ベクター?誰それ、俺真月   作:野球男

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こんにちは。
大学からの投稿でございます。
講義していても私の頭は次の展開で回転中。
これでいいのか? 私の頭。
それでは、どうぞ。


第34話

「この辺りならいいかな」

 

場所は河原。

あれから俺は璃緒を連れ、いつも登下校に通る河原にやってきた。

そのまま並んで原っぱに腰をおろす。

「そうだわ、忘れる前に」

 

そう言うと璃緒はポケットからデッキを取り出した。

「はい、零君。貴方のデッキ」

「俺の?」

「ええ。私と戦った零君が残していった【セイクリッド】よ」

 

セイクリッド…無いと思ったら、ベクターに奪われていたのか。

「ありがとう、璃緒さん」

「どういたしまして」

そう言って璃緒さんは俺にデッキを渡した。

すると、俺の耳にパズルのピースが嵌まるような音が聞こえる。

 

「ん?」

「零君?」

今、たしかにパチッという音が聞こえた気がしたんだが…

しかし、周りを見たところでそんな音をさせるものはない。

 

「零君、カードが」

そう言われるままに見ると、胸ポケットに入れたままのマインド・クラッシュが靄がかった光を放っていたが、一度強く光ったかと思うと消えた。

俺の手元に何の変哲もない、カードが残される。

 

「今のは一体…?」

「ベクターが俺にかけた呪いが解けたんだ」

ベクターがバラバラにした心のカケラの1つはセイクリッドに宿っていたのか。

「それじゃあ、零君は今度こそベクターのかけた呪縛から解かれたのね」

「まあ、そうなるかな」

…正確にはほぼ解けた、だったりする。

奥歯に詰まったというか…ほとんど埋まっただけに足りない、ということを感じとることができる。

そして、最後のピースはおそらく…

 

「あー…璃緒さん」

「何かしら?」

「璃緒さんさ、以前俺に…その、好きだって言ってくれただろ?」

「え、ええ…」

「その…」

…やっぱり、気恥ずかしい。

以前の俺がこのテに疎かったかどうかはわからない。なにせ、思い出せないからな。

覚悟を決めろ、真月‼

 

「俺も…好きなんだ」

「え…?」

「だから、俺も璃緒さんが好きです‼ 付き合ってください‼」

 

言った。

言ってやった。

最後はヤケクソだったけど。

でも、俺は璃緒さんに想いを伝えてやった。

はたして璃緒さんはどんな顔を…?

 

そう思いながら、璃緒を見ると璃緒はぽかんとした後、俺の言葉が理解できたのかどんどん赤くなり始めた。

 

「ぅ…あ…」

 

そのまま何か言おうとし、しかし言葉にならず、本当に珍しく、オドオドしたように俺を見ては目を逸らすという行動をし始めた。

 

「…プッ」

そんな珍しい璃緒が何故か面白く、そして愛しく見え、気付けば俺は噴き出してしまっていた。

「うっ…ククッ…」

「も、もう‼ 何も笑うことないじゃない‼」

むくれた璃緒が俺にそう言うが、そうやる姿すらも可愛げがあり、そうやって笑っていると璃緒も釣られたのか笑い始めた。

 

そうやってひとしきり2人で笑い、俺は河原を眺めた。

「一度死にかけたせいなんだろうけど、今幸せだって感じがする」

「幸せ?」

「ああ。こうやって並んで座って、笑いながら景色を眺めて」

「フフッ、そうね。私もそう思えるわ」

「璃緒さんも?」

「ええ。長い間ベッドの上に1人だったから。今こうやって誰かと時間を共有できているのが、すごく幸せ」

そう言うと、俺達はそのまま黙り込んだ。

肩に重みを感じ、視線だけそちらを向けると璃緒の頭が見え、なんとも言い表せないその感覚に口を開こうとし、しかしそのまま閉じた。

 

「ねえ、零君」

「ん?」

「私のこと、好き?」

「好きだよ」

「私も好きよ、零君のこと」

「ありがとう」

 

「零君は私のどういうところが好き?」

「凛としているところ。けど、たまに可愛くなるところ。他にも色々あるけど…嫌いなところは思い浮かばないかな」

「嬉しいわ」

「璃緒さんは?」

「優しいところ。たまにへたれることもあるけれど…でも、カッコいいところ。私と一緒にいてくれることも」

「嬉しいよ」

そうして再び俺達は黙り込んだ。

耳の奥で再びパチッという音が聞こえる。

…やっぱり、最後のピースは璃緒さん、だったか。

 

そうして黙っていると、街灯に灯りが点いた。

…どうやら、気付かない間にそれなりに時間が経過していたらしい。

空を見上げると夕陽はもう暮れかかっており、星が見え始めている。

そろそろ璃緒さんを帰さなければ。あまり遅くなると、シャークも心配するだろう。

「璃緒さん、そろそろ帰ろう…璃緒さん?」

 

「…くー…」

俺が璃緒の顔を覗き込むと璃緒は目を閉じ、眠っていた。

サルガッソでの戦いに肉体的にはもちろん、精神的にも疲れていたんだろう。

 

「…安心して寝ちゃってまあ」

そう呟いた俺の口は知らず知らずのうちに笑みを浮かべていた。

しかし困った。

俺は璃緒とシャークの家の場所を知らないんだが…

 

「…仕方ない、家に帰ろう」

居所さえ知れたら、シャークも一泊くらいなら許すだろう。

「よっ…と。さて、じゃあ帰るとしますか」

そう呟いた俺は璃緒をおぶさり、ゆっくりと歩き出した。

これから、俺には想像もつかないような出来事が待ち構えていることだろう。

でも、せめて璃緒だけは護っていきたいと思う。

 

 

この後、家で目が覚めた璃緒が普段の気丈さとは裏腹に、借りてきた猫のように大人しかったのは、また別の話だ。




いかがでしたでしょうか?
シャークさんとは時間をかけて進める予定です。
それでは。

あれが(星因子)デネブ、アルタイル、ベガ
君は指差す(高騰不可避な)3枚のカード

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