『物部布都』の第三者生活   作:tttria

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今まで以上に説明回。
一応、プロローグの終了。

後半が大雑把なのは、彼女が思う「目覚めの衝撃的な取り留めのない大雑把な話」の括りに当てはまらないからです。


03:始まりの鐘は鳴らず沈黙を保つ

 太子様、あなたは今の私をどう思われますか。

 聖人であるあなたは今の私ですら受け入れるのでしょう。

 ――私が知りたいのは、「私」について、どう「思う」のか。

 

 良い答えは期待はしておりません。

 太子様、聖人であると同時に仙人でもあるあなたは、忠実な配下とは言えない私をどう思うのでしょう。

 忠実な駒ではない、私を。

 

 身勝手な願いなのは分かっています。

 それでも私は死にたくありません。

 死にたくないのです。

 

 早く早く、お目覚めください。

 

 

***

 

 

 ――さあ、早速昨日の続きを話そうか。

 

 ん? 今回は回想はないのかって?

 ……恥ずかしながら、その辺りの自分の行動をよく思い出せないんだ。黒歴史に入るくらい考えずに行動していたとも言う。

 あの時自分は落ち着いたと思っていたが、思った以上に混乱していたらしい。

 いやはや本当に恥ずかしい……。

 

 ま、まあ、それはいいとして、一応大まかに思い出してみたから、その話を聞いて欲しい。

 先に言っておくが、完全に思い出したわけではないから、疑問に思っても私は答えられないよ? 自分自身のことだが詫びておく。

 

 確か、紅い霧の異変……前世でいうと紅魔郷の最中で目覚めたと言った辺りで話が終わっていたかな。

 私は紅い霧を見て、自分の目覚めが本来よりも早すぎたことに気づいた。

 そして、今後どうするべきかを考えてすぐに答えを出さなければならないのだと悟った。

 突拍子のない考えに思えるけどちゃんとそう考えた理由はある。時間と、力と、関係……いや、心理的距離? 因縁? ――上手い表現が思いつかない。

 とにかくそれの問題が重なっていて、焦って混乱したんだと思う。

 

 霊廟の「外」へ行くか、このまま霊廟で時が来るのをじっと待つか。その二択しか考えられなかったんだ。

 

 まず時間的余裕が無かった。

 紅い霧は吸血鬼の魔力が拡散したようなもので、私の存在ならばかき消せるようだった。

 一応私は尸解仙らしいので、人とは違うことをいつ妖怪に気づかれるか分からない。霊廟の存在が気づかれたら、確実に消される。

 私は紅い霧が、原作から考えて、今晩か明日の晩には解決すると知っていた。行動するなら今しか無いという。普通に焦るよね。

 

 次に、私は生前の記憶が前世に上書きされて、明らかに原作の『物部布都』よりも力が劣っていて、『物部布都』の立ち位置が分からないことに気づいた。

 話したろう? 記憶が上書きされてしまったと。生前の技術や何やらを意図して使うことが出来なくなっていたんだ。

 幻想郷において楽観視はいけない。

 能力的な意味でその時点で詰んでるけれど、もし原作通りの幻想郷でなかった場合、私は更に詰んでいる可能性がある。いや、原作でも詳細は分からないから既に詰んでるかもしれない。

 元ネタ――所謂私の原型、イメージの影響がどれだけあるか分からないが、その原型の影響もあるとしたら、私はかなり微妙な立ち位置だ。しかも敵か味方か分からないグレーゾーンな存在が、ことごとく人外だとか笑えない。

 楽園の素敵な巫女さまに撃墜されるのは別にいいんだ。痛いだろうけど死ぬわけじゃないだろうし、何より人間だ。確かにチートで理不尽だろうが人外とは比較にならない。まあ、それは置いといて。

 

 何よりも、身内ともいえる存在との距離が分からないのが致命的だった。

 昨日も言ったけど、彼らが私の変化を受け入れてくれるほど仲が良いとは思えなかったんだよ。

 

 

 ――そして私が此処にいるということは、まあ、外に出ることを選択したんだろう。

 

 自分のことだけど、この選択の辺りから記憶が曖昧なんだよ。

 多分、そのまま待っても死ぬんだって思ったんだろう、その時の私は。

 遊びでも死者が出たりするからね、弾幕ごっこは。

 それなら外に出て修行したり自衛手段を探した方がいいと思ったんだろうね。

 

 気づいたら風水の道具なのか、色んなものを詰めた袋を持って人里の前に立っていたんだ。

 私が人里に着くことが出来たのは……どうしてだろう? 能力のおかげだとは思うが。

 確か前世での二つ名に、龍脈を司るとかあった、はず……。

 ……火事場の馬鹿力的なものだろうか。

 目覚めたばかりからか何なのか分からないが、身体が思うように動かなくて何度も転んでいた気もする。傷は痛んだが妖怪に襲われていたようにも見えて、慧音さんの警戒を少しは薄めることが出来たようで良かったと思うことにしよう。

 その日のうちに人里の少し離れの場所に住むところ、つまりこの小屋……じゃない、家を慧音さんから頂いたんだよ。

 警戒しているのはわかったけれど、一人になれる場所をもらえて良かった。本当に。

 

 ちなみに、私が人里に着いたその日のうちに、異変は解決したんだよ。早いよね。

 尸解仙としての気配を消す方法が成功した後で解決したからギリギリだった。

 その応用で防音の結界もどきを張って私はこうやって愚痴の如く出来事を吐き出せてるんだから、なんというか、火事場の馬鹿力は凄いと思う……。

 

 ……今は異変からどれほど過ぎたのか?

 異変から……そうだね、十日は過ぎたかな。

 ああ、過去話のは今ので終わりだよ。

 次の異変は冬に起こるから、それまでは何も無いことを祈るよ。

 

 

 

 

 あ、一つ訂正しよう。

 

 霊廟に残らなかった理由。

 目覚めて数年間を、自分以外の誰とも合わず、何も動かず、誰とも話さず、記憶が変わり弱いまま孤独に過ごした末、他人の様な彼らの目を見たくなかったんだろうな。

 つまり私は全てにおいて「弱い」から、残らなかったんだ。

 

 


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