ーーーー速い!
ネウロイを目視したシャーリーの第一感想がそれであった。
大型ネウロイとは速度は遅いが火力が大きい。
というのが相場であったがこれは違った。
反転してこちらに向かって来れば楽なのだが、
ウィッチである自分には目もくれずひたすら飛んでいる。
もしかするとこのままでは追いつかないのでは?
そんな不安がシャーリーを襲い、牽制射撃でも加えるべきか?
と迷いが生じ、背中に背負った九九式二号二型改13mm機銃に手を伸ばす。
普段のブラウニー・オートマチック・ライフルでないのもルッキーニのせいであり、
シャーリーは感覚が慣れていないとはいえ、
銃は銃だから問題ない、はずと迷いつつ銃を構える。
「狙って・・・狙って・・・」
照準器の中心にネウロイが収まるように狙う。
さらに息を吐き、吸い。息を吐き、吸いと呼吸を整える。
動作を終えてからゆっくりと引き金を引いた。
「っ・・・っと!?」
発砲、そして大口径銃特有の強い反動に襲われる。
普段とは違う感覚にシャーリーは驚き、明後日の方向に弾をばら撒いた。
しかし、即座にウィッチの力で強引に反動を押さえつけ、
正面にいるネウロイに向かって撃ち始めた。
ギリギリ有効射程圏内にネウロイはあるとはいえ、
空戦においてはまず当たることはない距離であったが戦場の女神はシャーリーに微笑んだ。
放った銃弾はネウロイに吸い込まれるように命中。
幾つもの火花を散らし、ネウロイが悲鳴を挙げる。
「よし!」
思わぬ幸運にシャーリーがガッツポーズを取る。
しかし数秒後、ネウロイの表面が赤く光る、ネウロイからの反撃だ。
放たれる熱光線を避けるためにシールドを張ろうとしたが、シャーリーはふと考える。
ここでもしもシールドを張ってしまえば速度は確実に落ちる。
それではネウロイに永遠に追いつくことができなくなる。
ゆえに、自分がすべきは賭け。
自らの危険を元手に加速し、前進すべき局面である。
「分の悪い賭けは好きじゃないのだけどなっ・・・!!」
マーリンエンジンに魔力を注ぎ込みシャーリーは加速し、
熱光線が自分がいる場所を通過するより先に通り過ぎ、前進する。
時折すぐそばを光線が通過し、
魔法力で保護された肉体越しでも、
直撃すれば蒸発してしまいそうな熱を帯びた光線の威圧を感じる。
心臓は爆発寸前に鼓動しており、体中から汗が噴き出る。
レースでスピードだけを追い求めているだけでは得られない戦場だけの緊張感。
速度は普段の限界である時速800キロを既に突破しており、
思わずシャーリーは無意識に唇を舐め、戦場の緊張感と共に不思議な高揚感に酔う。
そして手にした銃の引き金を再度引き、発砲。
曳光弾がネウロイに届き、再度命中する。
再び速度が落ち、シャーリーとネウロイとの距離がさらに縮まる。
いける!
そうシャーリーは歓喜に震える。
しかし、ネウロイが変形しだしたことで、
その考えが間違っているのを実感する。
「嘘だろ、ここで加速するつもりなのか!?」
徐々にだが加速を始めたネウロイにシャーリーは唖然とする。
だが、ここで黙って逃がすつもりはなく、射撃を継続する。
しかし、徐々にネウロイとの間に距離は生まれ、命中率は下がる。
そして、駄目押しにストライカーユニットからこれまでとは違う不自然な振動が始まる。
シャーリーはルッキーニがした無茶な改造でユニットに限界を迎えつつあるのを悟った。
(ユニットが全壊すること前提に魔力を注げば・・・あるいは追いつく。
だけど、それじゃあ私はユニットなしに空に放り出されてしまう。
いくら、ウィッチの魔法力による加護があるとしても無傷では済まない・・・くそ、どうする!?)
