ヴァルハラの乙女   作:第三帝国

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完結まで50話超えそう(白目)


第36話「魔女たちのガールズトーク」

 

「ところでさ、大尉はネウロイをその辺に生えていた木を抜いて倒したって、本当か?」

 

夕方、4人でサウナに入っている最中。

エイラが唐突に懐かしく、あまり良い思い出ではない自分の過去を尋ねた。

人に好んで話すような物でないので知る人は限られており、エイラが知っていたのは、

 

「事実だ・・・。

 エイラの姉か?それとも僚機の方か?」

 

 

正式名称、第502統合戦闘航空。

通称「ブレイブウィッチーズ」には昔を知る古い戦友が3人もいる。

さらにエイラの僚機を務めていたニパ、実の姉であるアウロラが所属している。

 

大方、雑談の最中。

自分のそうした過去話が出てきたのだろう。

 

あの時は妹クリスは避難船ごと海の底へと沈み、

育ててくれたおじさんやおばさんはカイザーベルクの要塞で玉砕。

 

しかも兄的存在だった人も生存しているかどうか不明。

所属していた部隊、第52戦闘航空団のウィッチは毎日の消耗で戦死したり、

生きていても過労でダウンしたり、一時的に負傷したり、さらに他への補充などで戦力が激減。

 

何せ『あの』クルピンスキーまで過労で倒れたし、

ワタシが指揮する中隊で下手な士官よりも権威と実力を有し、

生き残る技術を教えてくれたロスマン先生も体力がないせいで一時的にダウンと最悪極まる状況だった。

 

『ネウロイの数に限りはないが、

 まともに動けるのは貴官の中隊だけだ・・・』

 

だけど、それでもまだマシな方だった。

フーベルタ・フォン・ボニン少佐、いや中佐か?

彼女が嘆いたように他の中隊は壊滅状態で動けるのは自分だけ、だがネウロイは無限湧き。

 

そんな日が続いたから心の余裕がなくなって来た。

徐々に精神が可笑しくなって来た。

 

だから半分やけくそ、投げやり。

生きることに価値を見いだせていなかったから、

エーリカとマルセイユを庇ってネウロイに撃墜されたのは当然で、死にかけた。

 

「・・・マジ?」

 

「大マジなんだ・・・。

 ネウロイに撃墜されて不時着。

 なんとか生き延びたけど武器は故障、しかも重症。

 だけど周囲にネウロイがいたから、木を振り回して必死に追い払ったんだ」

 

「・・・大変だったんだな。

 でも、本当にねーちゃん以外で、

 その辺に生えている木でネウロイを倒すようなウイッチがこの世に居たナンテ・・・」

 

事実と知ってエイラが呆然とする。

あの時、結局死なずに、死にきれず生きていた。

生きていると分かった途端、死ぬのが恐ろしくなってしまった。

 

そして同時にワタシがすべき事と為すべき義務を見出した。

すなわち1944年まで生きてこの世界の主人公である宮藤芳佳を支援し、守る事。

 

もしも捨てる命ならば、今ではない。

もしも捨てるなら自分ではなく宮藤芳佳を守るために、そう決意したんだ。

 

確実に、ネウロイを倒してくれる。

この世界を変えてくれる主人公である宮藤芳佳のために・・・。

 

「あ、あのバルクホルンさん!

 木って、その辺の木でネウロイをですか!?」

 

宮藤が困惑交じりに質問する。

まあ、それがごくごく普通の反応である。

普通はそれをしようと考える人間は馬鹿と思われる定めである。

ワタシは【原作】でそれを成し遂げた人物を知っていたからやったし、出来た。

 

が、知らない人。

当時の仲間や戦友たちからすれば、

日々ネウロイに追い詰められている中で成し遂げた愉快で痛快な快挙。

しかも『陸戦が専門でない航空ウィッチが地上でエースを成し遂げた』事実。

 

これに無理を押し通して救援に来た仲間は最初呆れたけど、

誇らしく、素晴らしい武勇だと絶賛、歓喜して士気が爆上げしたな・・・。

 

『扶桑語でも言おう。 

 事実だ、まちがない事実だ。

 私はかつてその辺の生えていた木を引き抜いてネウロイを殴打したり、投石で倒した事がある』

 

「え、えええ・・・」

 

わざわざ日本語。

ではなく扶桑語で言ってあげると宮藤は絶句する。

ブリタニア語、英語で聞き間違えたのわけでない事が判明したからだろう。

 

「もしかして投石でもネウロイを・・・?」

『ダー、そのとおりダ。サーニャ』

 

宮藤に説明するに際して、

投石するモーションを見せてたので疑問を抱いたサーニャの質問に答える。

昔、士官学校でオラーシャ語を学んでいたので今度は片言なオラーシャ語で回答する。

 

「・・・・・・すごい」

 

聞いたサーニャは、

と言えば眼を見開いて口をぽかんと開けて驚愕した。

 

「まあ、そういうわけだ。

 ところで502部隊からの手紙には他に何て書いてあったんだ、エイラ?」

 

