新訳のび太のバイオハザード ~over time in Gensokyo~   作:たい焼き

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異変

 博麗神社

 

 幻想郷の東の端、外の世界との境界に位置する神社であり、外の世界の人里からも幻想郷の人里からも離れた山奥にある。

 

 この神社の巫女、博麗霊夢は今日も変わらず境内の掃除をしていた。落葉が近いのか、木の葉の色が変わり始めた上、落ちる葉も多くなったため、掃いても掃いてもきりがない。その上、この時期はだんだん夜の冷え込みもひどくなってくる。

 

 その分落ち葉を使って焼き芋などといった秋の楽しみが増える。霊夢の楽しみの一つでもあった。

 

 「さて、片付いたしお茶でも飲もうかしらね。」

 

 掃き掃除も終わり、一息付くために霊夢は神社の中に入ろうとする。

 

 「やっほー、霊夢!!」

 

 突然空間が歪み始め、紫色の空間が現れた。その空間の奥は深く、至るところに不気味な目がこちらを見るように存在している。その中から人影が一つ出てくる。

 

 「紫・・・人の至福の時間を邪魔しようってわけ?用があるならちゃんとスキマから出てきなさい!!」

 

 紫と呼ばれた女性は上半身だけスキマから出していたが、霊夢に引っぱり出される。

 

 彼女は仮にも幻想郷の創設に関わった妖怪なのだが、そんな面影は今は見られない。

 

 「ぎゃふん!!痛いじゃないの霊夢・・・」

 

 引っ張りだされたことで下顎を打った紫は、涙目で霊夢の方を見た。霊夢は涙目の紫に興味を示さず、お茶を飲む。

 

 「で、用事は何?あんたがここに来るって事はなにかあるんでしょ?」

 

 「何もないわよ。ただ、もうちょっとしたら冬眠するからそれの挨拶に。」

 

 「・・・だったらさっさと帰りなさい。」

 

 霊夢は至福の時間を邪魔されたのが余程頭にきたのか、いつも以上に冷たい。

 

 「何よ・・・折角来たのに客にお茶も出さないの?」

 

 「あんたは突然押しかけてきた奴のことを客って言うの?」

 

 何も言い返せない紫を見て流石にやり過ぎたかと反省した霊夢は、紫にお茶を持ってきてあげた。

 

 「・・・最近、異変も何もなくて暇ね。」

 

 霊夢が唐突に呟く。

 

 「あら?霊夢は異変が起きた方がいいの?」

 

 「そんなわけないでしょ。異変が起きたら働くのは私だし。」

 

 博麗の巫女の仕事は大きく分けて二つ。幻想郷に存在する結界の一つ『博麗大結界』の管理。もう一つは異変を起こした妖怪を退治し、その異変を解決することである。

 

 異変を起こした相手を弾幕ごっこで戦い、これに勝つことで異変を止めさせるというのが博麗の巫女の勤めである。

 

 「霊夢・・・面倒事の種が向こうからきたわよ。」

 

 博麗神社の参道から少女が一人歩いてきた。何故か右側の方が長い緑髪で、右手には(しゃく)を持っている。

 

 「あら?映姫じゃない。あんたがここに来るなんて珍しいわね。素敵な賽銭箱はここよ。」

 

 「あいにく持ち合わせがありません。」

 

 「あらそう・・・」

 

 霊夢は賽銭が手に入るチャンスだったのに、何も手に入らずに不機嫌そうに答える。

 

 「閻魔様。一体何ご用事でしょうか?」

 

 紫のような幻想郷でも最強クラスの力を持った妖怪でも、映姫のような相手は相手にしにくいのだろう。本人も知らないうちに敬語で話している。

 

 「そうでした。今日は霊夢と紫、貴方達に一つお願いがあってきました。」

 

 「お願い?面倒事は御免よ。」

 

 霊夢はやる気のなさそうに答えた。

 

 「貴方は報酬しだいでしょう。成功したら報酬は払います。」

 

 「わかればいいのよ。」

 

 霊夢は先程の態度が嘘のようにやる気を出し始めた。

 

 「それで、そのお願いとは?」

 

 「ああ、そうでした。実は人を一人連れて来て欲しいのです。」

 

 「人さらいですか?それはちょっと・・・良心というが・・・」

 

