新訳のび太のバイオハザード ~over time in Gensokyo~   作:たい焼き

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今までの日常は戻って来ない。なら前を受け入れて進むしかない。


終わりの始まり

 鈴仙はワイリーの部屋の押入れの中から見つけた資料に目を通す。

 

 『T-ウイルスの性質、症状、治療法及びB.O.W.について』

 

 本の形にまとめられたそれを1ページめくる。

 

 このウィルスはアンブレラ社創立以前に、ジェームス・マーカスとその助手であるブランドン・ベイリーらにより発見されたRNAウイルスの一種「始祖ウィルス」をベースとし、様々なウィルスの遺伝子を組み込むなどして作り出された変異体である。「T」は「Tyrant」(タイラント:暴君)の頭文字から取られている。

 

 鈴仙は資料の次のページをめくる。

 

 マーカスがアークレイ山地の幹部養成所で所長を務めていた頃、その立場が始祖ウィルスを研究するのに都合の良いこともあって、マーカスはヒルに着目しT-ウィルスの第1号を生み出した。ヒルは寄生や捕食、繁殖を繰り返し行う生物であり、マーカスはこの生物自体を生物兵器として優れていると考えた。そして1978年2月13日に実験体のヒル4匹に始祖ウィルスを投与し、それからヒルの肉体肥大化・知能向上・集団による捕食やマーカスの姿への擬態という変化が発生。これで糸口を掴んだマーカスはヒルの体内で生み出された、始祖ウィルスとヒルのDNAが組み合わさった変異体のウィルスを「T-ウィルスの第1号」とし、さらなる研究のために何人もの人間をモルモットにしていった。

 

 その後T-ウィルスはマーカスの手を離れ、ウィリアム・バーキンやアルバート・ウェスカーなどの手によって量産され、ラクーンシティだけではなく南極研究所や日本国の東京都練馬区月見台すすきヶ原など、各地にあるアンブレラの研究所で実験・改良が進められていた。

 

 

 読んでいる途中で、吐き気を催す程の邪悪な意思を見た気がして気分が悪くなる。鈴仙はそれでも読み進めていく。

 

 

 ・感染によるおもな症状

 

 流出したT-ウィルスは広く生物に感染し、人間においては次のような傾向の症状を引き起こす。人間がゾンビ化していく様相を感染者の視点から克明に描いたファイルとして、日本国のすすきヶ原内のアンブレラ社日本支部の実験施設で書かれた「飼育員の日記」を参照とする。

 

 初期症状

 

 感染者の初期症状は、全身の痒み・発熱・意識レベルの低下。その後、大脳新皮質の壊死に起因する、知性・記憶の欠如と代謝の異常による食欲の増大を引き起こす。知性・記憶の欠如を如実に表す事例として、手紙や日記を書けても、日付欄に本文の一部が入ったり(欄を間違えても気付けない)、日付を書かなくなったり(何日か思い出せない)、誤字・脱字が多くなったり(誤字・脱字があることに気付けない)、平仮名を多用するようになる。

 

 発症後

 

 知能の低下と代謝促進から来る飢餓感のため、感染者は食欲を中心とした本能的行動をとるようになる。この状態のことを便宜的にゾンビと呼ぶ。体内の細胞が活性化し、既に死滅した細胞でさえも蘇り感染者は異常な耐久性を有することになるが、それに伴い新陳代謝も加速するため、十分な栄養を摂取できない場合は体細胞の分裂と壊死のバランスが合わなくなり、筋力の衰えによる運動能力の著しい低下から始まって体が腐り落ちてしまう。また、喋ることができても、本来話そうとした言葉の1割ほどしか正確に発音できなくなる。一旦ゾンビ化してしまうと、もはや安楽死させることはできず、銃などで殺すしかない。

 

 突然変異

 

 生物の種類によっては感染により巨大化、形状の変化などを伴う「進化」をすることがある。昆虫や爬虫類はこの傾向が強い。

 

 

 外の世界では、こんな物が作られていたのか、と怒りが込み上がってきて、目が紅く光りだす。しかし、鈴仙はすぐに我に返り、再び資料を読み始める。

 

 

 用途

 

 T-ウィルスには異なる生物間の遺伝子交配をしやすくする性質がある。これを利用することで、各種の生物兵器B.O.W. (Bio Organic Weapon) が創り出された。ただし、T-ウィルスは対象の知性を著しく低下させる問題があり、ある程度の命令を理解できる程度の知能の維持が課題とされていた。この研究はタイラントの完成である程度の成功を収めたと評価され、その後はより完成度を高めるための改良が続けられた。ほかにもT-ウィルスが開発された当初は先天性の免疫異常や末期ガンといった難病治療に用いる試みがなされていた。だが投与されて間もないうちこそ劇的な回復がみられるものの、投与が長期に及ぶと肉体の異形化や脳細胞の異常などを引き起こすために、効果が高い抗ウイルス剤を投薬し続けることが重要である。

 

 ・性質

 

 感染経路

 

 T-ウィルスは非常に強い感染力を持ち、空気感染・水を汚染することによる経口感染・血液感染など、あらゆる経路で拡散する。ただし変異性が高く、広がっていくうちに感染力が弱まる傾向にある。基本的に空気感染を起こすのはウィルスが拡散した初期の段階であり、生物に感染した後は血液感染など感染者の体液が血液内に入ることで感染を広げる。たとえそれが爪で引っかかれるなどの微量なかすり傷でも感染する。症状が現れるまでの時間は個人差が大きく特定できないが、感染者の肉体が弱っているほどウィルスの活動が活発になり、発症が早まる。ゾンビに襲撃されたなど瀕死の人間などはごく短時間でゾンビになってしまうため、ひとたび流出すれば、洋館事件やラクーンシティ、すすきヶ原などのような大惨事に直結する。

