ヴァルハラの乙女   作:第三帝国

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久しぶりです、何とか投稿できました。


第39話「魔女たちの夜戦 上」

「しっかし、さっきは何なんダヨー。

 みんな大尉の顔を見て急に笑い出したしなー」

 

「エイラの言う通り、何だったんだろうな、アレは・・・?」

 

雲海から出た時。

月明かりで銀色の髪を輝かせたエイラがそう会話を切り出した。

 

サウナから出た後。

テレビに集合していた皆と合流したが、

自分を見るなり爆笑されたり、尊敬されたりで大騒ぎになった。

ミーナと坂本少佐からは半休ではなく数日休むよう言われたし・・・何があったんだ?

 

「そうですよね、

 ペリーヌさんなんて爆笑して床に転がったし、

 シャーリーさんもバルクホルンさんを見るなり大笑いしたし・・・」

 

「私、ペリーヌさんがあんなに笑ったの、初めて見ました・・・」

 

宮藤、サーニャが首を傾げてその時の様子を回想する。

シャーリーならいざ知らず、まさかペリーヌがあそこま笑うなんてな・・・。

今まで見たことがないから驚いたけど、肩の力が抜けていているようで何よりだ。

 

「話が変わりますけどバルクホルンさんは、

 夜間飛行は久し振りって言っていたけど、全然平気ですよね」

 

「飛ぶだけなら問題ないさ、

 こう見えてネウロイ戦争が始まる前から訓練を受けていたからな」

 

「え、じゃあ・・・5年?」

 

「いいや、大雑把に見て8年~9年という感じだ。

 少佐なんてもっとウィッチとして空を飛んでいたはずだ」

 

「それ以上!ふぇー坂本さんって、本当に凄い人なんだ・・・」

 

ふぇー、と宮藤は純粋に感心している。

 

「ちなみに私は10歳の時から空を飛んでいるから、5年だぜ」

 

「私は4年くらい、です」

 

「え!サーニャちゃんもそんなに飛んでいたの!

 ・・・もしかしてこの中で私が一番短い?」

 

前世で見たネット広告のような表情を宮藤が浮かべる。

彼女の顔は毎日見てるが一々表情が変わるから見ていて面白い。

 

「この中どころか、

 部隊全体でみればルッキーニ以下ダゼ、宮藤♪」

 

「ルッキーニちゃん以下!!?」

 

自分よりも年下の女の子以下と言われて宮藤は大変ショックを受けていた。

 

「まあ、そう落ち込むな宮藤。

 それを言うと実はシャーリーは1943年に軍隊に入隊したばかりで、

 飛行時間的にはルッキーニよりやや多い程度しかなんだよ、ああ見えて」

 

「あ、そうなんですか。

 よかったー・・・てっ!?そうなんですか!

 去年軍隊に来たばかりなんですか、シャーリーさんが!?

 でも、気配りできるし、仕事も出来るし、階級はバルクホルンさんと同じだし・・・?」

 

ワタシの語りを聞いて宮藤がさらに驚く。

気持ちは分からなくもない、自分だって驚いているし少し嫉妬しているからだ。

 

軍隊に入隊して1年以内に少尉、中尉、大尉と一気に昇進を果たすなんて、

どこぞの魔術師ないし、某金髪の小僧レベルの昇進スピードをリアルで成し遂げたの見れば、な。

 

真面目に勤務し、戦って、勉強してようやく大尉。

そしてやっと少佐への昇進の内示を得た自分とは大違いである、しかも年下。

・・・思えば【原作】のバルクホルンがシャーリーに対して喧嘩腰なのもそうした所があったかもしれない、苦手な機械が大得意な点も含めて。

 

「経験についてまだまだ少ない。

 加えて撃墜数で言えばシャーリーは少ない方だ。

 だが、普段から気配りしている癖かもしれないが戦闘では目の前のネウロイだけでなく、

 部隊全体、戦場全体を広く見る事ができ、得意のスピードで突撃する勇気を持ち合わせている」

 

