ドラクエは5か6までしかしていません   作:send

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模索してみた

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「おかえりなさい」

 

 エイトさんは部屋に入ると疲れたような顔をして私とトーポさんを見比べた。

 

「何をしていたんです?」

「何って、お留守番?」

 

 トーポさんに視線を移して「ね?」と聞けば、知らんぷりをするようにトーポさんはエイトさんに走って行った。さすが幼い頃から見守ってきただけの事はある。ネズミのふりがうまい。

 

「鍵はちゃんと掛けてくださいね」

「あ」

 

 そういえば掛けていなかった。

 

「リツさんってしっかりしているようで、どこか忘れっぽいですよね」

「はは。完璧な人なんて居ませんよ。と、抵抗しておきます。お話はちゃんと出来ました?」

「一応お願いの内容は聞きました。水晶玉を探して欲しいそうです」

「町の南、大きな滝の下の洞窟に水晶が眠っているとか言ってやしたね」

 

 エイトさんに続いて部屋に戻ったヤンガスさんがベッドに倒れ込みながら言った。

 

「父親が高名な占い師だったそうですが、水晶玉がただのガラス玉になってから占いが当たらなくなったそうです。それで元のようになって欲しくて水晶玉を」

「はぁ、占いですか」

 

 私はタロット占いぐらいしか知らないから水晶玉で占うと言われてもピンとこない。でも、この世界ならそういうのも十分実用の力として認知されているだろう。夢見しかり水晶玉しかり。実に不思議な世界だ。

 

「その高名な占い師という方の名前、エイトさんはご存知でした?」

「いえ、僕はあまりそういうのには詳しくないので。ひょっとすると陛下はご存知だったのかもしれません。先程報告したらドルマゲスの行方を占ってもらえるかもしれないから水晶玉を探そうと言われました」

「そうでげすか? あのおっさんはただユリマって子が親孝行だとか言って勢いだけで手伝えって言ってたように思うでげすがねぇ」

「ヤンガス」

 

 なるほど。たぶん、実際の反応としてはヤンガスさんの内容が近いのだろう。結果としてはエイトさんの内容でも間違っていないというだけで。

 

「じゃあ明日はその滝の下の洞くつに行くんですね」

「その事なんですが、洞くつに行くのは僕とヤンガスだけにしようと思っているんです」

「大丈夫ですか? 日帰り出来る距離にあるならいいんですけど」

 

 私は戦闘では足手まとい。陛下も同様だが姫様だけは馬車をひいているので、物資の運搬という意味で大きな意味を持つ。薬草だとかどくけし草だとか手当に必要なものも、食糧も手持ち以外は全部馬車だ。

 

「聞いた感じでは行って帰るぐらいなら日帰りで出来そうでした。洞くつで探す時間を考えると戻りは遅くなるかもしれませんが、その程度なら大丈夫です」

「……頼ってばかりで申し訳ありませんがエイトさん頼りなので無茶だけはしないでください」

 

 本当に。この青年に何かあれば、詰む。

 

「大丈夫でげすよ! 兄貴にはアッシがついてやす!」

 

 それは不安要素なんだが。と思ってエイトさんを見れば、それも含めて大丈夫と言うように頷いてくれた。こんなに頼もしい十八が居ていいのだろうか。私が十八の頃は親の庇護下にある自覚もなく自由に馬鹿をやっていた。買い食いしたり自転車で坂道をどれだけ早く上れるか競争したり。そういえばこの世界の成人って何歳からなんだろう。後でトーポさんにでも聞こう。トーポさんなら多少おかしな事を聞いても吹聴しないだろう。

 

「ヤンガスさんも気を付けてください」

 

 半ば上の空でヤンガスさんにも声を掛けたら、何故か感動したような顔のヤンガスさんが出来上がった。感動に至るまでの変化を注目していたわけではないので、何事かとまたエイトさんを見れば苦笑して首を振られた。『気にするな』か? それならそれでいいが。

