ベクター?誰それ、俺真月   作:野球男

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こんにちは。
遊星vs真月 5となっています。

いよいよ今回でデュエルも決着!
どんなラストを迎えるかはお楽しみに。
それでは、どうぞ。


第85話

「………」

 

 …危なかった。

 俺は僅かでも表情に出すことのないよう努めながらも、内心から湧き上がる安堵の息を吐きたい衝動に駆られていた。

 

 前のターン、マジック・プランターを発動していなければ、おそらく俺は負けていた。

 引きが良かったと言わざるをえない。

 だが、せっかく拾ったチャンスを活かさない手はない。

「俺のターン、ドロー‼ ドボク・ザークの効果発動‼」

 

 墓地に送るカード

 カオスソルジャー−開闢の使者−

 オネスト

 おろかな埋葬

 

 よし、2枚だ。

 だが、どれを破壊したものか…

 真月のデッキは見たところ、光属性を中心にしているようだ。

 となれば、あのリバースカードが先の光子化である可能性も0ではない。

 俺のライフは950。

 あのリバースカード次第では、俺がそのまま負ける可能性も0ではない。

 …となれば

「俺はライトレイ・ソーサラーと聖刻龍ードラゴンヌートを破壊する」

 ドボク・ザークのバケットホイールが唸りをあげ、2体をそのまま引き裂いた。

 これであのリバースカードが光属性のサポートカードであっても問題はない。

 

「いけ、ドボク・ザーク‼ トライホーン・ドラゴンに攻撃‼」

「くっ…‼」

 

 真月 LP1250→1100

 

「ターンエンド‼」

 

 遊星 LP950

 手札 1

 モンスター 1

 重機王ドボク・ザーク 攻撃

 魔法・罠 0

 

 

「すげぇ」

『遊馬?』

 遊馬君がポツリと漏らした言葉にアストラルが反応を示す。

 

「俺、シャークやカイト、トロンやアリト、ギラグ達みたいなすごい決闘者達と何回もデュエルしてきたけど…なんていうか、遊星さんのデュエルはそんな奴らよりも一段上っていうか…」

『ああ。 …だが、その遊星という男に食らいついている真月も、わかってはいたが相当なものだ』

「俺、このデュエルを見ることができてラッキーだ」

 

 不動遊星。

 この男はある意味、底抜けのデュエル馬鹿な決闘者かもしれない。

 ザッと見た程度のデッキをあそこまで使いこなせるのは、カードに対し理解力があるということ。

 けれど、それよりもまず、デッキを組んだ零君を信頼している。

 全幅の信頼を寄せることで、カードがそれに応えているのだろう。

 …すごい決闘者だわ。本当に。

 

「もっと見ていたいですが…でも、終わりは近い」

『2人のライフに差はほとんどない。動けば、そのままデュエルの勝敗を分けることになる』

 零君、頑張って…‼

 

 

 …手強いね、まったく。

 俺がここまで戦ってこれた理由はいくつかあるのだろうが、その最大の理由は少し前にも話したが、俺が遊星のデッキを組んだ。つまり、絶大な情報アドバンテージを得ていたことにあると思う。

 

 何を握っているのか。

 何をセットしたのか。

 どういう戦術を立てて攻めて、あるいは守りを固めてくるのか。

 

 ある程度予測をしながらデュエルをすすめていると言えばわかりやすいだろうか。

 

 それだけのアドバンテージを得たにもかかわらず、このライフ差…そして、この緊張感。

 流石は不動遊星だと思える。

 まあ、そうこなくっちゃな…‼

 

「いくぞ、遊星さん‼ このターンで決着をつける‼」

「ああ。来い、真月‼」

「俺のターン‼」

 応えてくれ、俺のデッキ‼

 いくぞ‼

 

「ド…‼」

 ドローの瞬間、俺の手に光が集まるような幻を見ると、辺りが物音一つ聞こえない闇に包まれた。

 デッキのトップからも光が溢れている。

 なるほど、これはつまり『見えるけど見えない未来』だ。

 俺にこの暗闇の先を進む意思があるかを問うているわけか。

 面白い。

 

 

『真月?』

「一体どうしちまったんだ、真月の奴?」

「…来る」

「来る?」

 

 

 俺は引き下がらない‼

「ーーードロー‼」

 暗闇を切り裂くようにしてドローの軌跡が闇を振り払うようにして散っていった。

 視界に元の景色が広がっていく。

「…ありがとう、俺のデッキ。リバースカードオープン‼ リビングデッドの呼び声‼ 蘇れ、聖刻龍ードラゴンヌート‼ さらにリバースカードオープン‼ 希望の光‼」

 

 希望の光

 通常罠

 自分の墓地の光属性モンスターカード2枚を自分のデッキに加えてシャッフルする

 

