ベクター？誰それ、俺真月

第146話

こんにちは。

ベクター戦後〜導入となっております。

お待たせしました。
時間はかかりましたが、その分楽しんでいただければなと思います。
それでは、どうぞ。

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「ぐっ…俺が、負けただと…⁉」

自分のライフが尽きたことが未だに信じられないのか、ベクターが呟く。

「ベクター、俺達の勝ちだ」

決して少なくはない犠牲を払いつつも、俺を使った工作に始まり、遊馬やアストラルをはじめとした多くの友人。

そして、世界をも巻き込んだ張本人をこの手で止めることができた。

「くっ…真月…‼」

「………」

だというのに、だ。

この荒野に吹く風のような寂しさはなんだろうか。

…いや、わかってはいる。

ベクターを倒したということは、俺の戦う目的が達したということだ。

「俺(本物)が真月(偽物)に負けただと…‼︎ 冗談じゃねェ…」

「偽物なんかじゃないわ」

「ああ。ベクター、真月はお前の予備でもなけりゃ、人形でもねぇ」

ベクターの言葉に2人がすぐ様返す。

「くっ…」

ベクターが悔しげに呻いたーーー次の瞬間

…ベクター…

…ベクタァ…

「⁉︎」

辺りからベクターを呼ぶ大人や子どもや老人、男や女の声が響き渡る。

この声の感じには、聞き覚えがある。

この声は…

「あの時の…‼︎」

あの遺跡で聞こえたベクターを責める声に思い至った瞬間、ベクターを取り囲むようにして亡霊のようなものが大勢現れる。

その顔はいずれも人と呼べるものではなく、目や口の部分が暗い空洞になっている。

これは…

『ベクターはとうとう追いつかれた、というわけよ』

いつの間にか隣に現れた瑠那が俺の疑問に答える。

追いつかれた…なら、コイツらは

「ベクターに恨みを抱いてバリアン世界にやってきた…人間の魂」

『そういうことよ』

「くっ、来るな‼︎ 来るんじゃねェ‼︎」

狼狽しつつも叫ぶベクターを構うことなく、亡霊は次々にベクターへと絡みつく。

「…いつの世も、悪は己の力に溺れ、身を滅ぼす」

唐突に、シャークの口からそんな言葉が漏れる。

シャークの視線はベクターへと注がれているが、ベクターを通して何処か遠くを見ているようにも見える。

「…ッ‼︎ あの時と一緒にすンじゃねェ、ナッシュゥゥゥウウウ‼︎」

そんなシャークの視線に気付いたのか、ベクターから叫び声が聞こえると共に闇色の力が噴き出し、亡霊を引き剥がす。

「今の俺は七皇3人の力に加え、ドン・サウザンドの力を持っている‼︎ 俺が消えるってンなら、お前らも道連れだ‼︎」

「⁉︎」

「なんだ⁉︎」

ベクターが叫ぶとほぼ同時に足下が揺れ、あちこちに亀裂が走り始める。

「まだこんな力が…‼︎」

「きゃっ」

「璃緒さん‼︎」

転びそうになる璃緒を慌てて支えつつ、ヤケになったように笑うベクターへと視線を向ける。

こう揺れが大きくては動くこともできない。

「ベクター…‼︎」

どうする。

どうすればベクターを止められる…‼︎

「これが俺の力だァ‼︎ 神となった俺の…‼︎」

ー勘違いするな、ベクター‼︎ー

唐突に遮った声にベクターの笑いが止む。

「今の声は…⁉︎」

ベクターに取り込まれたはずの…‼︎

「ドン・サウザンド…‼︎」

ベクターの絞り出すような声と共にベクターの影が歪み、そこからドン・サウザンドが再び姿を現わす。

「…ッ」

ベクターの攻撃に嫌にアッサリと消えてはいたが…まだ生きていたとは。

「そんな…お前は俺の攻撃で焼き尽くされたはず…‼︎」

ー愚かなベクター。我があの程度でやられると思っていたのか。全てはこの時を待つためー

まさか…

ーベクター、お前はもう用済みよ。我が力の糧となるがいいー

ドン・サウザンドがそう宣言すると、鎧の目のような部分に大きな穴が開かれる。

すると、掃除機よろしく猛烈な勢いで吸引を始めた。

「うっ…」

元々の揺れに加えて、吸引に俺達はその場で姿勢を低くするので精一杯の状態だ。

「い、嫌だ‼︎ やめろ‼︎」

その場にへたり込んでしまったらしい、ベクターがドン・サウザンドにそう叫ぶも、ドン・サウザンドは何も語ろうとはしない。

ベクターとドン・サウザンドの間で交わされていたらしい共闘は、もはや破棄されたということなんだろう。

「い、嫌だ‼︎ 俺はこんなところで…」

