『物部布都』の第三者生活   作:tttria

4 / 4
慧音先生を出そうとして永夜抄のことを調べました。布都ちゃんのことも調べました。頭がショートしました。
話に出ない部分ですが、元ネタを照らし合わせて関係図が非常にこんがらがってます。

永琳先生、どうすればいいんですか……。


04:霧が晴れたある快晴の後日談

 私の前世と呼べる記憶は、実に微妙なものである。何しろ自分を含み「人間」に関する記憶が全て無いからだ。

 

 それで良かったと言えるのは、前世に対し未練を感じないことだ。

 前世は不幸なことがない限り安全な場所で生きていたから、覚えていたらきっと私は過去に縋り付いて前を向けなかっただろう。今でこそ思うが、真綿で包まれたような生温い世界で生きていた。

 逆に戸惑うのは、知識があべこべになっていることか。

 前世と生前の知識をどちらでもない場所で持っていても使いようにない。役に立たなそうな微妙な知識しか持っていないのだ。特に生活知識。

 

 此処で役に立ちそうな知識なんて、原作知識くらいなものだ。

 だがその知識も詳しいとは言えないし、そもそも私がこの世界、幻想郷について知っていたとしても、無力なことに変わりはない。

 普通に生きて、凡庸な知識と技術しか持たず、戦いとは無縁の一般人だった前世を持つ自分に一体何が出来るか聞きたい。

 むしろどうやって生きていけばいいのか。

 戦いに詳しい生前の記憶に頼りたくともあやふやにしか残っておらず、私は身を守る術を持っていないのだ。

 

 私は、「弱い」。

 

 

***

 

 

 上白沢慧音は鳥の囀りと共に起床した。

 

 今回起こった異変に今代の博麗の巫女が向かい、解決したという知らせが届き、大分日数が経過した。再び異変が起きる気配はない。

 紅い妖霧の異変――稗田阿求が紅霧異変と記していたソレは、無事解決したようだ。

 妖怪側から提案された「弾幕ごっこ」という決闘は、どうやら本当に機能するらしい。

 ほっと一息つくが、これから妖怪が異変を起こしやすくなるという事実に少し憂鬱になる。

 しかし博麗の巫女が思った以上に早く解決したのならこれからも大丈夫なのだろうと気を持ち直し、窓を開け朝日を浴びる。

 

 空は快晴。目を逸らしたくなるほどの綺麗な青空だった。

 

「……いや、無事に解決とは言えないか」

 

 自分よりも早く活動を始めている人々を見やる。

 異変の際に体調を崩した人々は徐々に回復してきたようではあるが、妖気に当てられたまま依然起き上がれない人がいなくなったわけではない。

 元通りになるまでまだ時間は掛かりそうだ。

 

「良い医者が何処かにいたらいいんだがな……」

 

 その時はまだ、幻想郷に隠れ住む者がいることを誰も知らない。

 

 

***

 

 

「おはようございます、慧音さん。これから寺子屋ですか?」

「ああ、おはよう。君も早いな」

「日課になりつつあるので」

 

 異変の際に里に現れた少女、物部布都。推定占い師。外からの人間では、おそらくない。

 初めて会った時の服装が、発見される外来人――妖怪の被害者達の衣服と比べて明らかに古風であり、かといって幻想郷の住人と比べても、誰よりも古い服装をしていた。

 おそらく、長らく篭っていた古い仙人なのだろう。彼女自身が記憶を持っていないから定かでは無いが。

 彼女の身の上を聞いても何も思い出せないようで、悪いとは思ったが里に害ある者かどうかを能力で調べさせてもらった。

 出会った日、その夜は満月。能力を使うにも丁度良かった。

 結果、彼女は本当に覚えておらず、それどころか何かに塗りつぶされたかのように修復不可能であり、私ですら彼女の「歴史」を知ることが出来なかった。

 危険では無いだろう。彼女の所持品も神聖な気配を帯びた占いの道具ばかりであったし。

 

「今日は湖近くに行ってみたいのですが、そこに行っても大丈夫でしょうか」

「……護符を持って、見つかったら逃げるように」

「分かりました。許可していただきありがとうございます」

 

 どうやら彼女は自分が未だ不審者だと思っているようで、里を離れようとする度私に許可を貰おうとする。死んだら骨を拾ってくださいと言われた。此処の住人になったのだから、冗談でもそんな話は止めて欲しい。

 彼女は記憶が無い分、持っていた道具をちゃんと使えるようになりたいらしい。その延長か、当たるも八卦当たらぬも八卦な占い屋という名の開運の助言を行っている。効果はそこそこらしい。

 二言三言話したあとに彼女と別れ、私も寺子屋へ歩を進めた。

 

「……アレは言わない方がいいんだろうな」

 

 塗りつぶされてほとんど分からない彼女の記憶の中で、私が唯一知っているものがあった。

 私にとって友人と言える少女が振るう能力と同じ――圧倒的に全てを覆い尽くす炎の記憶。

 その記憶が、彼女にある。おそらく彼女に言わなくてもいい記憶だろう。

 

「今日は久しぶりに、妹紅に会いに行こうかな」

 

 あの猛烈な炎を思い出し、連鎖的に最近忙しくて会っていなかった友人が急に恋しくなった。

 土産の一つでも持って行って酒でも酌み交わすとしよう。

 スペルカードルールについても、伝えないといけないからな。

 

 

***

 

 

 うわああああ……、やらかした。やらかしてしまった……。

 

 聞いて欲しい。本日あった出来事だ。

 私は今日慧音さんに許可を貰って湖畔に行ったんだ。目的? 能力の使い方を把握するためさ。

 私が持つ風水を操る程度の能力――正直に言おう、使い方がいまいち分からない。というか絶対戦闘向きじゃない。ホーム戦でも勝てないよこの世はチートが多すぎる。

 分からないなら色々試して戦闘向きにするしかない、と思って度々里の外へ出て、微妙に自分の命を危機に晒しながら色々と試しているんだが……。

 

 異変が終わったと思って安心していた。

 後日談なエクストラステージがまだ終わっていなかったとか……!

 

 幸い終わった後だったけど、最終的に私生きているけど、なんで今日外に出ようと思ったんだ自分よ……!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。