 

 感染性

 

 感染対象は動物に留まらず、植物でも感染して変異を引き起こす。万一ウィルスに感染しても、早期にワクチンを投与すればゾンビ化を免れることがある。脳細胞を侵食された場合は救う手立てはなく、脳を破壊するなどの直接的な攻撃で活動を停止させるしかない。ワクチンの効能だが感染度合いでは、投与しても効果が現れずゾンビ化することもある。さらに、抗ウイルス剤によって体内に抗体ができる訳ではない。

 

 

 鈴仙はワイリーが恐れていたことがこのウイルスによって引き起こされる物だとすぐに理解した。

 

 鈴仙は生物兵器、B.O.W.のことも気になったが、いち早くワクチンの製作方法と予防方法が書かれたこの資料を永琳に見せるために、彼女の医務室に向かった。何もかもが手遅れになる前に。

 

 鈴仙がワイリーの部屋を飛び出してから、永琳の医務室に辿り着くまでにそれ程時間はかからなかった。

 

 「師匠!!今すぐに見て欲しい物が!!」

 

 「あら、帰ってきてたの?ただいまくらい言いなさい。」

 

 「すいません、急いでいたので。それより師匠、これを見て下さい!!」

 

 鈴仙は見つけた資料を永琳に見せる。永琳も読み進めていくうちに、ことの重大性を理解する。

 

 「これは・・・確かに恐ろしい物ね。」

 

 などと言っているが、永琳は落ち着いていた。

 

 「でも、これは外の世界のウイルスよ?隔離された幻想郷で感染する可能性はないわ。」

 

 「ですが・・・レミリアさんが・・・」

 

 レミリアの能力、『運命を操る程度の能力』の力を知っている永琳は顔付きが真剣な物に変わる。

 

 「・・・うどんげ、今すぐその資料に書かれている抗ウイルス剤をできるだけ多く作るわ。てゐもこっちに来なさい。材料を集めて来てくれないかしら。」

 

 「はいよー。」

 

 話を盗み聞きしていて事の重大さが分かったのか、てゐも素直にここに来た。

 

 「うどんげ。貴方も手伝いなさい。今日は徹夜よ。」

 

 「はい!!」

 

 永琳と鈴仙は繊細な作業を行うため、永琳がいつも薬を作る時に使う、医務室の隣に作られた無菌室に入って行った。

 

 てゐは、二人が見ていた資料の最後のページに目が止まった。そこには、この資料を書いた人物の物らしき名前が書いてあった。

 

 『この資料は、偉大なる友、出木杉英才が命と引き換えに残した資料を元に再編した物である。著者 野比のび太』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてのび太に視点を戻す。

 

 のび太は、紅魔館まで訪ねてきた射命丸文に連れられて、妖怪の山の奥深くにある天魔の屋敷まで来ていた。

 

 目の前には巨大な屋敷に、これまた巨大な門があり、その前を屈強な白狼天狗の門番二人が仁王立ちで門及び、中にいる己の主を守っていた。

 

 「この方は天魔様の客人です。通して下さい。」

 

 門番の白狼天狗が文とのび太を中に入れるために門を開ける。重々しい音を立てながら、ゆっくりと巨大な門が開く。

 

 「私はここまでです。中に入って、真っ直ぐ進むと、天魔様が居られる間に着きます。それではごゆっくり。」

 

 文はそう言い残し、一瞬のうちに消える。彼女が本気でのび太を仕留めに来たら、生身の人間では敵わないだろう。

 

 のび太は決して明るくない部屋の中に入って行く。文の言う通りに真っ直ぐ進むと、他の場所に比べて開けた場所に辿り着いた。

 

 「お主がワイリーか?」

 

 のび太の正面、周りよりも一段高くなっている彼女達の長がいた。

 

 昔の日本の城にあった、自分の地位を誇示する物だ。

 

 「まあ、立ち話も難だろう。そこに座るといい。」

 

 のび太は用意されていた座布団に座る。

 

 「ふむ・・・良い目を持ってるわい。」

 

 冷静にのび太を見た天魔はのび太の目を見て、その人間性を見抜いた。

 

 「お主、聞いたところによると、世界の征服を企んだようだが、その理由を聞きたい。」

 

 天魔の目つきが変わり、少しでも悪意が見えたら消すようなイメージを見せてきた。

 

 「・・・それしか手段が残っていなかったからです。」

 

 「ほぅ、それの真意が聞きたい。」

 

 のび太の返答に興味を持った天魔は、のび太に問う。

 

 「僕は元々、人と同じように意思を持った機械を作る研究をしていました。」

 

 のび太は天魔に自分が未来の世界で今までのことを全て話した。嘘は通用しないと察したからだ。

 

 「以上です。」

 

 「ふむ・・・ならば、お主に聞こう。これから、お主は何がしたい?元居た世界に帰って、世界を変えるのか?」

 

 「それは・・・」

 

 のび太の答えは、一人の天狗の乱入で妨害される。

 

 「天魔様!!大至急報告したいことが!!」

 

 「何だ!?」

 

 「突如、見慣れない建造物が大量にある里から、亡者のような者達が攻めて来ました!!」




今回はお詫びしておきたい事があります。

T-ウイルスの説明で、間違った事を書く恐れがあったので、その部分はほぼ全てwikiからの引用となっています。

読みやすくするために、楽な道に走ってしまったことをお詫び申し上げます。

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