ヴァルハラの乙女   作:第三帝国

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長らく更新が滞り失礼しました。


第23話「芋大尉の雑談」

 

やはり、と言うべきか彼女は格納庫にいた。

自分のストライカーユニットを相手に格闘している最中で、

オイル臭さが鼻を突き、スパナにプラグなど工具や部品が散らばっている。

 

「ん、あ、ああ。

 オハヨー芋大尉ー。

 ちょっとそのスパナを取ってくれないかな?」

 

「上官に対する挨拶がそれか?」

 

顔を合わせず言われた一言目がこれだった。

普通の部隊なら叱責5分コース間違いなしだな…。

 

「いえいえ、これも尊敬する上官への愛情表現ですよバルクホルン大尉殿。

 なので、その8番スパナを取って下されば好感度上昇は間違いありません!」

 

「なるほど、その気持ちは良く分かった…。

 だがしかし、顔を合わせて言えばより説得力を増すだろうな!」

 

ユニットと格闘しつつ言っても全く説得力がないよな、本当に!

まあ、それでも取ってあげるけどさ。

はいはい、これだろ?

 

「ん、サンキュー。

 ええと、回転数をちょいと弄って…こんなものか?

 よし、出来た!スピード優先で後は全部最低限にしたけどまあ何とかなるか!」

 

そう言ってシャーリーは背伸びしつつ立ち上がる。

その際その凶悪な胸部装甲が揺れ動きそちらに眼が…ゲフンゲフン!

 

ではなく、作業着どころかよく見れば顔にも油汚れが点在している。

おまけに眼にはクマを作っている…また夜を通して整備に明け暮れていたのかもしれない。

 

夜は寝るものだが、まったく。

気持ちは分かるが今後のために少し注意しておこう。

 

「はぁ、仕事熱心なのは感心だが、あまり力むなよ。

 夜しっかり寝ないと昼間の任務に支障がでるからな」

 

「ん…げ、そういえばそうだった。

 あーゴメンゴメン、つい夢中になっちゃって」

 

タハハハー、とシャーリーが苦笑いを浮かべる。

 

「大体、ミーナがこうした改造を許可するのは任務に支障が出ない範囲での話しだ。

 改造に夢中になって、体を壊したら元も子もないのは理解していると思うが自覚するようにだ……」

 

「あーもう、分かっているって。

 分かっているから朝から説教は止めてくれよー」

 

ついでとばかりに色々言おうとしたが、

シャーリーが両手を挙げて降参の意思表示をする。

 

んん、妙に聞き分けが良いな?

何時もなら「へいへーい」とぶっきらぼうな態度がデフォなのだが?

それに…何だろう、見た目は変わらないはずだが何時もの活発的な感じが見受けられない。

 

ああ、これがあれか。

エーリカが言っていたシャーリーが悩んでいる、というものか。

 

「ああ、別に心配しなくて大丈夫だよバルクホルン大尉。

 自分でも行き詰っているからって夜更かしするのは良くないのは知っているてば」

 

苦笑交じりに彼女は語る。

無理をしているのは自分でも理解しているようだ。

しかし、それでも夢を求めているのをワタシは知っている。

 

「だが、諦めたくない。

 だから頑張っているのだろ?」

 

「まあ、ね。

 大尉の言う通りだよ。

 レシプロで時速800キロでも十分なのは自分でも知っているけど、

 でも、私が目指す音速には絶対届かないのは自分でも理解しているのだけど…やっぱり諦め切れなくてな」

 

そう溜息とともにシャーリーは愚痴をこぼした。

やはり音速達成という目標への道筋がうまく描けていないない事がよく分かる。

【原作】でもルッキーニがユニットを壊したのを誤魔化した無茶改造のお陰で音速に達したしな。

 

…少し梃入れをするか。

ルッキーニが【原作】同様にユニットを弄ってくれるとは限らないし。

 

「ん、そうか…。

 しかし行き詰まっているなら思いきったことをしたらどうだ?

 例えばいっそルッキーニに調整してもらえば面白い結果が出るかもしれないぞ」

 

「ルッキーニに!?

 ちょ、それは冗談にしても悪いものだよ!」

 

ヤンキーらしくHAHAHAグットアイディア!

