ベクター?誰それ、俺真月   作:野球男

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こんにちは。
いよいよ今回から話が本格的に前に進み始めます。
それでは、どうぞ。


第18話

 シャークと璃緒の兄妹喧嘩デュエルなら数週間。

 俺も璃緒もお互い文化祭の準備に追われ、あまり話すことのできないまま文化祭当日を迎えていた。

 

「真月君、これあそこのテーブルまでよろしくね」

「ああ」

 ウチのクラスの客入りはメチャクチャ忙しいというわけでもなく、かといって暇というわけではないといったところだ。

「シャーク?」

「なんだ、その格好」

「何って…セイクリッド・ソンブレスだ」

「似合わねぇな」

 ほっとけ。

「最近お前ら一緒にいないみたいだが…何かあったのか?」

 

 

「零君、私貴方のことが好きよ」

 

 

「い、いや…別になにも」

「………」

「真月くーん‼」

「すぐ行く‼…それじゃあシャーク、ごゆっくり」

 …危なかった。どうやらシャークはまだ気付いていないようだが。

「トラブルか?」

「真月君たしか裁縫できたよね? 舞台の服が少し破れちゃったらしくて」

「わかった。着付け部屋だったな?」

「ええ、お願い」

 そう言って着付け部屋に入ると

「あら、零君」

 姿見用の鏡など最低限のものが置かれた中央に椅子に座って出番を待つ璃緒がいた。

 

「…ひょっとして璃緒さんが?」

「ええ、お願いできるかしら」

 …よりによってなんで璃緒が…仕方ない。とにかくサッサと済ませてしまおう。

「そういえば」

「何かしら?」

「シャークが外にいた」

「凌牙が?」

「ああ。見に来たんだと思う」

「そう…凌牙が」

 そう言って璃緒は黙り込んだ。

「…よし、出来た」

「ありがとう」

「それじゃあ俺は」

「零君」

「…なんだ?」

「この間のことだけれど」

「…ああ」

「返事は今すぐじゃなくていいわ。時間をかけてもいい。でも、必ず返事はしてちょうだい」

「わかった」

 そう言うと璃緒はうっすらと笑みを浮かべた。

「そろそろ開演時間ね。それじゃあ零君、終わったら文化祭見て回りましょう?」

「ああ。璃緒さん」

「何かしら?」

「頑張って」

「‼ ええ」

 そう言うと璃緒は衣装部屋から出て行った。

「はぁ…」

 璃緒に心配をかけるとは情けない。

 …でも、そうだな。璃緒も踏み出したんだ。俺も踏み出さないとな。

 

 

「お待たせ、零君」

 持ち時間を終えた俺は更衣室で着替えを済ませて待っていると同じく着替えたらしい璃緒が走ってこちらにやってきた。

「何かあったのか?」

「凌牙が鉄男君と騒いでたのよ」

 なるほど。その場面はなんとなく想像できる。

「それじゃあ行こうか」

「ええ」

 そう言うと俺達はそのまま校内をウロウロとし始めた。

「まずは何処に行く?」

「そうだな…まずは腹ごなしでもしよう」

「じゃあ校庭の模擬店ね」

「ああ」

 

 

 校庭に出ると設営の組み立てた多くのテントの下でたこ焼きやフランクフルト、トウモロコシなど様々なものが売られていた。

 人通りも当然の如くかなりある。

「あー…璃緒さん」

「何かしら?」

「かなり人通りがあるし…さ。その…手、繋がないか?」

「え、ええ…‼ 繋ぎましょう」

 と言うと璃緒は俺の手を取り恥ずかしげに笑みを浮かべた。

 なんだこの可愛い生き物は。

「じ、じゃあ…行こうか」

「ええ。ふふっ」

 と笑うと俺達は並んで歩き出した。

 

 …正直、何を食べたのか覚えてない。

 ただ、隣で歩く璃緒を見ていてハッキリと理解できたこともある。

 璃緒の隣は居心地がいい。

 俺は…璃緒の隣を誰かに譲りたくはない。

 それが例えシャークであっても。

 

「あ、そろそろ戻らないと」

「璃緒さん」

「何かしら?」

「文化祭終わったら言いたいことがあるんだ」

「言いたいこと?」

「ああ、聞いてほしい」

「今じゃなくて後なのね?」

「ああ。いつもの場所で待ってる」

「…わかった。文化祭が終わったらすぐ行くわ」

「ああ。それじゃあいってらっしゃい、璃緒さん」

「いってきます、零君」

 そう言うと璃緒は手を離しこちらに手を振り駆けて行った。

 さて、俺はどうしようかな。

 そう考えていたその時だった。

「…ッ⁉」

 なんともいえない奇妙な感覚が俺を襲った。

「な、なんだ…⁉」

 あっちからか…?

 そう直感的に考えた俺はそのまま勘だけを頼りに走り出した。

 

 

「ここは…」

 しばらく走って辿り着いた場所は俺と璃緒が昼休みによく利用する屋上の一角だった。

 ここに一体何が…

 そう考えながら辺りを目でキョロキョロと探っていると

「クククククク…」

 という底冷えしそうな、それでいて人を徹底的に馬鹿にしたような笑い声が聞こえてきた。

「⁉ 誰だ‼」

「誰だ? 随分な言い草じゃねぇか。お前は俺を知っているはずだ。なあ、真月…クククククク」

 …まさか…いや、でも…そんな馬鹿な‼

 俺が『真月零』である以上お前がここにいるはずが…‼

 

「信じられねぇ…そんな顔だなぁ、真月。なら見せてやろうか?」

 その声が終わると同時に、俺の目の前に見覚えのある底なしの穴が開く。そこから現れたのは、俺と全く同じ背丈の男。フードを被っていて顔は見えない。

 だが次の瞬間、一陣の風が俺達を襲う。それによって、フードがめくれ上がり男の顔が露わになった。

 

 その顔を見て、俺は再び驚愕することになる。

 

 目以外に何も見当たらない灰色の顔、所々紅のはいった俺と全く同じ髪型の白髪

 

「このベクター様の顔をなぁ‼」

 

 ベクターがそこにいた。




いかがでしたでしょうか?
ついに出会った真月君とベクター‼
真月君はどうなってしまうのか‼ 真月君は璃緒に想いを打ち明けられるのか‼
乞うご期待‼
それでは。

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