vse・ラー戦〜となっております。
お待たせしました。
長らく続いたこの話も、最後の章に突入です。
山あり谷あり、色々あった真月君。
彼は一体どんなラストを迎えるのか。
それでは、どうぞ。
第151話
ダブル・アップ・チャンスの効果を受け、空をも切り裂く程に立ち昇る光の剣を握ったホープの一撃がヌメロニアスヌメロニアを両断すると、激しい爆発と共に爆風が起こり、e・ラーが黒い柱を何本も薙ぎ倒しながら吹き飛ばされていく。
同時に、俺達の勝利を告げるブザーが鳴り響き、フィールドからARビジョンの影響が消えていく。
「………」
終わった。
不思議と、勝ったのに湧き上がる感情が持てない。
厳しい戦いだったからこその勝った感慨が持てない、とかそういうこととは少し違う気はする。
この気持ちはきっと……
「終わったのね」
「ああ」
近付いてきた璃緒に俺はDゲイザーを外しながら返す。
「我が…負けた…」
e・ラーが空をぼうっと見上げたままそんなことを呟く。
ああ…そうか。
今ようやくわかった。
「俺に声をかけてきていたのはお前だったんだな」
そうだとすれば、一応の納得はいく。
ドン・サウザンドに目をつけたのがいつなのかはわからないが、ベクターが俺をこの世界へと連れて来たのを見ていたんだろう。
そして、何も知らない俺がデュエルで気持ちが折れそうになった時に声をかけた。
あそこで俺の心が折れたなら、俺はe・ラーの手駒として、獅子身中の虫となり、ひょっとしたらドン・サウザンドを確実に狙う為にバリアン側にでもいたんじゃないだろうか。
折れなければ、それもいい。
俺の内に宿った希望が熟した時を狙い、ドン・サウザンド諸共叩き潰すだけーーーそんなところだったんだろう。
「フッ…フフフフフ…どうだろうな?」
「……フン」
まあいい。
ともかく、e・ラーは倒した。
バリアン世界の関係については大方片付いたと言えるだろう。
「おい、あれ…‼」
遊馬が指さした先へと視線を向けると、そこにはe・ラーから解放されたらしい、赤き竜の姿があった。
傍らにはレッド・デーモンズ・ドラゴンやブラックローズ・ドラゴンをはじめとしたシグナーのドラゴン達の姿もある。
「赤き竜…」
俺がそう呟くと、デッキケースから光が放たれ、スターダスト・ドラゴンが現れた。
「………」
「………」
そのまま、赤き竜とスターダスト・ドラゴンは少しの間見つめ合うと、ふいに赤き竜が視線を逸らした。
「何だったんだ?」
「…さあな」
わからないが…スターダスト・ドラゴンは今のところ、俺の下から離れる気配はない。
つまりは、それがスターダスト・ドラゴンの意思なのだろう。
「…お前達はまだわかってはいない」
「‼」
いつの間にか、e・ラーが身体を起こし立ち上がっている。
「我を倒したことがどういうことなのか」
『…どういうことだ』
「さあ?」
そう言うとe・ラーは嗜虐心が見え隠れするような笑みを浮かべる。
「‼ テメェ…‼」
何かに気付いたのか、シャークが叫ぶ。
「フッ…ハハハハハハハ‼ もう遅い‼ 貴様等が浮かべる最後の絶望。とくと楽しませてもらおう‼」
そう叫ぶと、e・ラーから光が溢れ始める。
その光は地面を抉り、塵へと還しながら俺達へと迫る。
「やべぇ…ッ‼」
「逃げるぞ‼」
「璃緒さん、こっちだ‼」
いつの間にかミザエルを担いだシャークの声に俺達は弾かれたように光から距離をとる為に走り出す。
「走り出したのはいいけど、何処に出口があるんだ‼」
「知るか‼ 入れたんだ。出口だって何処かに…‼」
この空間はe・ラーの創り出した空間。
辺りには墓標代わりの黒い柱だけで何もない。
この中を走り続けたところで…‼
「‼ 零君、危ない‼」
そんなことを考えていたせいか、璃緒の言葉が俺の耳に届いた瞬間
「っ…⁉︎」
俺の身体に何かが激突し、もんどりうって、その場に転がってしまう。
「真月‼」
「ぼさっとすんな‼」
「わかって…っ…⁉︎」
ードクンー
「なっ…⁉︎」
身体が、熱い…⁉︎
まるで、飢えていたかのように、背中から身体全体へと俺の身体の中に何かが染み込み、グングン取り込んでいっているのを感じる。
「これ、は…⁉︎」
「遊馬‼」
「小鳥、先に逃げろ‼」
遊馬が俺に駆け寄ってくる。
「大丈夫か、真月‼」
『遊馬、急げ‼ 迫っているぞ‼』
「…俺のことは、捨てて行け。自分で、走る…っ‼」
「そんな状態でお前を置いて行けっかよ‼」
そう言うと、遊馬は走り出すも、俺が足枷になっているせいか、不恰好になり、段々と轟音が近付いてくる。
このままじゃ、遊馬も…‼
「…っ‼」
「うわっ‼」
肩にかかった腕に力を込めて強く押すと反動で俺が後ろへと倒れ、遊馬は前へと数歩進んで膝をつく。
「っ…真月‼」
「俺に構うな‼ 行け‼」
「零君‼」
「璃緒さん、生きろ‼」
俺がそう叫ぶとほぼ同時にドラゴンの嘶きが聞こえる。
「あれは…‼」
「さっきの赤いドラゴン⁉︎」
シャークか遊馬か、どちらかがそう言った瞬間、赤き竜が遊馬とシャーク、それに離れた場所にいた小鳥と璃緒を呑み込むと、そのまま空高く飛び立ち、消え去ってしまう。
「…良かった」
赤き竜に任せておけば、とりあえずは大丈夫だろう。
「…さて」
俺は光へと身体を向ける。
さっきまでの熱は嘘のように引き、入れ替わるように、身体に力が漲っている。
あのぶつかったものが何なのかはなんとなくわかった。
同時に、最後の絶望が何なのかも。
俺だけじゃない、遊馬も璃緒も。
とてつもない苦労を背負い込ませることになる。
だがーーー
「上等だ、e・ラー。この程度の絶望、乗り越えてみせるさ」
だろう? 遊馬ーーー
いかがでしたでしょうか?
もう少し導入が続くんじゃ。
それでは、また。