【ネタ】もしISの篠ノ之箒が〝文学少女〟を読んだら   作:Mr.OTK

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福音戦です。原作との違いが如実に現れるこのお話。主役交代のお知らせでーす!

なお、今回は百パーセントISのお話。


侍少女と天翔ける椿姫《カメリア》

「向こうに着いたら泳ごうぜ。箒、泳ぐの得意だったよな」

 

「そ、そう、だな。ああ。昔はよく遠泳をしたものだな」

 

 臨海学校でお世話になる旅館へ向かうバスの道中。突如一夏からそう振られて、歯切れが悪い返答をしてしまった。へ、変に思われていないだろうか?

 

 七月の頭のこの校外実習。日程は三日間組まれており、初日は全て自由時間――要は遊び放題ということだ。遊ぶということは、つまり海辺で遊ぶということであって――。

 

「(うぅ……あの水着を着るのか……)」

 

 思い返すのは先日駅前のショッピングモール『レゾナンス』で購入した水着のこと。本当は肌の露出の少ないワンピースタイプにしようと購入するつもりだったのだが……。

 

 ――お客様なら、こちらのビキニタイプの方がお似合いだと思いますよ。スタイルの良さも強調されて、気になるあの人もイチコロです♪

 

「(どうしてあんな見え見えの接客に騙されてしまったのか……)」

 

 最後の悪あがきとして、やたら黒を薦めてくる店員の意見を押し切って白色のものを購入したが、水着の形は結局ビキニなわけで。私は結局、ずっと緊張と憂鬱がない交ぜになった気持ちのままであった。

 

 

◆◇◆◇

 

 

 で――

 

「終わってしまった……」

 

 何が終わってしまったかと言うと、初日の自由時間と、読んでいた本が、だ。

 

 『〝文学少女〟と慟哭の巡礼者(バルミューレ)』の次の巻である『〝文学少女〟と月花を()水妖(ウンディーネ)』。自由時間の全てを、これを読む時間に全て費やしてしまったのだ。

 

 最初は、水着を一夏に見せるのがやはり恥ずかしくなって、本を読んで気持ちを静めてから海に行こうと思っていたのだ。しかし、やはり本編の遠子先輩や心葉に引き込まれてしまい、結局最後まで読みきってしまったのだ。どうやら本編とは時系列の少し異なる物語だったが、相変わらず面白かった。

 

「……さて、もう少ししたら宴会場で夕飯か」

 

 なに、泳げる時間はまだある。きょ、今日は星のめぐりが悪かったのだ、うむ。

 

 そんな風に自分に言い訳しながら、私はいそいそと本をしまうのだった。

 

 

◆◇◆◇

 

 

「ふぅ……気持ちよかった」

 

 夕飯を食べ終わり、海の見える露天風呂でクラスメートとおしゃべりをしながら入浴を楽しんだ。

 

「さて……」

 

 気を引き締める。私は今から一夏の部屋へ遊びに行く。しかし彼の部屋は、あの織斑先生もいる。油断は禁物だ。

 

「ん……?」

 

 と、教員室と書かれた張り紙のある一夏のいる部屋のドアに、顔見知りの人物がいた。

 

「鈴……?」

 

 ぼそりと私がつぶやくとそれで気づいたのか、鈴は私を見た後、人差し指を立てて口につけ、静かにするようにジェスチャーをしたあと、手招きした。とりあえずその指示に従って、鈴の隣に座り込む。

 

「耳、当ててみなさい」

 

 むむ、盗み聞きか。あまりよくないと思うのだが……ま、まあ仕方ない。だいたい一夏が悪い。と、いうわけで失礼して……。

 

『一日お疲れ様。千冬姉』

 

『全くだ。どこかの馬鹿は女子どもの残った体力を引き出したしな』

 

『うぐ、すいません……』

 

 一夏と織斑先生か。ふむ、普段はどんな会話をしているのだろうか、それは少し気になる。

 

『なあ、千冬姉』

 

 ごすっ、と鈍い音がした。殴られでもしたのだろうか。

 

『織斑先生と呼べ』

 

『まあ、それはいいじゃん。ふたりきりだし、風呂上りだし、久しぶりにアレ、やろうか?』

 

『ふむ、アレか……。そうだな、では頼むとするか』

 

『うし、じゃあ横になって』

 

 アレ? アレとは何だ……? アレ……アレ……。

 

 そんな風に疑問に思っていると、ドアの向こう側とはまた別の方向から声が聞こえた。

 

「鈴さん? それに箒さんまで。一体そこで何を――」

 

「シッ!!」

 

 張り込みしていることがばれるのを避けるため、鈴が急いでセシリアの口を塞ぐ。

 

『千冬姉、久しぶりだからちょっと緊張してる?』

 

『そんな訳あるか、馬鹿者。――んっ! す、少しは加減をしろ……』

 

『はいはい。んじゃあ、ここは……と』

 

『くあっ! そ、そこは……やめっ、つぅっ!!』

 

『すぐによくなるって。だいぶ溜まってたみたいだし、ね!!』

 

『あぁぁっ!』

 

 …………。

 

「こ、こ、これは、一体、何ですの……?」

 

 いや、セシリア。その気持ちはよく分かる。それはここにいる全員が思っていることだ。見ろ、鈴も何も言えなくなっているではないか。

 

 だが、と私は想像する。もしも中の状況が、倫理観とか道徳観念を無視した、私たちの最悪の想像通りだとすれば、前の会話がおかしいと思う。

 

 織斑先生はお疲れ様と言った一夏に対し、全くだ、と肯定の意味で返した。姉想い(シスコン)の一夏だ、ともすれば、一夏が提案するのは織斑先生の疲れを取るようなもののはず。そしてそこから横になって、という言葉や、緊張してる? という疑問。何故織斑先生は緊張するような状況にあるのか。それはつまり、全くの受身になるからではないだろうか。例えば、背中を向けるとか。それに、あの嬌声とも苦悶とも取れる声。一夏が力を入れるような声。そこから導き出されるものはつまり――

 

「ああ、そういうことか」

 

 解は出た。それはそうだ、こんなところでそんな事が出来るはずがない。つまり、そういうことだ。

 

『じゃあ次は――』

 

『一夏、少し待て』

 

 二人の声が途切れる。あ、まずい。

 

「「へぶっ!!」」

 

 咄嗟に身を引いた瞬間、鈴とセシリアは突然開いたドアに殴られていた。ああ、やはり気付かれたか。

 

 織斑先生は私たちを見下ろしながら、面白い玩具を見つけたとでも言うかのようににやりと笑った。これは……逃げられないな。

 

「何をしているか、馬鹿者どもが」

 

「ど、どうも」

 

「こ、こんばんは、織斑先生……」

 

「さ……さようなら。織斑先生っ!!」

 

 ああ、無駄な足掻きを。鈴は逃げ出そうとした瞬間首根っこを猫のように掴まれ、セシリアは何故か少しだけ崩れていた浴衣のすそを足で押さえつけられ、逃走に失敗した。

 

「篠ノ之は逃げないのか?」

 

「どうせ捕まるだろうと思ったので。それに、私は一夏に会いに来ましたから」

 

 ほう、と織斑先生は目を丸くした後、私たちに言う。

 

「潔いのはいいが、盗み聞きは感心しないな。だが、ちょうどいい。入っていけ」

 

「「えっ?」」

 

 疑問の声をあげたのは鈴とセシリアだ。なるほど、二人ともまだ分かっていないのだな。

 

「ああ、そうだ。他の二人――ボーディヴィッヒとデュノアも呼んでこい」

 

「は、はいっ!」

 

「分かりました」

 

 鈴がラウラを呼びに、私がシャルロットを呼びにそれぞれがいる部屋に行く。

 

「あれ、篠ノ之さんじゃん。どしたの?」

 

「すまない、シャルロットを呼んでもらえるだろうか」

 

「シャルりん? いいよ。ちょっと待っててね」

 

 …………。

 

「箒? どうしたの?」

 

「織斑先生からの呼び出しだ。多分、拒否権はない」

 

「え……な、何で?」

 

「さあな、私には心当たりは一つしかないが……」

 

 出来れば遠慮したい、という様子を見せるシャルロット。その気持ちは分からないでもないが、避けて通れぬ道だと思うぞ。

 

「はぁ、だよねぇ」

 

 降参、といった風に肩を落としたシャルロットを連れて、もう一度教員室への道を戻る。どうやら鈴の方も、首尾よくラウラを連れて来たようだ。

 

『はぁぁ……。一夏さんって上手ですのね……』

 

『まあ、昔から千冬姉にしてたしな、――は。じゃあ、このまま――上に行くからな』

 

『はい……。お任せしますわ……』

 

 ふむ、セシリアにもしているということは、やはりアレというのは――

 

「さて、入るか」

 

「ちょ、ちょっと箒! アンタ本気?!」

 

「そ、そうだよ! せ、セシリアがあ、あんな声出すなんて、あの、えっと……」

 

「…………」

 

 鈴とシャルロットは動揺と困惑、後恐れか。ラウラは単純に羞恥だな。ま、問題ないだろう。

 

「失礼しま――」

 

「おー、マセガキめ。しかし、年不相応の下着だな。その上黒か」

 

「え……きゃあああっ!?」

 

 バンッ!!

 

 開きかけたドアを、私はすぐさま、勢いよく閉じた。あれは……なんだ?

