ベクター?誰それ、俺真月   作:野球男

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こんにちは。
vs真月戦 終了〜となっております。

バトルもいよいよもって終わり。
同時に、本作もいよいよ終わりが間近です。
長くやってたなぁ…

それでは、どうぞ。


第158話

希望皇ホープの渾身の一撃が俺へと振り下ろされる。

 

当たり前だが、そんなものを受け止めきることも、弾き返すこともできない俺に剣が振り下ろされればこのバリアンのエネルギーの宿る肉体に大ダメージは必至。

下手をすれば、命すらも危ういだろう。

だが、俺は受け止める。

それが、こんな辛い役回りを遊馬に押し付けた俺がしてやれる最大限の敬意だ。

そう思って、光り輝く剣が俺に触れようとした瞬間ーーー

 

「プレアデス…⁉︎」

 

ホープと俺の間に突如割り込んだプレアデスがその身体で剣を受け止めた。

「なんで…」

俺がそう呟くとプレアデスの目がこちらをチラッと見た…ような気がした、次の瞬間爆発して消え去る。

 

真月 LP0

 

ワンテンポ遅れて襲いかかってきた爆風に吹き飛ばされ、俺も地面に転がる。

俺の持っていたオーバーハンドレッド以外のナンバーズが、俺から離れ、アストラルの下へと集まっていくのが見える。

 

「プレアデス、お前…」

俺の手にはマントを広げ、堂々とした立ち姿のセイクリッド・プレアデスがある。

当然、カードが何か言うこともなければ、突如プレアデスが現れるなんてことも起こらない。

俺は、何も指示を出しちゃいなかった。

だが、プレアデスが自分の意思で俺を庇った。

プレアデスの意思がそうさせた…とでも言うのか?

 

「アストラル、カードは⁉︎」

『馬鹿な、光が⁉︎』

 

遊馬の声に俺はゆっくりと身体を起こす。

アストラルの手に持つカードから光が消えていくのが見える。

『No.100 ヌメロン・ドラゴン…⁉︎』

「アストラル、どうなってんだ⁉︎ なんで光が…⁉︎」

バリアン世界のネットワークのおかげか、ある一点から大きな力の胎動を感じる。

そうか…これが、ヌメロン・コードってやつの力か。

ということは、ミザエルが俺に渡したカードは、文字通りヌメロン・コードの『鍵』というわけだ。

 

「どうやら、そのカードは文字通りの力しかなかったみたいだな」

『鍵にすぎなかった…というのか…⁉︎』

アストラルが愕然とした顔でそう言う。

「ま、それがあればヌメロン・コードの所在もわかって万々歳だ」

やや皮肉っぽくアストラルへと言う。

でもまあ、皮肉の1つも許してほしいってなもんだ。

俺が持っていても何も起こらなかった辺り、ヌメロン・コードはもしかしたら自分の所有者を既に決めていたのかもしれない。

アホくさい話だ。

 

「っ、なんだ⁉︎」

突然起こり始めた地震に、シャークがその場にしゃがみ込む。

(最後のバリアン)が負けたことで、構成していた中心点が無くなり、人間世界との融合が解け始めたんだろう。

アストラル世界が小さくなり始めているのがここからでも見える。

世界同士の衝突も、もう起こることはないだろう。

 

「さて、じゃあ俺もそろそろかな」

俺の中から、急速に何かが無くなっていくのを感じる。

この調子なら、バリアン世界が人間世界から完全に手を引くよりも前に、多分俺が消えるだろう。

元々、行き道のみの片道キップ。

影の後始末(帰り道)なんて、ベクターが用意していたわけがないだろう。

まあ、あったとしても俺は知らないから、結局は無いのと同じだ。

つまり、これがおそらく、俺の見る最期の景色となる。

 

「‼︎ 待ってくれ、真月‼︎ まだ俺達のデュエルはこれからだろ⁉︎」

「それはまた機会があれば、だ」

「ふざけんな‼︎ 勝ったり負けたりしながら、俺達はデュエルしていくんだろ‼︎」

「遊馬」

俺は諭すようにして、遊馬を止める。

「思惑があったにせよ、お前は選んだんだ。俺はその選択に間違いはないと、これまでも、これからも信じてる」

できれば、これからも見ていたかったんだけど、な。

 

「璃緒さん」

「零君」

…参ったな。

「そんな顔をさせたくはなかったんだけど」

そう言うと、頬をかき璃緒の顔へと目を向ける。

璃緒の眉が吊りあがっている。

あれは、璃緒が怒っている時の反応だ。

何回か見たことがある。

でも、同じくらいに瞳は涙で揺れて、口はキュッと横一文字になっている。

それも、見たことがある。

泣き顔だ。

 

「勝手ね」

「ごめん」

「許さないわ」

俺の言葉に璃緒は間髪入れずに答える。

「許してほしいのならーー」

…今の俺に出来ることと言えば…

 

「あっ…」

 

