ベクター?誰それ、俺真月   作:野球男

159 / 161
こんにちは。

エピローグとなっております。

それでは、どうぞ。


エピローグ
第159話


それからのことを、ほんの少しだけ語ろう。

 

 

バリアン世界がなくなるのとほとんど同時、囚われていた決闘者達が全員戻ってきた。

みんなそれぞれ、ぼんやりとだが記憶が残っていたようで、それが原因で少し混乱もあったけれど、今はもう完全に沈静化し、それぞれがそれぞれの生活へと戻っている。

 

ただ、入れ替わるようにして、アストラルが自分の世界へと帰っていった。

そもそも、この世界に留まっていたのは散らばったナンバーズを回収する為でもあり、俺から渡ったナンバーズで全てのカードが揃ったらしく、留まり続けるだけの理由が無くなってしまった、とのことだ。

それに対して1番抵抗したのは、当たり前だが遊馬。

とはいえ、遊馬もガキじゃない。

アストラルの言い分がわからないわけじゃなかった。

まあ、結局はいつもの流れでデュエルを繰り広げることになったのだが。

俺とのデュエルよりも激しかったんじゃないか? なんてのは、俺の心の内に留めておく。

それはともかく、だ。

これでアストラル世界とバリアン世界、そして人間世界を跨いだ大騒動は終結し、俺達はそれぞれの日常へと戻ることになった。

 

そうそう。

いくつか変わったこともあった。

最近、ごく一部でE・HEROが人気がある。

囚われていた時、ぼんやりした記憶だけど、すごく強いHERO使いに目に覚めるような一撃をもらった…ような気がするウラ、というのは、その時の徳之助の言葉だ。

その言葉を聞いた片桐プロがすごく嬉しそうな顔をしていたが…

HERO使い…まさか、ね。

 

 

それに、もう1つ。

というか、こっちの方が重要。

七皇の面々が人間として蘇った。

ドルべいわく、死んだと思って目を閉じたのに、次に開いた時には人間になっていたそうだ。

それを聞いて、多分ヌメロン・コードの力だろうと言ったのは、遊馬。

アストラルがきっと何かしたのだろう。

今はそれぞれ、現代社会に合わせて活動しているようで、俺の場合はミザエルを中心に交流が続いている。

 

ただ、ベクターがどうなったかわからないそうだ。

七皇の誰も見ていないらしい。

まあ、顔を出し辛いというのもあるだろうし、俺としても顔を合わせたところで何を話せばいいのやらという気持ちなので、今はそれでよしとしておく。

 

 

Ⅳ…本名、トーマス・アークライト(シャークとトーマスって顔じゃないと笑ったのは内緒)はあれから1度、璃緒に謝りに来た。

なんでも璃緒が意識を失うことになった原因がⅣにあるのだとか。

傑作だったのは、色々ゴニョゴニョと何か言っていたところに璃緒のビンタが炸裂し、男らしく?許すと言ったことだろうか。

ポカンとした後、シャークとヒソヒソ何か喋っていたのがやけに印象に残っている。

今は、兄達の異世界研究を手伝う傍ら、本業であるプロ決闘者として忙しくしているらしい。

 

 

遊馬も変わりない。

あの一件から、お互いに少しギクシャクした時期もあったけど、デュエルをして仲直りという、まあいつもの俺達のやり方で関係は修復した。

今はもう、相変わらず元気の塊のような明るさで、デュエルに授業にとかっとビングしている。

今日も跳び箱20段に挑戦していたのが、いい証拠といったところだろう。

 

 

そして、俺。

とりあえず、あの後すぐシャークから1発ぶん殴られた。

いや、俺消えてないのに殴るのおかしくないか?

そう言ってみれば、口答えすんなってもう1発殴られかけた。

それもきっと、シャークなりの表現なんだろう……多分な。

まっすぐで、実にいい拳だったことはここに明記しておく。

…助走つけやがって。

 

それともう1つ。

いつの間にか月から帰ってきていたカイトの紹介で、Dr.フェイカーと出会った俺は、メディカルチェックを受けることになった。

バリアンだった俺がどうして生き残ったのか、調べるためだ。

結論から言えば、俺の身体からバリアンとしての力は欠片も検出されなかった。

というよりも、もはや人間らしい。

途中から合流したトロンというⅣ達の父親(いやに小さかったので弟かと思った)も参加し、かなり念入りに調べたので間違いないと思う。

 

奇跡としか思えない、そう言われたが俺には心当たりがある。

カオスの門との契約だ。

俺はあの門に『この世界に留まりたい』という願いをした。

結果、あの門は俺から元いた世界の大切な人達の記憶を奪うことで、俺をこの世界に留まらせるだけの力を与えた。

それが鍵になった。

そういうことなんじゃないかと思う。

まあ、それでもあの時の俺は

 

「門をぶっ壊せばなんとかなる」

 

