私と妹の緊急会議を挟み、色々考えた末今回の話に落ち着きました。
それでは、どうぞ。
「真月がいなくなった?」
「ええ」
零君の残したカードを握ったまま、私は凌牙と合流した。
「劇が終わった後、嫌な予感がして待ち合わせ場所に急いだの。そしたらこれが」
「セイクリッドトレミス…」
「多分零君のカードだと思う」
「だろうな。アイツ以外にこの学校で使ってるのを見たことがねぇ」
「凌牙、探すのを手伝ってくれない?」
「ああ。わかった」
そう言うと、凌牙はそのまま教室を出て行った。
さっきから悪い予感が拭えない…零君…
「おーい‼」
大きな声に振り返ると、此方に向かって駆け寄ってくる遊馬君がいた。
「遊馬君」
「シャークから聞いた。真月がいなくなったって?」
「ええ。昼頃別れてから姿がずっと見えなくて…遊馬君は?」
「俺はその頃はカップルデュエル大会に出てたから見てねぇ」
「そう…」
カップルデュエル大会…
実は、私も零君と一緒に出たかった、なんて思っていたりする。
演劇が無ければ零君を誘って必ず参加していた。
「遊馬ー‼」
「鉄男‼」
「ダメだ。Dゲイザーの反応が無い」
「遊馬ー‼」
「小鳥‼キャットちゃん‼ どうだった?」
「ダメ。真月君の姿、誰も見てないって」
「猫ちゃん達にも聞いたけど、昼頃走って屋上に上がるのを見た後は知らないって」
「遊馬君‼」
「委員長‼徳之助‼」
「生徒玄関を見てきたウラ‼」
「真月君の上履き、ありませんでした。トドのつまり、真月君は先に帰ったのでは?」
ナンバーズクラブの全員が集まった。どうやら遊馬君は零君を探す為にみんなに声をかけてくれていたらしい。
それにしても…帰った? 零君が私に何も言わず…?
「いえ、私は零君と屋上で会う約束をしていました。それを忘れて先に帰るとは…」
そう、零君のあの目。
あの目は何かを決めた目だった。
そんな目をした零君が、自分からした約束をやぶるはずが…
「見つかったか?」
そう言う声と共に、凌牙が廊下から現れた。
「いいえ、誰も見てないみたい…」
「そうか…ったく、アイツ何処行きやがったんだ?」
これだけの人数で探しても見つからないどころか、目撃証言も一切ない。その上、Dゲイザーの反応もないなんて…
零君に一体何が…
そんな風に働かせていた思考を、沈痛な声がそれを止めた。
「…みんな、聞いてくれ。俺、黙ってたことがあるんだ」
そう告げた遊馬君に、全員の視線が集まる。困惑を隠しきれない様子の小鳥さんが、それに呼応するように口を開いた。
「黙ってたこと?」
「ホントは口止めされてたんだけど…そうも言ってられないかもしれねぇ……真月のことだ」
零君の、秘密…? 一体何かしら。
考えるように視線を下げた遊馬君が次に顔を上げた時、あの目が私達を射抜いた。零君と同じ、何かを決意した目…
次に告げられた言葉に、私は頭が真っ白になる。
「…実は、真月はバリアンなんだ」
「なっ…⁉」
一瞬、全員が息を詰めたのがわかった。
零君が…バリアン…?
それはつまり、あのミザエルやアリトという男と同じということ?彼は私達の…敵…!?
『それは本当なのか、遊馬⁉』
黙り込んだ私達に、アストラルの声が急に割って入ってきた。
遊馬君はそれに小さく頷きながら答える。
「ああ。真月から明かしてくれた」
『真月がバリアン…』
「でも、アイツはバリアンとしての記憶が無いらしいんだ」
「記憶が無い?」
「ああ。真月自身、今のバリアンを信じていいのかもわかんねぇらしい」
ほ、と息を吐く。少し、息がしやすくなった気がした。
良かった…零君が敵だと決まった訳じゃないのね…
「それで? どうして真月は黙っていたんだ?」
「アイツは昔のことを何も覚えてねぇ。ひとりぼっちだったんだ。だから、ようやく出来た俺達との繋がりを壊したくなかった…って言ってた」
「…わかるわ」
「璃緒さん?」
「零君の気持ちが、私にはわかる」
そう、私と零君は何処か似ている。
零君はそれまでの記憶がなく、私は他人との接し方がよくわからない。
私達はお互い、他人との繋がり方がわからない…
「零君はきっと、初めて友達が出来た時とても嬉しかったはず。その繋がりを何よりも大切にしたいと思っていたはずよ」
「…遊馬、どうしてそれを今俺達に言う気になったんだ?」
「真月は…ひょっとしたらバリアンに襲われたのかもしれねぇ」
‼ そう考えると辻褄が合う。零君には記憶がないとはいえ、私達と一緒にいた時期が長い。
もしかしたら私達について何か情報を掴もうと…
遊馬君の力強い声に、再び意識が現実に戻される。
「アイツはバリアンだ。でも、俺はアイツを…真月を信じてる。アイツは俺の仲間だから」
何があっても零君を信じる…仲間だから、か。
「…そうね。私も信じるわ、私のよく知る零君を」
「…そうだな‼ バリアンでも関係ない‼ アイツは俺達の仲間だ‼」
そう鉄男君が言うと周りのみんなもそれぞれ賛同の声を上げた。
「とにかく、だ。今日はもう遅い。明日片付けで登校する。何事もなけりゃ登校してくるだろ」
そう凌牙が締めくくると、とりあえずその場は解散となった。
私と凌牙以外の全員の姿が見えなくなった後、私は凌牙に声を掛ける。
「凌牙、零君の家に行ってみましょう」
「お前、俺の話聞いてたのか?」
「ええ。けど、どうしてもこの目で見ておきたいの」
そうやって睨み合いを始めて数十秒くらいは経った頃、凌牙が溜め息を吐いた。
「…わかった」
「凌牙‼」
「ただし‼ 一度帰ってからだ…いいな?」
「えぇ…ありがとう、凌牙」
凌牙に無理を言ってバイクで零君の家まで来たけど、やはりというか、部屋には灯りはついていなかった。
「行ってみましょう」
「ああ」
そう言って私達は零君の部屋の前まで向かうと、呼び鈴を押す。声も掛けてみたけれど、それでも反応は無かった。
ドアにも鍵がかかっている。
「璃緒」
しゃがみこんで植木鉢の下を覗き込んでいた凌牙に呼ばれて、同じように覗き込んでみる。そこには、部屋の鍵が置かれてあった。
「ここにあるということは…」
「ああ、真月は帰ってない」
「まさか本当にバリアンに…」
「かもしれねぇ」
今まで以上の不安が、胸の中を渦巻いていく。
零君…貴方は何処にいるの?
いかがでしたでしょうか?
次回もう1話くらい挟んでアニメ本筋に流れていくかと思われます。
それでは。