ベクター?誰それ、俺真月   作:野球男

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こんにちは。
vsベクター 導入からとなっております。

お待たせしました。
何度も書いては消しを繰り返し、いつの間にかこんな時間になってしまいました。
書き方を変えましたので、こんな更新ペースになるんじゃないかなと思われます。

それでは、どうぞ。


第142話

スターダストの背に乗った俺達は次元の穴とでも呼ぶべき空間を通り抜け、唐突に紅一色の世界へと飛び出す。

空は足下に広がる紅い岩と同じ、紅い雲に覆われ、時折ゴロゴロと雷の音が響く。

 

「これが、バリアン世界…」

 

禍々しい世界を前に何とも言えない気分になる。

「あれは…?」

「あれ?」

隣にいた璃緒が指さした先へと聞き返しながら視線を向ける。

「なんだ…あれ…」

俺達の視線、その先には紅の世界には不釣り合いな古い遺跡のようなものがあった。

「…何かはわからねぇが…」

「ああ」

 

シャークに言われるまでもない。

 

「頼む」

俺がスターダストに声をかけると、スターダストはその場で大きく羽ばたき、遺跡へと飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは…‼」

「よォ、遅かったじゃねェか」

俺達が遺跡へと足を降ろすと、そこには俺とまったく同じ顔の男ーーーベクターが玉座に腰を降ろしてこちらを見ていた。

 

「…凌牙、この場所は…」

「ああ…奴の…ベクターの遺跡と同じ形だ」

ベクターの遺跡…

その言葉に無数の責め苦が脳裏をよぎり、身体に僅かながらに力が入る。

 

「テメェ、よくもドルべを…‼」

「ドルべ…奴も哀れなモンだったよなァ? よりにもよって、俺に声をかけちまうンだからよォ。ま、そのおかげで俺の身体は絶好調ってわけだ。充分役立ったんじゃねェか?」

「テメェ‼」

「おおっと、そう怒ンなよ。俺がドルべにギラグ、アリトを食ってやったおかげでお前らはその程度で済んだんじゃねェか」

「…‼」

 

ギラグとアリトも既に…‼

 

「いいねェ、俺はお前のそんなツラがみたかったぜ。真月よォ」

「ベクター…‼」

ゲラゲラと嗤うベクターのその姿に怒りで震え上がる。

 

「零君」

璃緒の声に俺が反応するよりも先に後ろから伸びてきた璃緒の手により、両頬に鋭い痛みが走る。

「っ‼」

「落ち着きなさい。ベクターの思う壺よ」

「………」

 

…たしかに、そうだ。

怒りに身を任せても視野が狭くなるだけ。

「『頭は冷静に、心は熱く』でしょう?」

「…ああ。すまない、璃緒さん」

 

一度深呼吸をし、頭の熱を外へと吐き出す。

 

「ベクター、デュエルだ。決着をつけてやる」

「一度俺に負けたお前が、俺にデュエルだと?」

「あの時の俺と今の俺は違う」

 

俺は遊馬やシャーク、璃緒さんをはじめとした俺を受け入れてくれた多くの仲間と共に戦い続けてきた。

何も知らず、流れるままだったあの頃の俺とはもはやランクが違う。

 

「まあいいさ。ぐちぐち話しててもしょうがねェ。腹ごなしにまとめてぶっ潰して、それで終わりだ‼」

そう叫ぶとベクターの身体を紅い光が包み込み、一瞬にしてかつて見た真の姿へと変貌を遂げる。

 

「上等だ‼」

「それはこちらのセリフ‼ 貴方を叩き潰させてもらうわ‼」

「いくぞ、ベクター‼ これが最後だ‼」

 

「「「「デュエル‼」」」」

 

ベクター LP4000

シャーク&璃緒&真月 LP4000

 

「ライフが3人共用とはいえ、40枚のデッキ3つに対し俺は1つ。公平さには欠けるよなァ?」

「それがどうした」

「フェアプレイを心掛けるなら、俺が先攻を貰ってもおかしかねェって話だ。負けた後、勢いで先攻を取られたとか言い訳されたくねェし?」

「なら、さっさとターンを始めろ」

ベクターのわざとらしい煽りに少しムッとしたシャークがそう返す。

 

「なら、遠慮なく。俺の先攻、ドロー‼ 俺はモンスターをセット‼ これでターンエンドだ」

 

ベクター LP4000

手札 5

モンスター 1

⁇? 裏側守備

魔法・罠 0

 

モンスターをセットするだけ…?