 

「宿の方に水を貰ってきますから、疲れてなければ汚れを取ってから寝てください。ヤンガスさん、着替えはありますか?」

「これがアッシの一張羅でげす」

 

 自慢して言わないでくれ。ステテコパンツが似合いそうな男だなとか一瞬思ってしまったじゃないか。

 

「では着替えを用意しますので、お嫌でなければそちらに着替えてください」

 

 食器を持って部屋を出ようとするとエイトさんも付いてきて、そういえば彼の着替えも馬車かと思い出した。宿の厨房に食器を返してから姫様の所へ行く。馬車の荷台からそれぞれ服を取り出したのだが、その際陛下に頭ごなしに部屋で休むよう言ったではないかと怒られ凹んだ。姫様とエイトさんがとりなしてくれたけど、思いの押し付けは良くないと身を持って痛感した。

 水はエイトさんが私の分も運んでくれたので楽だった。ドアの前で邪魔になるからと受け持っていた服を返すついでに着替えた服は外出している間に洗っておく事を告げておく。勝手にやると怒る人もいるので、ここは重要だ。

 エイトさんは戸惑っていたようだが、トロデーンでもアミダさんに来た客の世話をしていたと言ったら諦めたのかお願いしますと言われた。客と言っても女性で年配の方だったのだが言わなきゃばれない。言い回しというのは面白いものだ。

 一人部屋へと入り、今度は鍵を掛ける。

 

「寝てしまいたい……。いかんいかん」

 

 ベッドの誘惑に耐え、なんとか身体を拭いて着替えストレッチをしてから長い一日の終わりを迎えた。が、恐るべきことに次に目を開けたら朝だった。私はのび太か。

 しかもエイトさんとヤンガスさんはすでに出発しており、陛下も姫様も朝食は食べ終わって、あとは私だけという状況。皆さまの優しさが辛い。

 お店の人に謝りながら朝食をいただき、宿泊日数を延長する手続きを取ってから洗濯。晴れていて実に気持ちのいい洗濯日和だ。鼻歌混じりに洗濯していたらついて来ていた姫様に笑われた。まぁ音痴なのでしょうがない。宿の裏にロープを張らせてもらい、洗濯物を干す。これが終わればお昼の用意をする時間まで暇だ。

 となればアレかなと思って、馬車の荷台から本をひっぱり出し軒下でぺらぺらと捲る。時々、カンカンと荷台から音がしているのは王が工作をしている音だろう。大事そうに特徴的な形をしている釜を抱えていたので、たぶんそれだ。いつかそれでご飯作れと言われたらどうしよう。なかなか先鋭的な形の釜なので確信を持って言える。使いづらい。

 姫様止めてくれるかなぁと考えている時、ふとある魔法を思い出した。出来るだろうかと手を握ったり開いたりしてみる。他の魔法と同じ要領でいいなら出来そうな気はする。

 

「………モシャス」

 

 ぼふんと煙に包まれて、ぐんと視界が高くなった。煙はすぐに消え、私は自分の身体を見ようとして人との視界の違いに内心『うおっ』と、口からは「ぶるる」と声が出た。

 やってみてから思ったが、魔物になってたらかなりやばかった。幸いにも馬なので狙った通りの結果になって良かった。ぎこちなく歩いて姫様に近づき、さっきからこっちを凝視していた姫様に「こんにちわ」と声を掛けてみる。

 

「ぶるる」

「ぶるるる」

 

 姫様は戸惑いつつも返事をしてくれた。馬同士なら話が出来ないかと思ってやってみたのだが、姫様も私も馬語を知らないので無理のようだ。聞き耳頭巾とかあればなぁと思わずにはいられない。

 しばらくするとモシャスの効力が切れて元の姿に戻った。

 

「馬同士なら会話出来るかもしれないと思ったんですけど……難しいですね」

 

