新訳のび太のバイオハザード ~over time in Gensokyo~   作:たい焼き

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ひみつ道具の存在によって世界は良くも悪くもなり得る。


河童のエンジニア

 風がのび太の横を吹き抜けていく。勢い良く吹く風はとても心地よく感じる。

 

 現在のび太は空を飛んでいる。いや、厳密に言うと飛んでいるというのは嘘である。正しく言うと鈴仙に抱えられて移動している。

 

 「本当にこっち何ですか?」

 

 鈴仙が聞いてきた。

 

 「ええ、合ってますよ。」

 

 「でも、こっちは妖怪の山の方向ですよ。魔理沙が住んでいるのは魔法の森です。方角が違いますよ。」

 

 「大丈夫です。あのカバンには念の為に発信機をつけておきましたから。」

 

 のび太は万が一盗まれた場合に備え、自分が作った物全てに発信機をつけていた。全ての設計図に紙よりも薄く作られた発信機をつけていた。

 

 「でも、どうして妖怪の山なんでしょうか?何か心当たりはありませんか?」

 

 「そういえば、妖怪の山には河童達の工房があるって聞いたことがあります。」

 

 「河童・・・ですか?」

 

 鈴仙の話によると、幻想郷の河童は手先が器用で道具の作成が得意なうえ、技術に対する関心が非常に高く、幻想入りした外の世界の機械を拾い集めては、住処に持ち帰って分解したり組み立てたりしているため、技術力が高いそうだ。

 

 実際、20世紀の現在では開発どころか研究すらされていない光学迷彩を完成させているなど、技術力の高さが伺える。

 

 「なるほど・・・自分じゃ内容を理解できないから河童に設計図を見せて、あわよくばひみつ道具を作らせるつもりですね。」

 

 「急ぎましょう。設計図が河童達の手に渡る前に!!」

 

 「大丈夫ですよ。僕が何十年かけて作ったひみつ道具を10分やそこらで解析される心配はありませんから。」

 

 「でも、少しだけスピードをあげますよ。」

 

 そういうと鈴仙が速度を上げる。そのため、抱きしめている腕にも力も少し強くなったため、鈴仙の胸がのび太に当たる。こんな事を言うのもあれだが、柔らかかった。

 

 「あの・・・鈴仙さん・・・。」

 

 「どうしたんですか?ワイリーさん。」

 

 「その・・・胸が・・・」

 

 ここでようやく、鈴仙が今の状況に気がつく。

 

 「えっ・・・キャッー!!」

 

 鈴仙が顔を真っ赤にして思わず腕の力を抜いた、それによってのび太を掴む力が弱まり、のび太は空に投げ出されそうになる。

 

 「れ、鈴仙さん・・・。落ちる・・・」

 

 この後、しばらくこの状態が続き、のび太はもう少し鈴仙が我に変えるのが遅かったら、地面に落ちてしまうところだったそうだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 妖怪の山 河童の工房

 

 箒を乗りこなし、渓谷をを飛ぶ。箒を自分の体の一部のように、未踏の渓谷を飛び抜ける。やがて、大きな洞窟の前まで来ると、箒から降りる。

 

 そして、そのまま洞窟の中に入っていく。しばらく歩くと、大きな扉があった。外の世界でいうところのシャッターという物だ。

 

 「おーいにとりー。私だ。開けてくれ。」

 

 しばらく待ったが、反応がなかった。

 

 「なら勝手に入るぞ。」

 

 魔理沙はシャッターをゆっくりと開ける。やがて完全に開けると、魔理沙は中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 中は分解された機械やスクラップの山だった。高く積み上げられており、今にも崩れそうで危険だった。だが、肝心のにとりが見当たらない。

 

 「にとりー。どこだー。」

 

 やがて、工房の中心辺りまで来ると、作業台らしき物があった。

 

 「そんなに騒がなくても聞こえてるよ~」

 

 作業台の近くに少女が一人座っていた。白いブラウスに、肩の部分にポケットが付いている水色の上着、そして裾に大量のポケットが付いた濃い青色のスカートを着用している。

 

 「なんだよにとり。いるなら返事してくれよ。」

 

 「ゴメンゴメン。ちょっと集中してたんだ。」

 

 随分と油やほこりで汚れていた。かなり長い間作業に没頭していたのだろう。

 

 「大丈夫かよ・・・風呂でも入ってきたらどうだ?」

 

 「後で入るよ。それより、わざわざここまで来たってことは何か良い物でも手に入れたの?」

 

 にとりは、魔理沙が何か持ってきたのかが気になっていた。目を子どものように輝かせていた。

 

 「そんなに慌てるなよ。ほら、この中だ。」

 

 魔理沙は盗ってきたカバンを作業台の上に置き、中に入っている物を取り出す。

 

 「何これ?設計図?」

 

 流石エンジニアと言ったところか、瞬時にその紙が何かの設計図だと言うことを理解する。

 

 「やっぱりそうだよな。お前だったら何の設計図かわかるんじゃないか?」

 

