ヴァルハラの乙女   作:第三帝国

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なんとか生きて投稿できました。


第41話「魔女たちの夜戦 下」

「あれ、・・・?」

 

宮藤の意識が覚醒する。

しかし、前後の記憶がはっきりしない。

どうやら柔らかい何かに抱かれているようで、無意識に顔を埋め、再度眠りに入ろうとしたが、

 

「・・・気づいたかっ!宮藤、宮藤!!」

 

「あれ、あれ・・・?

 バルク、ホルン、さん?」

 

扶桑語で話しかけられ、宮藤の意識が完全に覚醒した。

 

「ね、ネウロイ!ネウロイは!?

 それに、私、確かサーニャちゃんを庇って撃墜されて・・・」

 

そして全てを思い出す。

夜間哨戒の最中に受けたネウロイの攻撃。

シールドの展開が間に合わず、視界の隅まで光線の光で満たされたところまで全てを思い出した。

 

「ワタシが拾ったんだ。

 宮藤のストライカーユニットは全損、今は素足で武器も紛失。

 ワタシ自身も救助を優先したからMG42を2丁放棄・・・始末書ものだな。

 ああ、それとネウロイなら背後でストーキングしている、しかも現在進行形でな」

 

バルクホルンの語りを聞いた宮藤が首だけ動かして背後を確認する。

僅かに月明かりで照らされる灰色の雲の中、見えるものなどない、そのはずだ。

 

だが、見えた。

巨大な黒い輪郭が赤い灯火を照らしつつ追従していた。

時おり、黒板を引っ掻いたような不愉快極まる音が響いている。

 

ネウロイに追跡されている。

宮藤が理解した時、感情が激しく揺れ動きそうになったが、

 

「安心しろ。

 ワタシが何が何でも守って見せるし、

 怖いなら抱きつくんだ、それなら少しは気が紛れる」

 

どことなく、男性的な響きを含んだ声で優しくバルクホルンが語りかけた。

 

「あ、はい・・・じゃあ、遠慮なく」

 

言われておずおずと、腰に手を回して抱きしめ、顔をバルクホルンの双丘の狭間に埋める。

弾力と張り、それと吸いこんだ甘い香りと体温が心地よい。

 

「気持ちいいし、何だかほっとする・・・」

 

宮藤は思った事をつい口走った。

 

「・・・そうか、まあできれば、

 あまり動かないでいてくれないか?くすぐったくなるから」

 

どこか陽気に語る言葉と余裕のある口ぶりに宮藤は落ち着きを取り戻すと共に、

 

(なんだか詩人が雲を眺めて詩の文句をねっているみたい・・・)

 

そう内心で思い、バルクホルンさんは私と違って本当の兵隊さん、軍人さんなんだ。

と、宮藤は改めて尊敬をする。

 

「あのネウロイは賢い。

 こちらが雲の中から急いで出ようとすると上から覆い被さるような機動をして来たんだ。

 どうやら『ウィッチは視界不良な雲の中での戦闘は苦手』というのを理解しているようだ。

 だから今は距離を保ち、時計回りでゆっくりと旋回しつつ上昇しているところなんだ・・・」

 

ネウロイに気づいた素振りは見えていない。

賢い、と言ってもワタシはもっと賢いようだ、とバルクホルンが笑いつつ言った。

 

(本当に、バルクホルンさんは凄い人なんだ)

 

宮藤が尊敬の念を更に深め、顔を見上げるが・・・。

 

「え・・・?」

「・・・ん、宮藤?どうした」

 

声は何時もと変わらない。

綺麗で流暢な扶桑語で宮藤に語りかけている。

優しくも、どことなく男性的な響きを含んだ声でバルクホルンが語っている。

 

だが気配はまったく違っていた。

殺気や剣気といった分かりやすい気配ではない。

顔にこれといった喜怒哀楽の感情表現が現れておらず、普通の表情のままだ。

 

しかし、眼だけは違う。

言語化できないある種、狂信、狂気が宿っていた。

瞳は宮藤を見ていながら、宮藤でない『誰か』を見出していた。

 

