ベクター?誰それ、俺真月   作:野球男

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こんにちは。
導入(真月側)となっています。

ヒロインより可愛いみんなのアイドル登場!

それでは、どうぞ。


第106話

「とうとう降り始めたか」

 

翌日。

璃緒の見舞いにやって来た俺は、窓に当たるコツコツという音に振り向く。

朝からぐずついていた天気だったが、とうとう降り出したようだ。

 

「…しかし、誰も来ないな」

珍しい日だ。

大体の場合、ここに来るとシャークと顔を合わすのだが、今日はいない。

まあ、たまにはそれもいいか。

眠っているとはいえ、璃緒と2人きりというのは久しぶりだ。

 

「しかし、どうしたものか…」

そう呟きながらラムネを口に入れ、買ってきた炭酸に手を伸ばしつつカードを見下ろす。

そこには、先程行きがてら買ったカードパックの中身がある。

「んー…」

決まれば強力な効果だし、使えないわけではないが、使い勝手がいいとも思えない。そんなカードだ。

 

「…ん?」

悩む俺の耳にピチャピチャという水音とコツコツという靴の音が同時に聞こえてくる。

どうやら、廊下側からのようだ。

 

…シャーク…ではないだろう。

そもそも、外は降っているとはいえ、そこまで酷い空模様ではない。

しかし、だとしたら…?

 

 

 

「………」

件の足音の主が璃緒の病室の前で立ち止まる。

白と言っていい程に色素の薄い水色の髪に紫の帽子を覆い被し、同じく紫の上着を着た白い肌の男は迷うことなくドアを開けると中へと踏み入った。

 

中には規則正しく動いている心電図と、白い布団を頭まですっぽりと被って眠っている人物がいる。

察するに、これがこの病室で眠る璃緒なのだろう。

男はニヤリとすると片腕から半透明の触手を数本伸ばし、もう片手で布団に手をかけ、一気に手をかけようとした。

その瞬間、男とベットの間に1枚のカードが突き刺さる。

 

「ッ…⁉」

男が飛んできたカードの方向へと視線を向けると顔に何かが吹きかかる。

 

「なっ、ちょ、ぐわっ‼」

男が噴き出す勢いの前に騒いでいると、弱まると同時にペットボトルが飛び顔に当たった。

「痛っ…‼」

怒り浸透の男が改めて見たそこには眠る璃緒を守るように立つ真月の姿があった。

 

 

 

 

「バリアンだな」

「お前はたしか…真月とかいう小僧…‼」

炭酸でベタベタになった男を見ながら、しかし俺は自分の危機的状況に焦りを感じている。

男は出入り口の間近に立っている。

つまり、あそこから動かさない限り脱出はほぼ不可能。

そもそも、リアルファイトなんてロクにしたことのない俺が璃緒を守りながら立ち回れるのか?

 

「テメェ…先輩である俺をコケにしやがって…‼」

「炭酸の味はお気に召さなかったか? 先輩」

そうやって挑発すると男が触手を伸ばしてきた。

 

「くっ…‼」

手に持つ鞄で触手を受け止め、足元から迫る残った触手を思い切り踏みつける。

 

「う…」

背後で呻き声が聞こえてくる。

「…零、君?」

どうやら、このタイミングで璃緒の意識が戻ったらしい。

「おそよう、璃緒さん」

本当なら璃緒がかつて俺にそうしたように抱きしめたいところだが、そういうわけにもいかない。

 

「‼ 零君、これは…⁉」

「何、大したことはないさ。ただちょっとバリアンに寝込みを襲われそうになっただけで」

 

「後輩風情が先輩を無視してベラベラ喋ってんじゃねぇ」

そう言うと男は袖口から新たに触手が現れる。

シャークでも医者でも誰でもいい。誰か来てくれ‼ これ以上は…‼

 

じりじりと迫る触手を前にそんなことを願っていると、祈りが通じたのか引き戸が開き、遊馬が小鳥と誰かを引き連れて現れた。

「遊馬…⁉」

引きこもっていたんじゃ…⁉

 

「な、何なの…⁉」

「気をつけろ‼ バリアンだ‼」

遊馬が外を出歩ける程度に元気になったのは嬉しいが、今は後回しにし伝える。

「バリアン…‼」

「チッ…邪魔が入ったか。まあいい。サメ野郎を先に倒したら次はお前達だ。震えて待っていろ」

そう呟くと男は透明になっていき、一瞬クラゲのような姿が見えたかと思うと完全に消え去った。

 

「はぁ…」

息を大きく吐くと、俺はその場に座り込む。

あんな展開、二度とゴメンだ。

「大丈夫? 零君」

「ああ…まあ、なんとか」

 

「真月」

「遊馬、元気になったみたいで良かった」

「ああ…その、悪かったな。迷惑かけちまって」

そう言うと遊馬は申し訳なさそうな顔をする。

「遊馬が元気になったんだ。とりあえずはそれでいい。ところで」

 

そう言うと俺は遊馬の傍にいる俺達の通う学校の学生服にひどく似た服装の男へ視線を向けた。

「ああ、えっと…はじめまして、Ⅲっていうんだ」

 

Ⅲは俺に丁寧に声をかけてくる。

「真月零だ。よろしく」

そう言うと柔らかい笑みを浮かべた。

…本当に男でいいんだよな?

 

「零君」

耳元で璃緒の言葉が聞こえると俺の両頬を璃緒が摘まんだ。

「今は自己紹介よりも大事なことがあるでしょう? さっきの男の残したサメ野郎って」

「‼ まさか、シャーク…⁉」

 

だとしたら、シャークの身が危ない…‼




いかがでしたでしょうか?

ちょっとずつ小出しにしてたら導入だけで4話くらいになりそうになったのは内緒。
会話パート考えるのは楽しいんですが、それは流石に長過ぎィ!
それでは。

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