ベクター?誰それ、俺真月   作:野球男

152 / 161
こんにちは。
vs⁇?導入(前編)となっております。

最近は【レベル1】にハマっております。
まあアンチホープがどこまでやれるかの確認をね?
結論から言えば、耐性は強いし、切り札になりうるかもしれません。

それでは、どうぞ。


第152話

『ゅ…ま…遊馬‼』

「うっ…アスト、ラル?」

 

俺を呼ぶ声にゆっくりと目を開くと、そこにはアストラルの顔があった。

「あれ、俺…何してたんだっけ…?」

『しっかりしろ。私達はe・ラーと戦ったんだ』

「e・ラー…?」

そう呟いた途端、e・ラーとのデュエルが俺の頭の中を駆け巡る。

 

「そうだ‼ 俺達はe・ラーとデュエルして、あの光から逃げてて…」

『巨大な赤いドラゴンに飲み込まれて、ここに投げ出されたんだ』

「ここ…? そういや、ここは…」

アストラルに言われて周りを見渡す。

カーテンがしてあり、薄暗いとはいえ、父ちゃんが持って帰ってきたよくわからねぇ見慣れた置き物や、いつも使うハンモックーーーここは

「俺の家?」

でも、なんで俺の家なんだ?

 

「遊馬‼」

「‼ 小鳥‼」

小鳥の声に下の階を覗き込むと、そこには小鳥の姿があった。

「良かった。無事だったんだな」

「ええ」

『遊馬』

アストラルの声に、顔を向けると、床に倒れたままのシャークや妹シャーク、それにミザエルの姿もある。

 

「シャーク‼ おい、シャーク‼」

「…ぅ…」

シャークは小さく呻いたけど、意識は戻らねぇ。

気絶してるみたいだ。

とにかく、無事で良かった。

「後は真月だけだな。きっと近くにいるはずだ。急いでーーー」

『遊馬』

「なんだよ、アストラル。早く真月を探さねぇと。あいつもきっと何処かでーーー」

『遊馬、真月は…』

 

 

 

ー俺に構うな‼ 行け‼ー

 

 

 

『遊馬、真月は私達が赤いドラゴンに飲み込まれる寸前、突き飛ばした』

「………」

『真月のいた位置はドラゴンのすぐ脇のように見えた。おそらく、真月は…』

「…っ‼」

たしかに、真月は俺を突き飛ばし、数歩後ろに下がった。

ひょっとしたら、アストラルの言う通り、真月の脇をドラゴンが通り過ぎたのかもしれねぇ。

けどーーー

「認めねぇ…」

『遊馬…』

「真月が死んじまったなんて、俺は認めねぇ‼ きっと、何処かにいるはずだ‼」

そう言って家のドアを開けるーーーそこには。

 

「なんだよ。これ…」

『これは…⁉︎』

 

俺達の視界へと入ってきたものーーーそこには、いつもの景色を突き破るようにして、赤い岩が隆起していた。

その岩はあっちこっちから飛び出しており、空も俺達が旅立った時と同じ、どんよりと赤黒い雲に覆われている。

 

「変わってねぇ…⁉︎」

 

そんな。

俺達は間違いなく、ドン・サウザンドを取り込んだe・ラーを倒したはず。

でも、だとしたら…‼

「…っ‼」

「‼ 遊馬‼」

後ろから聞こえる小鳥の声も無視して俺は走り出す。

真月、一体何処にいるんだ…‼

 

 

 

 

 

 

「ハッ…ハッ…」

河川敷までぶっ通しで走り続けた。

真月の姿も、鉄男達の姿も、誰の姿も見えないし、俺が叫んでも誰も応えない。

まさか、みんな…

 

「どうなってるんだよ…‼ ドン・サウザンドは消えたはずなんだ‼ そのドン・サウザンドを倒したe・ラーも倒した‼ でも、何も変わってねぇ‼ これじゃあ、俺達はただ、みんなを…‼」

『遊馬…』

 

「みんなを見捨てちまっただけじゃねぇか‼」

 

俺は拳を握りしめたまま膝から崩れ落ちる。

「誰でもいいんだ。誰か教えてくれ。俺達は遅かったのか?」

 

 

「そんなことはないさ」

 

 

