているのかよく判らない。時間が時間というのも判るが、それだけでここまで敵意を向けられるものなのだろうか。その前に子供がこんな時間に外を出歩いていていいのか。

 

「こ…これ! お前たち! ちょっと待たんかい!!」

 

 とりあえず怪我はしたくないからスカラでも使っておこうかと身構えた時、年配の女性が子供たちの後ろから急ぎ足でやってきた。

 

「よく見んかい、この早とちりめが! この方は旅のお方じゃろが!」

 

 年配の女性はそう言うと、容赦なく子供にげんこつを落した。

 

「いってぇ!!」

「ふえ~ん!!」

 

 片方痛がり、片方泣いた。しかしこの女性、鍋を殴っても全く痛がる素振りを見せないとは手練れか。

 




2014.03.01 脱字修正

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