ベクターにしては嫌に消極的なターンだったが…何を企んでいるんだ?

「さあ、かかってきな‼」

「言われるまでもねぇ‼ いくぞ。俺のターン、ドロー‼ 俺はハンマー・シャークを召喚し、効果発動‼ ハンマー・シャークの効果により、レベルを1つ下げてスターフィッシュを特殊召喚する‼ こい‼」

 

ハンマー・シャーク ☆4→3

 

シャークの流れるようなコンボで一気にレベル3が2体揃う。

となれば…

「俺は2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築‼エクシーズ召喚‼ こい、ブラック・レイ・ランサー‼」

 

フィールドの2体のモンスターがエネルギー体へと姿を変え、大きな爆発を起こす。

すると、爆煙から紫の矛先が飛び出し、散らすようにして見慣れたモンスターが姿を現した。

「何を伏せているか知らねぇが…貫いてやる‼ いけ、ブラック・レイ・ランサー‼ セットモンスターに攻撃‼」

 

ブラック・レイ・ランサーの手から勢いよく槍が飛び出していくと、ベクターのリバース状態のモンスターが裏返った。

あれは…ドラゴン…?

「かかったな‼ 俺はシャドール・ドラゴンの効果発動‼」

 

シャドール・ドラゴン

☆4 闇属性 魔法使い族

ATK 1900

DFE 0

「シャドール・ドラゴン」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない

(1)このカードがリバースした場合、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる

そのカードを持ち主の手札に戻す

(2)このカードが効果で墓地へ送られた場合、フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる

そのカードを破壊する

 

「ブラック・レイ・ランサーをエクストラデッキに戻す‼ 消えろ、ブラック・レイ・ランサー‼」

シャドール・ドラゴンに槍が深々と刺さった瞬間、ブラック・レイ・ランサーを見えない何かが吹き飛ばす。

その勢いは凄まじく、光となってフィールドから消え去った。

 

「クククッ、残念だったなァ」

「くっ、俺はカードを1枚伏せてターンエンド‼」

 

シャーク LP4000

手札 3

モンスター 0

魔法・罠 1

⁇?

 

「⁉ なんだ…⁉」

 

ベクターがドローしようと手を伸ばしかけた瞬間、何処からともなく何かが動くような、低く響く音が聞こえる。

「あれは…‼」

振り向いたそこには何度か見た船の姿があった。

 

「ほう、これは…」

 

ベクターのそんな呟きと共に船から遊馬とアストラル、それに小鳥が現れる。

「ベクター…‼」

「よく来たなァ、遊馬。こいつらをぶっ飛ばしたら次はお前をぶっ飛ばしてやるからそこで待ってろ‼」

「お前に次なんてねぇ‼」

「ならやってみろよ‼ 俺のターン、ドロー‼ さてさて、フィールドも空になったことだし、攻めさせてもらおうか‼ 手札のアンブラル・ウィル・オ・ザ・ウィスプを特殊召喚することで、アンブラル・ゴーストを特殊召喚‼」

ベクターのフィールドにゆらゆらと揺れる薄緑のボロを纏った顔のない黒い人型のモンスターが現れた。

続いて、足下から伸びる黒い影の中から青白く輝く人魂と共に穴が開かれる。

 

「アンブラル・ウィル・オ・ザ・ウィスプの効果発動‼ フィールドのアンブラル・ゴーストを選択し、同じレベルにする‼」

 

アンブラル・ウィル・オ・ザ・ウィスプ ☆1→2

 

「2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築‼エクシーズ召喚‼ こい、No.65 裁断魔人ジャッジ・バスター‼」

ベクターのフィールドの2体が闇色のエネルギーと化し、溶け合うようにして1つになると大きな爆発を起こす。

すると、そこには両腕が大きな刃物と化した青ずくめのモンスターが現れる。

 

「遺跡のナンバーズ…⁉」

「どういうことだ⁉ あれはNo.96が所持していたはず」

「あァ…あいつも既に俺の手の内だ。相当弱っていたからなァ…楽なモンだったぜ」

 

アストラルが無事だったんだ。

No.96もおそらくは無事だろうとは思ってはいたが…まさか、既にやられていたとは。

「さァ、バトルの時間だ‼ いけ、ジャッジ・バスター‼」

ベクターの指示を受けたジャッジ・バスターが駆け込みながら、勢いよく振り上げる。

「リバースカードオープン、ピンポイント・ガード‼」

 