俺が絞り出すようにして呟くと、突如何処からか声が聞こえた。

この声はーーー

『真月…?』

アストラルの呟きと共に、足音が辺りに響く。

すると、河川敷へと降りてくる道に、真月がゆっくりと姿を現した。

「間に合わないなんてことは決してないさ、遊馬」

「真月…⁉︎」

 

俺は目の前の光景が信じられなくて、目をこすり、もう一度見る。

そこには、いつも見る真月の姿があった。

「真月…?」

「ああ」

真月が生きていた…

 

「真月…‼ 良かった、無事だったんだな‼」

『‼ 待て、遊馬‼』

真月に駆け出そうとする俺の前にアストラルが割り込む。

『サルガッソのことを忘れたのか⁉︎』

「‼」

サルガッソ…

そうだ。あの時、俺はこうやって真月が生きていたと知って…

 

「まさか…ベクター…なのか⁉︎」

 

そんなまさか…いや、でも可能性はある。

真月とベクターは全く同じ。なら、何かの弾みでベクターが復活する可能性も…‼

俺の警戒に真月はニヤリと口元を歪ませる。

「ククククククッ…その通りィ‼」

「‼ お前、やっぱり…‼」

ベクター…‼

 

「なぁーんちゃって、な」

身構えた俺に、真月はベクターがするような歪めていた顔つきを止める。

「俺はベクターじゃない。間違いなく、真月零さ」

『…本当か?』

「ああ。なんなら、先週俺がダブルスコアで勝った時の遊馬の小テストの成績でも言おうか? 4ーー」

「わああああああ‼」

真月が口に出そうとした言葉を慌てて遮る。

 

「信じたか?」

「信じる‼ 信じるよ‼」

「大体、ベクターは俺達の前でドン・サウザンドに呑み込まれただろ?」

そう言うと真月は口元で小さく笑みを浮かべる。

良かった、その感じは間違いなく真月だ。

「ったく、ビックリしたぜ。でも、生きてて良かった。真月もドラゴンに乗れたんだな」

「ああ…いや、俺は届かなくて、少し違う方法で帰ってきたんだ」

違う方法?

 

「まあ、それはともかく…遊馬、この世界を戻す方法を1つ見付けた」

「‼ 本当か⁉︎」

「ああ」

バリアン世界と人間世界を分けちまう方法をもう見付けるなんて…流石は真月だ。

「それで?」

「このバリアン世界との融合の中心点を叩くんだ」

『中心点?』

オウム返しに聞くアストラルに真月は黙って頷くと、真月は背を向けて歩き出した。

「あ、おい。真月?」

「こっちだ、遊馬」

 

 

 

 

 

 

俺達以外誰もいないハートランドシティを、真月の背中を追いかけるようにして歩き続ける。

「遊馬。バリアン世界に満ちているカオスの力は何処から来ていると思う?」

「カオスの力…」

カオスの力…そんなこと、考えたこともねぇ。

いやでも、ヒントはあった。

サルガッソの時、ベクターが俺達に言っていた「アストラルは疑うことを知らない」って言葉。

あれはきっと、アストラルだけじゃなく、アストラル世界全部のことを言っていたんじゃないのか?

もし、そうだとしたら、切り捨てられたカオスっていうのはーーー

 

『負の感情だろう』

「ああ。喜びや楽しみっていう、いわゆる正の感情よりも怒りや哀しみのような負の感情の方が強い…なんて話は、古今東西何処でだって出てきた話だ。それは間違いない」

真月はそこで一度区切ると「でもな」と前置きを入れる。

「どの生物も、いつまでも負の感情を持ち続けられるようになんてできちゃいない。小さな禍根は残ることはあっても、ずっと怨みや嫉みや怒りを抱え続けるのは疲れる。そんな力がこれだけの現状を生み出せるか?」

『それは…いや、ならカオスの力の説明がつかない。カオスの力はアストラル世界が進化に不要だと判断した力だ。その中には負の感情もある』

「ああ。だから、そこに間違いはない。ただ、正も負も共通した強い感情がある」

「強い感情?」

それは一体…

 

「欲望、だ」

 

