ベクター?誰それ、俺真月   作:野球男

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こんにちは。
シャーク・璃緒・真月vsベクター 1となっております。

今回は短めです。
過去回想とかあるから多少はね?

それでは、どうぞ。


第143話

『意外そうな顔ね?』

 

そう言うと、瑠那はフフフ…と、あの時と同じ笑みを浮かべる。

今の俺の顔は驚きに染まっているんだろう。

それはそうだ。

あの最後の姿は今でもハッキリと思い出せる。

『零君、根本的な部分で勘違いしているわ。私の肉体はもう滅んでいるの。ここにいる私は亡霊のようなもの。これ以上、どうやって死ぬというのかしら?』

 

そういうところも可愛いところなのだけれど、なんて事を言い瑠那はクスクスと笑う。

 

「零君、その人は?」

『貴方が零君の外で待っているという人かしら?』

状況に頭が追い付いたらしい、璃緒の言葉に瑠那が反応を示す。

 

『ふぅん…零君はこういうのが好みなのね? だとしたら、ますます解せないわね。どうして零君は私よりもこんなのを選んだのかーーー』

「ちょっと、貴女急に現れて何なの?」

『私? 私はベクターの元許嫁にして、零君にフられた女よ』

諦めてはいないけれどね、とそんなことを言いながらニコリと笑みを浮かべる。

「零君?」

心なしか、璃緒の眼がやや冷ややかに見える。

 

「この俺の許嫁だと?」

瑠那から出てきた言葉にベクターが訝しむ。

演技…いや、瑠那の話によれば、ベクターは裏切ったそうだ。

だとするなら、裏切った相手の顔をイチイチ覚えちゃいないだけ…か?

 

『元、よ。馴れ馴れしく私を見ないでもらえるかしら?』

瑠那もベクターも見返しながら、底冷えしそうな声でそんなことを言い放つ。

『貴方が覚えていようがいまいが、そんなことは関係ない。私は貴方をぶちのめしたい。ただ、それだけ。 …さあ、零君。デュエルを再開しましょう?』

「…クレイジー・ボックスの効果発動‼ このモンスターは高過ぎる攻撃力の代償として、攻撃が出来ない代わりに、ORUを1つ取り除き、サイコロを振って6つの効果から1つを選ぶ‼」

そう宣言すると、空中に大きなサイコロが現れ、瑠那が両手でキャッチする。

『いくわよ、零君』

「ああ。ダイスロール‼」

俺の言葉に合わせて瑠那がサイコロを投げる。

 

放物線を描いたダイスは床に落ちると、コロコロと転がりやがて止まった。

ダイス目は…5‼

「効果確定‼ フィールドのカードを1枚破壊する‼ 俺が選ぶカードは仮面魔踏士アンブラル‼」

『蹂躙させてもらうわ。消えなさい』

瑠那の言葉にクレイジー・ボックスの目から光線が飛び、アンブラルの胸を貫いた。

「ぐっ…‼」

呻くベクターを尻目に、突然フィールドに光が溢れ始める。

すると、ベクターが真の姿から人間の姿へと戻った。

 

「何が起こってるんだ…⁉」

「ベクターに縁のあるナンバーズでオーバーハンドレッドナンバーズを破壊したんだ。だとしたら、これはーーー」

今から俺達が見るモノは、ベクターの本当の記憶…‼

 

 

 

 

 

 

 

ーワアァァァァ‼ ワアァァァァ‼ー

 

始まりは国民の歓声と喝采だった。

苛烈な印象を受ける半裸の男と、その傍らにいる水色の髪の女性。

そして、その女性に抱かれる幼いベクターの姿。

おそらく、あれがベクターの両親なのだろう。

 

国王たる父は、見た目通り苛烈そのものといっていい程の男だった。

 

「富と権力は力で奪い取るものだ‼」

 

そう叫ぶ父は、兵士を率いて周囲の国々を呑み込んでいく。

多くが死に、それでも戦えと叫ぶ男の姿にはある種の狂気が入り混じっているようにも見える。

 

だが、転機は訪れる。

国王が病により倒れた。

王のいない国は右往左往。

このままではいずれ、滅びてしまう。

そんな中、母は成長したベクターを呼び出す。

 

「王はもう起き上がることはできません。この国を救えるのは貴方しかいないのです。頼みましたよ、ベクター」

「はい、母上」

 

こうして、ベクターは父に代わり、国の舵を取り始める。

ベクターのとった政策は戦いではなく、共存であった。

ベクターは戦う父の狂気を間近で見ていたせいか、心優しい母のもとで育ったおかげか、争いを好む人間ではなかったのだ。

 

だが、それを良しとしない者がいた。

他ならぬ国王たる父である。

争いを好む自身から生まれた息子によって、国が様変わりする。

そんな事実に耐えられなかったのだろう。

隣国と和議を結んだと報告をする息子にとうとう我慢できなかったのだろう、ベクターの腰の剣を奪い取った。

 

「貴様はワシの権威を地に貶める為に生まれた呪いの子だ‼」

 

そう叫んだ父は凶刃をベクターに向ける。

だが、後少しで届く寸前、飛び込んできた母により、ベクターは庇われる。

 