ピンポイント・ガード

通常罠

相手モンスターの攻撃宣言時、自分の墓地のレベル4以下のモンスター1体を選択して発動できる

選択したモンスターを表側守備表示で特殊召喚する

この効果で特殊召喚したモンスターはそのターン、戦闘及びカードの効果では破壊されない

 

「俺は墓地のハンマー・シャークを特殊召喚する‼ こい、ハンマー・シャーク‼」

凶刃が迫る寸前、再び現れたハンマー・シャークが唸り声を上げて威嚇をする。

ジャッジ・バスターの攻撃力は1300。

効果を差し引いてもハンマー・シャークの守備力1500には勝てない。

 

「チッ、カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

ベクター LP4000

手札 3

モンスター 1

No.65 裁断魔人ジャッジ・バスター 攻撃

魔法・罠 1

⁇?

 

「私のターン、ドロー‼ さっそく使わせてもらうわよ。凌牙‼」

「ああ」

「私はハンマー・シャークの効果発動‼ レベルを1つ下げて手札のレベル3以下の水属性モンスターを1体特殊召喚する‼ きなさい、ボルト・ペンギン‼」

 

ハンマー・シャーク ☆4→3

 

「さらに、否定ペンギンを召喚するわ‼」

ハンマー・シャークの効果により、腕の鞭をバチバチしならせるペンギンと×印の立て札を持った半眼のペンギンが現れる。

3体のレベルは全て3。

エクシーズ召喚の条件は揃ったが…

「ハンマー・シャークを攻撃表示に変更‼ いくわよ、私は否定ペンギンでジャッジ・バスターに攻撃‼」

「リバースカードオープン、プランクスケール‼」

 

プランクスケール

通常罠

このターン中、以下の効果を適用する

・お互いのフィールドの全てのランク3以下のXモンスターの攻撃力・守備力は500アップする

・お互いのフィールドの全てのランク4以上のXモンスターは攻撃できない

 

No.65 裁断魔人ジャッジ・バスター

ATK 1300→1800

DFE 0→500

 

「反撃だ‼ やれ、ジャッジ・バスター‼」

「うっ…」

 

璃緒 LP4000→3800

 

プランクスケール…

俺やシャークのエクシーズモンスターは基本的にランク4以上が中心なのを見越し、後者の効果を頼りにしていたんだろう。

しかし、それも使わせることには成功した。

このターンのこれ以上の攻撃はともかくとして、それは良かったことなのだろう。

「バトルを終了して、2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築‼エクシーズ召喚‼ きなさい、No.17 リバイス・ドラゴン‼」

2体のモンスターが水色のエネルギー体となり、大きな爆発を起こすと、水色の蛇のような姿に翼の生えた巨大なドラゴンが現れる。

「リバイス・ドラゴンの効果発動‼ ORUを1つ取り除き、攻撃力を500アップする‼」

 

No.17 リバイス・ドラゴン

ATK 2000→2500

 

「1枚伏せてターンエンド‼ プランクスケールの効果は終わるわ」

 

璃緒 LP3800

手札 3

モンスター 1

No.17 リバイス・ドラゴン 攻撃

魔法・罠 1

⁇?

 

「俺のターン、ドロー‼」

ベクターが勢いよくドローしたところで僅かに目を細めると嗤い始める。

「真月よォ、何をドローしたのか気になるって顔だなァ?」

まさか…

「俺がドローしたカードはRUMー七皇の剣‼」

 

ここにきて、RUMか…‼

 

「七皇の剣の効果発動‼ エクストラデッキのオーバーハンドレッドナンバーズを特殊召喚し、カオス化させる‼ 俺はエクストラデッキのNo.104 仮面魔踏士シャイニングを特殊召喚‼」

フィールドに青いマントを広げ、両手にチャクラムをもった白い魔法使いが現れる。

 

「そして、仮面魔踏士シャイニングでオーバーレイネットワークを再構築‼ カオス・エクシーズ・チェンジ‼ こい、CNo.104 仮面魔踏士アンブラル‼」

シャイニングが1つのエネルギーの塊となり、紅い大きな爆発を起こす。

すると、そこに爆発と同じ紅い色の服を着込み、杖を握る黒いのっぺりとした魔法使いが姿を現す。

 

