そして明けましておめでとうございます。
「はぁー」
朝から廊下で辛気臭いため息を思わず吐くわたし。
その原因は予算が通らなかった理由が明記された手元の書類にある。
軍隊も普通の会社と同じく常に予算の問題が付きまとう。
資金源が国民の税金であることを除けば、何をするにしても予算がなくてはならない。
501を会社に例えるとミーナが社長で、坂本少佐が役員。
そしてわたしは中間管理職といったところであり、わたしは隊員の事も常に考えなくてはならず、
ミーナは社長でもより上のブリタニア空軍という親会社の指導下にあり、さらに色々考えなくてはならない。
そして、会社でもよくあるように下の考えが上に伝わり難いのが常の事で、
加えて想像だがウィッチ部隊に否定的な某大将の策謀もあって、
昨日の会議で各員の奮闘を期待するなんて言っていたが、
早い話、親会社から予算の確保は難しいから何とかしようということだ。
うーむ、頭が痛い。
横のコネクションでどうにかなる案件ではないから頭が痛い。
予算、予算、予算。
これを確保するのはネウロイを倒すよりも難しい任務だ――。
その上のあの兎娘と来たら会議では終始上の空だったしこれも別の意味で頭が痛い。
501は中佐のミーナ、少佐の坂本少佐、そして大尉のわたしで部隊を管理している。
イェーガー大尉、もといシャーリーはわたしを補佐する形で部隊管理の業務に就かせている。
彼女自身が問題児な上に正直業務に熱心でないが、
指揮序列的に4番目であるので今の内に経験を積ませる必要がある。
気楽にスピードだけを日々探求することは大尉という階級は許されないと言うのに、本当…。
しかも、問題児だが戦場ではその特技で活躍する優秀なウィッチなのだから始末に終えない。
おっと―――。
「おはよう、バルクホルン!!」
「はい、おはようございます。坂本少佐」
坂本少佐だ。
辛気臭さとは無縁な笑顔で挨拶してきた――って、え!?
「どうした、
元気がないぞバルクホルン!
まだ予算のことで悩んでいたのか!」
「ええ、まあ、そうです…」
そうだけど、その前に、その。
「心配するな、何とかなる!
真面目なのはいいがそう悩むな!」
どんな根拠があってそんな事が言えるのか不明だが、
これ以上ないほどドヤ顔で少佐は言い放った―――ただしスク水姿で。
朝からスクール水着一丁のもっさんがそこにいた。
紺色のスク水から伸びる手足は長く、そしてよく鍛えられ引き締まっている。
程よく焼けた肌に、水着の隙間から僅かに覗く焼けていない白い肌のチラリズムに思わず生唾を飲み込む。
と、言うか、なんでスク水姿なのさ!
「えー少佐、なぜ朝からその姿で…」
「うむ、よくぞ聞いてくれた。
最近さらに自己鍛錬を重ねようと思い朝から泳いできたわけだ!
想像より海は冷たかったが、なーに頭も覚めてたし調度よい塩梅だったな」
なんて答えが返ってきた。
お、泳ぐのか、いくら時期は夏とはいえ朝一から泳ぐなんて。
しかもこの人海軍の人間だから数キロ泳いでも可笑しくないぞっ…!!
「お疲れ様です、少佐」
「私は別に疲れていなけどな、
はっはっはっは――――っと、ところバルクホルン。
部隊のレクリエーションについて思いついたのだが、良いか?」
「レクリエーションですか?」
501は最前線部隊であるが、
この前わたしが宮藤と一緒にロンドンに出かけたように、
それでも隊員の英気を養うために交代で有給を取れるようにしているだけでなく、
定期的に部隊内で様々なレクリエーションを部隊幹部のわたし達が計画、そして実施している。
なぜなら多国部隊ゆえに同じ国のメンバーと固まったり、
あるいは孤立してしまうことを防ぐために気晴らしの場を設けることで交流を深め、
意思の疎通を密にすることができ、部隊の団結を強固なものにすることができるからだ。
あれ、これはもしかすると……。
「海水浴ですか?」
「おおそうだ、その通り!