そこにいたのは「バルクホルンさん」ではなく、

小さい時、母親から寝物語で聞いた人の形をしていながら、人でない『化け物』のようだった。

 

「なんでも、ないです・・・」

 

誤魔化すようにバルクホルンの胸に顔を沈める。

「色よし、張りよし、バルクホルン」とエイラが評したように、

張りがある胸の感触は楽しく、嬉しいはずだが、今はそうした気分になれなかった。

 

それよりも、命の恩人に対して恐怖を抱いてしまった事、

一瞬でも『化け物』なんて言葉を連想してしまった自分に対して自己嫌悪に陥った。

 

「・・・そうか?まあ、それよりも。そろそろ頃合いか・・」

 

バルクホルンが上を見上げる。

つられて宮藤も顔を上げるが相変わらず視界は悪い。

時おり見える月以外は何も見えない。

 

「頃合いって、何ですか?」

 

質問を口にする。

 

「簡単な話だよ、宮藤。

 サーニャとエイラが脱出の援護をそろそろしてくるはずだ。

 何せ、サーニャからすれば雲による視界の障壁なんて関係ない。

 しかも側には未来予知の固有魔法を有するエイラもいる。

 だから2人なら、我々が視界不良な雲の中にいても誤射を気にせず、脱出の援護射撃することができる」

 

「あっ・・・!!」

 

言われてみれば筋道が通った理屈である。

ネウロイに追われていることで頭が一杯だった宮藤には思いつかない発想である。

 

「ネウロイが複雑な機動をしていたら難しかったかもしれない。

 しかし、今はワタシ達を追跡して単調な旋回機動を続けている。

 ああ見えて実戦経験が豊富な2人は必ずこの機会を逃さな――――来たな」

 

突然数条のミサイルが話に割り込んで来た。

正面上方から降ってきたミサイルは追跡していたネウロイに向かって直進する。

 

ネウロイは慌てて急旋回して回避を試みるが、

かえって「的の方から近づく」ような結果となってしまい全弾直撃してしまう。

 

「動くぞ、しっかり掴まっているんだ。

 何せこのTa152は零戦よりずっと速いんだ」

 

そう言いつつバルクホルンが宮藤をしっかり抱きしめる。

別名、究極のレシプロストライカーとも言われているTa152は固有魔法を使用しなければ、

という条件付きならばスピード自慢のシャーリーすらも上回る速度と加速性能を誇る優れたストライカーユニットであった。

 

最大速度は時速760キロ。

対して宮藤が使用している零式艦上戦闘脚二二型甲は時速540キロ、実に200キロも差がある。

 

戦局を覆すと噂されているジェットストライカーユニットは、

魔道エンジンの耐久性と信頼性でTa152のユモ213魔道エンジンに劣っており、

対抗馬となりうるノースリベリオンXP51Gは試作以前に1944年の時点では未だ影も形もない青写真に過ぎず、

マフィアのラッキー・ルチアーノがジーナ・プレディを拉致監禁し、軍に採用を推薦するよう脅迫している最中であった。

 

つまり1944年の時点においてTa152に匹敵するストライカーユニットはどこにもなかった。

 

「わぁ!?」

 

上昇、そして急加速。

零戦では絶対に体験できない速度の世界に宮藤が動転する。

 

機械駆動式過給機にたっぷり酸素を吸い込ませ、パワー・ブーストを全力全開で始動。

排気ノズルからからは炎が噴き出し、光跡が雲海から駆け上がる流星のごとく尾を引く。

 

ウィッチが逃げたのに気付いたネウロイがビームを放つが、

狙いすましたかのようにフリーガーハマーの斉射を追加で受けてしまう。

直撃と同時にネウロイが吠える声が轟く、それはもはやむき出しの暴力的な音声だった。

 

そのネウロイの声を無視する形で、宮藤を抱えたバルクホルンが上へ、上へと昇り続ける。

徐々に雲が薄くなり、月明かりが強くなる中、とうとう雲の中から飛び出した。

 

『大尉が出た!

