今回は閑話的な感じです。
勉強をしているとネタが浮かぶ不具合。
そんなわけで合間合間にポチポチやっていたらできてしまったので投稿します。
来週からテストなのに何やってんだ…
それでは、どうぞ。
第79話
「………」
俺の眼前には『あの』不動遊星がいる。
この状況を全く想定していなかった…というとそれは嘘になる。
スターダスト・ドラゴン
あのカードが俺の下にやってきた時点である程度は予想していた。
遊星は黙ったまま何も言おうとしない。
…やはり、俺が切り出すべきなのだろう。
「…遊星さん、やはりスターダスト・ドラゴンを取り戻しに?」
下手な誤魔化しはダメだ。
この男にそういった類が通用するとは思えない。
さて、どう返してくるーー
「…俺はスターダストを取り戻しに来たわけじゃない」
…は?
「そういうことだったんですか。わざわざ俺の為にありがとうございます」
「いや、俺は俺の理由で動いただけだ」
俺がここに来た理由を真月に伝えると真月はホッとしたのか息を吐いた。
「…そういえば、真月も俺のことを夢で見えていたのか?」
「え?」
「俺の名前を知っていたということはそういうことだろう?」
「あ、ああ…はい」
…?
何か真月の様子がおかしい。
今の話におかしな点はないはずだ。
俺がスターダストを通して見ていたように、真月もスターダストを通して俺を見ていたはず。
でなければ、俺の名前を知る機会は…
「あの…遊星さん」
「なんだ?」
「やっぱり…その…【ジャンク】を?」
‼ …たしかに俺は以前【ジャンク】を探していた。
そのうち、デッキを組みたいと思ったこともあった。
だが、サテライトという環境がそれを許さなかった。
今はともかく、以前のサテライトにカードショップなんてものはなく、シティから流れてくる廃材に紛れ廃棄されたものが主な入手先だった。
廃棄されたカードはごく稀にレアカードが混ざる程度で、基本的には単体では使いにくいカードが多い。
この【スクラップ】も単体で使いにくいという理由があったからこそ揃えることができたようなものだ。
ともかく、そういう理由があり【ジャンク】を揃えることはできなかった。
「懐かしい名前だな」
「それじゃあ…」
「いや、俺は【スクラップ】を使っている」
【ジャンク】を知っているということは、どうやら真月は過去の俺を見たようだ。
…ということはおそらく
「地縛神との戦いを知っているのか」
「…ええ。知っています」
やはり。
「とても壮絶な戦いだったようで」
「ああ。だが、辛いことばかりではなかった」
俺はあの戦いがあったおかげでシティとサテライトは1つになり、新たな絆を得ることができた。
…しかし
「………」
何故真月は微妙な顔をしているのだろう?
「………」
【ジャンク】を使うことのできない不動遊星…
たしかに、【ジャンク】はシンクロ向きのカード群だが、エクシーズにも対応できるカードもある。
手札1枚をコストに特殊召喚できるクイック・シンクロンなどがその最たるものだ。
サテライトの環境など住んだこともない俺にはわからないが、そういった事情から遊星は【ジャンク】系のカードは中々手に入らなかったのだろう。
理由はわかるし【スクラップ】も遊星らしいといえばらしいが…しかし納得がいかない。
俺のワガママかもしれないが、不動遊星には【ジャンク】を使っていてほしい。
それに、【ジャンク】自体便利は便利だが、似た効果をもつモンスターがいないわけでもない。
今や古いカードの一角を担っているようなカード群なのだ。
‼ …そうだ。いいことを思い付いた。
「…零君、もういいかしら?」
俺が丁度璃緒を呼ぼうとしたところに璃緒が引き戸を開け顔を覗かせる。
「ありがとう、璃緒さん。 …そうだ、遊星さん」
「なんだ?」
「いつまでこっちにいますか?」
「…そうだな。もう日暮れが近い。何処かで一泊して、それから帰るつもりだ」
遊星の言葉に俺はホッとした。
俺の計画の為にも明日まではいてもらいたかったから丁度いい。
「何処か泊まれる場所の心当たりはあるの?」
「………」
璃緒の言葉に遊星は黙り込んでしまう。
…当たり前だが、ここの地理に疎い遊星が宿泊できるような場所を知っているとは思えない。
だが、かといってこのまま放ったらかしというわけにもいかないだろう。
放っておけば夜通し起きている可能性もあるような男なのだ。
「…なら、私の家はどうかしら?」
「璃緒さんの?」
たしかに、俺の計画の上で遊星に家にいられると困るが…
しかし璃緒の家というのもどうなんだ?