そんな風に思っていたわけだが…

 

そんな俺の思惑を見事にぶっ壊したのが、驚くなかれ、セイクリッド・プレアデスだったりする。

最後の攻撃。

俺の真後ろには運命の扉があった。

あのまま、ホープの攻撃が俺に直撃すれば、俺諸共門も壊れていた可能性がある。

最後のあの瞬間、プレアデスが動き、ホープの攻撃を代わりに受け止める。

あの動きが、結果として俺を救うことになった…んだと、思う。多分な。

 

門の所在は未だに不明だ。

アストラルがなんとかしたと信じてはいるが、どうなったかはこちらからは観測できないらしい。

…バリアン世界にでも行けば、ひょっとしたら何かわかるかもしれない。

でも、俺は当分、異世界問題やらに関わるつもりはない。

こちとら苦労に苦労を重ね、自分の身すら賭けて、ようやく手にした平穏なんだ。

日常レベルならまだしも、世界や次元を巻き込んだドタバタはしばらくはいらない。

だから、頼むから何処か別次元から決闘者が大挙して押し寄せて、次元戦争みたいなことは起こらないでくれよ。

俺の読みでは融合辺りが怪しいんじゃないかと思ってる。

シンクロやエクシーズにすっかり出番を奪われたしな。

 

 

 

 

 

 

「零君?」

ぼんやりとしていた俺に、白いティーカップに口につけていた璃緒が俺に声をかけてくる。

「璃緒さん、そろそろ出ようか。もういい時間だ」

「そうね」

支払いを済ませ、いつもの喫茶店を出る。

あれから既に半年が過ぎた。

半袖の時期は既に過ぎ去り、今は木枯らしの吹く寒さの厳しい季節だ。

 

「すっかり寒くなったわね」

「ああ」

俺と璃緒は身体を寄せ合いながら、ゆっくりとした歩調で薄暗くなったハートランドシティを、璃緒の家に向けて歩く。

空は既に月が顔を出しており、空気が澄んでいるせいか、中枢部から光々と照らされるネオンのライトにも負けない程に満点の星が優しく照らす満月と共にキラキラと瞬いている。

 

「璃緒さん、ほら。月が綺麗だ」

「なっ…⁉︎」

俺が月を見ながら呟いた言葉に璃緒は驚いたような顔をし、そのまま赤くなり始める。

「ふ、不意打ちはよくないわ」

「璃緒さん?」

璃緒は俺を上目遣いに見たり、目を逸らしたりと忙しそうにしている。

俺は何かおかしなことを言ったのか?

 

「…そうね」

しばらく右往左往した璃緒は、突然、何かを決めたのか俺の腕を引いて立ち止まった。

「何をーーー」

驚きと共に俺が横を向くと、真正面に璃緒の顔と唇に柔らかい感触。

 

「ーーー」

 

何をしているのか、ようやく頭が理解し始めた頃に璃緒の顔が離れていく。

そのまま、少し赤い顔で俺へとはにかむと

「私、死んでもいいわ」

そう言って先に歩き始めた。

 

ー月が綺麗だー

ー私、死んでもいいわー

 

「あ…」

今更になって、一文の意味を思い出す。

「…やられた」

いや、それはどっちかというと璃緒のセリフか。

まさに不意打ちだったわけだし。

何にしても、俺の顔は今きっと面白いことになっているだろう。

 

「零君、行きましょう?」

不意に、少し先を歩いていた璃緒が俺の方を向いて、笑顔で手をさし出していた。

満天の星空と、綺麗な月に、住宅街から漏れる明るい光。

それら全てが、璃緒を引き立たせているように見えて。

 

「ああ」

 

近寄り、手を取って歩き出す俺の顔にも自然と笑みが浮かぶ。

 

「零君」

「ん?」

「私のこと、守るって言ってくれたわよね?」

遊馬とのデュエルの時のアレか。

「ああ」

「あれは、今も?」

「ああ。今だって、その気持ちは変わらないさ」

そう言うと、璃緒は握る手を緩め、俺の腕へと自分の腕を絡めた。

自然と、俺達の身体も密着する。

 

「なら、そうね…とりあえず、向こう100年くらいは、私を守ってもらおうかしら」

「ああ。100年と言わず、ずっと守るよ」

 

そう言って、嬉しそうに笑う璃緒に返事をする。

失ったものは大きい。

いつか、後悔するかとしれない。

けど、こっちを選んでよかったと、俺は心の底から素直にそう思えたのだった。




いかがでしたでしょうか?

山あり谷あり、色々なことがありました。
それでもここまで来れたのは、感想欄での皆さんの言葉があったからこそだと思っています。
まあその辺りはあとがきの方にもあるので、よければどうぞ。

次に何を書くかは正直なところ決めていませんが、また次回何か書くことがあればその時に会いましょう。

それでは!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。