ベクター?誰それ、俺真月   作:野球男

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こんにちは。
そして皆さん、お待たせしました。
いよいよ『アレ』が行われます。
それでは、どうぞ。


第26話

「消えた…?」

 

 爆煙が晴れた先には倒れたままの真月と、ベクター自身がセットしたままのリバースカードが残されており、ベクターの姿は消えてしまっていた。

 

『まさか…今の攻撃で、ベクターは時空間に呑み込まれてしまったのか?』

 ベクターが呑み込まれた…?

 もしそうなら、これで…

 

「真月を助けることができた‼」

 そう、ベクターという諸悪の根元は消え去り、真月はベクターから解放されたんだ‼

 

「真月ー‼」

 そう考えた俺は、倒れ伏す真月に駆け寄ろうとすると

「遊、馬…」

 ピクリと反応した真月はゆっくりと身体を起こした。

「真月‼良かった、無事だったんだな‼ 待ってろ‼今そっちに」

 

「…クククッ…」

 俺が駆け寄ろうとすると真月が突然笑い始めた。

 

「…真月?」

 不気味に俯いたまま笑う真月を黙って見ている。

 何だ…⁉

 

「なぁーんちゃって‼」

 

 そう言いながら真月は顔を上げた。

 その表情は同じ人間の顔とは思えない程、狂気に歪みきっている。

 

「し、真月…?」

「クッハハハ…可笑しくって腹痛いわ〜。面白い奴だなァ、お前。ヒッハハハハ…ホントに俺を…クククッ…なら、見せてやろうかァ⁉ もっと面白いモノをよォ‼」

 そう言った真月から紅い力が胸の前に出された両手の間から猛烈な勢いで吹き荒れた。

「バリアルフォーゼェェェェ‼」

 そう叫んだ真月は光の中に消え、光が晴れたそこには、先程消えたはずのベクターが立っていた。

 

「ベクター⁉」

『真月にバケていたのか…‼』

 最初から俺との約束を守っていなかったのか…‼

 ちょっと待て。

「本物の真月は何処だ‼」

「本物ォ?誰それェ、俺ベクター。鈍いなァ、俺が真月だよ‼」

「なっ…」

 真月がベクター…?

 

「そんなはずねぇ‼ベクターはさっきまで俺とデュエルしてたはずだ‼ この間の時だって」

「まだわからねェのかよ。この前デュエルしたのも‼ さっきまでデュエルしてたのも‼ 俺が生み出した分身だよ‼ 本物の俺は、お前の親友真月零の内側からお前を見てたってワケだ‼ ジャンジャジャ〜ン‼今明かされる衝撃の真実ゥ‼」

 俺はベクターが明かした言葉に未だ頭が追いついていなかった。

 真月がベクター…⁉

 

『内側からだと…⁉』

「そうとも‼この俺が、めんどくせェ友情ごっこをバカ正直にするとでも思ったかァ? お前達の相手をしていた真月零はなァ、俺の身体を依り代に、別の世界から調達してきた別人だ」

『なんだと⁉なら、私達の知る真月は』

「もういねェよ‼ 俺がアイツの意識を食らっちまったからなァ‼」

 

 なら…

「遊馬‼」

 

 なら、俺はもう…

「大丈夫だから…俺を信じろ」

 

 俺達の知っている真月に…

「信じてくれてありがとう」

 

 会えないっていうのか…?

「俺達は信じ合える仲間だ」

 

「ヒャハハハハハ‼」

「………」

『遊馬…』

 

 …コイツだけは…‼

 

「お前だけは許さねぇ‼ ホープレイV‼ダイレクトアタックだ‼ いけェ‼」

 怒りに任せた叫びは、はたして構えていたホープレイVにも伝わったのか、手に持っていた剣を振りかぶると、雄叫びを上げながら勢いよく飛びかかった。

 

「なら俺はリバースカードオープン‼ vainー裏切りの嘲笑‼」

 

 vainー裏切りの嘲笑

 永続罠

 相手フィールド上のエクシーズモンスターが攻撃宣言した時、そのモンスター1体を選択して発動できる

 選択したモンスターは攻撃できず、効果は無効化される

 選択したモンスターがフィールド上に存在する限り、相手のエンドフェイズ毎に相手のデッキの上からカードを3枚墓地へ送る

 選択したモンスターがフィールド上から離れた時このカードを破壊する

 