 残念そうな姫様を見ると、どうにか出来ないものだろうかと考えてしまう。いつのまにか腕を組んで一点を見詰めていたようで、姫様に肩を押されて我に返った。

 姫様は気にしないというように首を振ってくれたが、諦めきれない。

 

「……モシャスって、そういえば仲間全体に掛かってたっけ?」

 

 記憶がはっきりしないが、仲間四人が全く同じ絵姿になっていたような覚えがある。私は改めて姫様を見た。

 私が馬になるんじゃなくて、姫様が人に変化すればいいのではないか? ドラクエ4でも冒頭で幼馴染が勇者の姿に変化したではないか。ドラクエ4と同じなら変える姿は狙える。私の目の前には透き通っているが、姫様の人形態と思われる姿がある。

 

「姫様。出来るかどうかわからないのですが、先ほど私が馬に化けた魔法を姫様に掛けてもいいでしょうか?」

 

 姫様は首を傾げてから、頷いてくれた。

 私はしっかりと姫様の姿を見詰め、魔法を唱えた。

 

「モシャス」

 

 ぼふんと煙が舞い、薄れた後に見えたのは変わらぬ馬の姿。

 モシャスはきちんと出来ていたと思う。馬にしてしまったというわけでもない。なら考えられる事は一つ。

 

「申し訳ありません。私の力が足りないようです」

 

 姿を変える呪いに姿を変える魔法。同じ効果を持つ力が反発したんじゃないかと思う。こちらの力が強ければ打ち勝つかもしれないが、シャナクが効かない時点で負けているのは証明されたようなものだ。

 あまりよく判っていなかったらしい姫様は気にした様子はなかった。ぬか喜びをさせていたら申し訳なかったので、それで良かった。

 昼食を宿の人にお願いして追加で出してもらい三人で食べて、王はまた工作に戻り私は寛ぐ姫様の横で本を捲る作業に戻った。

 エイトさん達が戻ってきたのはもう夜も更けた夜中の事だった。やけにボロボロだったのですぐさま怪我は無いのか調べさせて貰ったが、エイトさんもホイミを使えたようで治しながら戻ったらしい。目立った怪我は無かった。

 

「洞くつの魔物が大変だったんですか?」

 

 残しておいてもらった夕食を温めなおして並べながら聞けば、二人そろって違うと首を振られた。

 

「町を出たところからすごかったんです」

「ひっきりなしに魔物があらわれやしたね」

「ここに来るまでは全然出なかったのに休む間もないぐらいだったから、洞くつに行くにも時間が掛かって」

「洞くつの中も中に居た魔物を全部倒したんじゃないかってぐらい倒したでげすよ」

「水晶玉は見つけられたから良かったけど」

「最後のあいつは強かったでげすからね」

 

 交互に話してくれたが、せいすいは使わなかったんだろうか。

 

「エイトさん、せいすいは持って行かれました?」

「使ってなければ戻るのが明日になっていたと思います」

 

 使ってなおそうだったのか。今後が不安だ。

 

「明日、僕とヤンガスとでユリマさんに水晶玉を渡してきます。その時にドルマゲスの事も確認してみますね」

「あぁその事ですけど、私も一緒に行っていいですか?」

「リツさんも?」

 

 王は姫様の傍に居るので、そちらと一緒でもいいが私も確認したい事がある。

 

「行かない方がいいですか?」

「いえ、それは問題ないと思いますが気になる事があるんですか?」

「もし占ってもらえるなら、という程度の事です。あまりお気に無さらず。そうそう、着替えですけど天気が良かったので乾いてます。そこに置いてますから」

 

 ベッドの上に置いた畳んだ服を指さして、また洗濯物は出しておいてくださいと伝えドアを閉めた。

 占いをしてもらえればいいが。ついでにその占いが本当に当たるものであればいいが。

 

「そこを疑ってたら全部が全部雲を掴む話になっちゃうもんなぁ」

 

 千里の道も一歩から。眉唾だろうと当たって砕けろだ。


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