 

 いや、一夏がアレ――マッサージをしていたのは見て取れた。しかし、なら千冬さんは? いやいや待て待て、落ち着け篠ノ之箒。いや、でも、あの人は何をやっていたんだ? どこからどう見てもセシリアの下着を……深く考えるのは止そう。気を取り直してもう一度。

 

「失礼します」

 

「せ、せっ、先生! 離してください!」

 

「やれやれ。教師の前で淫行を期待するなよ、十五歳。見ろ、篠ノ之などこわ~い顔をしているぞ」

 

「ひっ!!」

 

 ――能面みたいな顔でした。わたくしを虫けらでもみるかのような目つきでした。潰されるかと思いました。(IS学園に通うとある女子高生Sさん)

 

 セシリアが私を見て小さく悲鳴をあげる。むぅ、そんなに怖い顔をしていただろうか。

 

 まあ、時と場所を考えろとか、そもそも一足飛びすぎるだろうとか、おまえは痴女かとか思わないでもなかったが。遠子先輩のように恥じらいを持て、と言いたい。

 

「一夏、マッサージはもういいだろう。ほれ、全員好きなところに座れ」

 

 好きなところ……と言われても、ベッドかチェアしかないのだが……。とりあえずベッドにセシリアとラウラと鈴が、チェアにシャルロットと私が座った。

 

 緊張している私たちを尻目に軽い雑談をする一夏と織斑先生。その様子で鈴とシャルロット、ラウラはようやくマッサージをしていたのだと飲み込めたらしい。

 

「ま、まぁ、あたしはわかってたけどね」

 

「「………………」」

 

 鈴が虚勢を張っているのは明らかだが、いちいち指摘する必要もなかろう。

 

「まあ、お前はもう一度風呂にでも行ってこい。部屋を汗臭くされては困る」

 

「ん。そうする。じゃあ皆、くつろいでいってくれ。って、難しいかもしれないけど」

 

 そう言って一夏はタオルと着替えを持って部屋を出て行ってしまった。くっ、これが狙いか……!

 

「「「「「………………」」」」」

 

 私たちは誰も、一言も喋らない。というか、何を話せばいいかわからない、というのが本音だ。

 

「おいおい、葬式か通夜か? いつものバカ騒ぎはどうした」

 

「いえ、その、織斑先生とこんな風に向かい合うのは初めてですし、何を話せばいいのか……」

 

 私のその言葉に、ぶんぶんと首を縦に振って同意の意を示す他四人。こら、私ばかり矢面に立てるな!

 

「まったく、しょうがないな。私が飲み物を奢ってやろう。篠ノ之、何がいい?」

 

「え!? ええっと……では、ラムネを」

 

「ん、ラムネだな。デュノア、おまえは?」

 

「な、なんでもいいです!」

 

「なら、オレンジジュースでいいか。鳳」

 

「す、スポーツドリンクで」

 

「スポーツドリンクと、ほれ。ボーディヴィッヒはコーヒー、オルコットは紅茶か?」

 

「は、はい!」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 ひょいひょいひょいと各々に飲み物を手渡していく織斑先生。そして、全員でいただきますの号令と共に飲み物を呷る。

 

「飲んだな?」

 

 全員が一口飲んだのを見てにやりとする織斑先生。何かはいっていたのだろうかと動揺する私たちだったが、織斑先生は「ちょっとした口封じだ」と言って冷蔵庫から缶ビールを取り出し、プルタブを開けて一気に中身を呷った。

 

「んっく、んっく……くぅー! うまい! ふむ、本当なら一夏に一品作らせるところなんだが……それは我慢するか」

 

 ……千冬さんの意外な一面を見た。いや、まあ、お酒を飲むのは何も悪いことではないし、変な事でもないのだが。こう、規律に厳しい千冬さんがこうして勤務中にお酒を飲んでいるというのはなんだか違和感がある。

 

「おかしな顔をするなよ。私だって人間だ。酒くらいは飲むさ。それとも、私は作業オイルを飲む機械にでも見えるか?」

 

 その後、口々に意外だという私たち。真面目なシャルロットが「仕事中なんじゃ……?」と尋ねると、千冬さんはすました様子で言った。

 

「堅いことを言うな。それに、口止め料はもう払ったぞ」

 

 千冬さんが私たちの手元に視線を注いで、私はようやく口封じの意味を悟った。なるほど、「お前たちにも飲み物を奢ったのだから、見逃せ」ということか。

 

「さて、前座はこのくらいでいいだろう。そろそろ肝心の話をするか。ラウラ、すまんがもう一本取ってくれ」

 

「わ、わかりました……」

 

 おずおずといった様子で冷蔵庫から缶ビールを取り出し、織斑先生に渡すラウラ。そうしてまた音を立てながら、お酒を呷る織斑先生。一口飲んで嚥下した後、にやにやしながらもどこか冷たさを持った目――まるで品定めでもするような眼差しを私たちに注ぎながら問うた。

 

「お前ら、あいつのどこがいいんだ?」

 

 あいつ、というのは無論、一夏のことしかないだろう。

 

 さて、どこがいい……か。無論、一夏にも良い所はたくさんある。しかし――

 

「あたしは、腐れ縁なだけだし……」

 

「わ、わたくしはクラス代表としてしっかりしてほしいだけです」

 

 私が一夏のいいところを探している間に、先に鈴がもごもごと所在なさげに、セシリアは少し棘のある様子でそう答えていた。

 

「ふむ、そうか。ではそう一夏に伝えておこう」

 

「「言わなくていいです!」」

 

「はっはっは! まだまだ甘いな、青二才ども」

 

 が、そんな建前の返答は千冬さんの前では悪手だった。年季が違うのだから仕方がない。

 

「僕――あの、私は……やさしいところ、です……」

 

 ぽつぽつとそう答えたのはシャルロットだ。前の二人とは違って、素直に答えている。

 

「ほう。しかしなあ、あいつは誰にでもやさしいぞ」

 

「そ、そうですね……。そこがちょっと、悔しいかなぁ。あはは……」

 

 そんな風に照れ笑いを浮かべながら、ぱたぱたと手で扇いで火照った頬を冷まそうとするシャルロット。それが羨ましいのか悔しいのか、はたまたその両方なのか、鈴とセシリアはじっとりした目でシャルロットのことを見ていた。

 

「で、お前は?」

 

 そう言って千冬さんはラウラに話の水を向ける。予想は出来ていたことなのだろう。ぎこちない様子で言葉を紡ぎ始める。

 

「つ、強いところが、でしょうか……」

 

「いや弱いだろ」

 

 取り付く島もない。いや、確かに千冬さんから見たらそうかもしれないけれども……。

 

「つ、強いです。少なくとも、私よりも」

 

「そうかねぇ……」

 

 疑問に思う声をあげながらも、また缶ビールを傾ける千冬さん。その視線は、私を捉えていた。

 

「で、何やら考えている様子だったから後回しにしたが、お前はどうなんだ篠ノ之。ん?」

 

 多少酔いが回ってきた様子の千冬さんの言葉と共に、全員の視線が私に注がれる。む、これは少し緊張するな。

 

「そう、ですね……」

 

 私は知った。人の美点も欠点も、好きも嫌いも、簡単に、あっという間に反転してしまうことを。愛しているのに憎む心も、憎んでいるのに愛する心も知った。だから――

 

「私は……一夏のどこがいい、というのは、思い浮かびませんでした」

 

「ほう。では、あいつのことを好きなのではないのか?」

 

「違います」

 

 自分でも驚くほどに、冷たい声が出た。その証拠に、千冬さんも少し驚いた表情を見せている。

 

 私は千冬さんの目をまっすぐに見つめながら、告げる。

 

「私は一夏のことが好きです。でもそれは、一夏のどこがいいとか、どこが悪いとかじゃなくて、私が私で、一夏が一夏だから、私は一夏のことを好きになったんです」

 

 男女と罵られていた私を助けてくれた一夏。これからも一緒に頑張ろうと言ってくれた一夏。そういう一夏だからこそ、私は好きになったのだ。そこに、優しいとか、かっこいいとか、そういう要素は、あまり含まれていないと思う。

 

「ふん、言うじゃないか。なら、せいぜい自分を磨いて、あいつの心を奪うことだな」

 

 千冬さんは挑発するような眼差しを私たちに注いで、そう締めくくった。

 

 

◆◇◆◇

 

 

 翌日――

 

「じゃじゃーん! これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿』! 全スペックが現行ISを上回る束さんお手製ISだよ!」

 

 私は、私の専用機を手に入れていた。かつては求めてやまなかったもの。今では私の未熟さの証。

 

 一夏は例外として、セシリアや鈴、シャルロット、ラウラは己が実力で専用機を手に入れた。それが私は『篠ノ之束の妹』という規則外の権力を用いて手に入れたのだから。

 

「さあ! 箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズをはじめようか! 私が補佐するからすぐに終わるよん♪」

 

「お願いします」

 

「堅いよ~。実の姉妹なんだし、こうもっとキャッチーな呼び方でいこうよ。『お姉たま』なんてどうかな? お姉たま。なんだい、箒たん。くぅ~、み・な・ぎ・っ・て・き・た・!」

 

「馬鹿なことを言ってないで、早く始めて下さい……姉さん」

 

 私の言ったことが聞こえたのか、姉さんは目を丸くした後、興奮した様子で織斑先生に迫る。

 

「ちーちゃんちーちゃん! 聞いた? ねえ聞いた!? 箒ちゃんが私のこと姉さんって、姉さんって言ってくれたよ!」

 