 しかも、宮藤も無事だ!やったなサーニャ!』

 

『うん!』

 

バルクホルンが雲から抜け出したのを確認したエイラとサーニャが歓喜の声を挙げる。

一定以上ネウロイにダメージを与えたお陰か、無線が回復している。

 

だが、安堵する余韻はなかった。

バルクホルンの後を追いかけるように、ネウロイもまた雲海から飛び出してきた。

 

「お前はこっち来んナ!!」

 

撃ち尽くしたフリーガーハマーからMG42に持ち替えたエイラが罵倒と共に鉛玉の嵐を降らせる。

しかし、ネウロイは正面から銃撃を浴びせられてもひるまず、突撃を続けている。

 

「サーニャ!」

「エイラ!」

 

サーニャがエイラの腕を掴んで回避行動をする。

直後、2人がいた空域に光線が通り過ぎ、雲が蒸発する。

何をすべきか、何をなすべきか、言わなくても2人の間では全て理解できていた。

 

「くっそ、あのネウロイ。

 散々サーニャのフリーガーハマーの斉射を受けて、まだ動けるのカヨ・・・」

 

未だ撃墜に至らぬネウロイを目視したエイラが愚痴を零す。

これまでの経験からすれば、既に撃墜できる程度に打撃を与えているはずである。

 

「そうでもないぞ、エイラ。

 あのネウロイ、かなり損傷を受けている。

 現に先ほどまであった無線妨害が止んでいる」

 

「お、大尉っ・・・!?

 っう、うん、無事でよかったナ!」

 

「何、2人のお陰さ」

 

エイラ達と合流したバルクホルンが語りかける。

改めて無事を確認できたエイラが喜ぶが、見たこともない威圧感を纏ったバルクホルンに戸惑う。

 

「さて、サーニャ、フリーガーハマーは弾切れで間違いないな?

 間違いなければ、済まないが宮藤を代わりに預かってくれないか?

 見ての通り、ストライカーユニットがない上に武器も落してしまったんだ」

 

「え、あ、はい・・・分かりました」

 

口調こそ丁寧で柔らかい物腰だが、

眼だけはギラギラと歪な輝きを見せるバルクホルンにサーニャは胸騒ぎを感じる。

 

「では、頼む。

 宮藤を守るんだ、サーニャ」

 

バルクホルンが腋に抱えていた宮藤を差し出す。

サーニャとの会話で普段と変わらぬ態度と表情、理性を保っている。

 

「はい、・・・」

 

いや、保っているからこそ、

狂信と理性が同居しているバルクホルンに対しサーニャは動揺し、

自分よりもずっと強いウィッチが見せた心の闇を深く追求しなかった。

 

「あ、あの。

 バルクホルンさん、私、ずっと足を引っ張って・・・」

 

「心配するな、宮藤。

 年下を守るのは年長者の役割であり、

 宮藤芳佳を何が何でも守り抜くのがワタシの役割だからな」

 

サーニャの腕の中で小さくなっている宮藤が謝罪を口にするが、バルクホルンが安心させるように励ます。

だが、少し考えれば「何が何でも守り抜く」とまで言い切る態度に違和感を覚えたはずだ。

何故ならバルクホルンの言葉に含まれた想いは、重過ぎるほど想いが込められていたからだ。

 

もっとも、この事実について誰も気づいていなかったが・・・。

 

「さて、始めるとするか・・・エイラは援護を頼む」

 

「・・・んなっ!?

