ベクター?誰それ、俺真月   作:野球男

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こんにちは。
導入 ゲスト篇です。
いやしかし、まさかラストのあれだけでキャラバレするとはw
流石というかなんというか。

それでは、どうぞ。


第63話

日本。

 

アジア内部では東の端に位置する小さな島国だ。

しかし、そこに秘められた神秘は他国に負けず劣らずなものを秘めている。

 

例えば、童実野町と呼ばれる町で3000年の長き眠りから目覚めた名もなきファラオとその相棒となった男が生まれ育っている。

また、現在はARと名を変えているものの、その前身となったソリッドヴィジョンを作り出したKCこと、海馬コーポーレーションの本社があるのもこの国だ。

 

そんな摩訶不思議な国、日本にある遊馬達の暮らすハートランドシティ。

そこから離れた土地に旧童実野町にして、現在ネオドミノシティと呼ばれる街がある。

 

この街は少し前に起こった事故により、一度吹き飛んでいる。

しかし、その当時アメリカに出張し、難を逃れていた海馬コーポーレーション社長が中心となって行われた復興の結果、元あった街よりも更に発展を遂げた経済特区へと姿を変えた。

 

そんな街の郊外の一角に2人の仲間と共に居を構える男がいる。

 

「………」

 

赤い流星型のバイクのアクセルを軽く捻ったりしている男の髪型は変わっている。

いや、この世界の人間の髪型は変わっているのだが、その中にあって彼の髪型は奇抜と言ってもいい。

何せ、髪の色こそ黒だが、黄色いメッシュを入れた部分を含めた髪が上に横にと突き出している。

シルエットにすれば、きっと彼の頭は甲殻類のようだと言われることだろう。

 

「………」

 

男はここ何日も決まって夢を見ている。

いつもはその夢のせいで寝付くことができず、跳ね起きることになるのが、その類の夢ではない。

 

彼のかつてのエースであった純白の龍の夢だ。

彼はとある事情から、仲間達と共に世界の存亡に立ち向かったことがあった。

その時に彼の傍らにあった龍だ。

 

その龍は戦いが終わると共に何処かへと姿を消した。

彼は正直なところ、惜しくもあった。

短い時間とはいえ、自分の傍らにたしかに存在していたからだ。

 

しかし、彼はこれが本来あってはならないこと、いずれは自分の元から去って行くことを理解もしていたし、納得もしていた。

 

龍はエースではあったが、龍がいずともデュエルはできる。

 

彼はそう考え、実際にデッキを組みデュエルをする。

 

そんな彼の夢に、龍は再び現れた。

最初はただの夢だと、たまには過去に浸るのも悪くはないと、そう考えていた。

しかし、すぐにこれがただの夢ではないことに気付く。

 

龍を通して、1人の青年が見えたからだ。

彼は特殊な存在だった。

外見こそ人間だが、その実人間ではない。

バリアンという存在だった。

そして、青年は龍と共に戦っている。

人間である友人や恋人達と絆を紡ぎながら。

 

同じなのだ。

龍を傍らに置き、仲間達と絆を紡ぎ戦った自分と。

 

彼は自分と同じ青年がいることに嬉しく思った。

最初は会いに行こうかとも思った。

しかし、一方的な知り合いだ。

怪訝な表情をされるのがオチだろう。

 

自分は龍を通してこっそり、彼の活躍を見守ろう。

 

そう決め、毎晩床に就くのを楽しみにした。

そんな彼を見て、仲間は不思議そうにしていたが、心の何処かで龍を通して確かに繋がった新しい絆を喜ぶ彼にはそんなことは気にならなかった。

 

しかし、ここに来て事態は急変する。

 

青年が危機に陥ったのだ。

 

デュエルの決着後、残されたカードに触れた時のことだ。

青年を呑み込もうと、カードに宿る意思が襲いかかった。

青年は友人を逃し、後を託すとそのまま倒れてしまう。

 

居ても立っても居られなかった。

青年に託された仲間達は、それを成すべく動き出すだろう。

しかし、では誰が青年を助けるというのか。

自力で脱出することを願う?

そんな消極的な手段を講じなくてはならないのか?

 

しかし、今の自分が行ったところで、何かができるとは限らない。

痣を失い、彼は痣を無くす以前の一般人へと戻った。

今の彼にあるものは多くの絆だけだ。

 

だがしかし、そんな絆を大切にする彼にはそれが一方的なものであっても、放置するような真似はできなかった。

 

「…ハートランドシティ…」

 

彼は青年の横顔と着ていた制服や覚えている風景を頼りに、方々に掛け合い、自身もまた探した。

そうして突き止めた街の名前はハートランドシティ。

真月零という青年の名前。

 

少々距離はあるが、彼の愛車ならば行けないことはないだろう。

 

「何処に行く?」

 

そんな言葉と共にふと、彼の背に影が落ちる。

振り向いてみると、トレードマークであるロングコートを風になびかせ、いかにも意思の強そうな目をした金髪の長身の男がいた。

 

「…仲間の下に」

「仲間? 十六夜や龍亜達ではあるまい…鬼柳の居場所でもわかったのか?」

「鬼柳の居場所はわかってはいない」

「ならば、仲間とは誰だ?」

男にしては珍しい怪訝な表情で彼に聞く。

 

「…スターダストを覚えているか?」

その彼の言葉に男は顔色を変えた。

彼の傍らに白い龍がいたように、彼の傍らにも龍がいたのだ。

「当然だ。今も胸に刻まれている我が魂を忘れるものか。 …しかし、何故それを今聞く?」

 

彼らの龍は既に傍らにはいない。

あの戦いの後、痣と共に姿を消してしまった。

どれほどの思い入れがあろうと、それは既に過去のもの。

彼らは既に未来へと歩き始めている。

 

「…スターダストの嘶きが聞こえた」

「なんだと?」

男は彼からもたらされた言葉に驚きを示す。

 

「しかし、スターダスト・ドラゴンはあの戦いの後、痣と共に姿を消したはず」

「だが、俺にはあの嘶きが聞こえた」

そう言うと彼は黙り込み、静かに男の言葉を待った。

男も黙り込み、沈黙の中2人の視線がぶつかり合う。

 

「…いいだろう」

ややあって男が道を開けた。

「もし本当にスターダスト・ドラゴンがいるのなら、そこには必要となる何かがあるということ。行って確かめて来い」

 

「ああ。ありがとう『ジャック』」

そう言うと男ーージャック・アトラスは鼻を鳴らし、背中を壁に預け腕を組んだ。

 

「さっさと済ませて帰って来い『遊星』」

そうバイクに乗る男ーー不動遊星に告げると、頷いて返し、そのままガレージから走り出した。

 

スターダスト・ドラゴン…そして真月零…待っていてくれ。

俺も今、そちらへ向かう。

 

遊星の心中で告げた言葉に、スターダストの嘶きが返ってきたような気がした。




いかがでしたでしょうか?
遊星のキャラがなんとなくイメージとズレがおこっている気がしないでもないですが…
それでは。

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