「俺はアンブラルの効果発動‼ 特殊召喚に成功したので、フィールドの魔法・罠を1枚破壊できる‼ 俺が選ぶのは、ソイツだ‼」

「うっ…‼」

アンブラルが杖から放った光はまっすぐ飛び、璃緒の伏せたリバースカードを破壊する。

リバースカードは…激流蘇生か。

 

「危ねェ危ねェ。アンブラルをエクシーズできてラッキーだったってとこか」

「くっ…」

「いくぞ‼ 俺は仮面魔踏士アンブラルでリバイス・ドラゴンに攻撃‼」

「うっ…‼」

 

璃緒 LP3800→3300

 

「ジャッジ・バスターでダイレクトアタックだァ‼」

「あっ…‼」

 

璃緒 LP3300→2000

 

ジャッジ・バスターの凶刃が璃緒に向けて振り下ろされると、璃緒はその場に崩れた。

「‼ 璃緒さん‼」

「おおっと、真月‼ 遊馬、テメェもだ‼ 今はデュエル中だ。動くんじゃねェ」

「ベクター…ッ‼」

 

「落ち着いて、零君…‼」

 

「璃緒さん‼」

見れば、璃緒は片膝をつき、ゆっくりと立ち上がりつつある。

「私は、大丈夫だから…‼」

「ほう、流石だなァ。璃緒ちゃんよォ。カードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

ベクター LP4000

手札 1

モンスター 2

No.65 裁断魔人ジャッジ・バスター 攻撃

CNo.104 仮面魔踏士アンブラル 攻撃

魔法・罠 2

⁇?×2

 

「っ…さあ、零君のターンよ」

辛そうに眉を歪めながらも自力で立ち上がった璃緒は俺に声をかけてくる。

「ああ…俺のターン、ドロー‼」

 

奴のフィールドにはベクター自身の記憶の塊であるジャッジ・バスターとアンブラル。

今なら、あのカードをどちらにもぶつけることができる‼

「セイクリッド・ポルクスを召喚‼」

俺のフィールドに斬り込み隊長である、白い鎧を着込んだ2本の刃のついた騎士が現れる。

「セイクリッド・ポルクスの効果により、このターン『セイクリッド』モンスターを1体召喚できる‼ こい、セイクリッド・ソンブレス‼」

「セイクリッド…なるほどなァ。真月、お前の出すモンスターが読めたぜ‼ 出せよ、セイクリッド・ビーハイブをよォ‼」

「…たしかに。ここから導かれる答えはセイクリッド・ビーハイブ…『だった』」

「…何?」

「見せてやるよ、ベクター。お前と別れて手に入れた、俺の力を‼ 俺は2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築‼エクシーズ召喚‼」

俺のフィールドのモンスターが空高く昇り、エネルギーとなって爆発を起こす。

すると、爆煙の向こうに四角い物体のようなものが見える。

 

いくぞ、瑠那ーーー‼

「こい、No.85 クレイジー・ボックス‼」

 

煙々と上がる爆煙が晴れると、そこには黒い四角い物体があった。

サイコロでいう1の目に当たる場所に目が現れると、その視線がベクターへと注がれる。

 

「⁉ なんだ、こいつは…⁉」

「これは、たしか零君を苦しめた…‼」

「ベクター。俺はお前が嫌いだ。行く先々でお前の尻拭いみたいな真似させやがって」

「だからなんだってンだ」

「俺は決めてたんだ。お前を次見たらぶん殴るってな。けど、俺よりもよっぽど根の深い恨みを抱えた奴もいてな。俺はソイツにこのカードを託されたんだ」

そう言うとクレイジー・ボックスから闇がゆっくりと垂れた。

その闇は徐々に人の形をとり、やがて女性の輪郭を持つ姿になった。

 

『………』

 

女性はゆっくりと目を開くと、ベクターを見ると、そのまま俺へとゆっくり振り返る。

まさか、生きていた…とはな。

 

『少しぶり、かしらね? 零君』

「ああ…そうだな」

 

肉感的な肢体に蠱惑的な笑みを浮かべる女性ーーー

 

「瑠那さん」

 

瑠那の姿が、そこにはあった。




いかがでしたでしょうか。

そんなわけで、真月君とベクターの因縁の戦いの始まり。
どんな結末になるかは、お楽しみにということで。

それでは。

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