海水浴をしようと思っているんだ。
聞くところによるとエイラにサーニャは海を泳いだことがないらしい。
それに扶桑で夏と言えば海水浴が一般的な娯楽ゆえにぜひやりたいと考えている」
ああ、やっぱり原作のイベントだ。
と、すればネウロイの襲撃はその日だと思えばいい。
後はどうやってその日にネウロイの襲撃に対処するかが問題だ。
特にあの兎娘の俊足が今回のイベントの鍵を握っているのだから……。
「ついでに宮藤とリーネに水練を施したいしな」
【原作】で不時着訓練としてストライカーユニットを履いたまま海に叩き落されるアレか。
わたしも501が出来たばかりのころ、ミーナ、エーリカのカールスラント組と仲良く落とされてひぃひぃ言ったな。
何せカールスラント空軍は基本扶桑で言う所の「陸軍航空隊」で、
海での不時着訓練なんて重視していないし、大陸国家ゆえにそもそも海を見たことない。
という国柄だから、前世で「海を泳いだ経験」があるわたしを除いて2人共根を上げた、懐かしい。
「2人の訓練用機材の準備をします」
「うむ、頼む」
と、ここまで話していた時、横から宮藤とリーネの会話が聞こえた。
その内容は実に日常的かつ些細な内容であった。
が、向かいの廊下から現れた時、
宮藤の視線はリーネのたわわに実った胸に一点集中しており、
表情もゆるゆるで、色々その、欲望に溺れている表情をしていた…。
それこそ、あの表情を見ていると見ているこちらが情けない気持ちになる程に。
「たるんでいるな……―――おい、宮藤!」
当然というべきか、坂本少佐が声を上げて叱責する。
「ふぇっ!?
ち、ちがうんです!」
驚いた宮藤が慌てて両手を前に突き出す。
わたしは揉まれて堪るかと避けたため被害は及ばず、その両手は少佐の方へ向かい――って!?
「ひゃ!?」
あの少佐から乙女のような悲鳴が出た。
宮藤の手は正確に吸い込まれるように、水着両脇から水着を押しのけ直に胸に触れていた。
「ふぁ―――思ったより、大っきい」
「み、みや、ふじ、馬鹿者!揉むな!抓るな!!」
そして当のおっぱい星人は至福の表情を浮かべおっぱいを堪能していた。
実にうらやまけしからん、男の時にこんなラッキーイベントがあれば。
あ、いや普通に豚箱行きか、でも今ならスキンシップで大丈夫…じゃなくてだ!
「その辺にしておけ、宮藤。
揉みたいならリネットの胸を揉んでおくように」
「坂本さんの胸って本当に―――あれ?」
というわけで、揉んだり抓ったり掴んだり、
等とおっぱいを堪能していた宮藤の後ろ首を掴み少佐から引き剥がす。
大体君には現地嫁がいるというのに浮気はいかんだろ浮気は。
揉むなら嫁だけにしておけ、と言う意味をを込めて言った際リーネが何か騒いでいたが無視する。
さて。
「で、よかったか。少佐の胸は?」
「はい、とても!」
おもむろに感想を聞いてみる。
その回答はとても良い笑顔を浮かべた上で元気が良いものであった。
この後の事なんて何にも考えていない、実にすがすがしい表情である。
反省の色なし、か。
欲望に忠実なのは見上げた根性だが今回はそれが仇になったな…。
「だ、そうですよ少佐」
「ほ、ほぉ………みーやーふーじーーー!!」
「は、はぃいいいい!?」
一連のやり取りを聞いていた少佐がにっこりと笑みを浮かべる。
が、目線は冷たく米神にはぶっとい青筋を浮かべ、背後には怒りの炎を背負っている。
「宮藤、さっき私は海を泳いだばかりだが、
どうやらもう一度泳ぎたい気持ちが出た、それも2人で。
なーに、近々水泳訓練をするつもりだったからその予行演習と思えば良い」
「わ、わたし朝の準備が…あい、たたたたた!!