吸引の勢いに、ベクターは自分の意思とは裏腹にズルズルと引き寄せられていく。

…可哀相だと、思わないでもない…が、ツケが回ってきたんだ。

悪いが助ける義理はーーー

「死にたくねェよ‼︎」

半狂乱のベクターが必死になってそう叫ぶ。

……くそっ‼︎

「零君⁉︎」

璃緒の驚きの声を無視して、俺はベクター目掛けて走る。

ベクターはあらん限りの力で岩を掴んではいるが、少しずつ岩から手が離れているのが見える。

間に合え…‼︎

「うっ…ぐっ…」

間に合え‼︎

「死にたく…」

ベクターの手が岩から離れ、一瞬その場に浮かび、吸引の勢いに引っ張られるように足場から離れる。

「‼︎」

その寸前、ベクターの手をなんとか掴み、剥き出しの岩に足をひっかけ、姿勢を低くし身体を支える。

「っ…真月…⁉︎」

「零君、どうして…‼︎」

「…思い出したんだよ」

この世界に来て最初のデュエル。

大して考えもせず、デュエルが出来ることに喜んで、片桐プロに打ちのめされたあのデュエル。

あの時、俺はデュエルを生まれて初めて「怖い」と心底感じた。

我ながら情けないとは思うが、引き裂かれた爪の跡を見て、怖くて、死にたくなくて、投げ出そうかとも思った。

でも、あの時、誰かが俺に声をかけた。

あれが一体誰だったのか、未だに答えが出ない。

ベクターではなかったのはたしかなのだが…

ともかく、楽になれと、逃げてしまえと、甘い言葉を俺にチラつかせた。

そこに一切の策略が無かったとは言わない。何物かの思惑があったはずだ。

けど、あの言葉に俺は戦うと、生きると言った。

なら…

「投げ出そうとしている ベクター(あの頃の俺)を、俺が見捨てられるか…‼︎」

ー敵であるベクターを助けるか、真月ー

「ああ、助けるね‼︎ 俺はコイツを殴ると決めてるんだ。訳のわからない内に消えられてたまるか」

ー面白い。ならば、共に我の中へと消え去るがいい‼︎ー

そう言うないなや、吸引の勢いが増した。

「くっ…手を放すなよ、ベクター…‼︎」

「…ああ。放すかよ」

俺の言葉に俯いたままのベクターは俺の手を両手で掴む。

「お前には俺の道ずれになってもらうからなァ‼︎」

「‼︎」

「俺と一緒に逝ってくれよ‼︎ なァ、真月‼︎」

「真月‼︎」

「零君‼︎」

「っ…ベクター、テメェ‼︎」

「ヒャハハ…ハハハ‼︎ さァ、こっちに来いよ‼︎」

っ…コイツは…‼︎

「ふざけるな、ベクター‼︎」

ベクターの言い分に怒りを覚えた俺は気持ちもそのままに叫んだ。

「あっちこっちで俺に散々尻拭いさせた挙句に今度は一緒に死ねだと‼︎ 大概にしろ‼︎」

ポカンとしたようなベクターの表情を見て、ますます苛立ちが募る。

「俺はお前の暇潰しの道具じゃなけりゃ、付き人でもない‼︎」

だから…

「今度はお前が俺に付き合え‼︎ 死にたくない俺の意思にお前が着いて来い‼︎」

そう叫び、腕に力を込めてなんとかベクターを引き寄せようと試みてみる。

「っ…‼︎」

まずい、握っている岩が床から抜けそうだ。

なんとか、ベクターをこっちに引っ張らないと…‼︎

「零君、大丈夫⁉︎」

「‼︎ 璃緒さん‼︎」

俺の側へと駆け寄ってきた璃緒が、俺に手を伸ばす。

顔を向けてみれば、璃緒の手はシャークが、その先には遊馬と小鳥が、それぞれ握っているのが見える。

「ったく、無茶しやがって」

「でも、カッコよかったわよ、零君」

「みんな…」

「さあ、零君つかまって」

「ああ‼︎ …っ?」

ふと、俺の手を握るベクターの力が少し弱くなったことを感じ、ベクターへと視線をやると、いつの間にか、握っていた手が両手から片手になっていた。

「…まったく、なんて奴だ。俺が選んだだけのことはある。俺より強欲なンじゃねェか?」

「ベクター…⁉︎」

突如、俺とベクターの繋いでいた手が弱々しく光る。

なんだ…?

「そんなお前に、よかれと思ってこの俺からのプレゼントだ。上手く使えよ」

「ベクター、お前何を」

俺がベクターに問い質そうとした瞬間

「あばよ」

その言葉と共に俺の手をベクターが振りほどいた。

慌てて手を伸ばすも、今度はその手を取ることはなく、一瞬その場に浮かんだベクターは勢いのままに吸い込まれていく。

「ベクタアアアアアアアア‼︎」

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いかがでしたでしょうか。

次回より、デュエル開始。

お楽しみに。