新訳のび太のバイオハザード ~over time in Gensokyo~   作:たい焼き

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コラボ編 第三話

 数ある森の殆どにアンブレラ社は研究施設を作っている。主に新型の生物兵器の開発やその亜種の改良型の生産を行っている。カモフラージュにスペースを使い過ぎたため、テスト運用を行う程のスペースはない。そのためすぐに実戦に投入され、その度にデータが取られる。

 

 大半のB.O.Wはテスト後に自爆装置によって爆破・廃棄され、データだけが次なる研究の材料となる。

 

 こうして生まれて間もない大量のB.O.Wが戦わされ、肉片にされて来た。だが全てのB.O.Wが肉片になるわけではない。中には偶発的に出来た強力なB.O.Wや実験をする中で新たな能力や戦闘力が上がったB.O.Wもいる。

 

 それらのB.O.Wはデータを使ってクローンとして培養・大量生産され、すぐにB.O.W部隊として幻想郷で敵勢力を殲滅するのに使われる。

 

 のび太が零夜達に合流する前に倒したハンターの部隊もその中に入る。そいつらも戦闘能力が強化された新型で、一体でも普通の特殊部隊程度ならば一小隊を楽々壊滅させることが出来る戦闘能力を持っていた。しかしのび太の『生物の動きを完璧に把握した戦い方』の前には無力だった。

 

 のび太は最強の戦闘ロボットを作るにあたって、生物が持つ筋肉を使うことで出来る動きや脳から神経を伝わって筋肉が動くまでの時間を調べつくした。人間に限りなく近くなったロボットの動きは人間が出来る動きと殆ど変わらないからだ。

 

 ならば一体一体のロボットのプログラムを解析するより、戦闘ロボットの基礎となっている人間の動きを解析した方が早いとのび太は気が付き実行した。

 

 ロボットの研究をする内にそれがのび太の頭と体に染み付いていた。だからこそのび太は始めて見たB.O.Wの動きも理解でき、B.O.Wが動く前にすることを予測して先手を撃つことができる。

 

 のび太が倒したハンター達ものび太にとっては始めて見る新型かもしれないが、それの元になった物はハンターだ。そのため予測がしやすく、然程苦戦することなく倒すことが出来た。

 

 のび太に殺されたハンター達は自爆して処理されずに研究所の中に収容された。

 

 今まで見てきた死体の中でこれより綺麗な死体はあるまい。傭兵達が回収してきた新型ハンターの死体を見ながら研究員達はそう思った。

 

 「信じられるか?これ。」

 

 「いや・・・」

 

 硬く変化した皮膚には一つも傷はなく、ハンターの急所と皮膚と皮膚の隙間を的確に撃ち抜かれていたため、余計な血は流れずに綺麗な状態で殺されていた。

 

 硬い皮膚はライフル弾の直撃をものともせず、ロケット弾も鋭い爪を持った腕を使って弾く事が出来るだろう。このB.O.Wはかつてアンブレラ社最強だった『タイラント』の戦闘能力をそのままハンターに移植し、かつ素体はハンターよりも強化というコンセプトの元に作られた試作型だった。

 

 研究所の職員達もこのハンターの出来には満足しており、それが取ってくるデータにはそれ以上の期待をしていた。しかし殆どその力を使うことができずにほぼ一撃で仕留められ、かつ倒した者の姿や戦いが端末を壊されたことでカメラにもデータにも残っていないのだ。

 

 多くの資材を使って作った試作型をこんなにあっさりと倒されたことによる苛立ちと怒りによって研究員達のストレスは頂点に達していた。

 

 「本当に端末は全て破壊されたのか?一つくらい残っていないか?」

 

 「だめです。全て銃弾で撃ち抜かれています。」

 

 死体の解剖をしていた研究員の一人が取り付けていた端末に空いた穴から9mmの弾丸を取り出した。

 

 「問題はこれを誰がやったかだ。これほどの戦闘能力を持った奴が幻想郷にいるのか?」

 

 「いえ、候補は幾つかあるものの銃器を使う者はいません。」

 

 「第一支部から送られて来たデータにあった『氷室零夜』とかいう奴じゃないのか?」

 

 零夜のデータを手にとった研究員の一人は仮説を立てる。

 

 「奴のデータを見る限り、十分脅威とも言えるがここまで正確な射撃技術は無い。それに奴は戦い方がB.O.Wに近い。おそらく違うだろうな。」

 

 研究所の所長を勤めている男が零夜のデータを見ながら分析した。

 

 「ですが所長。我々の脅威になることには変わりません。どうしましょうか?」

 

 「そうだな・・・確か例のプラーガを使って作った試作品があっただろ?あれを使おう。」

 

 「あれですか?まだ調整が足りない状態ですが・・・」

 