大尉になっても中尉どころか新米少尉気分が抜けていないが、

自分が得意とする技術を生かし、部隊、仲間を助ける献身的な姿勢と態度は素直に評価したい。

そして、原隊では燻っていたシャーリーにそうしたやる気を引き出させたミーナのカリスマもまた凄い。

 

「そして戦果も挙げるし、

 仕事もやる気があればキチンと出来る。

 だからシャーリーは大尉に昇進できたんだ。

 飛行時間と軍隊生活が短い割にあの実力・・・まったく大したウィッチだよ」

 

何年もかけてようやくここまで辿りついた自分とは大違いである。

シャーリーと同じ年齢の時は負傷したり、過労で寝込んだりと色々苦労したな・・・。

 

「・・・んん、でも大尉だって大したウィッチじゃナイカ。

 だってさ、2か国語話せる上に今年中に撃墜数が300機達成されるかも、なんて言われているだろ?」

 

「あぁ、まあ・・・巷ではそう言われているが」

 

スオムス最強のエースが急に真顔で語りだした。

「あの」エイラがワタシに対して敬意を込めてこちらを見ている。

繰り返し言うが「あの」エイラである、おっぱいとか言わずに真面目な態度をしている。

 

「・・・あの、バルクホルン大尉。

 ハルトマンさんから聞いたのですけど、

 昔はハルトマンさんだけでなく、指揮していた中隊にマルセイユさんもいたって本当ですか?」

 

「・・・事実だが?」

 

今度はサーニャだ、珍しいな。

サーニャまでワタシの過去を聞くなんて・・・というか話をしたのはエーリカか、

あの子は昔から聡い子で、孤立しがちなサーニャの話し相手になってあげたりと気配りが上手な子だしな・・・。

 

「うぇっ!?マルセイユって、

 もしかして北アフリカのマルセイユの事か!?」

 

「そのマルセイユで間違いないが、そんなに驚く事か?」

 

マルセイユ、と聞いてエイラがさらに驚く。

なんか今日のエイラは今まで見たことがない反応ばかりしている。

 

「いや、フツーは驚くぜ大尉!

 だってマルセイユ大尉もハルトマン中尉と並んで世界トップクラスのウィッチなんだぞ!

 おまけにマルセイユ大尉も今年中に撃墜数300機行くかもって、話だし。

 そんな2人を大尉が指揮していた上に大尉自身も300機行くかもダロ・・・凄いだろって」

 

「マルセイユさんって、

 あの映画俳優みたいな!すっごくカッコいい人ですよね!

 バルクホルンさんはそんなに凄い人と一緒だったんだー!!」

 

「凄い、です」

 

畏怖、畏敬、尊敬の感情を3人から貰い受ける。

ここ最近。陶芸に茶の湯、書道やらアレコレ趣味に目覚めて深酒喫煙を控えるようになり、

精神的、体調的に絶好調なマルセイユが一気に撃墜数を250機まで伸ばしたから話は分かるが、

自分がマルセイユと同じく凄いウィッチ扱いを受けるなんて・・・第三者から見ればそう見えるとはいえ。

 

「・・・待てよ、大尉の原隊はJG52だったから、

 クバニスキー・ライオン・・・ブリタニア語で言うと『クバンの獅子』と知り合いだとか・・・?」

 

「ヨハンナ・ウィーゼの事か?

