ヴァルハラの乙女   作:第三帝国

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※注意!R18に該当しませんが微エロがあります。


幕間の魔女「優しいの巨人の夢」

1947年 某月某日の冬 カールスラント カイザーベルク郊外

 

 

戦争が終わった晴れた冬の朝、巨人が目を覚ました。

意識は既に覚醒していたが、カールスラントでも北の端。

 

すぐ隣にオラーシャやスオムスなど、

冬の寒さについて定評がある国と近い場所にある故郷。

 

カイザーベルク郊外の冬は寒く、

体温で温まったベッドから出る気力がまるで湧かない。

おまけに今は軍から退いたのもあって猶更慌てて起きる気力が湧かない。

 

いや、理由はそれだけでない。

自分の胸を枕に寝ている愛しい人を起こしたくないからだ、と巨人は呟く。

 

「んー・・・」

 

栗毛の少女、いやかつては少女と言われた女が眠っていた。

ウィッチとして現役の時よりも丸みを帯びたとはいえ、未だ鍛え引き締まった肉体と四肢。

戦争で作った怪我の痕こそあるが、寝間着越しに伝わる彼女の肌は滑らかで、柔らかく、温かい。

 

それにしても「んー」と唸っている様子はまるで犬のようである。

思えば20歳を過ぎてからウィッチとして戦う技能、シールドが張れなくなり、

さらに少女から女となっても未だ律儀に仕えている使い魔も犬、猟犬だったな、と巨人。

 

もとい、ゴトフリード・ノルディング・フォン・バルクホルンは思った。

 

「・・・・・・・・・」

 

『小さなトゥルーデ』の愛称で呼んでいた時のように頭を撫でる。

愛情表現についてかつてはこの程度の関係であったが今ではさらに踏み込んだ関係ーーーー。

 

婚姻関係を結んで自分の妻となった彼女、ゲルトルート・バルクホルン

いや今はゲルトルート・『フォン』・バルクホルンをゴトフリードは優しく撫でた。

 

彼女との出会いは父親が新しい家族として2人の姉妹を引き取った時から始まった。

姓が貴族の証である「フォン」がないのを除けば同じ「バルクホルン」から分かるように、

「フォン」の称号を捨てた遠い親戚、遠戚筋に当たり、その縁で引き取ったとゴトフリードは父から聞いた。

 

元々妹が1人いたが、ここにさらに妹が2人増えた。

血の繋がりのない幼い2人の姉妹にゴトフリードは何をすべきかは理解していた。

すなわち両親から自分がされ、妹にしたように身寄りのない2人の姉妹を愛することだ。

 

交通事故の衝撃か姉のゲルトルートは言葉を上手く話せず、

内に籠る傾向があり、夜中に泣いていた事もあった。

しかし、ゴトフリードが根気よく言葉を教えたら直ぐに話せるようになった。

 

そして、家族とも仲が良くなり、

ゴトフリードの手助けを受けつつ勉強してウィッチの士官学校へ入学した。

 

妹のクリスティーネは両親にベッタリだったのを覚えている。

何せ自分とフェリラ、さらに実の姉ゲルトルートの3人が軍隊へ行ったため、

その分クリスティーネには両親の愛情、子供3人分の愛情がたっぷり注がれたからである。

 

「どうして私たちの子供は揃いも揃って軍隊へ行ってしまうのか?」

 

そう冗談半分に嘆いた父親の姿も今でも思い出せる。

 

だが、それも遠い過去の話。

父親は予備役の招集で故郷カイザーベルクの要塞司令官に任命されて、

軍隊は好きではなかったが果たすべき義務は知っていたので最後の1人まで戦って戦死。

 

裕福な中産階級の次女にすぎなかった母親だったが、

避難せず夫と供にありたいと願ったため軍の補助部隊に志願し父親と共に戦死。

妹のフェリラは陸軍のウィッチ部隊に所属していたが、ベルリンの攻防戦で戦死。

もっとも幼かったクリスティーネは乗船していた避難船がネウロイの襲撃に遭遇して死亡。

 

結局生き残った家族はゴトフリードとゲルトルートのみ。

親戚筋も代々が勇武をもって知られるバルクホルンの家系なだけにことごとく戦死してしまった。

 

例外は父親の弟、ゴトフリードが軍隊へ行く原因となった叔父のエーベルトだけである。

もっとも、その叔父も勇武の代償にネウロイの瘴気を浴びたせいで年々死の気配を強めている。

 

戦争で大勢知り合いが死に、過ごせるはずだった青春も全て戦争で浪費された。

しかし、祖国を、故郷をついに取り戻すことに成功し、ネウロイは駆逐され、戦争は終わった。

 