「欲望?」

「ああ。全ての生物の感情の源にあるもの。生物である限り、切り離すことのできないもの。欲望…その中でも、後ろ暗いものこそがカオスの源だ」

「でも、ならどうやって中心点を叩くんだ? 欲望ったって、生きてる全てにあるんなら、俺や真月、お前も持ってるだろ」

「まとめる場所があるんだ」

『まとめる場所?』

「欲望の力ってのは、後ろ暗いもの程際限なく溢れる危険なシロモノなんだ。だから、アストラル世界は切り捨てたんだろうけどな」

リバイバルスライム、ディフェンド・スライム、生還の宝札のコンボみたいなもんだな、と真月は零す。

…そんなカードがあるのか。

 

「まあ、そんなものをそのまま使おうものなら、エネルギーの容量があっという間にオーバーして」

そこまで言うと真月は前を向いたまま、片手を俺に見えるように上げると握り拳を作り

 

「ボン、だ」

 

そう言いながら握り拳を広げた。

「だからこそ、そうならないように安全装置があるんだ」

『安全装置?』

「そう、安全装置」

 

 

 

 

 

 

「さあ、着いた」

「着いたって…ここは」

真月が俺を連れて来た場所。

そこは俺にとっても真月にとっても見慣れた場所。

週のほとんど毎日来て、毎日帰る大切な場所。

「学校じゃねぇか…‼」

『ここに安全装置があるというのか?』

「ああ」

真月がそれだけ呟くと、同時に地面が激しく揺れ始める。

 

「な、なんだ⁉︎」

『‼ 遊馬、下だ‼』

アストラルの声に応えるように、地面を突き破るようにしてまるで顔のような、巨大な門が姿を現す。

「禍々しいだろ? これが、安全装置だ」

「安全装置って…」

あの門はーーー

 

「その分じゃ、遊馬。お前も見覚えがあるみたいだな」

忘れるわけもねぇ。

夢の中で出会ったあの門こそ、俺とアストラルが出会うきっかけになった門だ。

「お前も…って、まさか真月も?」

「ああ。ベクターに取り込まれていた時に、な」

 

そう言うと真月は門を拳で軽く叩く。

「この門はな、遊馬。安全装置と同時に自力でカオスを得る力もあるんだ」

「カオスを得る…?」

どういうことだ?

 

 

「この扉を開く者は新たなる力を得る。しかし、その者は代償として一番大事なものを失う」

 

 

「‼」

その言葉はーーー

「この門にはな、そうやって辿り着いた者に持ちかけることで、欲望を得るんだ」

この門にそんな力があったなんて…

いやでも、真月のおかげでそれがわかったんだ。

「だったら、俺達2人でこの門をぶっ壊してーーー」

 

『待て、遊馬』

 

「なんだよ、アストラル」

意気込む俺を水をさすようにしてアストラルが前に乗り出す。

『真月、君はそれだけの知識を何処で手にした?』

「………」

 

「ど、どういうことだ?」

『君は不思議に思わなかったのか? 今話した情報は一体何処で知ったのか』

「‼」

たしかにそうだ。

真月は今話した情報を何処で知ったんだ?

 

「…ベクターに取り込まれていた時かもしれないな」

『いや、私の知る真月がそうなのだとしたら、もっと早く話しているはずだ』

「そうやって言ってくれるのは嬉しいけど…でも、買い被り過ぎだ。俺だって嘘くらいつくし、隠し事だってする」

『だとしても、ここまでの大事になるまで隠し事を貫いたりはしない。少なくとも、私はそう信じている』

「………」

 

アストラルの言葉に真月は顔を伏せると頭をかいた。

「…さっき話した内容を知ったのはついさっきのことなんだ。間違いなく、全てが真実。ただ、1つ黙っていたこともある」

『それは?』

「この門を作ったドン・サウザンドは、万が一にもアストラル世界の住人に破壊されることのないよう、守り番の役目をバリアン世界の住人に与えたんだ」

 

アストラルの言葉に真月は何も返さない。

「真月…?」

 

なんだ、この嫌な気持ち。

この気持ちは…そう。真月が死んだとベクターが言った時の気持ちに近い。

 

「…遊馬」

黙り込んでいた真月はゆっくり顔を上げると、まっすぐに俺を見る。

 

「まだ、大事なことを言ってなかったな」

「大事な…こと?」

「ああ。中心点が何か」

 

ーーやめろ。

 

 

「中心点はな、遊馬ーーー」

 

 

ーーやめてくれ、真月。

 

 

「ーーー俺だ」




いかがでしたでしょうか?

導入をもう1つ挟んで、最後のデュエルが始まります。

お楽しみに。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。