『物部布都』の第三者生活   作:tttria

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すまない、まだ回想は続くんだ。
何故なら紅魔郷はこの時点で終わっているのだから。



02:紅き陽炎に揺らめいた目覚めの中

 太子様、人は儚いものです。

 妖怪のために存在する人間たちは、まさしく鳥籠で飼われた小鳥と同類なのでしょう。

 妖怪の襲撃は災害と同じようなものであり、その死者はただの被害という。この世界の人間たちは基本的に餌ではなく、餌は「外」の、鳥で括れば「野生の鶏」なのでしょう。

 どちらにしても、救いはない。

 早くお目覚めになって、人々の指針として導いて下さい。

 

 ある記憶が蘇りそれまでの記憶が消えた「私」が、目覚めたあなた様を再び敬愛することが出来るかどうか、わかりませんが。

 

 

***

 

 

「なんてこったい」

 

 あまりにも衝撃的なことだった。何度でも言おう、なんてこったい。

 

 現状を詳しく知るために周辺を調べた末見つけた日記を読んだ感想である。私が書いたものだったようだ。ちなみに書いた記憶はほとんどない。

 朧げな記憶の方に「かも」や「おそらく」など推量が不適切なくらい大量に付随する程度の記憶がある気がするので、完全に書いていないとは言い切れない。何よりこれは私の字だ。決定打である。

 どうやら朧げな記憶の方が、今の私の基盤らしい。

 困った。非常に困った。何故なら目をそらしたくなるような単語がそこかしこに散らばっているのだから。

 

『太子様』『聖徳王』『霍青娥』『蘇我氏』『屠自古』『尸解仙』

 

 どうしよう、普通に思い出せる記憶の方に、該当するものがあるんだけど。

 偶然だと思いたい。だが偶然では済ませられない人名がある。特徴的すぎるのだ。私に対しての壮大な釣り、では無いだろう。何しろ現状把握出来る可能性がある記憶では書けないし、読めない。

 日記の内容から察するに、つまりこれは。

 

「輪廻があると仮定する。私は死んでリセットされる。その状態で前世で存在した作品に類似した世界の『外』で生まれた私。経緯を省略して、説得されて尸解仙になるために死ぬ。復活する際に何か不具合発生。結果、リセットされた前世を思い出して生前の記憶はほぼ消去――違うな、朧げにあるのだから上書き保存があってる気がする。ではその前世の作品の舞台であり、私が目覚めた場所は?」

 

 

 

 ――忘れ去られたものの楽園、『幻想郷』である。

 

 

 

「……ここが幻想郷だとしよう。結局、私は誰だ?」

 

 前世の方は早々に諦める。

 普通に記憶があると思っていたが、自分を含み「人」に関しては完全に消去されてるようで全く思い出せなかったからだ。単純に思い出す気力も沸かなかったともいえる。

 何故なら問題は朧げな生前の記憶の方なのだ。基盤はそっちにある。

 

 ……ごめんなさい、分かってました。日記ですもの、自分から見た描写で判断すれば誰目線か分かります。ただの現実逃避です。目をそらしたかったんです。

 

「私は、『物部布都』ですか、そうですか……」

 

 

 どういうことさ。

 

 

***

 

 

 ――話が先程から進んでいない?

 

 申し訳ない。本当に衝撃的だったんだ。あの目覚めは当分忘れられないだろう。

 本当に申し訳ないが、もう少し聞いていて欲しい。

 

 さて、私は自分が何者なのか気づいたところからだね。

 正直その辺りの悩んでいる自分の姿や思考は、今話していた流れとほとんど変わらない。

 つまり飽きてしまうと思うんだ。聞く方もだが、話す方も飽きる。

 変化のない内容なんてつまらないだろう? 私が言うのもあれだがね。私はただ単に、急な変化が怖いだけだから別にいいんだ。

 ……おっと、また話がそれてしまったね。戻そうか。ふむ、ここは一つダイジェスト風に言ってみようかね。

 

 私は自分が『物部布都』であることに気づいて、ちょっと途方に暮れてしまった。

 記憶が無いだけだろうと思うかい? 問題ないと思うかい?

 前提を間違えちゃいけない。此処は幻想郷。世界は人間に優しくないが、幻想郷は、特に人間に優しくない。根本的な部分から詰んでいたんだ。

 他にも色々問題点というか、私の詰んでるグレーゾーン要素は多々あるのだが、これは一旦割愛しよう。

 愚痴は愚痴でも私は「私の幻想郷で詰んでる話」をしたいわけじゃない。「目覚めの衝撃的な取り留めのない大雑把な話」を一度全部吐き出したいだけなんだ。

 細かい部分はその時に話そう。まずは最後まで聞いて欲しい。

 

 色々詰んでる要素が判明して、私は途方に暮れた。

 そしてふと思う、今は一体何時なのかと。

 私の前世の記憶では、『物部布都』は太子様が目覚める前には起きていたが、異変前には起きていないような発言をしていた。

 太子様の異変はそこかしこに神霊が湧いている。もちろん霊廟にもだ。だが霊廟には何もなかった。

 そして私は、目覚めた時間がおかしいのではないかと考えた。……何故そう考えたのか、落ち着いた今では判断出来ないけど、軽率すぎる考えだったよ。不用意にもすぐに外を確認してしまったんだ。

 

 

 

 ……その時の私はとても運が良かったと言える。「私の復活は早すぎる」という考えは合っていて、霊廟の外は真っ赤な霧に覆われていた。

 

 

 

 紅魔郷、吸血鬼が起こした異変。弾幕ごっこの始まりの異変。

 ――ある意味大妖怪が一番油断している異変であり、吸血鬼の魔力が周囲を覆っている真っ只中で、私は目覚めていたんだよ。

 そしてその後更に経緯を省略した結果、私は此処に居を構えているわけだ。

 

 ……最後が適当すぎるのは勘弁して欲しい。

 流石に私も眠気には勝てないようだ。……毎日思うのだが尸解仙には眠気があるのだろうか? 分からないがあるんだろうな。

 明日、最後に飛ばした適当になってしまった部分の話を聞いて欲しい。

 

 

 うん? 件の日記はどうしたかって?

 もちろん今の生活がひと段落落ち着いた辺りで、全部のページを両面共に黒く染めてバラバラにして落ち葉焚きに混ぜて燃やしたよ。

 此処の人が読めない文体ではあるけど、妖怪にはどうか分からなかったし、妖魔本ではないがとある貸本屋もあるしね。用心して処分したよ。

 何より読める存在が確実に二人いるからね。私は知識としてしかほとんど覚えてないけど、仲が良いとは言えないね。可能性と現実、二つの記憶から総合的に見た二重の意味で。

 

 ……それにしても、自分でも思うが何故あれを読めた。普通に思い出せる記憶では読めない文章だぞ。これが記憶喪失でいうエピソード記憶と意味記憶の違いだろうか? 私が覚えているのは詳しく解明されてなかったから自信ないけど……。

 

 

 ともあれ文字通り闇に、もとい、炎に葬らせてもらったのさ。

 生前の日記なんて、黒歴史そのものだろう?

 

 


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