油断すればどこまでも魔法力を吸い、
ユニットが自壊するまで加速してしまいそうなユニットを、
ここまで速度を上げつつネウロイに追いつけたのはシャリーの類まれな勘と技術のお陰であるが、
ここでそれを放棄することにシャーリーは迷う。
しかし、迷っている時間はなくネウロイはさらなる加速を始めようとしているのが確認できた。
(・・・・・・やるしかない!!)
決断は早かった。
ここで見逃せば追いつくことは不可能。
そう判断したシャーリーは覚悟を決めて加速を始めるべく魔法力を注ぎ始めるが。
が、それを防ごうとまるで狙ったかのようにネウロイから激しい光線が浴びせられる。
「くっそう!!」
シールドを張って防げば足が止まるので避けるシャーリー。
だが、エイラのような未来予知の魔法があるわけではないので徐々に追い詰められる。
このままじゃ、駄目だ。
そんな絶望の感情が内心を満たそうとしたが・・・。
ネウロイに着弾、そして爆音が轟く。
『何とか間に合ったみたいだな、イェーガー大尉!』
インカムから届いた声はバルクホルンであった。
※ ※ ※
な、何とか間に合ったーーーー!!
兎娘に恰好つけて「何とか間に合ったみたいだな」
なんて言ったけど、間に合わない可能性の方が高かったから、追いつけて本当に良かった・・・。
まさか【原作】でルッキーニがストライカーユニットを破壊したのが、
こっちでは暇だからついやった悪戯でここまで大騒ぎになるとは思わなかったし、
ワタシのユニットもルッキーニが変に弄ったせいで挙動が怪しい上に、
やたら速度が出るわで操作に四苦八苦し、正直ネウロイにはもう追いつけない。
と思っていたけど、イェーガー大尉。
いや、シャーリーは先行してネウロイと交戦してくれたお陰で追いつくことができた。
こっちの武装は普段使用するMGではなく、
リーネが使用するボーイズライフルをこれまたルッキーニの悪戯のせいで使用。
そして命中、今に至るわけだ。
・・・リーネのように狙撃に適応した固有魔法もないのに、
初弾でネウロイに命中弾を与えることができたのは本当に奇跡だ・・・。
『その、大尉。ルッキーニのことだけど・・・』
とっ、無線だ。
しかし、こんな時でもルッキーニの事を心配するなんて、な。
「安心しろ、ミーナの拳骨一発、
減給に謹慎処分それと廊下でバケツを持って立つだけに済ませることにした。
最も、私も大尉も仲良く管理責任を問われて減給に廊下でバケツ持ち、と相成ったが」
今回の件は本来なら軍隊から追い出されかねない程の不始末だが、
ルッキーニ自身だけでなくルッキーニを管理できなかった管理職の責任を問うことで責任を分散。
これでルッキーニだけが負う責任を軽減し、彼女が501から追い出されるようなことを防ぐ訳だ。
『バルクホルン大尉・・・その、ありがとう。ルッキーニのために』
「上司としての務めを果たすだけさ、気にするな」
廊下でバケツ持ちは兎も角減給は正直痛いが、まあこれも年長者の務めだ。
この程度でルッキーニが501にいられるなら、安いものである。
「だからルッキーニのことは心配するな。
今はネウロイを倒すためだけに思う存分飛んで行ってこい!」
そして今すべきことはシャーリーの後押しだ。
心配すべき要素は何一つないことを伝えて安心させる。
っと、引き金を引いて、発射。
初弾が命中しているから次弾もうまく当たったな、よし。
「このように後ろから援護するし、
例え墜落してもワタシが拾ってやるから行ってこい!
今のおまえなら音速だって行けるはずだ、さあ、行くんだ」
そうシャーリーに発破をかける。
そして返ってくるであろう返答は決まっていた。
『ーーーー分かった、行ってくる!
あの糞野郎の尻に一発ぶちかまして来るぜ!
だけど、音速を超えたその後は墜落するだろうから拾ってくれないか?』
「ああ、まかされた」
躊躇を感じさせない言葉に思わず笑みが零れるのを自覚する。
やはり、シャーリーはこうでなくては困る。
なんて思いつつ、再度銃を構えた。