 大尉も武器なんて護身用の拳銃しかないんじゃな!!」

 

返答を待たずにバルクホルンがネウロイに突撃を開始してエイラが慌てる。

宮藤の救出を優先したため、機関銃を破棄したバルクホルンに残された武器は豆鉄砲な拳銃だけ。

それにも関わらずネウロイに突撃したバルクホルンに対しエイラが慌てている。

 

同じようにネウロイも慌てているのか、

即座に始めたエイラの牽制射撃もあって対応が遅い。

光線を放つ暇もなく、バルクホルンの拳が届く距離まで肉薄されてしまう。

 

「狩りの時間だ」

 

バルクホルンがある種暗示、

それと験担ぎの意味を込めて呟くと、

左手に手にした予備の銃身を渾身の力を込めてネウロイに突き刺した。

 

「■■■■――――!!!??」

 

ネウロイの悲鳴と轟音が鳴り響く。

バルクホルンの固有魔法は怪力系、

ゆえに突き刺す、というより殴り刺すような重い一撃が突き刺さる。

衝撃で全身に割れ目、裂け目が生え、破片が周囲に飛び散る。

 

しかし、それでもネウロイは未だ其処にあった。

破壊された部位の修復もできぬほど弱っていたが、

大型ネウロイだけあって、耐久力は兎に角しぶとかった。

 

「意外と固いな・・・まあ、いい。ゲルトルートの狩りを知るがよい」

 

バルクホルンが拳を振り上げ、

まるで杭打ちハンマーのような勢いで突き刺した銃身を殴った。

 

再度、響き渡る轟音。

ネウロイの体内に銃身が突っ込んで征く。

体内を破壊しつつ、奥の奥まで突き進む。

やがて最深部に鎮座していたコアをも破壊した。

 

「ネウロイの反応・・・っ消滅しました!」

「・・・素手で殴ってネウロイを仕留めるナンテ、マジで姉ちゃんみたいダナ・・・」

 

魔導針でネウロイが爆裂四散したのを確認したサーニャが叫び、

対して目視で確認したエイラが故郷の言葉で破天荒な身内を回想する。

 

「バルクホルンさん!

 バルクホルンさんは大丈夫なの!サーニャちゃん!!」

 

サーニャの腕の中にいる宮藤が大声で騒ぐ。

数分前に生死の境目を経験したせいで、不安定な感情を処理しきれていなかった。

 

「大丈夫だよ、芳佳ちゃん」

 

サーニャが宮藤を胸に抱き締め、

慈母のごとく心優しい笑みを浮かべる。

 

「バルクホルン大尉は大丈夫だから、ほら」

 

視線の先には五体満足、変わらぬ姿のバルクホルンがおり、

 

「皆、待たせたな――――ただいま」

 

エイラ、サーニャ、宮藤の3人に対して軽く敬礼した。

 

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

 

「おい?・・・大尉、怪我してるじゃないか!」

 

勝利の余韻に浸っている最中。宮藤、サーニャ、エイラの3人の中で、

実戦経験が豊富なエイラが真っ先にバルクホルンの怪我に気づいた。

 

「ん、ああ。

 ネウロイを殴った時、

 飛び散った破片で切ったみたいだな」

 

指摘されたバルクホルンは額から血が流れていたが、何ともないように答える。

 

「痛く、ないのですか?」

 

サーニャが心底心配そうに言う。

 

「正直に告白すると少し痛い、

 でもまあ、墜落して骨折したり、

 焼けた銃身で無理矢理止血した時と比べればずっと痛くないな・・・うふ」

 

散歩でもいくような口ぶりでバルクホルンが語る。

が、語られる内容は重く、醸し出す気配は異様であった。

 

「・・・バルクホルンさん!

 少し、私の方に来てくれませんか?」

 

血に酔った獣のような気配を及びたバルクホルンに対し、宮藤が唐突に叫んだ。

 

「・・・構わないが?」

 

バルクホルンが首を傾げる。

だが、特に断る理由もないでサーニャにお姫様抱っこされている宮藤の傍に寄り――――。

 

「バルクホルンさん・・・えいっ」

 

顔を掴まれ、額の切り傷を舐められた。

 

「芳佳ちゃん!?」

「ふぉお、宮藤。オマエ大胆だな!」

 

その場に居合わせたサーニャ、エイラが驚きの反応を示す。

 

「・・・!!!???!!!」

 

バルクホルンは宮藤に何をされているのか理解するのに時間がかかった。

しかし「傷を舐められている」のを理解した時、驚愕と羞恥心が混ざった悲鳴の声を漏らし、

 

「いや、何故ここで傷を舐める。

 という選択肢を選ぶんだ、宮藤!