「ああもう、わかったわかった。だからとっとと済ませろ」

 

「えへへ、箒ちゃんのお姉ちゃんの私は通常の三倍すごいよ。朝でも昼でも夜でも三倍。赤くなくっても三倍だい! あ、3って三位一体の完全を表す数字らしいね。私は1にして十全だけど」

 

 なにやら豆知識を披露しながらリモコンを押す姉さん。すると、紅椿は私が乗り込みやすいようにと姿勢を変えた。

 

「箒ちゃんのデータはある程度先行していれてあるから、あとは最新データに更新するだけだね。さて、ぴ、ぽ、ぱ♪」

 

 私は特に何もすることがなく、ただ紅椿に体を任せる。そうしてフィッティングを終えたところで、私の耳にとある生徒の言葉が入ってきた。

 

「あの専用機って篠ノ之さんがもらえるの……? 身内ってだけで」

 

「だよねぇ。なんかずるいよねぇ」

 

「っ――!!」

 

 唇引き締めて、奥歯をかみ締める。ああ、その通りだ。私はずるくて卑怯な手を使った。謝ることはただの傲慢だ。悔やむことはただの自己満足だ。だから私は、甘んじてその言葉を受け入れよう。

 

「おやおや。歴史の授業を――」

 

 何かを言おうとした姉さんを視線で抑える。何も言わなくていいと、余計なことを言うなと。

 

「姉さん」

 

「えー、なんでー? だって箒ちゃんが悪く言われてるんだよー?」

 

「今回に関しては私に落ち度があります。だから、反論はしません。出来ません」

 

「むむむ、箒ちゃんがそう言うなら仕方ないねぇ……」

 

 渋々といった様子で引き下がり、操作を続ける姉さん。

 

 そういえば、この会話の間も姉さんはずっと操作をしていた。やはりこの人は天才なんだなと改めて思い知らされる。

 

「箒ちゃん、変わったね」

 

「え?」

 

 どこかしみじみとした様子でぽつりと呟く姉さん。突然どうしたのだろうか。

 

「あとは自動処理に任せておけばおっけぃ、おっけぃ♪ あ、いっくん、白式見せて。束さんは興味津々なのだよ」

 

 そうして姉さんは、自由気ままに私たちの周りを闊歩するのであった。

 

「んじゃ、試運転もかねて飛んでみてよ。箒ちゃんのイメージ通りに動くはずだよ」

 

 少ししてフィッティングが終了。姉さんに言われて、私は飛ぶことを意識する。すると――

 

「っ――!?」

 

 次の瞬間、物凄い速度で上昇して、青空の中にいた。ISの保護シールドのおかげで意識を失ったりすることはなかったが、それでもこの上昇速度は驚愕に値する。私の予想以上のものだ。私が思う……いや――

 

『どうどう? 箒ちゃんが思った以上に動くでしょ(・・・・・・・・・・・・・・・・)?』

 

「え、ええ、まぁ……姉さん、ここまでしてもらって苦言を呈するのは申し訳ないと思います。ですが、この感度はなんとかなりませんか?」

 

『はにゃ? どして? 感度悪かったかな?』

 

「逆です。感度が良過ぎるんです(・・・・・・・)。これでは、私が機体についていけない(・・・・・・・・・・・・)

 

 想像してみてほしい。例えば、自分が二秒掛けて拳を突き出す行為をしたとする。それが、感度のいい紅椿に乗っていれば、その半分の一秒で拳を突き出せる。

 

 しかし、私の感覚では『二秒掛けて拳を突き出す行為を行った』と認識しているし、思考速度も二秒掛けて拳を突き出す行為を行っている。

 

 つまり、私と紅椿との間で一秒間のタイムラグが発生してしまうのだ。実際には拳を突き出すのに二秒も必要ないし、そのタイムラグも一瞬かもしれないが、戦闘ではその一瞬が命取りになることだってある。

 

『ふむふむ、なるほどね。んじゃあ後で調整しよっか。いやぁ、やっぱり搭乗者の生の声って大事だねぇ。箒ちゃんとちーちゃんといっくんのしか聞く気ないけど。じゃあ改善点も見つかったところで、刀使ってみてよー。右のが『雨月』で左が『空裂』ね。武器特性のデータ送るよん』

 

 姉さんに送られたデータに目を通し、一通りの特性を理解したところで、更に姉さんの詳しい解説が入る。空に浮かんでいた雲と、姉さんが呼び出したミサイルを相手に試し撃ちをして、紅椿の試験稼動は終了を余儀なくされた。なぜなら――

 

『全員注目! 現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日のテスト稼動は中止。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内待機すること。以上だ!』

 

 織斑先生がそう、生徒全員に通達したからだ。尋常ではない様子を感じ取って動揺する様子の生徒たち。私もそれを感じ取って、一夏の隣に降り立った。

 

「とっとと戻れ! 以後、許可無く室外に出たものは我々で身柄を拘束する! いいな!!」

 

「『はっ、はいっ!』」

 

「専用機持ちは全員集合しろ! 織斑、オルコット、デュノア、ボーディヴィッヒ、鳳! ――それと、篠ノ之も来い」

 

「……分かりました」

 

 全員が慌ただしく動き回る中、姉さんが妙にニコニコしているのが気になって仕方がなかった。

 

 

◆◇◆◇

 

 

「来い、白式」

 

「行くぞ、紅椿」

 

 織斑先生が専用機持ちを呼び出して説明した内容は、アメリカで暴走した軍事用IS『銀の福音

(シルバリオ・ゴスペル)』――以降福音を私たちの力で止めろ、ということだった。標的ISのスペック上、アプローチは一回だけということで、姉さんの立案で作戦は私と一夏が遂行することになったのだが。

 

「じゃあ、箒。よろしく頼む」

 

「……一夏、先に言っておくぞ」

 

「ん? なんだよ」

 

「もしも作戦が失敗したり、続行不可能だと判断出来たら、すぐに撤退するぞ。私たちは軍人でもなければ、どこかの国の代表でもないのだから。――何があっても、お前を連れ帰るからな」

 

「あ、ああ……分かった」

 

 そう言って、一夏は紅椿の背中に乗った。この作戦は、福音とほぼ同等の速度を出せる紅椿に白式を乗せて運び、零落白夜で即時撃墜を狙う、というものだった。

 

 さっきから妙に嫌な感じがしてならない。どうしてハワイ沖で暴走したISがこちらに向かってきているのか。妙に機嫌のいい感じがした姉さんは何だったのか。気のせいならばそれに越したことはないが。

 

『織斑、篠ノ之、聞こえるか?』

 

 ISのオープン・チャネルから聞こえてきた織斑先生の声に、私たちは首肯で返事をした。

 

『今回の作戦の要は一撃必殺(ワンアプローチ・ワンダウン)だ。短時間での決戦を心がけろ』

 

「了解」

 

「織斑先生、私は状況に応じて一夏のサポートをすればよろしいですか?

 

『そうだな。だが、無理はするな。お前は専用機を使い始めてからの実戦経験は皆無だ。突然、何かしらの問題が出るとも限らない』

 

「大丈夫です。その辺りは自分が一番理解していますから」

 

『ならいい』

 

 そうだ、所詮私は卑怯な方法で専用機を手に入れたのだから、現状で一番経験が足りていないのは私で、本来ならこの作戦に起用することすら間違っていると思う。

 

 それがこうして一夏と肩を並べられるのは、偏に規格外(オーバースペック)な紅椿のおかげであり、私の実力ではない。

 

『では、はじめ!』

 

 ――作戦、開始。

 

 号令がかかった瞬間、私は一気に上昇する。程なくして、私たちは標高五百メートルに達した。

 

「暫時衛星リンク確立……情報照合完了。目標の現在位置の確認。――気を引き締めろ一夏。一気に行くぞ!」

 

「お、おう!」

 

 加速する。展開装甲というそれまでのものとは次元の違う機構のおかげで、福音の姿はすぐにハイパーセンサーの視覚情報にもたらされた。

 

「見えたぞ、一夏! 更に加速する! 接敵は十秒後! いいな!」

 

「ああ!」

 

 気合の入った一夏の言葉を受けて、更に加速する。自分でも驚きだ。この紅椿は、一体どれだけの可能性を秘めているのだろう。そして、それは私に扱いきれるものなのだろうか。

 

 脳裏によぎった不安を振り払って、福音との距離を縮めてゆく。

 

五、六、七、八、九……十!