「母上‼」

「王よ…我が子を手にかけるなど、なりませぬ…」

 

息も絶え絶え、そう零す母を前に父は半狂乱のまま息絶えてしまう。

同時に、母も背に受けた傷が原因となり、折り重なるようにして死に絶えてしまう。

 

「父上‼ 母上‼」

 

父と母。2人を同時に亡くしたベクターに深い絶望が襲う。

どうしてこうなってしまったのか。

自分はただ、この国を良くしたいだけだったというのにーーー

 

「ベクター」

 

悲しみにくれるベクターの背に、突然声がかかる。

振り向いたそこにいたのは、フードを目深に被った人の姿。

 

「お前は悲劇ではなく、狂気の王子となるのだ」

 

そう男が呟くと、飛び出した1枚のカードがベクターに取り憑く。

 

「お前にはこの王と同じ、残虐な血が流れている。それを呼び覚ますのだ。我が野望の為に‼」

「俺は父と母を手にかけた狂気の王子…この世界を血で染める為に生まれた…‼」

 

狂気に呑まれるベクターは気付くことはない。

背後にいた男が、今や巨大な魔人と化していたことなどーーー

 

 

 

 

 

 

 

「…っ」

今のが、ベクターの本物の記憶。

与えられた狂気に狂わされた王の姿…

 

「馬鹿な…そんな馬鹿な。今のが、俺の本当の記憶…それじゃあ、嘘なのか…⁉ 俺が両親を手にかけたのは」

ベクターは突然知った自分の本当の姿に呆然としている。

今迄の自分はドン・サウザンドに操られていた存在でしかなかった。

ベクターという存在そのものがただの手駒に過ぎなかった。

 

誰も何も返さず、沈黙しかないが、それこそが問いかけに対する返答だと雄弁に語る。

「だったら俺は…俺は‼ ドン・サウザンド‼」

叫ぶベクターの背後の影が不自然に膨らむと、そこに闇の魔人、ドン・サウザンドが姿を現した。

 

ーどうやらお前も真実に気付いたようだなー

 

「貴様、俺を…‼ 俺を騙していたのか‼」

 

ベクターの問いかけに対し、ドン・サウザンドはベクターがそうしていたように、嗤って返す。

それだけで、ベクターは真実に気付いたのだろう。

膝から崩れ落ちてしまう。

 

「ドン・サウザンド‼ お前のせいでベクターの…ベクターの心が砕けちまったんだ‼」

悲痛な表情をした遊馬がドン・サウザンドに向けて叫ぶ。

今の遊馬の心にあるのは、ベクターがただ悪いだけの奴じゃなかった、その一点なのだろう。

 

「ベクター、お前は本当は心の優しい奴なんだ‼ あの記憶にあった通り、みんなと手を取り合えるような…そんな奴なんだ‼」

 

ー九十九遊馬。ベクターはまさに理想的だったのだ。純粋であればある程、その反動で生じる闇は深い。強きバリアンに生まれ変わる為になー

 

「お前が記憶を捻じ曲げなけりゃ、ベクターは優しい王子だったんだ‼」

 

ーだが、ベクターの残虐性による罪こそが、お前の仲間『真月零』という存在をこの世界へと呼び込んだ。その事実は消せんー

 

「‼」

「…そうだ。俺の過去の罪は消えない」

「そんなことはねぇ‼ 何度だってやり直せる‼」

「そうよ‼ 過去の罪は消せなくても、未来を変えることはできる‼」

 

「…ありがとう」

ややあって、ベクターが立ち上がりながら呟く。

「でも、俺に未来なんてあっちゃいけないんだ。ここまでみんなを苦しめた俺に、未来なんて…」

 

そう呟くと、ベクターは悲壮な表情で俺へと顔を向ける。

「真月、俺は次のターン。サレンダーをする」

 

ーなんだと⁉ー

 

「けど、その前に…持っているんだろ? 効果を無効にできるカードを」

「………」

俺はベクターの問いかけに無言の肯定を示す。

ベクターにも伝わったのだろう。

 

「それを使って俺に…俺の中にいるドン・サウザンドと共に叩きつけてくれ‼」

 

ーどういうつもりだ、ベクター‼ー

 

「頼む…‼ 俺を、汚れきった過去に少しでも清算させてくれ‼」

「………」

たしかに、俺の手札には禁じられた聖杯があるが…しかし、これを使うのは…

『零君、貴方に任せるわ。私は何をしても文句は言わない』

 

………

 

「…わかった」

「真月⁉」

「俺は禁じられた聖杯をクレイジー・ボックスを対象に発動‼ このターンの終わりまで効果を無効にし、攻撃力を400ポイントアップする‼」

 

No.85 クレイジー・ボックス

ATK 3000→3400

 

「さあ、やるんだ‼」

 

ーさせるかァ‼ー

 

ベクターの突然の行動にドン・サウザンドが抵抗しようとするも、ベクターから溢れ出す力が阻む。

「真月‼」

「これでいいんだ。これで…‼」

「ベクター、お前…‼」

「俺はクレイジー・ボックスでジャッジ・バスターに攻撃‼」

 

「ベクタアアアァァァァ‼」




いかがでしたでしょうか。

マサカベクターニソンナ過去ガアッタダナンテー

それでは。

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