ひひ、ひっぱらないでくださーい、坂本さーん!?」
宮藤が逃走するよりも先に少佐が腕を掴み引きずって行く。
助けを求める視線をわたしとリーネに向けるがわたしは関係のない話だ。
そしてリーネといえば…何でかいつの間にかいない。
流石隠れ腹黒疑惑のある人間だな、巻き込まれたくないのかもう逃げたみたいだ…。
「では、行こうじゃないか宮藤。
ふふふ、海軍仕込の水練を教えてやるから覚悟しろ」
「た、助けてーー!!」
そう少佐が言うと宮藤を引きずって海の方へ走って行った。
宮藤が悲鳴を挙げるが止めるものは誰もなく海辺へと消えて行った。
そして騒がしかった時間は過ぎ、今この場にいるのは自分だけとなった。
いや、もう1人今来た。
「あっはははは、やるじゃないか宮藤!
まさかあの坂本少佐の胸を直に触るなんて、
エイラにルッキーニも出来なかった偉業だよトゥルーデ!」
「偉業、ねえ」
兎娘ではなく戦友にして相棒のエーリカだ。
先ほどまで廊下の角の隅で隠れていたらしい。
で、さっきのやり取りが余程面白かったのか腹を抱えて爆笑している。
「だって、少佐って勘が鋭いから触ることすら大変なんだよ。
私がそうだったし、エイラとルッキーニも同じ事を言っていたよ」
「3人で何をしてるんだ……」
おっぱいを触ることに情熱を燃やす少女がそこにいた。
というか、まさかエーリカまでおっぱい星人だったなんて…。
「ちっちっち、駄目だなトゥルーデ。
女の子の胸はロマンが詰まっているんだからそれに触れるのが使命でしょ」
そう言って胸を張るエーリカ。
確かに女性の胸はロマンが詰まった素敵な代物であるのは認めるが、
こうも露骨に求めるのは品がないし、やるんだったら…ゲフンゲフン!
それよりも、自分のそのまな板みたいな身体でそんな台詞を言って悲しくないか?
「ない胸を張って悲しくないか、Mein Kameraden?」
「別にこれから大きくなるし!」
極力哀れみを伴う視線で問いかけたが、
全然問題ない、と言わんばかりの返答が来た。
これがペリーヌなら実に分かり易い反応が来るのだが、残念だ。
「それより、トゥルーデ。
話は変わるけど最近シャーリーが悩んでいるみたいだけど何か知らない?」
唐突に切り替わった話題は兎娘のことだった。
「悩んでいる……?」
「うん、ここの所夜遅くまで格納庫に入り浸っているみたいだよ。
そのせいか少し寝不足気味だし、何か焦っているみたいだけどトゥルーデは知っていた?」
言われなくても分かる。
スピードを求めるあの兎娘だが、
時速800キロより先を越すことが出来ず焦っているのだ。
それに今日か明日に試験飛行をする、という話だったしな。
「ああ知っている、
最近なかなか800キロより先を突破できないらしいな」
「ああ、やっぱり。
シャーリーが悩むと言ったらそれだしね。
ミーナならデスクワークが長いせいで増える体重とかに悩んだりするけど」
「余計な事を言うな!」
本人が聞いていたらどうするんだ!
真剣に悩んでいるからミーナはこっそりランニングとか、
自室で腹筋とか腕立て伏せとか、地道な努力を重ねているというのに。
「大丈夫、大丈夫。
この時間帯は朝食前の書類チェックだからここに来ないって。
さてと、知っているんだったらいいや、私は先に朝食行ってくるね、バイバイ~」
「あ、おい、待て」
そして言いたいことが言えたのか、
こちらが止めるより先に食堂へ走って行ってしまった。
「何だったんだ……?」
行き成り現れた上に、
唐突にシャーリーの事について聞いて来るなんて。
けどまあ、エーリカが態々聞いて来たということは何か考えがあるのだろう。
ずぼらだが、ああ見えてかなり聡い子だから。
「まあ、行って見るか」
朝食より先に格納庫に行って様子を見てこよう。
もしかすると兎娘が俊足を求めて四苦八苦しているだろう。
そしてわたしは善は急げ、とばかりに食堂から格納庫へ向きを変えて走った。