 

「うおおおおっ!」

 

 叫び声と共に私の背から飛び出し、零落白夜を発動させながら瞬時加速まで使って間合いを一気に詰める。

 

 獲った、と、私だけでなく一夏も思っただろう。しかし。

 

「なっ!?」

 

 声を上げたのは一夏だが、それは私も同じ気持ちだった。なぜなら福音が最高速度のままこちらに反転して、後退の姿勢をとりながら身構えたからだ。更に。

 

「敵機確認。迎撃モードへ移行。《銀の鐘(シルバー・ベル)》、稼動開始」

 

 オープン・チャネルからそんな敵意ある機会音声が入った瞬間、福音は体を回転させて零落白夜を紙一重で回避したのだ。

 

「くっ……! あの翼が急加速をしているのか!? 箒! 援護を頼む!」

 

「違う一夏! 一度引け! 零落白夜を仕舞え!」

 

 一夏の零落白夜は発動しているだけで多大なエネルギーを消費していく諸刃の剣。それについさっき瞬時加速まで行っていた。ここぞという必殺の時以外に発動している余裕はないはず。それに、福音はそこまで加速した一夏の斬撃を回避して見せた。ということはつまり、その速度の足元にも及ばない今の一夏の斬撃が当たるはずがない。

 

「くっ! このっ……!」

 

 なのに一夏は焦って周りが見えていないのか、私の言葉を聴かず、福音を追撃する。そして――

 

「っ――! マズイっ!」

 

 焦って大振りに一夏が零落白夜を振ろうとした瞬間、福音はその隙を突いて名前の通りの銀色の翼を開いた。あれは――砲口だ。

 

「ちっ!」

 

「うわっ!」

 

 舌打ちを一つして、間一髪の所で一夏を抱えあげて砲弾を回避した。直後、爆発する砲弾。どうやらそれが福音の主武装らしい。そして、連射速度が尋常ではない。

 

「(流石軍用、ということか……!)」

 

 寒気の走った背中を無視して、回避に専念する。少しして距離を取った後、一夏が口を開いた。

 

「悪い箒、助かった。――左右から同時に攻めるぞ。左は頼んだ!」

 

「待て――ああ、もう!」

 

 私の返答を聞かずに飛び出した一夏。仕方ない、これが最後の足掻きだ。これがダメなら、その時は――

 

 ある一つの決意をしながら、福音にダメージを与えようとする私たち。しかし、福音は回避に特化した動きで、その上同時に反撃までしてくる始末。一向に私たちの攻撃は当たるどころか、掠りもしない。ならば――

 

「一夏! 私が動きを止める!!」

 

「わかった!」

 

 どうにかして私が福音の隙を作る!

 

 打突と斬撃を交互に繰り出し、展開装甲による急加速、急転換を用いて迫る。この猛攻に、福音も防御を取らざるをえない様子だった。

 

「はあああっ!!」

 

 雄叫びを上げながら福音に切迫する。あと少し、このままならいける……!

 

「La…………♪」

 

 そう思った瞬間、歌うように甲高いマシンボイスを発して、銀翼はその全ての砲門を開いた。その数、三十六。それも全方位に向けての一斉射撃。

 

「それでも……押し切るっ!!」

 

 降り注ぐ光の雨。幻想的とも言えるその凶弾の合間を、全神経を集中させて縫って迫る。そして福音に切りかかり――隙が、出来た。

 

「一夏!」

 

 この絶好の機会を一夏は遺憾なく掴み、作戦は終了する――はずだった。

 

「うおおおっ!」

 

 瞬時加速と零落白夜を最大出力で行って、一夏は――福音とは真逆の、直下海面へと全速力で向かっていた。そして、一発の光弾を掻き消した。その間に、福音は私から離脱し、十分な距離を確保していた。

 

「なっ――何をしているのだ一夏!?」

 

「船がいるんだ! 海上は先生たちが封鎖したはずなのに――ああくそっ、密漁船か!」

 

 更に悪いことは続く。キュゥゥゥンという音と共に、一夏の零落白夜が消え、元の実態剣に戻った。

 

 ……エネルギー切れ、私たちは唯一にして最大の好機を失い、福音を打倒する手段さえ、失くしてしまった。

 

「っ! 馬鹿者! 何故そんなやつらを庇った! そいつらは――」

 

「箒!!」

 

「ッ――!?」

 

 私を叱責するような厳しい声と眼差し。そして一夏は言う。

 

「箒、そんな――そんな寂しい事は言うな。言うなよ。力を手にしたら、弱いヤツのことが見えなくなるなんて……どうしたんだよ、箒。らしくない。全然らしくないぜ」

 

 一瞬呆然として、直後、私は目の前が怒りで真っ赤になる感覚がした。

 

 ああ、一夏の言う事は正しい。理想的で、誰もが考え付く最高の結果で、正しくて正しすぎるほどに正しい。

 

 

 ――だがそれは、実力が伴って、初めて実現できる結果(もの)だ。

 

 

 私たちは未熟だ。私は専用機をもらったばかり、一夏はそもそも訓練の絶対量が足りない。そんな二人で作戦を成功させようとするのだ。多少の犠牲は仕方ないと割り切るべきだったし、ましてや、絶好の機会をふいにするなどあってはならなかった。

 

 それを一夏は、目の前の人間――それも、封鎖勧告を無視した、被害を被っても自業自得でしかない犯罪者の為に、その絶好の機会を棒に振った。

 

 そして、私の手に握られていた刀が消える。

 

「(しまった……具現維持限界(リミット・ダウン)……!!)」

 

 ここに到るまでの高速移動。福音との戦闘。更に、最後の隙を作るための猛攻。紅椿のエネルギーは、その無茶な操縦の為に限界を迎えてしまっていた。

 

「箒ぃぃぃっ!!」

 

 福音が一斉射撃モードに入っている姿が目に映る。照準は私だ。さっきからうるさいぐらいに警報が響いている。

 

 一夏は刀を捨てて、なけなしのエネルギーを全て使って瞬時加速し、一直線に私を目指して向かってきている。

 

 ……なんとなく分かった。一夏は、身を挺して私を守るつもりなのだ。

 

「馬鹿者……」

 

 ぽつりとつぶやく。迫りくる光の雨。これを全て受け止めれば、私の体はひとたまりもないだろう。それは一夏も同じのはず。

 

 一夏が手を伸ばす。これなら僅かに一夏の方が早く私にたどり着く。

 

 ――ああ、お前はそういうやつだ。誰かを犠牲にすることなんて出来ないし、もしその犠牲が出るのならば、真っ先に自分が引き受けようとする。

 

 

 

 そんなお前だから、私は好きになったんだ。

 

 

 

 私は、私を庇おうとする一夏を――回し蹴りで蹴り飛ばした。

 

「がっ――!!」

 

 一夏が苦悶の声をあげる。ふん、それは福音を仕損じた罰だ。その程度、甘んじて受けろ。

 

 光の数々が目前に迫る。だが不思議と、死に対する恐怖はなかった。

 

「一夏は、守れた」

 

 今この瞬間は、一夏を守ることが出来た。それで十分だ。私には福音の打倒よりも、一夏が無事でいることのほうが、比べ物にならないほど大切なのだから……。

 

 ああ、でも、一夏に告白出来なかったのは心残りだな。文学少女もまだ読み切っていない。美羽の書いていた『遠子先輩が存在しないはずの人間』というのは、結局なんだったのだろうか。心葉とななせは幸せになったのだろうか。心葉の書いていた『彼女との最後の約束』とはなんだったのか。……意外とたくさんあったな。

 

 光が私の体に降り注ぐ。幾重の衝撃が私の体を走り、装甲は打ち砕かれ、骨身はぎいぎいぎりぎりと軋んで不快な音を立て、肌は爆発の熱波で焼けた。

 

 ――ああ、一夏にもらったリボンまで焼けてしまった。大切にしていたのだがな……すまん、一夏。

 

「箒っ、箒っ、箒ぃっ!!」

 

「ぅ……ぁ……」

 

 うるさいぞ一夏。日本男児たるもの、この程度でうろたえてどうする。お前はこの後も旅館に戻り、再び作戦を練らねばならんというのに……まあ多分、私の代わりをセシリアが担うのだろうな。元々そういう手はずであったし。少々納得いかんが……。

 

 今際の際まで小さな嫉妬に心を焦がす自分に少し呆れながら、私は意識を闇に葬った。

 

 

◆◇◆◇

 

 

「………………」

 

 旅館の一室。壁の時計は四時前を指している。

 

 ベッドで力なく横たわる箒は、もう三時間以上も目覚めないままだった。

 

 その傍らに控える一夏は、もうずっとこうしてうなだれている。いつもの元気な様子は、彼のどこにも存在しなかった。

 

「(俺のせいだ……)」

 

 『一夏は、守れた』という箒の言葉を、一夏はISのハイパーセンサーによって耳に入れていた。自分が密漁船を守らなければ、福音に一太刀浴びせられていれば、そんなどうしようもない『もしも』を考え、自責の念に駆られる

 

 ISの防御機能を貫通して人体に届いた熱波に焼かれ、箒の体の至る所に包帯が巻かれている。

 

「(俺が、ちゃんとしてなかったから、箒がこんな目に――!)」

 

 強く、強く、自分を罰するかのように、血がにじみ出そうになるほど、強く拳を握り締めた。

 

『作戦は失敗だ。以降、状況に変化があれば招集する。それまで各自現状待機しろ』

 

 海からなんとか引き上げられ、旅館に戻ってきた一夏に待っていたのはそんな言葉だった。千冬は箒の手当てを指示し、すぐにまた作戦室へと姿を消した。どうして何も言われなかったのか、理解できなかった。

 

「(俺は……みんなを守れる力を手に入れたはずなのに……!!)」

 

 自分は正しいことをしたはずだ。福音の危険にさらされた無力な人を救ったはずだ。なのにどうして、箒はこんなに傷ついているんだ。そんな思いが、一夏の中でぐるぐると渦巻いていた。

 

 現在の箒は、ISの操縦者絶対防御、その致命領域対応によって昏睡状態になっている。

 

 全てのエネルギーを操縦者の命を繋げる為に費やされるこの状態は、同時に深くISの補助を受けることになり、それ故にISのエネルギーが回復するまで、操縦者は目覚めることはない。

 