 選択するカード

 輝光子パラディオス

 ライトレイ・ソーサラー

 

 これで準備は整った。

「モンスター・スロットをドラゴンヌートを対象に発動‼ そして、対象をとったことによりドラゴンヌートの効果もチェーンして発動‼ デッキからアレキサンドライドラゴンを守備表示で特殊召喚‼」

 俺のフィールドなキラキラと輝きを放ちながら腕をクロスし、守りの姿勢をとるアレキサンドライドラゴンが現れた。

 

「そして、モンスター・スロットの効果で墓地のエクリプス・ワイバーンを除外し、ドロー‼」

 

 カオスカウンター 7→8

 

「ドローカードはモンタージュ・ドラゴン。召喚はできない。だが、エクリプス・ワイバーンの効果により、除外していたSinスターダスト・ドラゴンを手札に加える‼」

「何…⁉」

 どうやら、遊星も俺の狙いに気付いたらしい。

 だがもう遅い‼

 

「2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築‼エクシーズ召喚‼ もう一度来い、パラディオス‼」

 爆発と共に先程デッキに戻したパラディオスが跳躍と共に再び姿を現した。

 空中でひなりを加えるとそのまま地面に降り立ち、半透明の剣を抜くと構えた。

 

「パラディオスの効果発動‼ ドボクザークの攻撃力を0にし効果を無効にする‼」

 

 重機王ドボクザーク 3200→0

 

 そういえば、この展開は最初の方でやったっけか。

 まあ、ぶっちゃけこのまま攻撃しても勝ちは勝ちだが…どうせ勝つなら、だな。

「エクストラデッキのスターダスト・ドラゴンを除外し、飛翔しろ‼ Sinスターダスト・ドラゴン‼」

 

 カオスカウンター 8→9

 

 墓地から飛翔したスターダストに黒の仮面と膝にトゲ付きのプロテクターが取り付けられると、白い体表の一部が黒く変色していく。

 変色が終わるとその場で翼を畳んだままくるりと一回転し、翼を広げると共に美しさと力強さを併せ持った咆哮をあげた。

「スターダスト…」

 遊星がスターダストを眩しそうにみつめると、スターダストも喉の奥から唸り声をあげる。

 

「いけ、Sinスターダスト・ドラゴン‼ ドボク・ザークに攻撃‼ 響け、シューティング・ソニック‼」

 

 遊星 LP950→0

 

 スターダストの白い音波がドボク・ザークを飲み込み、あっさり光の中に消え去るとそのまま遊星に直撃した。

 

「やったな、真月‼」

 俺の勝利を告げるブザーと共に背後から遊馬が俺へと飛びつく。

「っとと…」

『いいデュエルだった』

「ありがとう。遊馬、アストラル」

「へへっ」

 

「真月」

 いつの間にか側まで近付いてきていた遊星が俺に片手をさし出す。

 俺もそれに応えて手をさし出し、そのまま握手を交わす。

 

「ありがとう」

「こちらこそ。楽しいデュエルでした。遊星さん、それでその…そのデッキ、よければこれからも遊星さんが使ってください」

「俺が?」

「はい。俺は手一杯ですし、遊星さんならきっと、今以上にそのデッキに磨きをかけてくれると思います。ああでも」

「?」

「次また会った時は俺とデュエルしてください」

 そう言うと遊星はキョトンとし、フッと笑みを浮かべ

「ああ」

 そう返事をした。

 

 

「それじゃあ遊星さん」

「ああ…また会おう、真月」

「はい」

 そう返事をすると遊星は少し離れたところにいる遊馬達を見るともう一度俺に視線を戻し、エンジンをかけるとエンジン音を響かせ、走り去った。

 そのまま見えなくなるまで手を振り、見送る。

 

「行っちまったな」

『唐突に現れ、去っていく…まさに嵐のような男だったな』

「ああ…まあ、嵐にしては心地いい風だったけどな」

 言葉数は決して多くはなかったが、それでも、まるで夢のようなひと時だった。

 きっと、次会う時はもっと厳しく、そして楽しいデュエルになるだろう。

 

「…帰りましょう?」

 いつの間にか隣に立っていた璃緒がそう言って俺の手に自分の指を絡めてくる。

 

「だな。帰ろう」

 そう言うと俺と璃緒…そして、空気の読めない遊馬とアストラルと共に歩き始めた。

 

 少し立ち止まったけど、また歩き出そう。

 全ての決着をつけるその日まで。




いかがでしたでしょうか?

なんか、ナンバーズ・エネアードを出し渋っていたらランク8縛りっぽくなってしまった感。
フェルグラント「俺もいるぞ!」

また活動報告にデッキレシピやら裏話やら載せましたので、よろしければそちらもどうぞ。
それでは。

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