ベクター?誰それ、俺真月   作:野球男

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こんにちは。
いよいよ今回でベクターの遺跡篇はラストになります。
次回から登場するキャラクターをチラッと出しますので最後までお楽しみに。
推奨BGM:遊戯王DMより「神々の戦い」

それでは、どうぞ。


第61話

「来い、聖刻神龍ーエネアード‼」

 

そう俺が叫んだ瞬間風が唐突に止んだ。

風だけではない。

あんなにしなっていた木々は、当然葉のこすれ合う音を立てることを止め、鳥の羽音どころか、視界に俺達を除いた生物の気配が無くなる。

遠くから聞こえていた波の音すらも聞こえなくなり、まるで音というもの事態を何処かに置き忘れてきたかのような耳が痛くなる程の無音が辺りを支配する。

 

突然日食でも起こったかのように、周囲が薄暗くなる。

すると、それまでの無音が嘘のような、ゴゴゴゴゴ…という音が聞こえてくる。

それに紛れ、同時に大きな力の震えを感じる。

まるで、空気が脈打つかのように感じるそれに、亡霊は明らかに狼狽えている。

 

そして一段と震えと感じる力の気配が大きくなると、同時に巨大な龍の姿が視界に入った。

2人がほぼ同時に見上げた先には赤い体表の龍がおり、大きな咆哮を挙げると翼を広げた。

 

聖刻神龍ーエネアード

★8 光属性 ドラゴン族

ATK 3000

DFE 2400

レベル8モンスター×2

1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる

自分の手札・フィールド上のモンスターを任意の数だけリリースし、リリースしたモンスターの数だけフィールド上のカードを破壊する

 

「これは、一体…⁉」

「…ッ」

これが、あの扉との契約で手にしたナンバーズをも上回る力を持つ『神』のカード。

正直なところ、所持者である俺ですら放たれる圧倒的な力に飲み込まれかねない。

 

「エネアードの効果発動‼ ORUを1つ取り除き、手札のレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンとドラゴンヌート、フィールドのフェルグラントをリリースし、クレイジー・ボックス、ネクロマンサー、リバースカードを破壊する‼」

 

エネアードの周囲を回るORUがエネアードの額で破裂すると、エネアードの後ろにドラゴンヌート、レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン、そしてリリースされたフェルグラントが現れる。

エネアードが大きく咆哮を上げると、3体が飛び出しそれぞれがモンスターとリバースカードを破壊した。

 

「な…っ」

これで相手のフィールドは空。

…インフェルニティ・バリアならやられていたかもしれない。

つくづく、今回は俺の運が良かったということか。

 

「ひっ⁉」

亡霊が己の敗北を悟ったのか、小鳥から離れ、逃げ出そうとしている。

「決闘者がデュエルから逃げ出そうとするな‼ エネアード‼」

そう叫ぶとエネアードが大きく息を吸い込み始める。

口の隙間から光が漏れ出る。

 

「過去の亡霊を打ち払え‼」

そう叫び、エネアードの口から吐き出された光の奔流はまっすぐに亡霊を呑み込んだ。

 

ー嫌だ、消え…な…‼

 

亡霊 LP2600→0

 

エネアードが攻撃を終えると、そこには亡霊の姿が消えており、倒れ付す小鳥の姿があった。

 

「小鳥‼」

0と1の数字と共に消えるARビジョンを横目に俺が駆け寄り仰向けに抱える。

どうやら気絶しているだけのようだ。

 

「…良かった」

そう安堵の息を吐きながら呟いたところで電源の切れたDパッドに置かれたままのクレイジー・ボックスが視界に入る。

 

それにしても…闇の王、か。

まさかベクターの生前の恨み辛みを肩代わりすることになるとは思わなかったな。

 

そんなことを考えながらクレイジー・ボックスを手に取ったところで、描かれているクレイジー・ボックスの目がギョロリと動き、こちらを見た。

 

「何っ…⁉」

俺は驚きにとっさにカードを捨てることができず、固まってしまう。

クレイジー・ボックスからは闇が零れ、そのまま俺の足元に広がり始めた。

 

パンドラの箱…嫌な予感が当たったっていうのか…⁉

 

「…小鳥、悪い‼」

そう言うと俺は小鳥を巻き込むまいと草むらに投げた。

闇は既に俺の足に侵食しており、膝から下はピッタリとくっついたかのようで、生半可な力では動かすことはできない。

 

…まだいけるか?

俺はDゲイザーを取り出し、通話機能を起動させる。

 

[真月‼]

ワンコールを待たずに遊馬が出た。

少々荒い息づかいから察するに、遺跡を駆け上がっているのだろう。

 

「遊馬。ナンバーズを見付けた」

[ナンバーズを⁉]

「ああ。今、ちょっと立て込んでるから詳細は話せないんだが、俺が持ってる。回収するなり、してくれ」

[わかった。今何処にいるんだ?]

「今は遺跡の前だ…っとお⁉」

 

右腕が闇に飲まれる。

もう余り話す時間はないらしい。

 

「遊馬、ナンバーズを集めろ」

[真月? 何かやってるのか?]

「ああ、まあやってるっちゃあやってる。とにかく、遺跡のナンバーズをバリアンより先に集めろ。頼むぞ」

[おい、真]

遊馬が何か言いかけるが、そちらには構うことはできず、そのまま通話を切った。

それと同時に闇が左腕と首から下まで侵食が進む。

 

「…ハッ、やっぱりツいてない」

そう呟くと俺の視界は闇に塗りつぶされてしまった。

…遠くでスターダストの嘶きが聞こえたような気がする。

 

 

同時刻。

地面からニョキニョキと生えたビル群から少し外れたガレージに1人の男がいた。

男は自分のものらしいバイクをいじっていたが、不意に手を止める。

 

「…スターダスト?」

 

懐かしい嘶きが風に乗って聞こえたような気がした。




いかがでしたでしょうか?
ラストの男は一体誰なんだ…(棒)
亡霊を倒し、小鳥は助かったものの、真月君がまたもや戦線離脱。
真月君を欠いた遊馬達はどうするのか!
お楽しみに。

活動報告に裏話やらレシピやら載せたので、よければどうぞ。

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