ベクター?誰それ、俺真月   作:野球男

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こんにちは。
50話到達!
当初はこの辺りで完結している予定でしたが…いやぁ、見通しが甘かった。
もちろん、本作は完結するまで、まだまだ続きます。
それでは、どうぞ。


遺跡篇 ベクター
第50話


 某国、某所。

 いかにも海外といった街並みの片隅、1人のスーツを着た初老にさしかかった男性が数多くの記者に囲まれ、カメラのフラッシュに応えるように、にこやかに手を振っている。

 

「ルブラン氏‼」

「ルブラン氏、こちらもお願いします‼」

 そう声を上げる記者の言葉に応えるようにルブランと呼ばれた男性が視線を向けていると、背後の建物から花束をもった少女が現れた。

 

「これは?」

「孤児院のみんなで出し合って買いました」

 そう言うと少女は男性に花束を差し出し、男性は笑みを浮かべながら受け取ると、その足で待たせていたらしい黒塗りの車に乗り込み、そのまま走り去った。

 

「お勤めお疲れ様です、ボス」

「ああ」

 静かに動く車内の中、黒いサングラスをかけた男の声にルブランは、先程の柔和な笑みを消し、下卑た笑みを浮かべながら、自分しかいない後部座席に行儀悪く座った。

 

「ボス、今月の上納金です」

 そう言うと男はアタッシュケースを開き、ルブランに見せた。

 アタッシュの中には真新しい札束が詰まっている。

「そいつをそのまま保管庫に入れておけ」

「イエス、ボス」

 

 そう男が返事し、ルブランは悪どい笑みを深めながら片手に握るデッキをぶらぶらとさせているとドアの向こうから大きな物音が聞こえてくる。

「誰か鉄砲玉でも飛び込んできたのか?」そう男は考えたが、ならば銃声の1つはあってもいい。

 

 男も、外にいる者達もこちら側に身を置くようになって長い。

 今更、どのような人間が飛び込んできたとしても、引き金のかかった指は躊躇うことをしないだろう。

 しかし、派手な音こそするものの、銃声の類は一行にしない。

 

 少しの間していた派手な音が唐突に止むとドアがゆっくりと開き、男と似た格好をした大柄な男がゆっくりと床に倒れた。

 その男を跨ぐようにオレンジ髪の青年が現れる。

 

「なるほどねぇ…表向きは熱心な慈善事業家。一皮向けば、裏カジノに密輸、なんでもござれの暗黒界のボス。大した二枚舌だ」

 そう呟くと、なんでもないように青年はゆっくりと近付き始める。

 

「なんだテメェ‼」

 そう言った男は、しかし青年の背後で倒れる仲間をしっかり視界に捉え、懐にある拳銃に手を伸ばそうとした。だが

 

「………」

 

 青年の眼が怪しく輝きを放ち、掌を男に向けると、男は突然吹き飛ばされ、意識を無くし床に倒れ伏した。

 その場には青年とルブランの2人だけが残される。

 

「そろそろ本体にご登場願えませんかねぇ?」

 そう青年ーーベクターが不敵な笑みを浮かべながら言うとルブランはニヤリとし、身体中から黒い煙を噴出させた。

 そのままルブランがばたりと机に突っ伏すと、黒い煙は集まっていき、アストラルによく似た姿を形どった。

 

『たしか貴様は九十九遊馬と一緒にいたな…』

 その言葉にベクターはピクリと反応を示す。

 

「…アレは私の影。私とはまた違った存在です」

『ほう…では、何者だ? まさか普通の人間ではあるまい』

 そう言うとベクターはその場に片膝をつき膝まづいた。

 

「探しておりました、No.96。私はバリアン七皇の1人、ベクター。私を貴方の配下にしていただきたい」

 

 そう言うと黒いアストラルーーNo.96は腕を組み、面白そうにベクターを見下ろす。

『こいつは傑作だ。バリアンが俺の手下』

「貴方こそ真の王となるべきお方。私が貴方の大きな力となりましょう」

 

『何が目的だ?』

 恭順の意思を崩そうとしないベクターの姿にNo.96は話を聞く気になったのか突っ伏したままのルブランの頭の脇に腰を降ろす。

 

「利害が一致すれば強い者の下につくのは当然のこと」

『俺とお前の利害が一致だと?』

「貴方はアストラル世界を救う気はない」

 そうベクターが言うと、No.96はやや面白くなさそうに顔つきを変えた。

 

『だが、バリアン世界を救う気もない』

「それも、私と同じ考えだと言ったら?」

『ほお…?』

「忠誠の証に新たなナンバーズの居場所をお教えしましょう」

『‼ …新たなナンバーズ?』

 そうベクターの言葉にNo.96は顔色を変えた。

 

 ナンバーズは特別なカード。

 破壊や混沌といったものを求めているNo.96はいずれ自身を捕まえるべく現れるであろう、遊馬やアストラルとの戦いの為に戦力を必要としている。

 しかし、ナンバーズは存在自体が特別な力を持つカード。

 そうそう情報が入ってくることもなかった。

 

「悪い話ではないはず」

 そう言うとベクターはバリアンズ・フォースを取り出した。

『バリアンのRUMカード…バリアンの力を俺に差し出すと?』

「真の王は無敵でなくてはなりません」

 そう言うベクターを尻目にNo.96は考え始める。

 

 はたして、目の前にいるバリアンを名乗るこの男を信用してもいいものか。

 

 素性についてはそれほどの心配はしていない。

 おそらく、以前の姿が影というのは間違いないだろう。

 以前見かけた存在とは内側から滲む気配に差がある。

 

 となると…ナンバーズの情報は是が非でも欲しい。

 しかし、このベクターという男は腹の内に何やら黒いドロドロしたものを抱えているようにみえる。

 ルブランを通して人間観察をしていたNo.96はそういう人間は良くないことを考えていることを知っている。

 

 少しの間2つを天秤に乗せて考えていたNo.96はやがて傾いたのか、顔を上げた。

『いいだろう。お前の話、乗った』

 

 No.96は2つの意見を並べ、ならばこのベクターの腹の内の闇を飼い馴らすのも面白い、そう結論づけたのだった。

 

 No.96の答えに気を良くしたのか、笑みを浮かべたベクターは手にあったバリアンズ・フォースに力を込めた。

 鮮やかな紅に包まれ、No.96の体内に飲み込まれる。

 

『それに、この男の身体を借りて、人間世界を観察していたが…飽きてきたところだ』

 そう言うと倒れ伏したままのルブランの手にあるカードがNo.96の体内へと吸い込まれていく。

 

『いくぞ、我が下僕』

 そう言うとNo.96はベクターの横を通り過ぎ、先に出て行った。

 その場に1人、残されたベクターは立ち上がり笑みを深めた。




いかがでしたでしょうか?
今回、三人称視点に挑戦してみたわけですが…なんか微妙にできていないような。
それでは。

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