 パンッと襖が開く音がする。一瞬ピクリと肩を動かす一夏だったが、音の発信源に目を向けることはない。

 

「織斑、今すぐ風花の間へ来い。作戦会議を始める」

 

 そんな有無を言わせぬ気迫を感じさせる言葉を放つ人を、一夏は一人しか知らない。うなだれる一夏の隣に歩み寄ってきたのは、実姉の千冬だ。

 

「…………」

 

「おい、聞いているのか織斑。作戦会議だと言っている。時間がない、早くしろ」

 

「…………」

 

 一夏は何も返さない。ずっと箒を見つめたまま、身じろぎ一つしない。

 

 そんな弟の様子に、だんだんと不機嫌になっていく千冬。

 

「織斑、いい加減に――」

 

「俺は……行かない」

 

「……何?」

 

 弟が示したのは拒絶の意思。千冬の眉が僅かにつりあがり、威圧感も増す。

 

「俺は行かない。ここで、箒が目覚めるまで傍にいる」

 

「ほう……」

 

 途端、一夏の視界がぐらりと揺れて、目の前に姉の顔が見えた。胸倉を掴まれて持ち上げられたらしい。

 

「甘ったれるなよ、未熟者」

 

 千冬が全てを貫くかのような厳しい眼差しを一夏に注ぐ。その瞳に宿る感情は、侮蔑と怒りか。

 

「よく聞け愚弟。私は最初、お前に言ったな。『もし覚悟がないなら、無理強いはしない』と。それはな、目の前の恐怖から逃げ出すことは、人間としてまともな行為だからだ。だから私はお前に逃げ道を用意した。だが、お前は『やります』と言った。そして作戦に参加した。その時点でお前には、何が何でも作戦を成功させなければいけない義務が、責任が生じたんだ。分かるか」

 

「…………」

 

「はっきり言ってやろう。お前はな、『他人を守る』という無理難題(独りよがり)を叶えるために、篠ノ之を犠牲にしたんだ(・・・・・・・・・・・)

 

「っ――!!」

 

「罪滅ぼしのつもりかもしれんがな、目覚めるまで篠ノ之の傍にいるだと? 笑わせるな、そんなものは罪滅ぼしでもなんでもない。ただ責任逃れをしているだけだ。篠ノ之に重傷を負わせてしまったが、自分は傍にいたから許せというとんでもない傲慢で、自己満足でしかない。……恐怖から逃げるのはいい。だがな、自分の犯した罪から逃げるな。篠ノ之に贖罪をしたいのなら、まずは自分の責任を果たせ。――篠ノ之を犠牲にしてまで逃した、福音を倒すという責任をな」

 

 ぎりりと歯軋りをし、わなわなと肩を震わせる一夏。彼の心中にあるのは後悔か、自責か、それとも――

 

「じゃあ……じゃあどうしろって言うんだよ! 福音が近くにいるのなら今すぐにでも倒しに行きたい! でも俺じゃ勝てなかった! 今じゃ福音が今どこにいて、何をしてるのかすら分からない! そんな状況で、どうやって責任を果たせばいいんだよ!?」

 

 悲痛とも言える叫びを、訴えをした瞬間、どすんと尻餅をつく一夏。掴んでいた胸倉を離されたのだ。そんな彼に千冬は先ほどまでとは違って、挑発的な眼差しを注いでいた。

 

「戯け、その為の作戦会議だろうが。お前のその耳は飾り物か? ……とっとと来い、もう覚悟は十分出来ただろう」

 

 そうして気づく。先ほどまでの叱咤は、自分を奮い立たせるための激励だったことに。……いや、叱咤の内容は全て事実だ。だから、姉は自分が逃げない為に手を貸してくれたのだ。

 

「(はは……全然ダメだな、俺。でも――)」

 

 もう、逃げない。覚悟は、本当の意味で出来た。

 

「箒……悪い、行ってくる。すぐに帰ってくるからな」

 

 未だ深い眠りに付く自分の罪にそう言って、一夏は確かな足取りと毅然とした表情で、部屋を後にした。

 

 

◆◇◆◇

 

 

――――しゃらん――――しゃらん――――

 

「うん……?」

 

 気がつくと、目の前にひらひらと桜の花びらが舞っていた。

 

 いいや、桜だけじゃない。杜若(かきつばた)、桔梗、紫苑や水仙、近くの池には蓮の花が浮いていて、更に彼岸花や百合、牡丹に梅など、様々な花が私の目前に溢れている。

(かきつばた)、桔梗、紫苑や水仙、近くの池には蓮の花が浮いていて、更に彼岸花や百合、牡丹に梅など、様々な花が私の目前に溢れている。

 

 暖かい……けれど、涼しい。矛盾してるようだが、春と秋が混在しているような気温だ。私は制服姿で、何をするでもなく突っ立っていた。

 

――――しゃらん――――しゃらん――――

 

 そんな中、一際存在感が大きく、私の目を引いたのは、大輪の紅い椿が咲く木の下で舞う、巫女服を着た長髪の女性だった。

 

 片手に刀を、片手に鉄扇を持ち、手首に金と銀の鈴が通された赤い紐を巻きつけ、清らかな鈴の音と共に舞うその女性の舞に、私はひどい既視感を覚える。あれは――

 

――――しゃらん――――りぃん――――

 

 その女性は唐突に舞を終えて、私のほうを見た。しかし、その顔は空から柔らかく降り注ぐ陽光の逆光によって、私にはよく見えない。

 

「――力が、欲しいの?」

 

 

◆◇◆◇

 

 

 海上二百メートルで、繭を形成するように頭部からの翼で全身を包み、まるで胎児のように――あるいは、何かを恐れるようにうずくまって静止していた福音は、不意に顔を上げた。

 

 福音の視線のその先には、先ほど戦闘を繰り広げた白いISが、以前の紅いISとは違う蒼いISに乗って、こちらに急接近している。

 

「………………」

 

 『母親の命令』に縛られながらも福音は考える。その命令を遂行すると同時に、自分のすべきことをするにはどうすればいいのか。――そんなもの、考えるまでもなかった。

 

「『敵機A、Bを確認。排除行動へと移る』」

 

 接近してくる速度は先ほどよりも幾分か遅い。ならば問題はない。先ほどと同じように分断し、迎撃しよう。

 

 そう福音が判断し、急加速して自ら接近し、刹那の内に訪れた最も警戒すべき攻撃を回避し、急転回して後ろから攻撃行動をとろうとして――

 

「うおおおおぉぉぉぉ!!!!!!!!」

 

 突如衝撃が体を襲い、視界が真白に包まれた。

 

 

◆◇◆◇

 

 

「よしっ、このまま――!」

 

 福音の片翼を切り裂いたという確かな手応えを感じながら、俺はそのまま残ったもう片翼を破壊しようとする。しかし、福音はその片翼のままスラスター吹かせて大きく体を捻り、俺に回し蹴りを食らわす。その衝撃で、俺は大きく吹き飛ばされてしまった。

 

「ぐっ――!」

 

「一夏さん! 大丈夫ですか!?」

 

 ついさっきまで俺を乗せてくれていたセシリアが、吹き飛ぶ俺の体を受け止めてくれた。

 

「サンキュ、セシリア。大丈夫だ、蹴りを入れられる瞬間に後ろに飛んだから、さほどダメージはない。にしても、やっぱりそう上手く行かないな……。でも、確かに片翼はもらったぜ」

 

 会心の一撃が入ったことに喜びつつも、油断するなと自分自身に言い聞かせて、セシリアから離れる。

 

 ――作戦はこうだ。まず、オルコットの背に織斑が乗り込み、福音に接近する。ここまでは先の作戦と同じだ。だが、この一撃は福音にまず当たらん。だから、福音を素通りしろ(・・・・・)。そして直後、福音は反転して二人を撃墜しようとするだろう。その時に――

 

「シャルルもありがとな。おかげで福音に一撃入れられた」

 

「『どういたしまして。でも、ここからだよ、一夏』」

 

 俺たちや福音のいる地点よりもその三キロメートル後方にいる、スナイパーライフル《クゥ・ドゥ・トゥーネ》を構えたシャルル。ついさっきまでステルスモードだったシャルルが、攻撃行動を取った福音に正確に狙撃してくれたおかげで一瞬の隙ができ、零落白夜を叩き込むことが出来たのだ。

 

「『敵機Cを認識。優先順位を変更。敵機Cを最優先に排除する』」

 

 そんな機械音声が耳に響く。そして、直後に加速した福音がシャルルに迫ろうとして――

 

「あら、わたくしのことをお忘れでなくて?」

 

「『行かせるわけないでしょ』」

 

 福音の後方から蒼い閃光が、上空から赤い炎を纏った弾丸が襲う。強襲用機動パッケージ『ストライク・ガンナー』を装備した『ブルー・ティアーズ』――セシリアの手にしている、全長二メートルを超える大型BTレーザーライフル《スターダスト・シューター》と、機能増幅パッケージ『崩山』により威力を増した『甲龍』――鈴の衝撃砲による射撃だった。

 

 しかし、それでも福音は倒れない。

 

「『《銀の鐘》稼動――開始』」

 

 襲い来る弾雨の中、福音は両腕と片翼の翼を最大限に広げ、眩いほどの光を爆ぜさせながら、エネルギー弾の一斉射撃を開始した。

 

 片翼となったことにより弾数自体が半減されているはずなのだが、鈴とセシリアの射撃を相殺し始めた。相変わらず化け物のような連射速度だ。

 