 ごく普通に治癒魔法を掛けてしまえばいいだけじゃないか!」

 

常識的な突っ込みを入れた。

 

「だって、さっきまでのバルクホルンさんを治療するなら、これが一番だと思ったんです」

 

「な、はあああ、いや、どういう理屈だ?

 待て、だが、、まあ・・・そう、かもな」

 

自信満々に言う宮藤に対してバルクホルンが赤面する。

自分でも先ほどまで冷静、とは言いがたい状態であったのを自覚していたので、反論する言葉が思い付かなかった。

 

「えへへ、それにバルクホルンさんみたいな優しい人なら、

 女の子同士でもちっともイヤな気持ちにはならないですよ」

 

「え、ちょ、まっ!?」

 

聞きようによっては非常に危ない内容に、バルクホルンは動揺する。

獣のような殺意や威圧感がなくなり「戻って来た」

 

「モテモテだなー大尉、ひゅーひゅー!」

「ワタシをそんな目で見んなぁ!!」

 

「普段」のバルクホルンに戻ったのを確認したエイラが早速からかう。

弄られた側の人間は大声でわめく以外で対抗手段がなかった。

 

「芳佳ちゃんはとっても優しいのね」

「えへへ、それほどでも」

 

宮藤、バルクホルンのやり取りを見届けていたサーニャが口を開く。

ほめられた宮藤は、高ぶった気持ちの後押しを受けてネウロイのせいで言えなかったことを、ようやく口にした。

 

「あのね、今日は、実は今日は私の誕生日なんだ!」

「!・・・そう、なの、」

 

神の悪戯、としか言い様のない偶然にサーニャは大きく目を見開く。

 

「んふふふ、サーニャと同じだな」

「え・・・え、ええ?」

 

「知っている」エイラはニヤニヤと笑みを浮かべる。

何を指摘しているのか話題の渦中にある宮藤は即座に気づいた。

 

「え、嘘!私、サーニャちゃんと誕生日が同じなの!

 す、すっごいよ!誕生日が同じ人なんて初めて、本当に凄い奇跡だよ!」

 

誕生日が同じことを知った宮藤が興奮してはしゃぐ。

 

「・・・2人とも、誕生日おめでとう」

「はい、ありがとうございます!バルクホルンさん!」

「Спасибо、バルクホルン大尉・・・」

 

実はあと1人、同じ誕生日なウィッチがいるのを知るバルクホルンが祝福する。

 

歳を重ねる事を素直に喜べる、

ウィッチとして未だ若いがゆえに享受できる恩恵。

対して自分は今年で18歳、ウィッチとして「あと2年」しか戦えず、

最早年を重ねることが時限爆弾のように感じつつあったので――――嫉妬の感情が芽生えたが完璧に隠し、祝う。

 

「おい、この音楽っ・・・!!」

「嘘、またサーニャちゃんの歌、もしかしてまたネウロイ!!?」

 

インカムからまたもやサーニャの「歌」のメロディーが聞こえてくる。

エイラと宮藤は狼狽するが「覚えていた」サーニャは違った。

 

「お父様の・・・ピアノ、」

 

金属を擦り付け、無理やり奏でていたネウロイの音律とはまったく違う。

上品な、そして優しさを秘めたピアノの音色は間違いなく人が奏でる音楽だった。

 

「どうやら、サーニャの誕生日を祝ってくれる人は我々だけでないらしい・・・よかったな」

 

「知っていた」バルクホルンはサーニャと違って実の親兄弟姉妹、

育ててくれた義兄の両親、義姉、その悉くを亡くしたが故に黒い感情が渦巻くが、理性で抑える。

 

そして、皆が普段から目にして求めている役者。

「ゲルトルート・バルクホルン大尉」として二回目となる祝福の言葉を捧げた。


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