璃緒さんの涙を受け止めるくらいだ。

 

抱き寄せて、俺の身体に涙が溢れないように、璃緒の顔を密着させる。

「璃緒さんの涙をこれからはもう拭えないのが、俺の心残りだな」

そう言うと、璃緒は拳をゆるゆると俺にぶつけ、肩を震わせる。

泣いているのは俺でもわかる。

でも、それでも声を押し殺すのは、意地っ張りな璃緒らしいといえばらしい。

 

「…そうだな」

そう呟くと、俺はDパッドからデッキを取り外した。

デッキケースに残っているエクストラデッキも、墓地のカードも、全てを重ねて1つのデッキにする。

「これを璃緒さんに」

ベクターが影である俺に与えたデッキ。

でも、そうだとしても。

俺にとって、コイツはもう唯一無二の存在。

そんなコイツを連れて消えるのは惜しい。

「捨ててもいいし、売り払ってもいい。好きに使ってくれ」

そう言い、璃緒の手にデッキを握り込ませる。

すると、タイミングよくシャークが璃緒の肩を抱き、璃緒はゆっくりと俺から離れる。

 

「ありがとう、シャーク」

「ああ。 …真月」

「?」

「帰ってきたら、ぶん殴ってやる。それで許してやるよ」

シャーク…

「それは怖いな」

そう言って俺は肩をすくめて答える。

こっちも、いつも通りだ。

本当は、色々言いたいこともあるだろうに。

本当に意地っ張りな兄妹だ。

 

ーーさて、と。

これで、大体は終わったかな。

視界の端に、紅い岩が光の粒になって消えていくのが入り込む。

バリアン世界の方もそろそろ終わりっぽいな。

身体の方も、あったであろう力はほとんどが抜け落ちたみたいだ。

なんというか、穴が空いたようなぽっかりとした感覚がある。

そのわりに体調に変化はないが…まあ、多分こんなもんなんだろう。

イカれてきているということなのかもしれない。

 

「…そろそろ、だな」

ああ、今更になって少し怖くなってきた。

身体の内側から少しずつ熱が奪われ、冷たくなっていくかのようだ。

これが死ぬということなのかもしれない。

けど、もう後戻りはできない。

するつもりもない。

こっちに来て、色々あったし、辛いこともあったけど、まあその分いいこともあったし、良かったじゃないか。

 

ああ、消える。

身体の中に残っていた何かが消える。

同時に、背負っていた何かも無くなっていく。

 

 

消える。

 

 

消える。

 

 

消え、る。

 

 

消え…

 

 

 

 

 

「…あれ?」

閉じていた目を開き、身体を見下してみた。

何処かが消えている…ということはない。

五体満足だ。

そのままハートランドシティの景色へと目を向ける。

ハートランドシティはバリアン世界の手から離れ、元の景色へと姿を取り戻している。

 

「あれ?」

そのままポカンとしている遊馬達へと首を傾げた。

最後まで残っていたカオスの門も消え、分厚い壁のように遮っていた雲の切れ間から、太陽の光がさし込む。

…なんで?

「っ、馬鹿‼︎」

頬に鈍い痛みが走り、余りの強さに尻餅をつく。

璃緒がビンタ…ではなく、拳で俺の頬を殴ったからだ。

そのまま、璃緒が俺に抱きつくと今度はワンワン泣き始める。

 

俺はといえば、璃緒に殴られたショックか、ようやく頭が現状に追いつきはじめていた。

「〜〜〜〜〜っ‼︎」

頬が痛い。

…それに、滅茶苦茶恥ずかしい。

なんで俺が生き残った?なんて疑問はもはや頭から吹き飛んでいる。

遊馬にカッコつけて別れの挨拶とかしていた俺を無かったことにしてやりたい。

今のは消えておくべき場面だろ。

いや、消えたくはなかったけども。

 

「お、おい。真月、顔ヤバいくらい赤いけど大丈夫か?」

「だ、大丈夫。大丈夫だから…」

心配気な遊馬の顔を直視できない。

というか、そんな声すらも辛い。

 

「零君」

極力遊馬と目を合わさないように、他所を向いていると、聞こえた璃緒の声に視線を降ろす。

いつの間にか、璃緒がこちらに顔を上げている。

涙目とほんの少し赤くなっているのがやけに可愛い。

 

「おかえりなさい」

 

ーーーー。

 

「あ…」

璃緒の涙をさっきそうしたように、そっと拭う。

 

おかえりなさい、か。

…そうか。

そうだな。

俺が何を選んだかなんて、サルガッソの時に既に決めていたんだった。

これも、それに対する結果なんだろう。

だからまあ、俺の答える言葉なんてーーー

 

「ただいま、璃緒さん」

 

これくらいしか浮かばない。




いかがでしたでしょうか?

真月君が消えなかった理由は次回に明かします。

e・ラー戦と今回の裏話を合わせて投稿しましたので、よければそちらもどうぞ。

それでは。

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