 「普段から神隠しをしている貴方が言っても説得力がありませんよ。」

 

 映姫がため息をついて呆れながら言った。

 

 「その人は既に一度死んだのですが、私の部下がサボっている間に三途の川の此岸(しがん)から離れていってしまったのです。おそらくこの幻想郷に紛れ込んでいるのではないかと。」

 

 「人探しじゃなくて幽霊を探せってこと?」

 

 一人分のお茶を入れてきた霊夢はそれを映姫に渡す。映姫もそれを受け取る。

 

 「いえ、前例が無いのですが、私に裁かれる前、つまり此岸にいるときにそこから抜け出した死者は再び肉体を手にして生きているときと同じ状態になると考えられています。」

 

 「つまり、一度死んだのに生き返ったってこと?ラッキーな奴ね。」

 

 「それだけなら、再び死んだ時に裁けばいいのですが、逃げ出した者が厄介な人間でして・・・」

 

 映姫はため息をつく。先程からため息しか出ていない。

 

 「・・・何かしたの?そいつ?」

 

 「ええ、とんでもないことをしようとしてましたよ。世界征服をね。」

 

 その一言で紫の態度が変わる。

 

 「その話。詳しく話してくれないでしょうか?」

 

 「ええ、そのためにここに来たのですから。」

 

 映姫はその人間の罪を全て話した。世界征服を企んだこと、兵器を盗んだり作ったりして破壊の限りを尽くしたこと、その世界征服を何度も行ったことを。

 

 「というわけです。

 

 「でもそれって今から100年以上も先の話でしょ?なんでこの世界に魂があるのよ。」

 

 「多分100年後の未来には三途の川がないんだわ。ないっていうよりは別の形になっているんだと思うけど。」

 

 紫が一つの仮説を立てる。

 

 「そして、その人間は今は永遠亭にいると小町から聞いています。」 

 

 「とにかく、そいつを捕まえればいいのですね?」

 

 「で?いくらくれるの?」

 

 霊夢の目には既にお金しか映っていない。映姫の首根っこを掴んで強く揺する。

 

 「10万でも100万でも出しますから、やめてください!!」

 

 流石の閻魔でもこたえたのか、目の前で星が回っている。

 

 「よしその言葉、忘れるんじゃないわよ!!」

 

 霊夢は早速その人間を捕まえようと飛び出す。

 

 「待ちなさい霊夢。正面から行って勝てると思う?」

 

 紫の言葉で霊夢が止まる。

 

 「相手は世界一つを敵に回したような奴よ。何を仕掛けてくるかわからないわ。」

 

 「ならどうするの?」

 

 「私は式達と幽々子のところに声をかけるわ。貴方は他の有力者のところに声をかけてきなさい。」

 

 「それって・・・幻想郷全部で相手をするってこと?」

 

 「そうよ。ほら、早速協力してくれそうなのが来たじゃない。」

 

 空から猛スピードで博麗神社に向かってくる人影が見えた。それは博麗神社の上に来るとスピードを落とし、霊夢達の前に降りる。

 

 「おっ、紫に閻魔様じゃないか。そんな真剣な顔して何してんだ?」

 

 今、幻想郷が一つになろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一週間後

 

 博麗神社には、大勢の妖怪が集まっていた。冥界、地底の妖怪達、命蓮寺やその地下にある神霊廟の住人達。最も多いのは天狗達なのだが、妖怪の山から出ることが殆どない天狗達がここにいること自体異例のことだった。

 

 「正直言って、ここまで集まるとは思わなかったわよ・・・。一体何をしたの?」

 

 「え?協力しなかったら問答無用で退治するって言っただけよ。」

 

 「・・・慈悲は?」

 

 「ないわよ。」

 

 博麗の巫女の恐ろしさを垣間見た紫は、同時に幻想郷の平和を守るために妖怪達が協力しあう日が来たと、心の中で喜ぶのであった。

 

 そして、自分に脅威が迫っていることをのび太はまだ知らない。




なんか手がすごく進んだから投稿しました。三日に一回と言ったな・・・あれは嘘だ。

これで、話の第二段階に進む準備が出来たので、あと一か二話投稿したらコラボの準備が出来ると思いますので、ホーシーさん見てたらよろしくです。

24時間感想を待っています。

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