前回は人間界サイドでしたので今回はバリアンサイドにしました。
視点はもちろん彼。
それでは、どうぞ。
ここはバリアン世界のとある場所にある城。
薄暗い城内には、主が不在となっている玉座と、薄い結晶体の中で、現在昏睡状態にあるギラグとアリトの姿がある。
「ギラグ…アリト…」
彼らは優秀とは言えないかもしれないが、それでも私と同じバリアンの戦士。
その2人を破ったアストラルと九十九遊馬は、もはや私に敗れた時とは別人のような強さと意思を手にしたということなのだろう。
バリアンの戦士といえば…真月零。
全力でなかったとはいえ、私とタキオンドラゴンを倒したバリアンの記憶がないというあの男…
本当にドルべの言う通り、あの玉座の主…ナッシュなのだろうか。
「ミザエル」
そう声をかけられ振り向くとフードを目深にかぶったドルべの姿があった。
「ここにいたのか」
「…人間界で深い傷を負ったアリトとギラグ…2人は未だ、目を覚まそうとしない」
「…ミザエル、こうなれば私達2人が打って出るしかあるまい」
そう言うドルべの方へと振り向こうとすると
「…ククククククッ…」
と言う人を馬鹿にしたような笑い声がどこからともなく聞こえてきた。
「誰だ‼」
「しけたツラ並べて懺悔でもしようってのかァ? なら聞いてやろうか」
そう言うと玉座に寝そべりながら紫のフードを目深にかぶったベクターが現れた。
「このベクター様が」
「ベクター…⁉」
奴はたしか、少し前に人間を使ってアストラル世界を滅ぼすという任務に失敗し、姿をくらましていたはず。
何故奴が今頃姿をあらわす?
だが、ベクターは私達のことは無視し、そのままギラグとアリトに近付く。
「あーあー、ざまぁねぇなぁ。力及ばずなんの結果も残せませんでしたぁー。許してくださいってかァ⁉」
そう言うと嗤いながら姿を消し…
「許してやるよォ!」
一瞬で私達の眼前に移動すると言い放った。
「…ッ‼」
ベクター、なんのつもりで帰ってきたのかなど色々聞きたいことはあるが…貴様が雲隠れしている間、バリアンの使命を果たそうと行動した2人への侮辱は私が許さん‼
そう考えながら、私は怒りのままに手刀をベクターへと向けたが、当たる寸前のところでドルべが私の腕を掴んで止めた。
「やめろ、ミザエル」
そう言ったドルべは冷静な瞳で私をまっすぐに見つめた。
「だが…‼」
「今は我々が争っている場合ではない」
そうやって見つめられていると、頭が冷えてきた。
…たしかに、今すべきことはベクターへの制裁ではない。
「…次は止めない‼」
「そりゃどうも」
「ベクター、相変わらず気まぐれに現れるな。トロンとDr.フェイカーを操りアストラル世界を葬る君の計画…だが、2人はアストラルと遊馬に敗れてしまった。失敗の責任もとらず、何処に雲隠れしていた」
そう言ったドルべの目は怪しく輝き、細くなった。
「失敗なんかじゃねぇ。これも計画のうちだ。遊馬、アストラル、カイト、凌牙。アイツら4人を一気に叩く最終決戦のためのなぁ。万に一つのしくじりも許されねぇ。お前ら、賭けろ‼この俺に全てを‼」
姿をくらまし、今更ノコノコ現れておきながら…‼
「誰が貴様の策など‼」
そう言いながら詰め寄ろうとした私を、しかしドルべは制した。
「わかった」
ドルべ…⁉
「ただし、二度と勝手な真似はするな。もしまたそのようなことがあれば…この私が」
「さあ‼よからぬことを始めようじゃないかァ‼」
そう叫ぶベクターの声に私は不満を感じた。
だが、それはドルべも同じ気持ちのはずだ。
でなければあんなこと、言うはずもないだろう。
しかし、我々には手をこまねいている時間はない。
真月零…
お前達もベクターの言う最終決戦に現れるのだろう。
再戦の時、楽しみにしているぞ。
いかがでしたでしょうか?
次回からサルガッソに向けて動き出します。
お楽しみに。