みたいな反応を予想していたが、なぜか青ざめた顔で強く否定された。

 

「そんなにか…年少とはいえ、

 宮藤と違って正規教育を受けたウィッチだからユニットを弄る程度の知識は…」

 

「ルッキーニが表現するストライカーの操作が

 “ドーン”とか“バビューン”でしか表現できなくてもそれが言えるか?

 ユニットの調整なんて人任せで、教本の一冊も読む気がないあのルッキーニに?」

 

「……い、言われて見れば、そうだったな」

 

そうだよ、忘れていた。

ルッキーニはウィッチと言ってもお子様であることに変わりがない。

そんなお子様に自分の命を預けるユニットを任せるなんて発想自体するほうが可笑しものだ。

 

「そうするくらいなら、

 大尉に協力してもらった方がいいな」

 

「ワタシが?」

 

シャーリーは意外な事を言ってきた。

 

「大尉はユニット、

 というより機械を弄るのに慣れているのは見ていても分かるよ」

 

「別に大したことじゃない、必要に迫られただけだから」

 

そう大したことではない。

元々機械弄りは引き取られた先は農園を経営する典型的なユンカーの家ゆえに、

農耕機械を弄る機会が多々あったし、ストライカーユニットは本土撤退戦という混乱のせいで、

整備兵がいつも傍にいるとは限らない状況が多々あり、自分で何とかしなくてはならず、そのため機械への経験があるだけだ。

 

「謙遜するなって、褒めているんだぞ。

 それに整備するなら同じウィッチにしてもらった方がより感度がよくなるし。

 例えるなら、バルクホルンの胸の感度みたいにいい反応が出来るようになるから」

 

「そりゃ、どうも…って、何を言っているんだ!?」

 

どういう脈絡でヤンキー娘に胸を掴まれた話が出るんだろうなぁ!

大体、あの時は後ろから行き成り揉まれたらいい反応が出た、というより驚くわ!!

 

「おいおい恥ずかしがるなって、

 この程度の冗談で動揺するなんてヘタレのエイラみたいじゃないか」

 

ニヤニヤと笑みを浮かべてシャーリーがのたまう。

くそ、本人はヘタレと自覚していないエイラと同列視されるなんて屈辱だな…。

 

「あの北欧娘がヘタレなのは本人以外は知っているからさて置き…

 親しき仲にも礼儀があってしかるべきだと、ましてや軍隊ではとワタシは思うな」

 

「堅物だなぁ、こういうジョークと軽口が相互理解が深まるものだよ」

 

「堅いのではなく、カールスラントの女性。

 特にプロイセン人は慎み深いだけと言っておこう」

 

元は日本人で男という意識はあるけどあえてそう言う。

 

「で、だ。

 本当にワタシが弄っていいのか?

 言っておくが音速達成の目標に役に立つとは思えないがいいのか?」

 

シャーリーのP51ユニットを視線に入れて改めて問いかける。

しかし、まさかこの兎娘からこんな話を聞くとは思わなかったな……。

 

「問題なし、

 最初に言っただろ、煮詰まっているって。

 だから他の人間の意見も取り入れてみようと思いついたわけさ」

 

「その最初の1人目がワタシか…光栄だな」

 

「だろ?」

 

片目をウィンクさせ同意を促す兎娘。

 

だが、どうする?

【原作】のようにルッキーニの手が入らないと、

シャリーは音速に達せずネウロイには逃げられてしまう。

 

「で、回答は?」

 

シャーリーが笑顔で問いかける。

それに対するワタシの答えは…

 

「ふむ、では微力ながら力を貸すことを約束しよう」

「おお、そうこなくっちゃ」

 

シャーリーのユニットを弄れる機会を生かして、

ルッキーニを何らかの形でこっそり関わらさせる。

 

これしかない。

後はルッキーニをどう誘導するかが問題だが…。

 

「んじゃ、これから頼むな大尉」

「ああ」

 

目の前の兎娘の好意を利用することに心は痛むが、

蝶の羽ばたきを少しでも抑えるためには必要なこと。

 

そう考えつつ差し出された手を握り返した。

 

 

 


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