 知っているも何も原隊ではワタシは第Ⅱ飛行隊司令。

 ヨハンナは第Ⅰ飛行隊司令と同じ飛行隊司令で階級、年齢も同じだから当然知ってるし、

 エーリカやミーナと出会う前、軍隊に入隊してから一番最初に出来た戦友、友人なんだ・・・」

 

エイラの口から出た二つ名につい顔がほぐれるを自覚する。

右も左を訳が分からない軍隊生活な上に、一癖も二癖もある人材が揃ったJG52。

 

あの懐かしき第52戦闘航空団に来て初めてできた友人、ヨハンナ。

彼女には色々助け助けられ、例え今は離れていてもその友情は続いているし、続けたい。

 

「・・・オラーシャだけでなく、

 スオムスでも結構有名なんダゾ『クバンの獅子』は。

 つーか、大尉自身結構強いけど、その戦友も揃いも揃ってウィッチとして強い人ばかりダナ本当に・・・」

 

「ふぇー!何かだが今晩はバルクホルンさんの凄いとこ、

 色々聞けて勉強になります!そうだよね、サーニャちゃん!」

 

「うん!」

 

エイラからは歴戦の将校に対して敬意を払う下士官のような態度をとられ、

宮藤、サーニャからは「流石お兄様!」と今にも言いそうである。

 

・・・いや、さ、どうしてこうなった?

 

「・・・あのな、3人供。

 ワタシが凄い、というわけでなくて知り合いがたまたま凄いんだ。

 例えばエーリカは出撃2回目、マルセイユなんて初出撃初撃墜したけど、

 自分の初撃墜なんて出撃120回目でようやく1機、と割と遅い方なんだ」

 

「えっ!?本当カヨ。

 意外だな、大尉は何でもできる方だからてっきり・・・」

 

「ええぇー!!本当ですか!?」

 

如何に自分が劣るか力説するが反応はよろしくない。

 

「加えて言うと、

 一週間に2度も撃墜された事もある」

 

「ニパなんて毎日そんな感じだったゼ。

 それどころか一度、燃えながら格納庫に突っ込んでさ、

 ルーッカネン隊長とラプラ、ハッセのストライカーを纏めて壊したなぁ・・・」

 

しくじり先生を披露してみたが、どうやら上には上がいたようだ。

 

「えぇー・・・」

 

「・・・えっと、」

 

懐かしそうに語るエイラに対し、

宮藤だけでなく、サーニャまで非常に困惑した表情を浮かべ、

どう反応すべきか非常に困っている・・・味方3人のストライカーを破壊するなんて。

ロスマン先生から手紙で「ニパさんは毎回毎度ストライカーを破壊する」と愚痴を綴っていたけど・・・。

 

「ストライカーは宮藤の父親が発明したのだから、少しは大切にしろよな・・・」

 

「バルクホルンさんの言うとおりですよ~、だから大切にしてくださいよ~」

 

「お前が威張ってどうすんダ?」

 

えへんと胸を張る宮藤にエイラが突っ込みを入れる。

 

「だって、私の自慢のお父さんだもん!

 それに・・・あのね、今日は・・・!」

 

20歳になれば魔法力を喪失する現実を突きつけられるから、

今ではすっかり素直に祝えない自分と違って宮藤は無邪気に誕生日を告白しようとしてーーーー。

 

「づっーーーー散開、!!」

「エイラっ!?」

 

のだが、突然エイラが叫び、

ロッテの僚機であるサーニャを引っ張って回避行動をした。

 

「・・・っ、宮藤!こっちだ!」

「え、ひゃ!?」

 

こちらも突然の事でついて行けていない宮藤を引っ張って急旋回する。

くっ、まさかサーニャの魔道針による探知より先にエイラの未来予知が発動するなんてっ・・・何?

 

「あ、あれ・・・ネウロイの光線が来ない?」

 

だが、ネウロイの攻撃はなかった。

来るはずの光線が来ない事にエイラもサーニャを抱えて困惑していた。

 

ーーーーエイラの未来予知が外れた!?

 

 





【挿絵表示】

ゲルトルート・バルクホルンのパーソナルマーク。
原隊である第52戦闘航空団の部隊章「翼を生やした剣」と、
「ネウロイのコアを噛み砕くジャーマンポインター」が描かれており、俗に復讐の猟犬と言われている。
同じ復讐者であるグンドュラ・ラルのパーソナルマーク「翼を生やした剣を咥える狼」とデザインがよく似ている。

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