「『現状の総合戦力を判断。優先順位を変更。現空域からの離脱を最優先に』」

 

 とはいえ、福音は二人の攻撃を相殺するまでに留まり、俺たちに攻撃を与えることは出来なかった。だからその判断をしたのだと思うが――

 

「『逃がすと思うか?』」

 

 俺の仲間は、もう一人いる。

 

 直後、海面が弾け、瞬時加速をしたラウラが飛び出した。シュヴァルツェア・レーゲンからはワイヤーブレードが放たれており、福音の足に巻きついて捕らえていた。

 

 福音はワイヤーブレードを破壊しようとする素振りを見せるが、それよりも早くラウラが福音に接近し、慣性停止結界(AIC)をその全身に負荷させた。

 

「嫁! 今だ!」

 

「分かってる!」

 

これも作戦通りだ(・・・・・・・・)。だから、俺は徐々に詰めていた距離から瞬時加速により一気に福音に詰め寄り。

 

「はぁぁぁあああ!!!!!!」

 

 残ったもう片翼を、零落白夜で切り裂いた。ついに両方の翼を失った福音は、ラウラのワイヤーブレードに吊り下げられた状態になっている。

 

「よし、捕獲も完了だな。これで――!!」

 

 終わりだとラウラが言おうとした瞬間、突然俺の体にとてつもないエネルギー波が襲い掛かり、福音から大きく引き離された。それはラウラも同様だったようで、作戦開始時より少し近くまで来ていたシャルの隣まで吹き飛ばされていた。

 

 見れば、福音は青い電気を放ちながら、自らの体を抱くようにうずくまっている。

 

「『ちょ、どうしたのよ一夏!? 福音を討ち取ったんじゃないの?!』」

 

「いや、確かに両翼切り裂いた! それは確かだ!」

 

「『では、あれは一体……?』」

 

 鈴と俺の混乱する声と、セシリアの疑問の声。その声に答えたのは、何かに気づいたシャルとラウラだった。

 

「『これ……もしかして――!?』」

 

「『まずいぞ。これは――『第二形態移行(セカンド・シフト)』だ!』」

 

 そこから先はあっという間だった。『第二形態移行』を果たした福音は、切り裂かれた翼を補うようにエネルギーの翼を生やし、それまでとは比べ物にならないほどの急加速によってラウラとシャルを圧倒し、衝撃砲の弾幕を掻い潜って鈴を海に墜とし、銃撃戦を繰り広げる間もなくセシリアを撃墜した。そして、俺は。

 

「ぅ……ぁ……」

 

 福音に首を捕まれながら宙に吊り下げられ、成す術もない状態だった。

 

 雪片は福音に叩き落され、今は海の中。俺にはもう、抵抗する手段さえなかった。

 

 

◆◇◆◇

 

 

「え……?」

 

 『力が欲しいの?』と、見知らぬ女性は私に尋ねた。が、申し訳ないことに私にはそんなことを言った覚えがなくて、思わず聞き返してしまう。

 

「力が欲しいんだよね。何の為に?」

 

 もう一度女性は私に尋ねる。今度は断定口調で、別の質問を重ねて。そうして、私はようやく理解した。彼女が、私の口から何を聞きたいのか。

 

「何の為に……か。決まっている。自分の為だ」

 

「……自分の為に、力を求めるの?」

 

 私の回答に、女性は多少面食らったような様子を見せて、その意図を尋ねる。

 

「ああ。力というのは、結局何かの動力源――手段でしかない。『何かの為に』力を求めるのではなく、『何かをする為に』力を求めるのだと、私は思う」

 

 答えつつ、私は自分の言葉に驚いていた。少し前までの自分ならば、こんな考えはきっとしていなかっただろうからだ。

 

「だが、敢えて『何かの為に』と当てはめるのなら、やはり自分の為だろう。何かをしたいと思うこと、それは自分の欲求、欲望だ。それがどんなに低俗な、あるいは高尚なものであれ、欲求や欲望は自分にしか向かない。他人に影響を及ぼすのは、『何かをした』後なのだから」

 

 花びらの舞いは、いつの間にかなくなっていた。私とその女性の間に、静かな時間が流れる。そうしてまた、女性は何かを確かめるかのように私に問いかけた。

 

「それじゃあ、『何をする為に』力が欲しいの?」

 

「皆を――一夏を支える為に」

 

 即答だった。刹那の隙も無かった。だが、これが私の偽らざる気持ち。

 

「――そっか。じゃあ、急がないとね」

 

 女性が、安堵の表情を浮かべたような気がした。近づいてくるその女性の顔が明らかになる。私の胸中には驚愕と、やはりというどこか納得した感情だった。

 

「一緒に行こう、我が主(箒ちゃん)

 

「うん、力を貸してくれ。紅椿(姉さん)」

(姉さん)

 

 

◆◇◆◇

 

 

「ぐっ、うっ……!」

 

 ぎりぎりと福音の手が俺の首に食い込み、圧迫していく。しかも、エネルギー状に進化した『銀の鐘』が俺を包み込み、あの弾雨が零距離で放たれようとしていた。

 

「(くそっ……俺は、箒の仇すら討てないのかよ……!)」

 

 悔しい、悔しい、悔しい。そんな思いばかりが俺の胸に渦巻く。皆、皆、倒されてしまった。俺が不甲斐ないばかりに、俺が未熟なばかりに。

 

 翼の光が強くなっていく。もうすぐ訪れる弾雨に諦めを感じながら、俺は一つの心残りを思い出していた。

 

「(箒に誕生日プレゼント……渡せなかったな)」

 

 俺を庇ったせいで焼けてしまったリボン。意図していたわけではないが、その代わりとなる物を渡せなかった。それが、心残りだった。

 

「ほう、き……」

 

 知らず、名前を呼んでいた。どうとなるわけでもないのに。

 

「箒……ごめん」

 

 祈るように、縋るように今はいない彼女に謝って、覚悟を決めるように目を閉じようとしたその瞬間――

 

 

 

 

「『馬鹿者。謝るのであれば、本人の目の前で謝れ』」

 

 

 

 

「え……?」

 

 何処からか飛来した三つの紅いエネルギー弾が、福音の左足、腰部、頭部に着弾し、福音を俺の傍から大きく吹き飛ばした。

 

 いや、それだけじゃない。そのエネルギー弾は福音に噛み付き(・・・・)、シールドエネルギーを絶えず消費させている。

 

 何が起こったのか分からず目を白黒させている俺の目に、その映える紅が映りこむ。

 

「待たせたな、一夏。遅くなってすまない」

 

「ほ……うき……?」

 

 俺のせいで重傷を負ったはずの幼馴染が、そこにいた。

 

 

◆◇◆◇

 

 

 間一髪だったな。もう少し遅ければ、あるいは、紅椿の助力がなければ一夏を助けられない所だった。

 

 私が福音を狙撃出来たのは、紅椿により構築されていた新武装、全距離対応(オールレンジ)型エネルギー和弓《嵐華(らんか)》を使用したからだ。

 

 私の臥せていた宿から福音を狙い、極限までエネルギーを充填した矢は、マッハ3の速度を以って見事福音を射抜いた。もちろん、これは私個人の実力ではなく、《嵐華》に元々搭載されている《敵機自動追尾(エネミーホーミング)》システムの恩恵だ。

 

 どうしてこんな強力な武装が構築されていたのかは謎だが、ともかく一夏を助けられたので、まあいいだろう……と。

 

「何を呆けているのだ一夏。まだ福音は倒せていないのだぞ。気を引き締めろ」

 

 私がそう一喝してもなお、一夏は何の反応も示さない。ふざけているのか?

 

「箒……なのか?」

 

「他に誰に見えるというのだ。……ああいや、確かに今は髪を束ねていないが……それぐらいの違いは見抜けるだろう!」

 

「いや、そうじゃなくて! お前……傷は? 怪我はどうしたんだよ!?」

 

 ああ、そういうことか……。

 

「治っていた」

 

「はぁ?!」

 

 驚愕の声をあげる一夏に、私は少々むくれたように言葉を続ける。

 

「私だってよく理解できていないのだ。福音に墜とされ、意識を失ったことは覚えている。次に目が覚めたら全快だったのだ。そんなに傷は深くなかったのかもしれん」

 

「いや、そんなはずは……」

 

「今はそんなことどうでもいいだろう! 一夏、お前は皆を頼む。私は――」

 

 紅椿が警告音を鳴り響かせる。内容はもちろん福音が接近中である、と。

 

 《嵐華》を量子化し、《雨月》と《空裂》を構える。そして、一気に急加速して、福音と接触した。

 

「雪辱を果たさせてもらう!!」

 

 《雨月》の打突によるエネルギー弾が強襲するが、福音はひらりとなんでもないことのように回避する。

 

「疾っ――!!」

 

 続けて《空裂》によるエネルギー波の攻撃。しかしこれを、福音は背部のエネルギー翼で全身を包み、繭のようにして自身を閉じこむことで防御した。更に福音は翼を勢いよく開いてエネルギー波を完全に無効化した後、翼と翼の間、頭頂部にエネルギーを充填していく。

 

――警告。福音の頭頂部にエネルギーの収束を確認。高威力特殊砲撃の可能性98.9%

 

「ならば――」

 

 二刀を腰部にマウントさせ、もう一度和弓(嵐華)呼び出す(コール)

 