戦後の身の振り方についてゴトフリード、

それにゲルトルートも軍人として数々の栄光と名誉を手に入れたので軍に残ることもできたが、

 

軍縮で少なくなったポストを巡る戦後の軍内部の権力闘争が嫌になった点。

加えて元々軍人になる気がなかったのでゴトフリードは軍から退くことを決断。

 

ゲルトルートも魔女として寿命を迎えた結果。

本人曰く「物語の役目を終えた」ので同じく軍から退くことを決断した。

 

その後は2人で故郷の復興事業に参加し、

失われた平和な時間を取り戻すかのように楽しい時間を過ごし、

互いに恋し、恋人として過ごした結果―――とうとう結婚し、夫婦となって今に至る。

 

「・・・それにしても若い、というよりも幼い、か」

 

何せ年齢については10歳以上差がある。

ゲルトルートはようやく20歳を過ぎたばかりであるが、

対してゴトフリードは元々厳つい顔だった上に戦陣暮らしの結果、

年齢以上に老成してしまい、見た目の歳の差については10歳では収まらない事態になった。

・・・娶った相手が親子どころか下手をすれば祖父と孫ぐらい歳に差があるメレンティン参謀長には敵わないが。

 

とにかく、歳の差について部下や知人からその点についてアレコレ弄られ、

ウィッチとして有名すぎるゲルトルートはマスメディアからガリア文学の「美女と野獣」に登場する人物。

野獣に嫁いだヒロイン、ラ・ベルに例えられ好奇な視線や低俗極まりない事を色々言われたが・・・今は静かである。

 

「・・・・・・んっ、おはようございます」

「おはよう、トゥルーデ」

 

眠りから覚めた犬のようにゲルトルートが目を開く。

仕草の一つ一つが成長しても昔と変わらず、愛らしかった。

なので再度頭を撫で、片方の手は別の場所を撫でる。

 

「で、朝から嫁のお尻を撫でるのは一体全体どういうお考えで?」

「わたしの魔女が魅力的すぎるのが悪い」

 

初めてではないが未だ羞恥心が強いので頬を赤くしたトゥルーデが「このスケベ・・・」と呟きつつ睨む。

だが、ゴトフリードはトゥルーデは本気で嫌がっている訳でなく、実は期待しているのを知っていた。

 

ワンピース型の寝間着をたくし上げ、今度はそっと太ももを撫でる。

墜落して派手にできた切り傷の跡を特に念入りに、じっくり優しく撫でる。

 

「~~~~~・・・・っ!!?

 朝からとか、せめて暗くして・・・」

 

「瞼を閉じたまま景勝地にでかける趣味はない、わたしには」

 

頬どころか耳まで赤くしたトゥルーデが顔を隠して唸る。

優しく、そして愛されている実感が嬉しくて、恥ずかしいから顔を隠して唸る。

 

「トゥルーデ・・・いいかい?」

 

じっくりスキンシップを終えた後。

今度は上半身への攻勢を開始すべくゴトフリードは幼く若い妻の肩に手を添える。

 

「う、うん・・・」

 

慣れない快楽に戸惑いつつ、

期待感に満ち、緊張した様子でトゥルーデは頷く。

 

「じ、実は少し期待していたから、その、えっと。

 今日もたっぷり可愛がってほ、ほしいワン・・・ワタ、私の旦那様」

 

どうもトゥルーデは緊張しすぎて頭のネジが外れたようだ。

彼女は媚びるような性格でないし、そのつもりではないのはゴトフリードも承知している。

 

「――――――――――――――――。」

 

なのだが男性の雄を刺激するに十分すぎた。

ゴトフリードは無言でトゥルーデの寝間着を脱がし、一気に攻勢に打って出た。

 

戦争が終わった晴れた冬の朝。

青春を取り戻すかのように2人は互いに激しく求め合った。

何度も主導権を奪い、奪われ、新しい家族を求めて愛し合う光景はまるで夢のようで―――――。

 

「・・・・・・・・・」

 

事実、夢オチだった

先ほどの光景は夢であった、遺憾ながら。

 

その事実と共に厳しい現実をゴトフリードは再認識した。

虚脱と解放感が合体した感覚と一緒に眼が覚めてしまい、現状を確かめる。

 

まず時代は1944年。

残念なことにネウロイとの戦争はまだまだ続いている。

 

次に場所はオラーシャの農村の一軒屋。

今は指揮する独立戦闘装甲団《バルクホルン》の本部拠点となっている。

 

電気はなく部屋の明かりはランプのみ、

すきま風は常に吹き付けられ、歩けば床は常に軋む、などと粗末な家だがこれでも東部戦線。

オラーシャの戦いにおいて十分贅沢なのは数年の戦陣暮らしで身に染みていた・・・。

 

