ベクター?誰それ、俺真月   作:野球男

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こんにちは。
もはや欠片も無関係なクラゲ先輩回、今回がラストです。

ネタバレ:盾が吹き飛ぶ

それでは、どうぞ。


第113話

「お待ちしておりました」

 

私がバリアン世界に帰るや否や物陰から白いシルクハットをかぶり、タキシード姿のMr.ハートランドが現れた。

「待っていた、だと?」

「ええ。ベクター様から貴方様を案内するよう言付っておりまして。なんでも、見せたいものがあるらしく」

ベクターが?

奴から私に声をかけてくるとは…珍しい。

ベクターは誰とも行動を共にしようとしない一匹狼な気質があると思っていたが…まあいい。

「案内しろ」

「御意」

 

 

「よォ、ドルべ」

Mr.ハートランドに案内されること数分、私は古城のような場所にやって来た。

「このような場所があったとは…」

「軽く調べてみたが、ドン・サウザンドの居城だったらしいな」

ドン・サウザンド…

「で、だ。ここに残っていた力を使ってこんなモンを作った」

そう言うとカードをばら撒いた見せた。

「これは…⁉」

全て同じナンバーズ、だと…⁉

 

「偽造ナンバーズってヤツだ。これを人間共にばら撒く。そうすりゃ奴らを」

「ベクター」

このままではベクターに話を流されてしまう。そう感じた私は話に割って入った。

「なんだ?」

「ベクター、私もお前に話がある」

「なんだ」

「我々の記憶についてだ」

そう前置きすると、私は自身の調査と遺跡の守護者が私に見せた騎士の最期の姿。

この2つについて説明した。

話が進むに連れ、ベクターの顔色が徐々に変わっていく。

 

「つまり、我々七皇全員はドン・サウザンドにトドメを刺された上、記憶を弄られたということだ」

「なんだとォ…⁉」

ベクターの声に怒りが混ざり始めると同時に顔を俯かせた。

よし…‼ これならば、ベクターを仲間に引き込むことができるだろう。

 

「ベクター、我々が倒すべきはドン・サウザンドだったのだ。共にーー」

戦おうーーそう続けようとした瞬間

 

「⁉」

 

何処からともなく伸びてきた黒い触手が私の身体を縛り上げた。

「くっ…‼ 一体何が‼」

 

「…クククッ…」

 

俯いたままだったベクターが肩を震わせ、笑い始める。

なんだ、何を笑っている…⁉

「ハッハハハハハハハハッ‼ ドルべよォ、まさかお前が俺にそんな話をするとはなァ‼」

「何⁉ どういうことだ‼」

「お前よォ…少しは考えなかったのかァ? サルガッソでの戦いの時、俺は九十九遊馬とアストラルにそれはもうボコボコにやられた。少なくとも、あのままじゃ俺はリタイアしていたかもしれねぇ」

あの時、たしかにベクターはゼアルとなった2人に敗れボロボロの状態になっていた。

ベクターの背に生えている翼が片方もがれていたことが印象に残っている。

 

「だが‼ お前達が帰ってきた時の俺はどうだった‼」

サルガッソから帰ってきた時…

たしか、バリアン世界を大きな地震が襲い、ベクターが崩壊が始まりつつあると伝えた。

あの時奴は…

「クククッ…思い出したみてェだなァ?」

ベクターは私の顔色が変わったことで思い出したと悟ったのか、そんなことを言う。

「そう、あの時の俺の姿はピンピンしていた。怪我なんて1つもねぇ」

そうだ…‼

たしかにあの時、ベクターは嘘のようにピンピンしていた。

「なんでだと思う?」

 

「‼ まさか、貴様…‼」

「そう‼ 俺はドン・サウザンドの封印を解いた‼」

そう高らかに叫ぶとベクターの背後から黒い巨大な塊が浮かび上がった。

それは形になり、やがてあの記憶で見たような邪悪な姿へと変貌を遂げる。

「ドン・サウザンド…‼」

 

なんということだ…‼

私はノコノコ仇敵の前に姿を見せ、倒す為に力を貸すように説明していたのか‼

 

ークククッ…まさか我が術を破るとは思わなかったぞー

 

ドン・サウザンドの低い声が直接語りかけてきているかのように私の中に響き渡る。

 

ーだが、我を倒す? おかしなことを。お前の使命はバリアン世界を救う…ひいては創造主である我を救うことー

 

「たしかに、私は盾だ…ッ‼ だが、私は貴様を守るつもりは、ない…‼」

そう言い思い切り力を込めたが、ビクともしないどころかますます力が強まっていく。

 

ーならば、仕方がない。ドルべ、再び我が力をお前に与えてやろうー

 

そう言うとドン・サウザンドが腕を伸ばし、私の首を掴んだ。

触手を強引に引きちぎると、手のひらから湧き上がる黒い力の塊が私の中へとドンドン入り込んでくる。

記憶が、思い出が、思考が、黒く染まっていく。

「やめ、ろ…‼」

 

ーフフフフ…さあ、我が手に堕ちよー

 

「あぐっ…‼ ああああああ‼」

 

すまない、ナッシュ…留守を守れない私を許して、くれ…

 

 

「どうなった?」

ドン・サウザンドが手を放すとドルべが床へと落ちた。

 

ー我が力を与えたまで。これでドルべは、我々の駒へと成り果てたー

 

そう言うとドルべはゆっくりと立ち上がった。

身体から立ち昇る黒い力はドン・サウザンドの影響を受けた証。

さらに、何処を見ているのかわからない、ぼんやりとした目には紅い光が宿っている。

「ハッ、バリアンの白き盾様もこうなっちまえば形無しだなァ、オイ」

「………」

 

ーさあゆけ、ドルべ。我が手足となり働くのだー

 

「…全てはバリアン世界の為に…」

 

それだけ言うとドルべは去って行った。

「クククッ…」

 

偽造ナンバーズに、ドン・サウザンドの力。

戦力は整いつつある。

遊馬、そして真月‼ 首を洗って待っていやがれ…‼




いかがでしたでしょうか?

砕け散る白き盾(再利用しないとは言っていない)
バリアン側もこれで少しは戦力補強になる…といいなぁ。

例によって、裏話諸々を活動報告に上げましたので、よければそちらもどうぞ。
それでは。

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