「ホープレイVを選択‼ これでホープレイVは攻撃も出来ず、効果も使えねェ木偶の坊になったってわけだ‼ 真月を傷めつけるような行動をすれば頭に血がのぼって一気にホープレイVを出すと思っていたが…まったく、お前は気持ちいいぐらい思い通りに動いてくれるなァ‼ 最高だぜ、最高ォ‼」

「くっ…‼」

「さァて…遊馬ァ、このターンのエンドフェイズでライフポイントはたったの1000、頼みの綱のホープレイVも木偶の坊というザマで一体どうするつもりだァ? せいぜい足掻いてみせろや‼ どのみち全員ここから生きては戻れねェんだからなァ。それもこれも遊馬、お前が招いた結果なんだよォ‼ 関係ねえ奴らまで巻き込んでなァ。まあ、お前にしてみりゃよかれと思ってェ、やったんだろうがなァ」

 

 そうだ…俺がみんなをこんな危険な場所まで連れて来ちまったんだ。

 なんとかしないと…でも、どうすれば。

「くっ…‼ 1枚伏せてターンエンド」

「サルガッソの効果発動‼ そして、裏切りの嘲笑の効果でデッキの上から3枚墓地に送りな‼」

 

 遊馬 LP1000

 手札 2

 モンスター 1

 CNo.39 希望皇ホープレイV

 魔法・罠 2

 リビングデッドの呼び声

 ⁇?

 

 

side:璃緒

 ⁇? LP3200

 手札 4

 モンスター 0

 魔法・罠 1

 異次元の古戦場ーサルガッソ

 

 璃緒 LP1600

 手札 4

 モンスター 1

 深淵に潜む者 攻撃

 魔法・罠 1

 ⁇?

 

「そんな…」

 零君がもう何処にもいないだなんて…

 

 私は今がデュエルの最中だと言うことも、バリアンとの戦いだということも忘れて、その場に崩れ落ちてしまった。

 零君…私は、もうこの想いすら、貴方に伝えることもできなくなってしまったというの…?

 

「立て」

「………」

 もう、私はデュエルができない。

 するだけの目的を、失ってしまった。

 

 すると、向き合っていた男は溜め息を漏らし、デッキのトップに指を添えた。

「俺のターン、ドロー」

「深淵に潜む者の効果発動。ORUを1つ取り除き、このターン相手の墓地で発動する効果を無効にする」

「おろかな埋葬を発動。デッキからモンスターを1体墓地に送る。セイクリッド・ポルクスを召喚」

「え…?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、私は耳を疑ってしまった。

 

 俯いたままの視界を相手に向けると、白を基調とした裏地が赤い純白のマントを纏い、1つの柄に2つの刃がついた剣を握った騎士が現れた。

 鎧に覆われたその顔は窺い知ることが出来ない。

 

 ーそこには、零君が愛用していたモンスター、セイクリッド・ポルクスが立っていた。

 

「セイクリッド…ポルクス…?」

「セイクリッド・ポルクスの効果により、このターンセイクリッドと名のついたモンスターを1体召喚できる。セイクリッド・ソンブレスを召喚」

 

 ポルクスの隣にはソンブレスが並ぶ。

 その布陣は…零君の後ろから幾度となく見た光景だった。

 それが、私と相対する形で目の前に立っている。

 そんな…まさか、あのフードの中は…

 

 呆然とする私の前に再び画面越しにベクターが現れる。

 [そういや璃緒ちゃんよォ。お前も真月を助けに来たんだろ?]

 まさか…まさか…‼

 [なら会わせてやるよ。好きで好きでたまらない真月君になァ‼ 衝撃のシンジーツゥ‼]

 ベクターが指を2本立てると男はフードを掴み、ゆっくりと降ろした。

 

 私と向かい合う形で相対していた男の正体はーーー

 

「そんな…」

 

 私や遊馬君がこの空間へ来た最大の目的ーーー真月零がそこにいた。




いかがでしたでしょうか?
ベクターの悪意に遊馬&アストラル、そして璃緒はどう立ち向かっていくのか!
お楽しみに。それでは。

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