 「一体どこから持ってきたの?」

 

 「いつも通り、ちょっと借りてきただけだぜ。」

 

 「も~魔理沙ったら・・・。まあいいよ。ちょっと待ってて。」

 

 にとりは魔理沙から設計図を受け取ると、隅々まで確認し始めた。その間、彼女は殆ど瞬きをしなかった。5分くらい経っただろうか。魔理沙がにとりの様子を確認すると、にとりの顔が先程とは明らかに変わっていた。

 

 「おい、にとり!?大丈夫か?」

 

 流石に様子がおかしいと思ったのか、魔理沙がにとりに声をかける。

 

 「魔理沙・・・・・。一体これをどこから持ってきたんだい?」

 

 にとりの顔は先程までの明るく元気な顔から、何かとんでもない事を知ってしまって疲れたような顔になっていた。

 

 「どこからって・・・それより、一体何が書いてあったんだよ。」

 

 「それはそれは恐ろしい事さ。スキマ妖怪の力を再現したドアや普通の人間でも空を飛べるようになる竹とんぼや、物を大きくも小さくも自由にできる照明装置とか、果てにはタイムマシンまで・・・。とにかくこれに書かれている物は、何の能力も持たない人間でも特殊な力が使えるようになる道具の設計図だよ。」

 

 「それの何が恐ろしいんだよ。夢が増えていいんじゃないのか?」

 

 魔理沙は設計図の内容について、楽観的にしか考えなかった。だが、にとりは違った。

 

 「私達妖怪の存在が危うくなるような物ばかりだからさ。考えて見てよ。もし、この『どこでもドア』っていうスキマ妖怪の一部の能力が使えるドアが実在するとするよ。そうしたら、スキマ妖怪の力は特別な物じゃなくなるんだ。」

 

 「つまり・・・どういうことだ?」

 

 「まだわからないのかい?このどこでもドアが実現したら、スキマ妖怪が存在する価値がなくなるとまではいかないけど、確実に価値が低くなるんだ。そうなった妖怪はもうおしまいさ。人間や他の妖怪から恐れられなくなり、妖力も補給できなくなる。」

 

 「そうか、妖力が補給できなくなったら力を失ってしまうからな。」

 

 「それに、あいつの力がなくなったら、この幻想郷すら存在が危うくなるからね。」

 

 しばらくの間、沈黙の時が流れる。

  

 「まあ、設計図に書かれた道具を普及させなければいいから、簡単な話だよ。」

 

 先程のシリアスはどこへ言ったのか、にとりの顔に明るさが戻ってくる。

 

 「で、この道具は作れるのか?」

 

 「う~ん難しいかな。多分100年あれば作れると思うよ。」

 

 「そんなにかかるのか?パパっと作れないのかよ~。」

 

 魔理沙も人間だ。100年も待っていられない。

 

 「無茶言わないでよ。これに書かれているものはそんなに簡単なことじゃないんだ。これを見て驚いた理由のもうひとつさ。」

 

 「どういうことだよ?」

 

 「この設計図に書かれている技術は明らかに外の世界でもオーバーテクノロジーなんだ。幻想郷は外の世界でも忘れ去られた物が流れ着く場所だよ。外の世界で作られていない物が流れ着くこと自体ありえないんだよ。」

 

 幻想郷には博麗の巫女によって管理されている博麗大結界があるため、外の世界の人や物が幻想郷の内部に入り込む事は基本的にできない。しかし、何らかの理由によって外の人間や物が幻想郷に流れ着く事はある。そのため、外の世界にないものが幻想郷にあるということはありえないのだ。

 

 「簡単に言ったら、この設計図はオーパーツみたいな物だね。とにかく、今じゃ技術が圧倒的に足りないから作れないよ。」

 

 「そうか・・・それなら仕方ないな。他の奴をあたって見るよ。」

 

 魔理沙が工房から立ち去ろうとした直後だった。 

 

 「逃がさないわよ。」

 

 魔理沙が工房から立ち去ろうとすると、どこからか声が聞こえてくる。鈴仙だ。

 

 スクラップの山を足場として蹴り、足場から足場へと飛び移りながら魔理沙に近づく。その速度は常人には残像しか捉えられない程早かった。

 

 魔理沙の姿を正面に捉えると、手を銃の形にして、人差し指から弾を放つ。銃弾の形をした弾だ。速度が一つ一つ違う弾幕が魔理沙を追い詰める。少し遅れてのび太も駆けつける。

 

 「おっと。」

 

 だが、魔理沙は仮にも数々の異変の解決に貢献している。流石にこの程度の弾幕の回避方法は心得ている。

 

 僅かな弾幕の隙間を箒を乗りこなし、くぐり抜ける。一発も当たらずに楽々回避すると、鈴仙の方へ向き直る。

 

 「ちょっと、私の家の中で弾幕ごっこなんてしないでよ。」

 

 弾幕が着弾した時の衝撃で埃が宙にまい、瓦礫の山が崩れる。

 