話題を提供したエイラに視線を戻すと、

エイラは何故かびっくりした顔で固まっていた。

 

「エイラ・・・?」

 

「あ、うん。

 い、いやあ・・・大尉ってまず宮藤とは扶桑語。

 その次はサーニャとオラーシャ語で話をしていたから驚いてサ・・・。

 大尉は頭良いんだなって・・・あ、も、もしかしてスオムス語とかも話せるのか!大尉は!!」

 

固まっていると思いきや、

突然必死な態度でエイラが距離を詰めてきた。

近くで見ると・・・うん、やっぱ美人さんでこれからが・・・げほげほ。

 

「あー、エイラ。

 流石にスオムス語はまったく無理だ。

 精々、パスカ(畜生)、トゥータ(撃て)、

 ニュット・オスミ(命中)ぐらいしか知らないな」

 

前世で某ガールズなアレとか、

源文なアレとかで得た偏った知識を元にそう伝える。

 

「いや、それだけでも十分すごいよ、大尉!」

 

聞いたエイラは何故か上機嫌で喜んだ。

 

「そうか?」

 

「そうダヨ!

 スオムス語なんてブリタニアでは誰も知らないから、

 久々に故郷の言葉が聞けて・・・知っている人がいてくれて嬉しんダヨ・・・」

 

「エイラ・・・」

 

涙は出してはいない。

しかし、望郷の念を胸に抱いているのは見れば分かった。

思えばしっかりしているように見えてこの子は未だ15歳の子供。

そんな子供がたった1人、異国の空で外国人と共に命のやり取りをしているのだ。

 

「・・・なんだったら、

 時間があればワタシにスオムス語を教えてくれないか?

 今後の作戦の展開具合によっては必要に迫られるかも、だからな」

 

だから思わずそんな言葉を口にした。

 

「・・・大尉って、人良すぎダロ?」

 

聞いたエイラが嬉し気に、興味気に、

そして笑いを噛みしめながらこちらを見る。

 

「まあ・・・結構そうかもしれない。

 『いくら戦友と言ってもあの人類悪、グンドュラに甘すぎる』

 とミーナからは割と何度も言われている・・・いや、毎回だな、うん」

 

古い戦友、グンドュラ・ラル。

出会いは軍の書類を改ざん、横流しの手伝いと最悪な物だったが、

それがまさか『いらん子中隊』に携わる出来事であったから当時は驚いたな・・・。

 

「ふふふ・・・毎回ですか?」

 

「毎回だよ、こう頭に角を立ててな、

 頬もミーナの赤い髪と同じくらい赤くして、

 『トゥルーデはエーリカに対してもそうだけど、甘すぎなのよ!』って」

 

サーニャの質問に対して、

自分の髪を掴んで角の形に見立て、

さらに口調もミーナを真似てそれっぽく言ってみる。

 

「ぶふぅっ!!?」

「ぷ、くくくく・・・あはははは!!?」

「ふふふふふ・・・」

 

この仕草を見た宮藤、エイラ、サーニャの順で全員が噴き出した。

どうやら、なかなか良かったようだが・・・次もやってみるか。

 

「『おはよう!宮藤。

  さあ、1に鍛錬、2に鍛錬、3、4以下略だ!』」

 

片目を瞑り、

髪の毛を掴んでポニーテールの形を作る。

表情も出来る限りドヤ顔、そして声も力一杯、迷いない口調で話す。

 

「こ、今度は坂本少佐っっ・・・!!?

 ふ、ふぁははははーーーーっ大尉、物真似上手すぎダロ!?」

 

「ひーひっひひひひ・・・。

 お、お腹が痛い、痛いです・・・バルクホルンさん」

 

「あ、あはははははは!!?」

 

坂本少佐の物真似を見て、

とうとう3人揃って大爆笑する。

 

エイラは耐えきれない、とばかりにサウナの壁を叩き、

宮藤は腹を抱えて絶えず笑っているし、サーニャまで大声で笑っている。

 

「く、くくく、あははは・・・」

 

いや、ワタシもか。

頬が緩んで口から笑い声が出ている。

思えば、素直にこうして笑ったのは久々な気がする。

 

「ひーひっひひっ・・・。

 バルクホルンさん、楽しいですね!

 ずっと、ずっと、こんな日がずっと続けばいいのに」

 

宮藤が何気ない一言を口にする。

 

「・・・ああ、そうだな」

 

内心を隠して当たり障りのない言葉を綴る。

 

君を、宮藤芳佳を守るために今日まで生きてきた。

君なら、必ずこの世界を変えてくれる。

だからいつの日か、わが身を犠牲にしても君を必ず守る。

 

最近はこの世界の行く末を見たい。

もっと生きてみたい、もっとエーリカや皆と共にありたい。

 

という願いはあるけどーーーー必ず、君を守る。

 

その変わらぬ内心を隠しつつ微笑んだ。

 

 

 

 




以上です。
いつも誤字報告、感想を書いてくださる皆様。

ありがとうございます。


では

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