「…おい、璃緒。そいつは?」
「昏睡の零君の意識を取り戻す手伝いをしてくれたの」
「…不動遊星だ」
ダメだ。
そのままシャークと遊星の睨み合いになりかねない。
何より、俺がシャークに睨まれる気がする。
「真月⁉」
見知った声が聞こえ、そちらを見るとドアの入り口に遊馬とアストラルがいた。
「良かった‼ 意識が戻ったんだな、真月‼」
そう言うと遊馬は遊星になど眼もくれず一直線に俺の下までやってくると俺に抱きついた。
「心配かけやがって‼ もう大丈夫なんだよな?」
「だ、大丈夫だから…」
「遊馬君、零君は起きたばかりなのよ」
「あ、ああ…そうだった。悪い、大丈夫か? 真月」
璃緒が助け舟を出すと遊馬も気付いたのか慌てて離れた。
「ああ、大丈夫だ」
遊馬の顔を見ながら俺はそう返す。
…少し離れただけなのに、とても懐かしく感じる。
ああ、俺はちゃんと帰って来れたんだな。
『真月、彼は?』
「ああ…俺を助けてくれた人だ」
アストラルの言葉に俺がそう返すと遊星は少し訝しげな表情をする。
「…そこに何かいるのか?」
『私が見えていないようだな』
「えーっと…」
そう前置きをすると、俺は遊馬とアストラルにここまでの経緯を説明し、遊星にアストラルについて説明した。
「じゃあ俺ん家に泊まったらいいんじゃないか?」
「だが…」
「真月が信頼してる人なら大丈夫だ」
今晩の寝床の話が出た辺りで遊馬がそんなことを言い出す。
正直なところ、それはすごく有難い話だが…しかし遊馬の家族は大丈夫なのか?
「…わかった。言葉に甘えさせてもらう」
「おう‼ じゃ、行こうぜ‼ 早く帰んなきゃ、姉ちゃんと婆ちゃんに怒られちまうぜ」
そう言うと遊馬は遊星を押して出て行ってしまった。
「…嵐のようだったわね」
「ああ…璃緒さん」
「何かしら?」
「頼みがあるんだ」
「頼み?」
「ああ、俺がよく行くショップに行ってーーー」
「ーーーを頼みたい」
「ええ…でも、本当にあるの?」
「あの店なら確実にある」
なにせ、あの店は第一弾が現存しているのだ。
必ずある。
「…わかったわ。今から行ってくるわね」
「ああ。 …本当なら俺が自分で行くところなんだが」
「仕方ないわ。でも、今度何処か行きましょう?」
「そうだな…遊園地に行こう」
あの空間での瑠那との遊園地を思い出す。
あの時は遊園地を楽しむどころではなかったが、ここがあの空間と同じわけもないし、トラブルに巻き込まれることもまあないだろう。
なにより、あの空間での瑠那との出来事が後ろめたい。
ほぼ一方的だったが、しかしやってしまったことには変わりないのだ。
「じゃあ約束よ?」
そう言うと顔を綻ばせ、小指をこちらに向ける璃緒に俺もつられて笑みを浮かばせ小指を絡めた。
いわゆる指きりというやつだ。
「じゃ、行ってくるわ」
そう言うと璃緒はドアを開け、出て行った。
さて、後は璃緒が帰ってくるのを待つだけだ。
俺の計画が上手くいくといいんだが…
いかがでしたでしょうか?
では、今度こそテスト明けにまた会いましょう。