 「構わん。データさえ取れれば後は改良も量産も可能だ。ついでに奴らを始末出来れば我々の評価も上がることだろう。」

 

 所長は後ろにあるカプセルの中で最終調整を行っている試作品に目を遣る。カプセルの中にいるコウモリのようにも虫の幼虫にも見えるような異形の怪物が眠りについていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 永遠亭

 

 最初はあんなことがあったからか警戒されたものの、零夜と紫が説明してくれたため、すぐに警戒は解けた。

 

 のび太の二人がかりでも勝てなかったことが余程ショックだったのか、妖夢と鈴仙がいつも以上に訓練に励んでいた。

 

 妖夢や鈴仙達が次の戦闘に備えて訓練や武器の手入れを行っている様子をのび太は零夜と共に見ていた。

 

 「あいつら頑張ってるな。」

 

 二人が修行しているのを零夜はチョコを食べながら見ていた。

 

 「あの二人中々やりますね。」

 

 動きをしばらく見ていたのび太は二人の動きに関心する。あの時ニ対一で勝てたのは二人が子どもだと思って油断していただけだとしか思えないくらいだ。

 

 「それよりさっきの話は本当か?」

 

 「はい、アンブレラ社の兵士から盗み聞きしましたから確定だと思いますよ。それにあの人に発信機もつけておきましたし。」

 

 「だからあの時あいつを逃したのか?」

 

 「それもありますけどね。僕は一応人殺しはしませんよ。」

 

 一応というのは、基本はいわゆる不殺を念頭に置いているが『相手や状況によっては止むを得ない』との覚悟も持ち合わせているということだ。

 

 「それで場所が分かるってことだよな?」

 

 「そうです。明日行ってみますか?」

 

 「明日か。なら俺は先に武器の手入れでもしておくか。」

 

 そう言って零夜は自分の部屋に戻っていった。

 

 「さて・・・その前にやることがあるな・・・」

 

 のび太は今後に備えて修行している二人の元に駆け寄る。

 

 「二人共、調子はどうだい?」

 

 「あっ、ワイリーさん。」

 

 二人もすぐに気が付いてのび太の元に向かって来た。

 

 「どうしたんですか?」

 

 「いや、そこを通りかかったから見に来ただけだけだよ。」

 

 ふと視線を落としたのび太は二人の手が血で汚れている事に気付いた。妖夢が使っている竹刀にも血がついていた。訓練の成果が出ているということだろう。

 

 「随分訓練を積んでるな・・・」

 

 手を見るだけで分かる。幻想郷を守ろうとして戦っているのは零夜だけではないのだ。幻想郷を愛する者が絶望に負けず、今尚抵抗しているのだ。

 

 「調子は・・・あまり良くないですね。」

 

 妖夢が自信が無いのか小さい声で答えた。

 

 「ワイリーさんに負けてから、自分の力に自信が持てなくなって・・・」

 

 自信を無くしたことで二人の心の中に迷いが生じていた。いくら作戦のためとはいえ、貴重な戦力を二人も犠牲にすることは今後の戦いに大きな打撃を与えるだろう。

 

 「あの時、君達は本気だったのかい?」

 

 「いえ・・・あの時は子どもだと思って完全に油断していました。」

 

 「ということは君達の実力はあんな物じゃないってことだろう?」

 

 のび太は置いてある訓練用の拳銃と木刀を手に取って的の前に立つ。

 

 「人っていうのは不思議な生き物でね。その人自身の気持ち次第で物事の技量や結果が変わってくるんだ。それこそ天と地とも言えるくらいね。」

 

 のび太は左手に持った拳銃で的に弾丸を放ちつつ、右手の木刀で側にある藁で作られた的を振り下ろす。

 

 拳銃と木刀の標的となった二つの的は片方は中心を綺麗に撃ち抜かれ、もう片方は真っ二つに切り裂けれてドサッという音を立てて地に落ちる。

 

 一瞬で二つの動作を行ったのび太を鈴仙達はただ呆然と見ているしか出来なかった。

 

 「ど、どうやったんですか!?私にも教えて下さいよ!!」

 

 しかし力の差を魅せつけられたにも関わらず、すぐに二人の目が憧れに溢れた目になる。

 

 「こんなのは極普通に人間が出来ることだよ。誰にだって出来るさ。」

 

 のび太は使った得物を床に置きながら答えた。

 

 「ただし、これは人が出来る動きを完璧に理解した場合の話だ。これさえマスターすれば人相手には負けないと思うよ。」

 

 それはのび太がゼロに搭載するAIのために一生をかけて編み出した戦い方と言ってもいい。相手の動きを読み、予測し相手が攻撃するよりも前に回避・反撃する。

 

 のび太が長い時間をかけて編み出した戦い方は対人戦やのび太が熟知しているB.O.Wに対してはかなり有効な戦法だった。それはのび太が作ったロボット達に受け継がれている。