「《嵐華・緋鴈(ひがん)の型》」

 

 『緋鴈の型』――一極集中による高威力の射撃形態へと設定を変更した《嵐華》の弦を引き、展開装甲からもエネルギーを充填する。その速度は、福音のおよそ二.五倍の充填率。

 

 刹那、矢摺(やずり)に収束していたエネルギーは一気に開放され、紅の閃光となって福音へと奔る。同様に福音からも銀の閃光が照射され、二つの光は私と福音の中点より少し福音寄りで拮抗した。

 

 

◆◇◆◇

 

 

「箒!!」

 

 皆の無事を確認していた一夏だが、遠目から箒と福音の戦況を見守っていた。それは、周りにいる他の代表候補生たちも同様だ。

 

 福音寄りで拮抗する二つの光線。皆が銀を紅が上回ると思っていた。だが、その予想に反して、銀が紅を徐々に押し返していく。

 

「まずいですわ。あのままでは箒さんが――!」

 

「衝撃砲はやられてるし……シャルロット! アンタの射撃武装で福音に攻撃できないの!?」

 

「ごめん、ここからじゃ届かない……ラウラは?!」

 

「動きを身軽にする為に最低限の装備しかしてこなかった。それに、その最低限の装備も全て破壊されている。万事休すか――」

 

 どうしても覆らない現実に打ちひしがれながら、一夏は自身への怒りで拳を作り、悔しさで歯を食いしばり、惨めさで瞠目する。

 

「(俺は……また箒を見殺しにしなきゃいけないのか――!!)」

 

 力が欲しい。箒を守れる力が、皆を守れる力が、福音を打ち倒す力が――!!

 

 

 

 

――力を欲しますか……?――

 

 

 

 

「え…………?」

 

 

 

 

 一夏は、騎士と少女()を幻視した。

 

「「「「なっ――!!」」」」

 

 一夏以外の全員が息を呑んだ。一瞬白式が眩い光を放ったかと思えば、そこには大きく様相を変えた――第二形態移行を果たした白式があったのだから。

 

「皆……」

 

 一夏が迷うような視線を四人に向ける。全員、彼が何を言いたいのか瞬時に理解した。

 

「一夏さん、わたくしたちよりも早く箒さんの助勢に!」

 

「あたしたちは腐っても代表候補生よ? 余計な心配してないで、さっさと助けに行きなさい!」

 

「心配しないで一夏。僕たち、まだもうちょっとは動けるから」

 

「事は一刻を争うぞ。手遅れになる前に、行け!」

 

 迷わず助けに行け、と頼もしい返事をしてくれる四人に首肯を返し、礼を言う。

 

「ありがとう。――来い、《雪片》」

 

 力を込めて呟く。すると、一瞬の内に光が一夏の右手で迸ほとばしり、そこには海に沈んでいったはずの《雪片弐型》が存在していた。武装の遠隔召喚(リモート・コール)だ。

 

 そこにある佩刀の確かな手応えを感じ取りながら、一夏は巨大化したスラスターを吹かせた。

 

 

◆◇◆◇

 

 

――警告。 エネルギー残量四十%。『緋雁の型』維持限界まで残り二十秒。

 

「くっ……!!」

 

 私は歯噛みする。確かにエネルギーの充填率は紅椿の方が上回っていたし、今の私と紅椿なら拮抗されようとも貫けると思っていた。しかし、元々使用できるエネルギーの桁が違いすぎた。徐々に私の方が押されている、このままでは――!!

 

 どうにかして現状を打開しようと考えを張り巡らせたその時。全く見当違いの方向から福音を白い荷電粒子砲が貫く。と、同時に、《嵐華》の矢が福音の砲撃を穿ち、空中を貫く。どうやら福音自身には()たらなかったようだ。

 

「箒!」

 

 私が声のしたほうを向くと、そこには先ほどとは違う姿の白式を纏った一夏のがあった。

 

「一夏!? そ、その姿は?」

 

「ああ、どうやら第二形態移行したみたいだ。俺も、戦える」

 

 力強い眼差しで私にそう訴えかける一夏。そんな彼に場違いにもドキリと胸が跳ねるが、なんとか無視して現状の確認をする。

 

「そうは言うがな、お前の残りのエネルギーはどうなのだ? 第二形態移行を果たしたといっても、エネルギーはそのままだろう。零落白夜は出せるのか?」

 

「一回だけなら……なんとか」

 

 随分と心許ない。そんな調子では連携をとって通常の戦闘を続けることが出来るのかさえ不安だ。福音は――まだ迫ってこない。

 

「一夏、私の傍へ来い」

 

「え……あ、ああ。分かった」

 

 一瞬疑問の声を上げる一夏だったが、私に考えがあると分かったのか、素直に私の傍によって来る。

 

 私と一夏の距離が一メートルも無いほどに詰まった時、私は一夏の手を握る。

 

「ほ、箒?」

 

 動揺する素振りを見せる一夏だが、今はそれに構っている暇は無い。意識を、ある一つの想いに集中させる。

 

「(私は、一夏を支えたい。どうか力を貸してくれ、紅椿――!)」

 

 

――単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『絢爛舞踏』、発動。展開装甲とのエネルギーバイパス構築……完了。

 

 

 果たして、紅椿は私の想いに応えてくれた。展開装甲から赤い光に混じって、黄金の粒子が溢れ出す。

 

「な、なんだこれ?! エネルギーが――回復してる……?」

 

 なるほど、エネルギーの回復か。零落白夜でよくエネルギー切れを起こす一夏を支えるのに、これほど適した単一仕様能力はない。

 

「これで準備は整った。行くぞ、一夏!」

 

「あ、ああ!」

 

 一夏の手にする雪片が大きく輝き、零落白夜を発動させる。

 

 一夏が先行し、光の刃を以て福音に横薙ぎに切り掛かる。が、福音は一夏を中心にするように半回転して後ろを取った。

 

「私を忘れるな!」

 

 回避した直後の福音に、二刀を以て居合い抜きの要領で切りかかる。流石に二連続での回避は難しかったのか、福音は両腕を交差させて私の斬撃を受け止めようとする。

 

「甘いっ!」

 

 だが、その斬撃はブラフだ。私の左足が跳ね上がり、交差させた腕を蹴り上げる。私はそのまま体を回転させ、がら空きの福音の胴体に、展開装甲によるブーストが掛かった回し蹴りを食らわし、吹き飛ばす。

 

「待ってたぜ」

 

 その先には、当然一夏の姿がある。一夏は無防備な福音の背中に、一息にV字を描く様に斬撃を繰り出し、翼を掻き消した。

 

「うおおおおおおお!!!!!!」

 

 裂帛の気合で止めの十字の斬撃を放つ一夏。福音は抵抗すら出来ず、体をびくんと一度震わせて――機能を完全に停止した。

 

「――っと」

 

 アーマーを失い、スーツだけとなって海に落ちていく操縦者を慌てて私が抱き上げる。危ないところだった。

 

「終わったな」

 

「ああ……やっと、な」

 

 操縦者の無事を確かめに来たのか、近づいてきた一夏に声を掛けると、一夏は感慨深そうな様子で息をつく。

 

 時刻はもう日の入り時だ。黄昏色の太陽の光が、空を彩っていた。

 

 

◆◇◆◇

 

 

「ふぅ……」

 

 夜。誰もいない海で、私は泳いでいた。水着はもちろん、あの白いビキニで。

 

 やはり泳ぐのは気持ちがいい。さざめく波が、私の体を優しく浚う。

 

「それにしても、私の体はどうして治っていたのだろうか?」

 

 あの後検査を受けたが、セシリアや鈴達はもちろん、山田先生も驚いていた。どうやら私が重傷だったのは間違いないらしい。唯一、織斑先生だけはどこか疑わしそうに私――いや、紅椿を見ていたが、何か知っているのだろうか。

 

 それと、寝ている間に何か夢のようなものを見ていた気がする。そこで何かあったような気がするのだが……よく覚えていない。

 

「……まあ、考えても詮無いことか」

 

 もともと頭はいい方ではない。はっきりしないことを考え続けても仕方が無いだろう。

 

 少し泳ぎ疲れたので浜辺に上がり、近くにあった座るのにちょうどよさそうな岩に腰掛ける。すると、突然声を掛けられた。

 

「箒?」

 

「い、一夏!?」

 

 そこには、水着姿の一夏がいた。まだ体も髪も濡れていないようなので、今ちょうど泳ぎに来た所なのだろう。

 

「そういえば、昨日海で見かけなかったけど――」

 

「あ、あんまり、見ないで欲しい……。お、落ち着かないから……」

 

「す、すまん」

 

 慌てて私から視線を逸らしながら、同じように岩に腰掛ける一夏。

 

「…………」

 

「…………」

 

 く、無言の時間が辛い……。な、何か話題はないだろうか? ええと……。

 

「そ、その水着、似合ってるな。……うん、いいんじゃないか?」

 

 唐突に、一夏が私にそう言った。……に、似合ってる? 一夏が、私に、そう言ったのか?