染みていた、の単語でゴトフリードは気づく、

濡れた股間の感触について如何なる生理現象が発生したのか思い出して赤面する。

 

どうやら股間の分身は夢の中でしっかり役割を果たしたようだ。

下着の処理の事を考えると、間抜けで、情けなく、さらに赤面する。

もしも何時ものよう従兵に下着の洗濯を頼めば暇な兵たちから弄られるネタを提供してしまうだろう。

 

「こうなったのも、全て叔父上が悪い・・・」

 

フロイト博士も大爆笑間違いなし、そんな夢に頭を抱える。

大声で喚きつつ、ベッドの上でのたうち回りたい衝動に駆られるがゴトフリードはなんとか抑える。

 

軍隊へ入隊した原因である人物を好くべきなのか、

それとも憎むべきなのか未だ分からないが卑怯とは遠く、好感が持てる人物である。

士官候補生時代は叔父が指揮する騎兵連隊で、叔父なりに色々面倒を見て貰った面倒見の良さ。

 

さらに卑怯な振る舞いとは無縁の人物で、

戦争初頭において勇武を誇るバルクホルンの血のせいで負傷し、

悪くはなるが良くはならないのは、年々悪化する体調が語っていた。

 

付け加えるならば父親の弟であるので資産や家督、各種権利を奪おうと思えば奪えるはずだが、

そんな事をせずゴトフリードとゲルトルートの後見人を務めていることから善人であることに疑いの余地はない。

 

しかし、だ。

善人ゆえに、善人だからこそ始末に負えない。

軍隊へ行くよう勧め、士官学校への受験を断れなくしたのも善意である。

父親と同様に庭いじり、それと読書三昧な日々を望んでいた本人の意思とは無関係にである。

 

そして最近は「小さなトゥルーデ」もとい、

ゲルトルート・バルクホルンと書面上だけでも構わないから結婚、

あるいは許嫁になるようにまったくの親心、善意で言っているあたり始末に負えない。

 

自分を兄として慕うゲルトルートと結婚する可能性。

それを提示されたせいであんな夢を見てしまったに違いない、そうゴトフリードは結論を下す。

 

だがしかし、だ。

将来もしもあの子が他の誰かと結ばれる未来が訪れた時。

素直にそれを祝福する自分が――――想像できなかったので誤魔化すように紙煙草をくわえて吸う。

 

ウィッチは美人であるのは常識であるが、

ゲルトルート・バルクホルンへの印象は「小さなトゥルーデ」と呼んだように、

10歳以上の年齢が離れた血の繋がりのない小さくて可愛い妹、という印象で長らく止まっていた。

 

しかし最近気づけば年齢相応の美女。

そして世界でも有数の勇武を誇るウィッチまで成長していた。

しかも自分だけでなく、かつて指揮していた中隊の部下2人と一緒にである。

 

おまけに部下もウィッチとして前々から注目を浴びていた有名人である。

1人はその美貌と神秘的戦闘技術から「北アフリカの星」と称賛されるハンナ・ユスティーナ・マルセイユ。

もう1人は愛らしく、幼い外見とは裏腹に確実にネウロイを撃墜する「黒い悪魔」ことエーリカ・ハルトマン。

そんな2人と一緒に撃墜数250機超の世界の頂点に至り、前人未到の300機を目指して記録を更新しつつあった。

 

だからゴトフリードはかつて小さなトゥルーデ、

と可愛がった義理の妹が成し遂げた偉業に軍人として、身内として非常に誇らしく感じている。

 

しかし、そんな彼女の幸福について、特に将来について考えると心中穏やかでない感情。

一瞬、嫉妬に囚われた感情について数々の言い訳を考えてみるが、

軍隊で覚えたニコチンとタールが気分を落ち着かせ、素直な感情を吐露する勇気をようやく得る。

 

「叔父上は相変わらず始末に負えないが――――」

 

紫煙を吐き出し、

少尉候補生になってから面食らった昔のように、

生まれて初めて得た感情と戸惑い、迷いつつも元騎兵将校らしく結論を口にする。

 

「わたしが小さなトゥルーデに惹かれているのは否定できない・・・」

 

海を隔てた先のブリタニアにいるゲルトルートに優しい巨人は想いを馳せた。

 




以上です。
第6話に出たネタをようやく回収できました。

では

【追記】
史実のバルクホルンには3人の兄弟姉妹がいましたが、
バルクホルン本人を除き全員死亡し、両親は母親のみ辛うじて生存したそうです。

それを踏まえると原作のバルクホルン。
ぶっちゃけ兄弟姉妹はクリス以外全滅し、最悪両親も死亡しているのでは・・・。

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