 「おいおい、不意打ちなんて面白くないじゃないか。」

 

 「動くと撃つわよ。」

 

 鈴仙がいつでも弾幕を撃てるよう、銃口を魔理沙に向ける。

 

 「撃つと動くぜ。」

 

 対して魔理沙は落ち着いていた。彼女にとって、こんなことは日常的なのだろう。ゆっくりと彼女が保有するミニ八卦炉を取り出し、鈴仙に向ける。

 

 (鈴仙さんの援護をしたいけど、この弾幕じゃかえって足手まといだ。何かないのか・・・。)

 

 辺りを見渡すと、作業台の上のスクラップの山から旧式のハンドガンを1丁を見つけた。なんとか使用できそうだが、弾が一発しか入っていなかった。

 

 (チャンスは一度。狙うのは・・・)

 

 のび太は一度しか来ないチャンスに全てを込めるために、銃を構えて待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どうした?撃たないのか?」

 

 魔理沙は余裕な表情を見せていた。彼女は一度、鈴仙のスペルを全て打ち破っているからだ。今更同じスペルが来たところで怖くもないのだろう。いつも通りに避けるだけだからだ。

 

 「動くなって警告してるでしょ。」

 

 鈴仙は声を大きくし、手を前に突き出し、さらに威嚇する。

 

 「今更威嚇が怖くて、弾幕ごっこなんてやってるわけじゃないぜ。」

 

 なんと、魔理沙は鈴仙に突っ込む。鈴仙も流石にこの行動は読めず、慌てて弾幕を放つが、魔理沙は大胆かつ冷静に対処、これを回避する。

 

 「っ!?この!!」

 

 鈴仙は先程よりも大きな弾幕を一発放つ。大きさはだいたい戦車砲と同じくらいの大きさだ。弾幕が魔理沙に向かって飛んでいくが、魔理沙はこれも後ろに飛んで回避する。この時、弾幕は床に着弾したため、煙がたち、鈴仙の反応が遅れた。

 

 「もう一度こいつを食らわせてやる!!」

 

 「!?しまった!!」

 

 魔理沙はミニ八卦炉を構え、魔力を集中させる。そこには、膨大な量の魔力が集まっている。

 

 ミニ八卦炉には、使用者の魔力を増幅させる効果もあるが、それはあくまで補助的なものであるため、半分以上は魔理沙本人の魔力である。魔理沙が持つ膨大な魔力は才能もあるだろうが、その背景で努力や特訓を怠ってはいなかった。

 

 努力をし続けて、今まで生きてきたのだろう。全ては天賦の才能を持った親友に追いつくために。

 

 「喰らえッ!!マスタースパー・・・」

 

 鈴仙は魔理沙のスペルを防ぐために両手でガードし、衝撃に備える。ミニ八卦炉が発する光が増大し、今にもマスパが放たれようとしていた。

 

 パァン!!

 

 乾いた銃声が一発だけ響き渡る。しかし、誰もそのことに気が付かなかった。

 

 一向に魔理沙のスペルが飛んでこない。ガードを解いて確認してみると、ミニ八卦炉が魔理沙の手になかった。ミニ八卦炉は煙を立てて床に転がっていた。ミニ八卦炉の中心には弾丸が一発食い込んでいた。

 

 「ぐっ・・・何が・・・どうなって・・・」

 

 握り締めていたミニ八卦炉にいきなり強い力がかかったことにより、魔理沙の手から弾き飛ばされたのだ。その影響で魔理沙の手にも強い力がかかったため、ミニ八卦炉を持っていた手が痺れて使い物にならなくなっていた。

 

 鈴仙は即座に理解した。一発の銃弾がミニ八卦炉に直撃し、これを破壊すると同時に、魔理沙の手から落としたのだ。

 

 なら、これほどの離れ技を誰がやったのか。少なくとも、自分達の半径100m圏内には人がいなかった。にとりは巻き添えを恐れて、先程からスクラップの影に隠れている。ワイリーさんも作業台の近くにいたはず。

 

 

 かろうじて聞こえた銃声から、旧式の拳銃だということがわかった。だけど、ハンドガンで100m以上の狙撃を実行するのは困難なはず。ましては、魔理沙の持っているミニ八卦炉の中心を正確に撃ち抜くことは不可能に近いだろう。それを旧式の銃でたやすく行った人は一体誰なのだろう。

 

 鈴仙を辺りを確認する。そして、100m程先の場所にある作業台から拳銃を持った人が魔理沙に銃口を向けていた。

 

 なんと、拳銃で魔理沙のミニ八卦炉を撃ち抜いた人物は、ワイリーだった。




今作初めての戦闘ですが、如何ですかね?
わかりにくかった場合、感想やこのアカウントにダイレクトメールを送って指摘してください。改善したいと思います。

現在は修了式が終わり、休みが続いているため、出来れば3日に1回投稿を目指したいと思います。

それでは、次回お会いしましょう。

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