 

「これは、その、勢いで買ってしまって……いざ着てみたら恥ずかしくなって、だな……」

 

 互いが互いの顔を見ないようにしながら会話を続ける。それを見守るのは、ただただ優しい月影を降らす半月だけ。一夏が私をほめてくれて、そのまま別の話題に移るかと思いきや、そのまままた無言になってしまう私たち。一体どうしたものか……。

 

「……なあ、箒。ちょっとだけ、こっち向いてくれないか」

 

 さっきとは変わった、少し堅い雰囲気の一夏の声。少々抵抗を感じながらも、私は一夏に言われたとおりに向き直る。そして――

 

「ごめん」

 

 一夏が、私に頭を下げていた。

 

「え……え?」

 

「箒が怪我したのは俺のせいだ。無人機を倒したこととかで調子に乗ってたんだと思う。謝っても許してもらえないぐらい箒を危ない目に遭わせた。でも、ごめん」

 

 ……そういうことか。ああなるほど、一夏らしい行動だ。

 

「全くだ。嫁入り前だというのに、傷物にされる所だったぞ」

 

「――っ!」

 

 うつぶせている顔が、悲痛な表情で歪む。まあ、この程度の恨み言は言っても許されるだろう。

 

「なあ、一夏。私たちはまだまだ未熟だ。未熟であるが、お前は唯一の男性操縦者であること、私は篠ノ之束の実妹であるということ、そして、私たちは共通して第四世代型ISの保持者としてこれからより世界に注目されるだろう。うかうかとしていられるような状況ではなくなってくるかもしれない。だからな、一夏――」

 

 これは、福音を倒した後にずっと考えていたことだった。今までの更に先を行く第四世代型IS。これがもたらす影響というのは、おそらく生半可なものではないだろう。私たちはそれに、未熟ながらも抗わなければならない。

 

 

 

「これからも、一緒に頑張っていこう。一緒に、強くなろう」

 

 

 

 微笑みながら、そう手を差し伸べた。一夏はあっと声を漏らしながら、私の手を見ている。

 

「――ああ、よろしく頼む」

 

 そう言って、私の手を握った。

 

「それでさ、箒に渡したい物があるんだ。鷹月さんに聞いたら、箒は泳ぎにいったって言ってたから」

 

 そう言って差し出されたのは、白を基調にした赤のラインが入ったリボンだ。

 

「今日、箒の誕生日だろ。本当は、前のが古くなったからって思ってたんだけど、俺のせいで焼かれちゃったからな」

 

「お……覚えていてくれたのか?」

 

「当たり前だろ。幼馴染の誕生日だからな」

 

 胸が、じんわりと暖かくなる。ああ、私はやっぱり、一夏のことが好きなんだ。

 

「なあ一夏。お前が結んでくれないか?」

 

「俺が? まあ、いいけど」

 

 背を向ける私にゆっくりと近づく気配のする一夏。す、少し緊張するな……。

 

 手櫛は髪に良くないからなぁ、なんて呟きながら髪を整えてくれる一夏の手。夜の風にさらされていたからか、少し冷たくて、くすぐったくて、でも気持ちがいい。

 

「ん、出来たぞ」

 

「……似合ってるか?」

 

「ああ。やっぱり、箒はポニーテールがよく似合ってる」

 

「そうか……ありがとう、一夏。大切にする」

 

 嬉しい、嬉しい、嬉しい――! プレゼントをもらって、結ってもらって、褒められて。たったそれだけのことなのに、こんなにも胸が暖かくなって、一夏の事が愛しくなる。

 

「――っ! あ、ああ。俺も、喜んでもらえて嬉しいよ」

 

 頬を赤く染めた一夏が顔を背ける。今なら……言えるだろうか?

 

「なあ、いち――」

 

「せ、セシリア!? なんでこんなところにいんのよ!」

 

「鈴さんこそ! か、勝手に旅館を抜け出して、怒られても知りませんわよ」

 

「さて、一夏はと……」

 

「え、ラウラに……鈴とセシリア? な、なんでここにいるの……?」

 

 ……覚悟を決めた途端これか。全く、運の悪い。おそらくこのまま見つかって、私と一夏が何をしていたのか根掘り葉掘り聞かれ――

 

「ほ、箒……向こうに行こう」

 

「え? きゃっ……」

 

 近づいてくる声から逃げるように、一夏が私の手を引いて岬のほうへと足早に駆けていく。なんだかそれが駆け落ちをしているみたいだと、場違いな都合のいい妄想が浮かんだのは秘密だ。

 

 岩場を上って、その後ろに隠れる。どうやらここでやり過ごす心算の様だ。……無駄な気もするが、あえて突っ込まないでおこう。

 

「はぁ……」

 

 一夏に気づかれないように、小さくため息をつく。さっきまでの雰囲気なら素直に好意を示せただろうに、これではぶち壊しだ。だから――

 

「――なあ、一夏」

 

「え? あ、ああ。何か言おうとしてたっけ。何だ?」

 

「八月のお盆に、神社で祭りがあるのは覚えているか?」

 

「あー、篠ノ之神社のか。去年は受験勉強で行かなったなぁ」

 

「う、うむ。そ、それでだな、お前がよければ……その……一緒に、回らないか」

 

 どうにかして言葉を紡ぐ。ああ、早くしなければセシリア達が来てしまうというのに、どうしてこう詰まり詰まりになってしまうのか。

 

「あ、いいな。セシリア達も誘って――」

 

「ダメだ!」

 

「へ……?」

 

 あぅ……思わず声を荒げてしまった。いや、しかし、他の誰かと一緒というのはダメだ。絶対に。

 

「その……一夏と、ふ、二人きりで、回りたいんだ……ダメか?」

 

 頼む、断らないでくれ! そう必死に願いを込めて、一夏を上目遣いに見つめる。どうか、どうか――!

 

「え、あ、ぅ……べ、別に、いいけど……」

 

 逃げるようにそっぽを向く一夏だが、対照的に私の胸中は踊りださんとばかりに嬉しさで跳ね回っている。どうにかしてそれ押さえ込もうとするが、緩む頬と目を締め付ける事は出来なかった。だから、一夏の手を握りながら、顔を見られないように俯き、背中に頭を預ける。

 

「――約束だぞ」

 

「お、おう……」

 

 遠くからセシリアたちの声がする。おそらくISのコア・ネットワークで私たちの居場所は筒抜けだっただろう。けど、この約束は誰にも聞かれていない。

 

 一ヵ月後の夏祭り。その日、私は――

 

 

 

 

 

 一夏に、告白しようと思う。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

「紅椿の稼働率は絢爛舞踏を含めて七十一パーセント! うーん、流石にここまでとは束さんも予想してなかったなぁ」

 

 様々な数値が示された空中投影ディスプレイを眺めながら、箒たちのいる方向とは真逆の岬にいる束が、柵に腰掛けた状態で無邪気に笑っていた。まるで、無垢な童女のように。

 

「は~。それにしても紅椿には驚くなぁ。まさか操縦者の生体再生まで可能だなんて、まるで――」

 

「――まるで、『白騎士』のようだな。コアナンバー〇〇一にして初の実戦投入機、お前が心血を注いだ一番目の機体に、な」

 

 その声に、束の唇の端がにやりと釣り上がる。彼女が来るだろうとは思っていた。けれど、予想するのと実際に起こるのとでは雲泥の差がある。束は今、確かに『嬉しい』という感情を抱いていた。

 

「やあ、ちーちゃん」

 

「おう」

 

 彼女――千冬が声を掛けるが、束の傍に行くようなことはせず、近くの木に身を預ける。馴れ馴れしく束の隣に座ったりなどしない、そもそもそんな事をしなくても、こうして会話をすれば大体の事が分かり合えるのが二人の関係だからだ。

 

「ところでちーちゃん、問題です。白騎士はどこに行ったんでしょうか?」

 

 唐突に、まるで今いい問題を思いついたとでもいうような調子で束が問いかける。

 

「……白式を『しろしき』と呼べば、それが答えなんだろう?」

 

 つまらなそうに、何を当たり前のことをとでも言うように、多少呆れた様子で答える千冬。しかし、束はその解答に対し、疑問点を挙げる。

 

「あれぇ? でもそれだと紅椿の生体再生に説明がつかなくなるんじゃないかなぁ?」

 

「ふん、そんなもの『篠ノ之箒が篠ノ之束の実妹だから』というだけで十分だ。紅椿はお前が手掛けたんだろう? なら、妹を溺愛しているお前が、万が一の為に『生体再生』機能を組み込んでいたとしても、なんら不思議ではないさ」

 

 淀みなく言い切る千冬に、更に束の声が喜色で弾む。常人にとっては異常なこと。でも二人にとっては当たり前のこと。それが嬉しい、楽しい、喜ばしい。

 

「ぴんぽんぴんぽーん♪ さすがはちーちゃん。相変わらず周りを見抜く洞察力や観察力は人一倍だねぇ。いや、人千倍かな?」

 

「…………」

 

 そんな風にからからと笑う束に、千冬は何も言わない。その胸中には、果たしてどんな感情が渦巻いているのだろうか。束と同様の喜び? 楽しみ? それとも――

 

 それからは束に対する千冬の確認――否、世間話だ。開発されるはずのなかった白式の零落白夜のことや、突然暴走した『銀の福音』のこと。そんな他愛のない世間話(・・・・・・・・)

 

「ねえ、ちーちゃん。今の世界は楽しい?」

 

「そこそこにな」

 

「そうなんだ」

 

 それで、二人の会話は終わりだ。岬に吹き上げる強風が束を攫い、千冬は森の闇に溶けた。

 




如何でしたでしょうか? 紅椿とか捏造設定盛りまくりですけどね!

さて、このお話は次回で完結です。最後は一体どうなるのでしょうか? よろしければお付き合い下さいませ。

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