 

 「本当は教えてあげたいけど、生憎時間が無いんだ。教えることは出来ない。」

 

 アンブレラの研究所の位置が分かった以上、すぐに叩かなければ何をしてくるかわからない。

 

 「そんな・・・何とか出来ませんか?」

 

 「大丈夫だよ。君達なら今すぐにでも出来るさ。」

 

 のび太はそう言って二人を励ます。

 

 「君達は相手の動きを予測出来るのに十分な知識や経験を積んでいるはずだよ。」

 

 「でも私達、戦いの経験なんて殆どありませんよ?」

 

 「そんなことはないさ。僕がさっき見た限りでは、君達は十分に強いよ。」

 

 妖怪に異変を起こしやすくし、人間に異変を解決させやすくした『スペルカードルール』は、弾幕ごっこで遊ぶ中で知らない内に少女達を鍛えていた。

 

 「後君達に足りないのは覚悟だ。」

 

 「覚悟・・・ですか?」

 

 「ああ、これから君達はたくさん戦いを経験していくだろう。その中で時には一生を左右したりするような壁が立ち塞がるかもしれない。そこで悩んで答えを出せず、最悪の道に進む事だけはしないで欲しい。」

 

 のび太は部屋から出ようと出口の方まで歩いて行く。

 

 「僕みたいな人生を歩まないようにね。」

 

 のび太が誰にも聞こえないような小さい声で漏らしたのを、二人は聞き逃さなかった。

 

 「それってどういう・・・」

 

 二人がのび太に真意を聞く前にのび太は部屋から出て行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (僕は自分が選んだ運命にほんの少しだけ後悔していたのかもしれない。)

 

 あの時未来へ行くという道を選ばなければもし失った人生が戻らなかったとしても新しい人生を仲間達と歩む事が出来たのかもしれない。

 

 「僕は・・・何十年経った今でも・・・あの日常を欲しているのか・・・」

 

 自分でも情けないと思っている。何十年前の幻想に取り憑かれたまま歳を取ったのび太は、結局世界を変えるどころか生きて元の世界に変える事も叶わなかった。

 

 まだ行ける、まだ戦えると限界に近かった自分を騙し、絶望に抗い続けた結果、元の世界に戻るチャンスも棒に振った。

 

 のび太は生きるための理由を失いかけていた。鈴仙達の前では明るく振る舞っていたが、それは無理をして虚勢を張っているだけに過ぎない。

 

 ただ生きがいを失って抜け殻のように長い一日を過ごすよりは、死んで楽になった方がいいのではないかと思った事もあった。そのために必要な覚悟もやり残した事も片付けた。

 

 しかし幻想郷に住む少女達が、死へと向かうのび太の足を踏み留ませていた。

 

 「今はただ・・・戦うしかないか。」

 

 「どうかしたのか?顔色が悪いぞ。」

 

 ため息しか出ない今ののび太に喝を入れたのは零夜だった。

 

 「いえ・・・ちょっと考え事を。」

 

 「そうか。早めに休んでおけよ。肝心な所で倒れてもらっても困るしな。」

 

 零夜はのび太にそう言い残して部屋の中に戻って行こうとした。

 

 「そういえば・・・一つ聞いていいですか?」

 

 「ん?なんだ?」

 

 のび太は零夜を呼び止める。零夜もそれに応じる。

 

 「零夜さんはこの戦いが終わったらどうするつもりなんですか?」

 

 零夜はしばらく黙り込んで考えた。実際には五分とも経っていないのだが、その時は何倍も長く感じた。

 

 「俺はそんな先の事を考える余裕はねぇな。今を一生懸命に生き抜く事だけしか考えてないんだ。答えてやれなくて悪いな。」

 

 「大丈夫です。ありがとうございます。」

 

 「その様子だと問題は解決したみたいだな。」

 

 のび太の目が今さっきの物とはまるで違う事に気がついた零夜は安心した様子で部屋の中に戻って行った。

 

 のび太も部屋の中に戻って装備を確認し始める。使い始めて数える程度しか使っていない銃はどれも汚れが付いてなく、綺麗だった。

 

 のび太はそれらの銃全てに一つずつ弾を込め、一つずつ動作を確認する。もちろん問題はないのだが、何度も確認しなければ気が落ち着かなかった。

 

 「やってやろうじゃないか・・・今自分の持てる全ての力を使ってアンブレラをぶっ潰してやる。」

 

 のび太が決意するのと同時に窓の隙間からうっすらと光が差し込み、夜明けを知らせる。

 

 同時に森の方から爆発に似た爆音が聞こえた。しかし余りにも小さかったため、のび太を始め、永遠亭に住む者全員が聞き逃してしまった。




もう限界が近いかもしれん・・・手抜きすまん

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